Interviews

 アニメーションの監督の仕事は作品を作っただけでは終わりません。作り終えると宣伝のお仕事というものが待っているのです。
 すでに次回作に取りかかっていたりすると時に面倒くさいことこの上ないのですが、これはこれで楽しい仕事です。色々な人に出会えるのも楽しいし、多くの感想を耳にすることもできる。
 宣伝の仕事の多くは雑誌・新聞・テレビ・ウェブなどの媒体取材で、インタビューがその主な仕事です。その他にも舞台挨拶やイベント出演、映画祭に参加なども大事な広報活動です。
 取材時に写真・ビデオ撮影されるのは苦手ですが、これも仕事のうちです。写真撮影には随分慣れました。以前NHK・BS1の番組に出演した折に、カメラマンの織作峰子さんにポートレートを撮っていただいたのですが、「すごく撮りやすい」とお褒めをいただきました。いや、素材がいいとかポーズをつけるのが上手いとかいった大したことじゃありません。
「全然まばたきしないですね」
 ただそれだけです。
 私は職業柄、写されるより写す方に興味があって、つい撮影している方に気を回してしまうため、シャッターを切りそうな気配を探って、その合間に懸命にまばたきしているのです。私は偉そうにしているように見えるかもしれませんが、小心者でけっこう気を使う方なんです。気を使ったからと言って写りが良くなるわけじゃないんですけどね。
 撮影されることに比べれば、喋る方がまだ気が楽です。
 ただ、インタビューはお気楽に済みますが、それで終わりというわけではなく、インタビューの後には原稿チェックというものが控えている。自分の発言がどういう風にまとめられたのかチェックしないといけない。
 私はこのテキストを初め、自分が書く雑文やBBSでの発言にしろ必ず「私」という一人称を使います。日常生活では「俺」を使用していますが、取材や人前といったオフィシャルな場面では、テキストと同様に「私」を使います。日常生活にしろオフィシャルにしろ、私は決して「僕」という一人称は使用しません。であるにもかかわらず、平気で「僕」という一人称でインタビューの発言をまとめてくるライターがいる。これは不思議で仕方がないですね。あまりに失礼だと思います。「僕」という一人称で書かれた私の発言を読んでいると、まったく他人事のように思えて気持ち悪くなります。こうした初歩的なことを始め、なるべく自分の発言の主旨が歪まないようにチェックして修正してもらうようにしています。
 雑誌やウェブに関してはほとんど目を通すようにしていますが、新聞社だけは絶対にチェックさせてくれませんね。
 作品一本につき、どのくらいの数の取材を受けるかといえば、作品にもよりますが私の場合せいぜい30から多くても50くらいでしょうか。少ない方じゃないかと思いますが、他の人のケースを聞いたことがないので比べようもありません。
 全体のうち原稿チェックのある取材が20本だったとしてもけっこう面倒くさいものです。発言をまとめてくれるライターが上手だとほとんど手を入れることはありませんが、あまりに上手くない人の場合だと全部書き直すこともあります。
 さすがに全部直す必要はないのですが、直し始めると自分の発言も気に入らなくなってきて、結果的に書き直してしまうこともある。だからまとめ方の良し悪しより自分の喋りの方に問題が大きいのでしょうが。とはいえ、時には日本語として成立していないこともあれば、ひどいのになると発言の主旨とまったく逆の意味で文章化されていることもあるくらいで、原稿チェックもけっこう手間がかかる仕事です。
 喋るインタビューばかりでなく、メールによるインタビューというものもあります。メールインタビューは主に海外からの依頼が多い。国内の場合は会って喋った方が早いですからね。
 こちらは自分でテキストを打つので、原稿チェックの手間はありませんが、それ以前にテキストを書くこと自体が非常に手間と時間がかかるのです。私はこう見えてもけっこう真面目な方ですから、テキストを書くとなるとそれなりに考えて良くない頭を振り絞って書くんです。しかし折角書いたテキストも英語やフランス語やイタリア語に翻訳される上に、国内ではほとんど読むことさえ出来ない。私も読めない(笑)
 それじゃああまりに私の手間と苦労が勿体ないので、賞味期限の切れたテキストをここに掲載させてもらおうと思います。

 また何か賞味期限の切れたテキストが出来たり発見されたら載せるつもりです。