番外編
韓国プチョン・ファンタスティック映画祭見聞記

1997年8月29日から9月2日まで韓国はプチョン市で開かれたファンタスティック映画祭に、フィルム共々招待されて行って来ました。  



■PiFan'97・映画祭のキムチ その1

●1日目-8/29●

 帰省先の札幌から戻った翌日。昼過ぎに起きる毎日のこの私には非常識この上ない早朝6時20分、上野マルイ前でパーフェクトブルーのスポンサー・REX・石原氏と合流。京成スカイライナーで一直線に成田へ。あああああ……眠い。

 朝9時40分、成田発・大韓航空機、ビジネスクラスの快適なおよそ2時間のフライト。私は約184センチほどの長身故、足が楽に伸ばせるこの席はホントに快適。ビジネスクラスを知ったばかりというのに、憧れるはファーストクラス。ああ、海よりも深い欲。

  金浦空港では、REX・中垣女史と映画祭ボランティアの女性が迎えてくれる。事務局が用意してくれた車で映画祭が行われるプチョン市へ。初めての韓国。道 すがらにはのどかな農村風景とその背後に群立する近代団地。デジャビュかこれは。子どもの頃に見た日本の風景よ。削れよ山を、建てよ団地を。知っているの か? 真似した先に何があるのか。私は少しだけ知っているが、まあ仕方ない。何事も経験せにゃ分からん。

 プチョン市役所でI.D.カードをゲット。更にまた車で40〜50分、とりあえずソンドビーチホテルにチェックイン。部屋にはプチョン市長からの花束に驚き。やるな。 

  制作プロデューサーの丸山氏と地元韓国のD・R動画(パーフェクトブルーの動画仕上げはほとんどここにお世話になった)のジョン氏も合流し、夕方からオー プニングセレモニーに出席。慣れないネクタイを締めてきたが、白人の中には、Tシャツに短パンもいる。チェッ。しかし会場への移動は専用のバスで、しかも 白バイが道をあけてくれると来た。扱いは悪くないらしいぞ。やるな。
 セレモニー会場となるプチョン・シティホール前には、目を疑うほどの非常に多くの群衆。入り口まで敷かれた赤絨毯と、入場者が映し出される巨大モニター にちょいびびる。おお、プチアカデミー賞。もっとも群衆のお目当てはゲストに呼ばれた韓国の人気タレントらしいが。ああ、勘違いしたかった。
オーケストラの演奏と謎の創作舞踊。市のお偉いさんらしき方々の、私には分からない流暢な韓国語による、きっと素晴らしいに違いない長々とした挨拶。どこ の国もおじさんは一緒だな。ファンタスティック映画祭オープニング上映は、かのメリエスの“LAVOYAGE DANS LA LUNE.”       

 市役所前広場に移ってバイキングスタイルのディナーパーティ。ゲッ、食い物がまずい。おいおい大丈夫か?韓国。しかも多くのプチョン市民達に囲まれる中でのパーティなんか落ちつくはずもない。物欲しげな子どもの目。見んなよ。
 パーティ中に地元ラジオ局やら韓国版・ELLEだのアニメ雑誌だの何本かのインタヴュー。何を言ったか覚えてないが生バンドの音がうるさく喉が疲れる。パーティ終盤には会場が市民たちにも解放され、カオス状態となる。

 満足に腹も満たせず、空腹を抱えホテルに戻り、ルームサービスのまずい海老ピラフに舌鼓を打つわけもなく、気分はまさにパーフェクトブルー。さすがに疲れて爆睡。

●2日目-8/30●

  本日のメインイベントは何と言っても焼肉、いや夜8時からのパーフェクトブルーの上映。18禁とはいえ無事に上映できることにもなって一安心。夕方まで ジョンさんの車でソウル見学。まずは軽く冷麺、肉饅頭。うまい、うまい。何より付け合わせで、何気なくでてきたキムチがうまい! 大丈夫だぞ、韓国。さす がぁ! 何が?

 D・R動画を見学させて貰う。雑居ビルの2フロアに演出、原画、動画、美術、仕上げ、撮影まで入っている。またもや デジャビュか、これは雰囲気がまるでマッド・ハウスじゃあないか。しかもこっちの方が広いし、きれいだ。ちぇっ、いいな。スタッフの机周りは日本のアニ メーターとなんら変わりはしない。毛布にくるまって寝てるやつもいるし。日本で濫造されるアニメを支えているのはこの人たちなのだ、ああ、これからも頑 張って下さい、よろしくね。
 パーフェクトブルーで大変お世話になった方たちにお礼を述べる、というよりひたすら頭を下げる。監督の肩書が付いてこっち、謝る機会がなんと多いことか。つらいぜ、ボクちゃん。

 さて、やはり焼肉だ。カルビである。なかなか雰囲気のある店で食う。うまい、うまいぞ!塩焼きカルビ。胡麻油と塩で食べるこいつは絶品。いいぞ韓国。

hall

上映した映画館のロビー。恐竜に食われてます。

  プチョンに戻って、さて上映会場へ。こぎれいな映画館で普段はロードショウをやっているらしい。パーフェクトブルーはロストワールドを掛けている小屋でや るらしく、恐竜のポスターの上にパーフェクトブルーが貼ってある。開場前にも拘わらずたくさんの人(これが韓国のオタクか?)が並んでくれていて、まずは 一安心。聞くと、チケットを持ってない人達らしい。基本的には立ち見の客は入れないらしいのだが、入れない人達の熱心な交渉、と言うより勇猛果敢な抗議に より結局通路まで埋まる盛況となる。ありがとうよ。もっともパーフェクトブルー人気と言うより、正規には日本のアニメ作品を見られない韓国の、特にオタク にとってはどうしても見たいということらしい。(海賊版ビデオで皆見ているのが現状だが)
 彼らを見ていてふと20年ほど前の自分たち、ヤマトや999の公開に並んだ当時のアニメファンを思い出した。

「ふふ、まさか自分で作る側に回るとはな。」

  一応形ばかりの舞台挨拶。プロデューサー・中垣女史が熱弁。曰く「全く新しいタイプのアニメがどーたらこーたら」ま、いいか。仕事熱心で好ましいさ。 PiFanのプロモーションフィルムに続けていきなり本編には入り、私は慌てて外にでる。心臓に悪い。今更リテーク前のフィルムなんか見れるもんか。
 タバコを吸うこと70分。最後だけでも見てみる。主人公の危機に声を上げる女性客もおり、作品に見入ってくれてる様子。素直で良い客だ。ラストカットの後拍手もしてくれたし。数人の客からサインを求めらる。

「誰でもいいんだろうな、この人達。」まあ、いい。

さて、Q&A。ステージ上に中垣氏、丸山氏、通訳、そして私。
 「タイトルの意味は?」 それは私が聞きたい。
 「日本では、アイドルが女優に転向するときにこの映画で描かれているようになるのか?」 そんなことはないと思うがよく知りません、私は今までアイドルをやったことなんて無いんだから。
 「こういったセックスや暴力描写が現実の犯罪を助長するとは思わないのか?」 (どこかで聞きかじったような質問だな。)いわゆるそういった漫画や映画を見たりもしてきましたが、少なくとも私は人を殺した覚えはない。
 「クレジットに韓国人の名前が多数出ていたが、スタッフ間でのやりとりに障害はなかったか?」プロデューサー答えて曰く。「10年も前から一緒にやっているから何も問題はない。」韓国のスタッフがジャパニメーション(大爆笑)を支えているということを、韓国の人間が知らないと言う方が問題かもしれないぞ。
 「かかった時間と予算は?」スポンサー側のプロデューサー中垣女氏「約2年、予算は3億。」おいおいおいおいおいおいおいおい!それは俺が驚くぞ!いつから予算が3倍だ!? と心の中に般若の面をかぶりつつも、そこはそれ私も一応大人、よくあることと笑って済ます、ハハハハハ。ホントか?

 さらにロビーで雑誌のインタビューを2〜3本を受ける。
 「アニメ界に入って7年で初監督ということですが、早い方ですね?」 (大きなお世話だ。だいたい何でそんなこと知ってる。)「作品を作るのは年功序列ではありませんし、早いも遅いもありません。」(おっさんになるほどろくなもんは作らねぇって。)「こういう、アイデンティティを確立するというようなモチーフを選んだのは、“エヴァンゲリオン”が流行ることと関係ありますか?」「な くはないと思いますよ。(考えたこともないよ、ンなこと)日本は自由になり過ぎて自分でどうしたらいいか分からない人が多いんじゃないかなぁ…自分の居所 だの、ここにいていいの?なんてことを人に聞かきゃならない馬鹿者、いや若者が目に付くってことは…(韓国より少しばかり壊れ方が進んでいるのよ、うちの 国は。)」等々。

この日も疲れてよく眠る。メイドさん、ビールの補充は忘れずに。