Interview 08
2004年7月 台湾から「東京ゴッドファーザーズ」に関するインタビュー

1 なぜ今回の主役を「ホームレス」にしたのですか?この3人のキャラクターに実在のモデルとかはありますか?

 主人公たち三人に実在のモデルはありません。すべては私と共同脚本を担当してくれた信本敬子氏の創作によるものです。ただ、モデルはありませんが三人に 対するイメージはありました。「“家族”に見える」という条件です。彼らは擬似的ですが、家族のような関係にあります。
「ハナ」という母親役にあたる人物をオカマに設定したのはあくまで「擬似的」というイメージを残そうと思った面もあります。また同時に、本当の女性だと生々しくなってしまう母性とか女らしさを純粋な形で見せられる、と考えたからだと思います。
 なぜ主人公をホームレスに設定したかということですが、確かに主人公がホームレスというのは夢のある映画やアニメーションには相応しいとは言い難いかも しれません。しかし私はこの企画を思いつく以前からホームレスという存在が気になっていました。
 豊かな時代でありながら生まれてしまうホームレス、同時に世の中が豊かであるがゆえに養われ得るホームレス。それで彼らは街(都市)に生かされてるんじゃないかと思ったのが発想のきっかけのひとつです。
 もうひとつは都市におけるアニミズムというか、都会の建物や路地にも魂は宿るのではないかという考えで、そこに“異界”を見てみよう、と。主人公たちは都市に重なる異界に踏み込んで行く、と考えました。
 疑似家族のように暮らしているホームレスの3人が、赤ちゃんを拾って親元に返そうとする話を軸に、奇妙な偶然が連鎖する“異界”に踏み込み、その道中に 出会う人々や事件を通して、彼らが家族や社会との関係性を回復して行く。そんな彼らを「東京」というもう一人の主人公が見守っているというイメージでし た。
 当時も現在も日本は不況不況といわれ、人間全体から活力というか活気みたいなものが失われているように思います。ホームレスの増加はその一端をよく表し ていると思いますが、だからこそ彼らホームレスを主役に据えて、彼らが生きる気力や活力を回復する過程を描ければ、見ていただくお客さんにも少しは元気に なってもらえるかもしれないと考えました。実際我々スタッフもこの映画を作ることで活力や活気を得られました。
「東京ゴッドファーザーズ」において、ホームレスを弱者や不幸の代表であるとか、あるいは社会の邪魔者であるといった観点で見たつもりはありませんし、彼らは現実のホームレスの存在というより誰にもある弱さや後悔の象徴として捉えていました。
 ホームレスである彼らは、以前に比べればそれぞれの人生に輝きを失っています。ホームレスだから不幸ではないのです。そのなにがしかの輝きを失ったこと が不幸なのであり、それを回復することに彼らの幸福があり、その過程がこの作品の物語そのものだと思っていました。

2 この作品を通して、観客にどんなことを伝えたいのですか?

 これは前記の答えで十分お分かりいただけると思います。

3 前作の「千年女優」のテーマは「恋」で、二人の主役はすれ違いの場面がほとんどでした。今回のテーマは「親からの愛情」で、同じくすれ違うケースが多くありますが、「運命」と「縁」についてどうお考えですか?

「運命」も「縁」もどちらも個人の力や意志でコントロール出来るものではありません。「東京ゴッドファーザーズ」で多く取り入れた「偶然」も同じですね。 世の中には個人がどう頑張って足掻いたところで「どうにもならないこと」はたくさんあります。それら多くの自分や自分の周りに起こることを我々はコント ロール出来なくても、起こった後にそれらにどう対処して行くかは当人の意志によるものです。選ぶことが出来ない事態が起こったことに対して嘆くよりも、起 こったことに対してどう関わって行くか、それがもっとも重要だと考えます。
「運命」や「縁」や「偶然」は選べない以上受け入れるしかない。それにどう関わるか、それによってつかめる未来が変わってくる。起こった出来事に一所懸命関わって行くしかない、という態度を主人公たち三人に託したつもりです。

4 主役の3人の中で、誰が一番好きですか?理由もお聞かせください。

 誰が好き、ということはありません。私はみんな好きですが、何より私は「三人の関係」が好きです。ある意味三人がワンセットになった状態が私にとってはまるで一人のキャラクターのような感じです。誰か一人が欠けても寂しいです。
 ただ、敢えて一人上げるとなるとハナちゃんでしょうか。
 先の答えとも関連しますが、たとえば訪れた幸運のすぐ隣には不運があるでしょうし、幸運と見えた中にも不運が、不運の中にも幸運があると思います。結局は関わる人間の態度次第で、それらは常に逆転しうる性格なんだと思います。
 この「幸運なんだか不運なんだかよく分からない」という感じを私はひどく面白がっていました。相反する性格のものが無表情に同居している世界観は目指す ところです。本作では幸運と不運が渾然一体となり、偶然に彩られて押し寄せる、というイメージを描いていましたが、同じように、ハナちゃんも「男だか女だ か分からない」、つまり男性性と女性性が混然とした存在であり、だからこそこの話には相応しかったと考えています。もしかしたらハナちゃん無くしてはこの お話は成り立たなかったかもしれません。

5 赤ん坊の名前には何か意味が込められているのですか?

 賛美歌「Holy night」は日本語で「きよしこの夜」と言います。この「きよし」から「清子(きよこ)」と名付けただけで、特別に深い意味はありません。この場合、本 来なら「聖子」とした方が良かったのでしょうが、字面がどうもしっくり来ないので音であてて「清子」としたように思います。

6 今回は一人の赤ん坊の出現をきっかけに、3人のそれぞれの過去を観客に見せていくという演出方法を使っていますが、なぜこういう方法を選んだのですか?監督にとって未来よりも、むしろ人の過去を見せたほうがストーリー的にも面白みがある、とお考えですか?

 そうではありません。私は基本的に「身の上話」を語ることが好きではありません。得てして身の上話はつまらないからです。それはすでに「起こっていた」 ことであり、目の前で展開する話でもないですし、たいてい登場人物を説明するために身の上話が用いられることが多い。「説明」はあまり面白いものではあり ません。
「東京ゴッド〜」で登場人物の過去が語られるのは、登場人物たちの説明という側面もありますが、登場人物たちの行動原理を明確にするためです。進行している物語にシンクロして語られる彼らの過去は常に未来に向かっているのです。
 典型的なのはギンという男の捏造された過去です。ギンがウソの過去を語るのはハナに対して「自分をそう見て欲しい」という欲求があるからです。そのウソ はやがてばれることになりますが、「ウソがばれることで現実に向き合うことになる」というのがギンの進行形の物語ということになります。登場人物の過去が 語られるのは三人それぞれの物語をストーリーにシンクロする形で織り込みたかったのです。

7 最近の二つの新作はどれも自ら脚本を担当されていますが、これには何か特別な理由はありますか?

「千年女優」も「東京ゴッド〜」も単純にオリジナル作品なので、脚本家や他のスタッフと作品世界を共有するのが難しく、原作者としてどういう作品にしたい のかを書いてみる必要がありました。だからといって私は一人で脚本を書こうとは思いません。というのも私は一本の作品になるべく多くの視点を確保しておき たいからです。誰か一人の視点によって、より極端なものに傾斜した作品を作る、という考え方もあるとは思いますが、私は複数の視点を持つことで作品により 奥行きが生まれると考えていますし、多様性を持った作品を作りたいと思っています。

8 「PERFECT�BLUE」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」の3つの劇場作品の中で、どれが一番好きですか?

 私が監督した作品はその3本の劇場作品と、日本ではすでに放映が終わったテレビシリーズ「妄想代理人」(全13話)、合わせて4本ですがどれもそれぞれ 印象深く私にとっては大切な作品です。どれが一番、ということはありません。「妄想代理人」を生み出すには「東京ゴッドファーザーズ」が必要だったでしょ うし、「東京ゴッド〜」が生まれるには「千年女優」が不可欠だったように、私は作品単体ではなく作品の流れを何より大事にしています。
 ただ「東京ゴッドファーザーズ」はこれまでの作品の中で、質的にもっとも高いレベルでまとまっていると思えますので、その点では一番好きな作品といえます。

9 監督はアニメ作品の題材としてはかなり珍しい「サイコホラー」もの(PERFECT BLUE)の挑戦に成功していますが、次回はどんな題材にチャレンジしたいとお考えですか?

 手がけてみたいと思う題材はたくさんありますが、アニメーション作品という多くの人が関わる創作物は私一人の欲求だけで立ち上がるものではありません。 一緒に作るプロデューサーやスポンサー、多くのスタッフやさらに多くの観客、世間の動きといった私を取りまく状況やそれに対する私の考えや感情、それに もっと個人的な状況なども合わせた流れの中に企画は起動して来るものだと思っています。
 SFやロボット、老人と子供によるファンタジー、少年の冒険物、青春物、中年夫婦の危機……などなど私の頭の中にはアイディアのガラクタが散乱していま すし、これからもアイディアは生まれてくるでしょうが、その時どれが選び出されて作品になって行くかは私と私を取りまく状況次第だと思います。

10 次の劇場作品の制作予定はありますか?

 現在、劇場用アニメーションの新作に着手したばかりです。「夢」を題材にした作品だという以外はまだお知らせできませんが、再来年には公開になると思います。楽しみにしていて下さい。