2009年7月3日(金曜日)

よく出来た冗談−「La Paranoia de Satoshi Kon」



YAHOOニュースのヘッドラインに、「YouTube、動画アップロードサイズが最大2GBに 〜 HD動画の埋め込みも可能に」とあった。
http://dailynews.yahoo.co.jp/f……r/youtube/
映像制作で糊口をしのいでいる者にとっては嬉しくないニュースであろう。ハードディスクレコーダーの普及やYouTube等動画サイトの充実は、DVDの売り上げ減少に確実に貢献しているそうだ。
動画サイト自体はたいへん便利なものだが、商売がまだ終わっていない映像商品製作者や制作者にとっては頭痛の種である。

私は目的が特にない限り動画サイトを閲覧することはないが、先のヘッドラインを読んで思い出したようにYouTubeをぼんやりと徘徊していたら、今 敏に関する奇妙な動画を見つけた。
「La Paranoia de Satoshi Kon – Parte 2 – Entrevista」と題されている。
スペイン語だろう。翻訳サイトで英語にしてみたら「The Paranoia of Satoshi Kon – Part 2 – Interview」ということになった。
この動画にリンクされた小さなサムネールを見ると「今 敏」が映っているのだが、どうも記憶にない。
「海外でこんなインタビューあったっけ……?」
海外の映画祭などでは少なくない数の取材を受けているので、忘れていることも多い。
「はて、どこでの取材だったか?」
リンクをクリックし、現れた動画本篇を見てみると、ちょっと遅れて爆笑に至った。
「今 敏のインタビュー」ということなのだから、今 敏本人が出てくると思っていたら大間違いだ。是非御覧いただきたい。
http://www.youtube.com/watch?v……mc&feature
言葉が分からないので確たることは言えないが、しかしここでインタビューに答えている人物はどうやら「今 敏になったつもりの人」であるらしい。わざわざ元の発言(時折日本語が混じるようだ)にスペイン語でボイスオーバーを被せているあたりが凝っている。
何より、外見を似せようとしているのが可笑しい。
確かに今 敏の外見は記号的なので、エッセンスを抽出するまでもなく似せやすいのだろうが、似せるための意図をこうまではっきりと見せられると笑い出してしまう。「Part2」ラストに出てくる「今 敏になったつもりの人」の正面顔を見るとかなりの垂れ目で、実物と顔の造作自体は全然違うのにその似せ姿は記号として成立している。
メガネ、ひげ、後ろでしばった長髪(多分付け毛)、黒いタートル。
時折手でメガネを持ち上げる動作がぎこちないので、普段はメガネをかけない人なのだろう。
「今 敏になったつもりの人」はどうやら自分の監督作についてあれこれと答えているらしいが、何を言っているのか分からないのは残念だ。発言内容もシミュレーションによるものなのか、実物がどこかで喋ったことの再現なのだろうか。
他人の名を騙る「インチキ講師」は詐欺に値するが、こうしたニセモノは罪がない。

この映像は「Part2」ということなので、「Part1」も見てみた。
「La Paranoia de Satoshi Kon – Parte 1 – Vida y Obra」
これも翻訳サイトのお世話になると「The Paranoia of Satoshi Kon – Part 1 – Life and Builds」ということになり、今 敏がいかに形成されたのかみたいな内容なのだろう。
http://www.youtube.com/watch?v……UcU7GMSllc
大友さんの漫画『童夢』、『老人Z』や『ワールドアパートメントホラー』、『ジョジョ』や『MEMORIES/彼女の想いで』の画像や映像が挿入されており、今 敏の実物が仕事中の映像(『パプリカ』のメイキングか)も混じっている。
もっとも笑えるシーンは、おそらく「今 敏の素人時代」を想定して撮られたと覚しき映像で、寝床の上であぐらをかいて『童夢』(スペイン語版だけど)を読みふけり、最後に何か決意でもしたような大芝居まで見せてくれるくだり。
きっと「オレもやるぞ!」とか「こんな漫画を描くぞ!」といったイメージなのだろう。顔のあたりを影にしてはっきり見せないあたりが、いかにもドキュメンタリーにありがちな「再現風」の感じが出ている。半ズボンから覗く生足が妙に本人に似ている気がするのもまたおかしい。
影響を受けた作品や参加作品紹介の後は、今 敏が監督した映画『パーフェクトブルー』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』が順に紹介されていく。
律儀なほどに丁寧な作りがいっそう笑いを誘ってくれる。
Part1ラスト、核P-modelの「Big Brother」イントロに乗せて「今 敏になったつもりの人」が見せる奇妙な踊りが秀逸(笑)

Part2はインタビュー中心だが、随所に映画からの引用が挟まれ、時に「今 敏になったつもりの人」がお面を被ったり奇妙なメイクを施されたり、インタビューアーも一瞬「今 敏になったつもりの人」になるというサービスなどが盛り込まれ、映像的に飽きない構成になっている。どこかの団地の敷地内と覚しき場所で「今 敏になったつもりの人」奇声を発するシーンがいい。実物がおどけるとやりそうなアクションが笑える。
さらには、脈絡は分からねど『用心棒』の映像が引用されていたり、『ターザン』や『ローマの休日』の映像が『パプリカ』内での当該シーンと並べて紹介されていたりといった配慮もなされており、冗談にしては敬服に値する内容になっている。
もっとも、既存の映像商品を自由に引用出来るからこうした冗談も成り立つわけだが。
でも、さすがにこういうものに目くじらを立てる関係者はいなかろう。
私は大変楽しませてもらった。
正直にこう思った。
「よくやるなぁ(笑)」
Gracias! David Martinez Marco.

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