妄想の十三「終わり無き最終回。」
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平たい絵は描けない
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話もそうだったが、13話もコンテが上がったら上がった分だけすぐに作打ちが組まれ、順次作画作業に入った。総監督担当話数の特権ではある。他話数は半
パートが上がった時点でこちらに回されてきて、チェックすることになっていて、その段階でOKなり修正の指示を出させてもらう。ところが。私のコンテは
チェックが不要なので上がった先から作画に入ることになる。他の話数の編集や音響の面倒も見るんだからそのくらいのアドバンテージはあっても良かろう。
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最終回冒頭は、「記号の町」からスタート。
「記号の町」と言葉で言うと簡単そうだが、描くには意外と手間がかかっている。一旦手法が決まってからは比較的楽なことが判明したし、実際に作画の手間は軽くて済んだ。だが私がコンテを描く上では非常に厄介な相手であった。 9話「ETC」の「OH」の際にも触れたが、私はリアリスティックな絵しか描けないしパースを外しては考えられない。だが「記号の町」はパースラインな どお構いなしに、対象物へのこだわりに引っ張られるように描いてこそ「それらしく」なる。そんないわば子供の絵のような、純粋さが肝心である。私の腹は計 算によって随分黒くなっている。 パースを殺した絵、というよりパースを気にしない絵というのは簡単に描ける人もいるだろうが、私には難しい。さらに問題を面倒にしているのは、猪狩や月 子というメインの登場人物は普通のパースの世界に住んでいる。成り立ちが大きく異なる絵を同じ画面に取り入れる、というと聞こえはいいが実践するにあたっ ては非常に考えにくい。カット数が少なければ絵になりやすいところだけを選んで誤魔化すことも考えられるが、何せカット数が多い。 どういう構図を取るのか、には困らないのだが、その視点で見た時「記号の町」はどういう具合に見えるのか、自分なりに一貫した方法論や考え方が定まらず、コンテ前半戦は試行錯誤の繰り返しだった。カットを重ねているうちにやっと考えがまとまった。 「あ。舞台美術みたいにすりゃいいのか」 舞台美術といっても色々な解釈があろうし、考えがまとまるといった論理的なことより、自分なりに腹に収まってきたという「感じ」である。 考えれば実に簡単なことでも得心が行くには実際に手を動かしてみなければ分からないことも多い。しかも考えてから描いている暇はない。描きながら考えるのだ。 そして段々こなれてくるともっともっと楽になる。 「なんだ、絵になるようにカットごとの都合で考えればいいだけだな」 都合の町である。 コンテ段階で試行錯誤した結果、13話の「記号の町」シーンのレイアウトと背景作業を飛躍的に軽減する方法を思いついた。 「どうせ平たい画風は描きにくいから、最初から一度真っ平らな状態で描いてしまえ」 ということで「記号の町組み立てキット」という方法を思いついた。あらかじめ家々を真正面から描いた素材を作り、それを各カットのレイアウトやパースに 合わせて変形して貼ってしまおうという作戦。これなら背景も真正面の素材を作ってしまえば、使い回しが利く。
「組み立てキット」となる元素材は13話で新作したものの他に、11、12話の素材も使用されている。 |
また本番のレイアウトでは、原画マンが描いた背景用の原図を一旦動画にしてもらっている。その際わざと太めの線で、直線も定規を使わずに引いてもらって味
を出すことにした。背景マンにすべての実線を入れてもらうのは量的に不可能だし、私の方で味のある原図を作成するのも土台無理な相談である。処理を簡単に
して作業を共有出来るようにする。共同制作の場においては大事なことだが、その方法を考える手間は意外と面倒で、つい思ってしまうのだ。 知らない方のために一応載せておく。親切だろう。 |