妄想の七「夢にキャッチ」

夢のお告げは七五調

 夢という話題が出たのでお告げに従い、「夢告」について振り返ってみる。
 こんな奇妙な予告を考えたのは私だ。
 アフレコ・ダビング作業の帰り、車の中で思いついたアイディアである。ただ何となく思いついたわけではなく、この思いつきの背景には巨匠・筒井康隆先生の存在がある。
 去年2003年の12月、「アニメージュ」誌上で筒井先生と対談させていただいた。冗談みたいだが本当の話だ。すっげー!俺。
「妄想代理人」の宣伝という意図のもとに、まず「対談」という枠だけが企画されたようで、対談相手の候補として色々な方の名前を挙げてもらった。自慢じゃ ないが私は人見知りが激しい。冗談はやめろ。人見知りはしないのだが人嫌いが激しい。もとい、人嫌いの傾向が少しだけある。なので候補のリストを見ながら 私はこういう態度になる。
「こいつはヤダ、こんなのと話すことねぇよ、こんなのただのバカじゃないか、これは無能だろ……誰もいないじゃないか……ああ、この人は嫌じゃないかな」
 話半分に読んでくれ。
「ろくなのがいないなぁ、もうちょっと候補を出してもらいたいなぁ」
 などと偉そうなことを言った、そのしばらく後だったと思う。新たに届いた候補のトップに燦然と輝く名前が!
 筒井康隆。
 私のリアクションはこうだ。
「呼んで来られもしない人間を挙げたってしょうがねぇじゃねぇか」
 候補は希望順に3人くらい挙げてくれということだったので、筒井先生を筆頭に複数名を伝えたと記憶している。
「どうせ筒井先生があるわけないから、これか、この人あたりになるんじゃないの。で、あんな話とかこんな話でお茶濁して終わりだよ」煙草、プッカー、みたいな。
 そんな態度であった。が。
 筒井先生、OK。
 ぎゃ。一気に反転、さては困った私の方が。何が困るか緊張するよその対談。だって私は筒井ファン。大学生から読み始め、読んだことだよ文庫の数々、影響 されたよ山ほどに。家族八景ふたたび七瀬でもう夢中、筒井ワールドどっぷりはまり、気が付きゃこのテキストも七五調。
 驚いてしまった。冗談かと思った。よもや私ごときが筒井先生と対談出来るなんて、夢のようだよこの人生。やっておくものアニメの演出、世界が認めた才能 も伊達じゃないのよ今 敏。降って湧いたこの行幸、感激しきりのこの対談、私も失礼ないように、ちょうどその頃出ていた先生の、新作楽しみ拝読します、その名も「ヘル」の傑作 に、ますます対談緊張します。
 読んだ方も大勢いるだろうが「ヘル」という筒井先生の新作は内容もさることながら、後半の語り口が狂騒を煽るがごとき七五調なのである。読んでいるとど んどんリズムに乗って浮かれてくるようであった。ヘルは地獄というより煉獄という不可思議な世界で展開する不思議なエピソードの数々は是非ご一読をお勧め する。
 対談は12月某日、新宿某所で行われた。

 10 時半、起床。晴天。13時から筒井康隆先生と新宿で対談予定。某ビルの5階個室に13時少し前に到着。すでに筒井先生はみえている。90分に渡ってあれこ れと対談。最初は緊張したものの、筒井先生のお人柄がよく楽しくお話をさせてもらう。先生はわざわざ監督作3本を御覧になっていただいたようで、メモまで 持参してくださる。御本人には「オマージュ」といっていただいたが、「パーフェクト〜」「千年」の現実と虚構の混在は確かに筒井康隆作品の影響が大きいの かもしれない。新作「ヘル」にサインをもらう。会社に戻って原画チェック。

 私は非常に緊張していたのだが、筒井先生のお人柄もあって楽しくお話しさせていただいた。私の拙い感想にもあれこれと丁寧にお応えいただき、しかも先生 はあろうことか「パーフェクトブルー」も「千年女優」も「東京ゴッドファーザーズ」もご覧いただいたとのことで、丁寧にメモまで持参して感想を伝えてくだ さった。ああ、感激。
 対談内容などについて詳しく知りたい人は「アニメージュ」誌バックナンバーを探して読め。そこには緊張した面持ちの私が巨匠と写っている。ああ、本当に アニメーション監督で良かった。対談後、持参した「ヘル」に先生からサインをいただき、その他にもう一つ大きなおみやげをもらうことになったのだが、それ は言えない今はまだ。そのうち分かるよ、きっとすぐ。
 ちっとも「夢告」の話にならないが、お分かりだろう。「夢告」の七五調は巨匠・筒井康隆先生の「ヘル」を読んだばかりだったから思いついたのだ。それを 何だ安直と、言ってはならぬお約束。読んだり見たり聞いたもの、何でも取り込むどん欲に、それはパクリと言わぬもの、敬愛オマージュインスパイア、勉強熱 心チャレンジャー、刺激を受ければさて我も、やってみたいが人の道。
 これじゃちっとも進まない。ともかく私は「ヘル」の七五調に大きな刺激を受け、予告に七五調を取り入れることを思い立ち、それも何か「語りの作品」みた いなことが出来ないかと考えた。30秒という予告もひとつの作品である、と。しかしそれを何故、意味の分からない、その実次回の内容を言い表している言葉 にしようと思ったのかはよく分からない。確か、1話に付く2話の予告が、2話があまりに進行状態が悪くてカットが揃えられないのではないか、という危機感 もあって、「2話のカットを使わないことにしてさ、じじいが出てきてずっと喋っていればいいんじゃないか(笑)」という冗談を無責任に口走った気がするが それが元かもしれない。かくして槐(さいかち)柳二さん語りによる素晴らしい30秒作品が生まれることになった。
 言い出しっぺの私だが、実は私が考えた夢告は1話に付く2話の予告一本のみ。4話に付く5話の予告を吉野さんが考えてくれた他は、すべて水上さんの手に よるもの。二人とも私の思いつきと拙い一本を例に呑み込みよく反応してくれた。チェックのために届けられる夢告はいつも楽しみにしていた。
 では私が書いた一本をご紹介する。

 そも、月の影でウサギがピョン。
 黒いウサギの赤い目は水平線に何を見る?
 陸(おか)に上がったおさかなが牛に踏まれてモォ大変。
 蝶が舞い飛ぶ竜宮城は遙か彼方の夢のあと。
 沈む陽や牛に引かれて善光寺。
 黄金(こがね)の狐がほくそ笑む。さて。

 読めば簡単お気楽に、見えてもけっこう推敲を、重ねて絞ったこの字数、けれどアフレコ本番槐(さいかち)さん、粘ってゆっくり喋りすぎ、ちっとも尺に収まらず、何度も何度も録り直し、重ねた苦労の甲斐あって、話題になったよこの夢告。
 蟻が鯛なら芋虫はたち。

 さらに蛇に足をつけてみようか。
「そも、月の影でウサギがピョン。」
 これはつまり「まず最初に月子の心の影で少年バットが呼び覚まされた」ということだ。なぜ少年バットがウサギと表されるのかは私にも謎だが、月といえばウサギである。
「黒いウサギの赤い目は水平線に何を見る?」
 ピョンとはねたウサギは黒い。つまり少年バットのことだが「少年バットは次の救済の対象として誰を狙うのか」ということ。「水平線」は「どこか」という意味だが、次節の「おさかな」を喚起するためでもある。
「陸(おか)に上がったおさかなが牛に踏まれてモォ大変。」
 2話を見れば分かるだろうが、ストーリーそのままである。「鯛良優一(おさかな)が本来の人気者の立場からいじめられる側になってしまい(海から陸に上がって)、牛山尚悟(牛)に踏みつけにされる」ということ。
「蝶が舞い飛ぶ竜宮城は遙か彼方の夢のあと。」
 竜宮城といえば本来タイやヒラメが舞い踊る極楽世界だが、ここで出てくる蝶はもちろん蝶野晴美のこと。晴美やクラスメートにチヤホヤされていた頃をイッチーの「竜宮城」とすれば意味はお分かりかと思う。
「沈む陽や牛に引かれて善光寺。」
 無論、小林一茶の句「春風や牛に引かれて善光寺」のパロディ。この元の句は次の故事「牛に引かれて善光寺参り」に由来する。
「婆さんが干した布を、通りかかった牛が角に引っかけて走り去った。婆さんが必死に追いかけると、その牛が善光寺に入り込んだので、婆さんは知らぬ間に善光寺に詣でてしまった」
 転じて、他人に引っ張られて思いがけず善行をしてしまうことをいう故事なのだそうな。
 冒頭「沈む陽や」と変えたのは、イッチーがウッシーと同道するシーンが夕方だという単純な理由もあるが、イッチーの凋落を「沈む陽」にかけている。「牛 に引かれて」は言うまでもなく「ウッシーに誘われて同道すること」。先の故事と重ね合わせれば「ウッシーに誘われて一緒に下校したイッチーは思いがけず少 年バットに出会い、それがきっかけで救済される」という意味。
「黄金(こがね)の狐がほくそ笑む」
 黄金の狐とは少年バットそのものではなくその模倣犯、狐塚を指す。「(一緒に下校する)イッチーとウッシーを狐塚が狙っている」ということ。
 蛇にいっぱい足をつけてみたが。さて。

「夢告」は確かに奇妙ではあるが、「予告」としての機能は果たしてはいた。予め告げるというくらいで、次回の内容を紹介する機能が重要であったが、我々はちょっと悪のりして、次回の放送がないにもかかわらず「夢告」を持ち出した。
「最終回に予告をつけるか(笑)」
 と言いだしたのは私だったと思う。
「1話の予告にしましょうよ(笑)」
 と応えたのはプロデューサー豊田君であったろうか。ノリが軽くタチが悪い制作現場かもしれない。最終回のラストは、1話の老人と同じようにして馬庭が出 てきて閉めることに決まっていたので、さながら「ループ」しているイメージに出来るという目論見であった。
 だが、この思い付きは実現までに二転三転したと記憶している。
 まずこの心ない思い付きを快く了承してくれたのはWOWOWさん。この最終回につける「夢告」の件のみならず、非常に芳しくない制作状況を慮って放送ス ケジュールを都合してくれたり、数々の際どい作品内容をかなり多めに見てくれたことに大変感謝している。また、
「仕事場で残念なことにWOWOWが見られないんですよねぇ〜」
 という私の「見え見え」の愚痴にすぐさま反応して、パラボラやデコーダーを設置して仕事場で快適に「妄想代理人」を見られるようにもしてくれた。
 みなさんWOWOWに加入しましょう。私も加入しています。
 そんな素敵なWOWOWさんだが、最終回につける「夢告」については一つだけ条件が付けられた。
「必ず“冗談”だと分かるようにして下さい」
 そりゃあ、もっともだ(笑)
 最終回に「1話の夢告」を付けると、「来週からまた“妄想代理人”がリピート放送される」ように思いかねない人も出てくるだろう。なので、はっきりと冗談にしなくてはならない、と。
 途中、「DVD発売の予告」「夏に予定されているというリピート放送の予告」といった性格にすればよいのではないか、という意見も出たのだが、諸々事情 があるので却下。最終回に夢告を付けるのをやめようかという話もあったかもしれないが、こうした前例のないアイディアは何としても形にしたいと思う方だ。 そこで形を少々変えることにした。
「夢告は“終わりの挨拶”というイメージにしよう」
 といったのは私で、その方向で水上さんに文言を考えてもらうようにした。しかしその時すでに12話のアフレコが迫っており、夢告の台本が間に合いそうに なかった。夢告はいつも老人=槐柳二さんの語りによるものだったが、13話に出番のない槐さん(老人は12話で亡くなる)を夢告のためだけにお呼びするの もどうか、ということで、最終回の夢告は「老人の跡目を継いだ馬庭(関俊彦さん)」にお願いすることにした。これならループのイメージにもよく合致する。
 そして画面の方は総白髪になった馬庭を安藤さんに新規に作画してもらい、選び出すカットのイメージを「少年バットに襲われる寸前の被害者」ということに した。しかしこのイメージは良かったのだが13本の中からそんなに都合が良いカットがたくさんあるわけもなく、編集の木村さんが「キャラクターが振り返っ た」瞬間なども選び出し、さらには早回しなども加えて実にテンポ良く面白い夢告に仕立ててくれた。
「妄想代理人」を御覧いただいた皆様に、大変いい形で終わりの挨拶が出来たと思っているが、アフレコ当日、音響監督はかなり戸惑っていたようだ。
「最終回に付く予告!?意味分かんねぇよ!」
 ま、普通そうだわな(笑)

 ついでに「夢告」に関する恥ずかしいお話をひとつ。「妄想代理人」制作もすべて終わった後のある日のこと。チェック用に回ってきたDVDを豊田君が見ていたので、私も一緒になってつい見入っていた。
「しかしまぁDVDの画質ってエライ綺麗だな」
「見えすぎって話もありますよ」
「本当だよな、見えなくてもいいものまで見えそうだよな」
 と冗談めかして言っていたら「夢告」の中に本当に見えた。巨大なエラーが(笑)
 本来なら絶対リテイクになるエラーが、しっかり見えた。薄いがかなり大きな面積で何故気が付かなかったのか。チェック用のモニタでは薄くて見えなかったのか。
「やっべぇ(笑)」
 しかしすぐさま我々は態度を改めることにした。
「これは意図した効果である」
 本当だ。効果だ。そう見える筈だ。ほうら段々見えてきた。

あなたのアイをキャッチ

「夢告」に続いてはこれも好評を得たアイキャッチについて。
「妄想代理人」のアイキャッチに、正に目を奪われた人も多いのではないかと思う。私もその一人だ。初めて届けられたアイキャッチ、その後届く新作がモニタ上に表れるたびに私は大喜びした。
「かっこいい」
 アイキャッチ制作はすべてサイクロングラフィクス・加藤道哉氏の手によるもの。私は特にリクエストを出したわけでもなく、どの程度までやっていいのかと いう枠を提示させてもらったに過ぎない。初めて仕事をご一緒する人間だったので、こちらに対して遠慮もあろうと思い、なるべく気楽に自由に出来るようにと 考えた次第である。
 仕事を一緒にするのはアイキャッチが初めて、というのはやや正確ではないかもしれない。顔合わせはその時が初めてだったのだが、加藤氏には「妄想代理 人」の劇場用の特報を編集してもらっていた。これはオフィシャルサイトでまだ見られる……のかな。見た方は記憶にあるかもしれないが、1話本篇カットを繋 いで、ノイズ等の加工が施された映像。バックに流れている曲は「妄想代理人」サウンドトラックではなく、平沢さんのアルバム「BLUE LIMBO」から「LIMBO-54」。曲のセレクトもとても良いと思う。
 ともかく私はこのプロモーション映像が気に入った。こうしたケースは珍しい。これまで私が監督してきた作品の「予告」とか「CM用映像」などで私が文句 を言わなかったケースは皆無と思われる。だいたい気に入らない。何が気に入らないって、本篇をなぞっているだけで、別なイメージが加えられていないのがつ まらない。変な話だが、私は我々が作った映像を元にしたもっと「違うもの」を見せて欲しいくらいなのだ。そういう意味で私は「東京ゴッドファーザーズ」の アメリカ版の予告は面白がったし、一発でOKした。だって予告だけで面白いんだもの。もう一つ感心したケースは「パーフェクトブルー」の10分ほどのプロ モーション映像だろうか。あれは良かったな。あの編集は……あ、私だ。道理で。
「妄想代理人」の場合、私は本篇以外の仕事には基本的に携わらないと決めていた。宣伝用のインタビューは受けるが、それ以外のビデオ・DVDジャケットの デザインとかイラストとか、あるいはグッズや関連書籍等々について私は「いいんじゃない?」というコメントしかしていないと思う。これは無責任だからでは ない。なるべく私の意志とは関係なく「妄想代理人」のイメージが広がって欲しいと思っていたからである。デザイン関係については私も非常に重要に思ってい るが、今回は「千年女優」ビデオ・DVDジャケットや書籍「KON'S TONE-千年女優への道」でお世話になった稲垣さんが担当してくれていたので、何にも心配していなかった。イラストは安藤さんが引き受けてくれたのでこ ちらも何にも言うこと無し。
 そういう態度でなくもっと口を出すような関わり方をしていたとしても、加藤さんが編集してくれたプロモーション映像に私は何も注文を付けなかったと思う。付けるとしたら「もっとやっていいですよ」といったことであろうか。
 このプロモーション映像にかかったノイズや、時折入る引きつりのような効果が私はとても面白く見せてもらい、そして何より、本篇素材にはない「悪戯描 き」のような不思議な素材が加えられていたのが興味を引いた。老人が謎の数式を書いている映像の上などに白い点がいくつも現れ、それらがヒヨヒヨな線で結 ばれて行く。私はこの「広がる謎のネットワーク」に大受け。「妄想代理人」の作品世界を理解している人だなぁ、と素直に感じ入ったのである。
 アイキャッチは最初から加藤さんに依頼するという予定ではなく、当初は「マロミが右から走ってきて転んで左へOUTして、そのアクションを繋いで再び右 からIN」といった作画による「ほのぼの」無策路線であった(笑)。本当にアイディアは何も考えていなかったのだ。アイキャッチをいよいよ作らねばならな い、という時期、私はオープニングとエンディング制作と1話と2話に追われていたのだ。しかしアイキャッチも作らねばならない。時間はない!原画マンもい ない!さあ、どうする!?
「よし、文字だけにしよう」
 なんて安直なんだ(笑)
 プロデューサー豊田君がこうリアクション。
「カイル・クーパーみたいなこと考えてます?」
「誰がそんなこと出来るんだよ(笑)」
「いるんでしょうけど、金かかりそうですよね」
「金もなければ時間もないのだ。いいか、たとえばさ、文字がさ、こう、“妄”がビューッとINして、続けて“想”がヒユッと来て“代”がゴーッと来て “理”がサッと来て“人”がキキーッと来て、“妄想代理人”ってタイトルになって後はずっとぶれてる、とかさ」
 子供みたいだが、イメージなんてそんなもんだ。要するに作画はせず、撮影処理だけで何とかしようという作戦に切り替えた。しかし、それには文字の素材や ら背景やらを用意しなくてはならないし、それにはまずイメージが必要ではないか。私は忙しいのだ。さぁ、どうする!!
 そこで天啓が閃いたのだ。
「プロモーション映像の人!」
 さすがだな、私。追い込まれればアイディアも出るってもんだ。
 頼む人を考えただけで偉そうに言うな?
 そういうものではない。監督には才能を適材適所に配置することで演出をする、というプロデューサー的な側面も必要なのだ。
 ということで「プロモーション映像の人」加藤氏に泣きつくことになったのである。さしたるイメージもなく、不躾な依頼であったにもかかわらず、加藤氏は 快くアイキャッチ制作を引き受けてくれた。さらには御自身もこの仕事を楽しんでくれたようで、当初2組だけの予定だったものを計7組ものアイキャッチを制 作してくれたのである。依頼した仕事を楽しんでもらえると、頼んだ方としても非常に快いもの。
 アイキャッチはAパートのお尻とBパートの頭にそれぞれ付くので二つ一組。1と2話、3と4話、……11と12話という形で2話単位で同じアイキャッチ を使用し、13話のみ特別に作ってもらった。気が付かれた方もいようが、13話のアイキャッチはそれまでのアイキャッチの総集編になっている。Aパートの はそれまでのAパートアイキャッチ素材が編集されたもの、Bパートも同様である。これまた私の思いつきをすぐにかっこいい形にしてくれる加藤さんであっ た。
 アイキャッチはどれも気に入っているが、特に印象的だったのは具象のタイプで3話で初お披露目した「蝶々」、11話で初使用の「桜」、抽象的なタイプで は9話10話の「回転する水」、5話6話で使用のノイズがうねうねと這い回る「電器虫」(私が勝手に名付けた)などだろうか。どのアイキャッチに付けられ た音も実にいい。
 本当に「妄想代理人」のアイキャッチは良いと思う。加藤さんに白羽の矢を立てた私の慧眼に……ウソウソ、加藤氏の仕事に賞賛を送りたい。
 ついでに不思議なことがもう一つ。
 加藤氏は完成したアイキャッチを自ら持って、何度かわざわざマッドハウスに足を運んでくれたのだが、不思議と制作現場で宜しくないことが起きて私の機嫌 が悪くなっている時に現れた。そして素晴らしいアイキャッチで一挙に私の機嫌を良くしてくれるという、まるで幸せ配達人のようであった。どうもありがとう ございました。
 後に分かったのだが、加藤さんは私の大学の後輩であった。やるな、武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン学科。