『妄想代理人』全13本完成後、私はしばらくぶりに「暇」というものを手に入れた。特に手に入れたいわけではなかったが、何となくそういうことになってしまっ た。約2年に渡って『千年女優』を制作、完成後まったくインターバルをおかずに『東京ゴッドファーザーズ』制作に着手、その2年半の制作最中に『妄想代理人』を立ち上げ、『東京ゴッド〜』完成後、なだれ込むように『妄想代理人』制作に入り、約10ヶ月間全力疾走してきた。
私個人の日誌によると、2003年の10月半ばから、『妄想』完成までの5月上旬までの約半年間、日曜日もまったく休みなく働いていたらしい。休んだの は正月に1日、2月にインフルエンザで倒れた数日だけである。けっこう働き者だと思うが、別に強制されて働いているわけではなく、好きで働いている。とい うより私から仕事を取り上げるとただのダメ人間になる。実際、「暇」を手に入れてこうして愚にもつかないテキストを垂れ流している私はかなりのダメ人間ぶ りである。
どのくらいダメかというと、仕事の忙しさに圧迫された期間に放り出してしまったあれやこれや、部屋の掃除やら諸々の手続き変更、出さなければならないは ずの返信メール、世話になっている方への挨拶、読もうと思っていた本や見ようと思っていた映画などなどを放り出して、パソコンの前に座ってダラダラとキー ボードを叩いているだけなのである。
不義理をかけている皆様、どうもすいません。
私はどうも「暇」を上手く活用できないらしい。おそらく何かを作ることでしか高揚感を得られない体質になってしまったらしく、仕事でアニメーションや漫 画を作るのと同じように、「暇」においても社会人や大人としてなすべきこともせず、あってもなくても誰も困らないような何かを作っている。このテキストの ように。
まとまった量のテキストを書くのは久しぶりで(暇にしか書かないのだから当然だが)、実に楽しんで書いた。楽しんでいるうちに膨大な量になってしまっ た。膨大な量だがさして中味はないし、役にも立たないテキストだろう。誰に向かって書いたわけでもない。いわば書くために書いたとでもいうような独り言で ある。
『妄想代理人』制作を振り返って思いつくままに書いたテキストだが、これといったベクトルを持たない内容で、コンセプトの欠片もない。敢えていえば、私が 思いついた「ネタ」がテレビシリーズ13本になるまでに、私が経験したことを振り返りつつ「自分は一体何を考えていたのか」「自分がしたことにはどういう 意味があったのか」をこのテキストを書くことによって考えようとした、その記録である。時に制作記録や裏話であったり、映像解説であったり、ただの冗談 だったりもするが、間違ってもこれは客観的な記録などではなく、私の捻れた主観で書かれた、まさに「“妄想”の産物」である。
という「使用上の注意」をご理解いただいたところで始めたいと思う。