1999年6月14日(月曜日)

前世の因果



 今年に入ってからは実に更新が滞っている。更新の履歴を見ると、1月こそ週に1度の更新をしていたものの、2月には2回、3月4月になると1回ずつとなり、さらに5月には一度も更新を果たせぬままになっておるではないか。何と無様な。何と怠惰な。ホームページは鮮度が命と言ったのはどの口だ!?……この口だ。

 忙しいのだ、娑婆の仕事が。当BBSでは何度か触れている新しいアニメーション作品、「千年女優」に取り組んでいるのだが、まったくもってこいつは私から時間ばかりを取り上げるのだ。時間の貯蓄はすってんてんだ。懐かしい言葉だな、すってんてんとは。今年になって初めて使った。
 「千年女優」の状況としては現在コンテ作業なのだが、胸がすくほどの遅れを出しながら亀の歩みのように進んでいる。予想外に難しいところがある。あるからと言って私が言い訳して良いと言うことではない。私が悪い。
 資料の本とタバコの煙に包まれながらコンテを進める監督の私の横では、美術監督がこつこつと設定をあげてくれているが、両輪の片側であるはずの作画監督は抱えている潜水艦アニメの作監作業が終わらず、いまだにキャラはラフ設定のままである。大丈夫か!? 早くも“作打ち”の噂も流れて……いや噂じゃなくてその予定が本当に組まれているというのに。しかもコンテの内容はどうにも前のパーフェクト何とかより難しそうだぞ……ってお前が言うな? うん。もう少し楽にしますです。
 原画マンにもそろそろ声をかけなければならない時期だ。ぼつぼつと色好い返事も聞いているが、どこに魔物が潜んでいるかは分からない。パーフェクト何とかの反省を生かすのはこれからだ!!力んでどうする。先はまだ長い。
 かねてから言いふらしていた「千年女優」HPだが、かけ声ばかりでなかなか立ち上げるまでには至っていない。「予算を取ってくる」と安請け合いしてくれたプロデューサーは一向に音沙汰無し。しかも現在の作業場所が仮住まいなのだ。スタジオの引越は当初聞いていた予定から既に3ヶ月ずれ込んでいるため、何かと不自由している始末。電話もない都会の孤島だ。引越の手間を考え、購入を予定している私のニューマシンも導入の目処が立っていない。今月の末にはいよいよ引越が始まるという真実味のある噂は聞いたので、来月には本格的に場所を構えてマシンを導入し、電子の世界にも作品の橋頭堡を確保する予定のつもりでいると思っているかもしれなくもない。はっきりしたことは何も言えないが、きっと実現……したい。

 さて、久しぶりの更新だというのに、何のことはない自作の宣伝ということになっている。BBSでも話題に出た「海帰線」といういにしえの古文書が平成大不況の日本に今甦るのだ!!あ、初版も平成だったか。
 ともかくも当ホームページで過去の作品を紹介しておいたお陰で、降ってわいた印税……いや幸運なのだ。美術出版社さんのご厚意である。ありがたい。
 ご存じない方もいらっしゃるかもしれないが、前世の私は漫画家であった。本人はまだ漫画家のつもりはあるのだが、かつて出版された単行本が2冊とも絶版になっている現在、世間様に対して私が漫画家であることを納得させるのは難しい。時折雑誌等で私が紹介されることがあるが、ほとんどが「アニメ監督」とされており、漫画のまの字もありゃしない。私自身段々胸を張って漫画家とは言えなくなっており、漫画家と言い張ったところで「自称漫画家」とか「漫画家(笑)」という自嘲的な気持ちになる。年々職業を聞かれる度に口ごもるようになってしまい、私の外見と合わせてただの怪しげな人になってしまっている。何かこう「コーディネーター」とか「プランナー」といった内実のよく分からない仕事をしている、胡散臭い人間に見られている気がする。ちなみに税務署に提出する書類の職業区分は「美術家」というさらによく分からない業種に分類されている。誰だ私は一体。
 再版というのは初めての経験だが、これといって本文には手を入れなかった。気の向いたところだけ気持ちだけペンを入れたりしたが、先にも書いたように本格的に手を入れる時間はアニメに取られているので、表紙を描き下ろすのが精一杯であった。
 当HPの読者に一足先にご覧に入れよう。

newjacket

 何か「海帰線」というよりパーフェクト何とかみたいなイメージにもなってますが、他にネタも思い浮かばなかったのでテクスチャ三昧になっております。相変わらずPainterとPhotoshopで作っております。当HPのお客様にはお馴染みの手法かもしれませんが、娑婆の仕事で使うのは初めてなので多少は新鮮な気分で描きました。自宅でプリントアウトした感じでは、そう悪くもなかったし、どちらかと言えば割りと気に入っている方です。
 まぁこんな絵のついた漫画本が店頭に並んだら手にとって見て下さいな。表紙と中身の絵にギャップがあるのは、詐欺のようにも思えますが、賢明な読者諸氏においてはそのギャップに年月の隔たりを感じていただきたいものです。
 それとあとがきは書き下ろし。当たり前か。とは言ってもこのあとがきは6ページに渡る大作で、体裁としては「当HPの特別増刊」ということになっている。ほとんどテキストだけど。当時のことを振り返って過酷だった連載の裏側を想像していただけると良いかと思います。
 近頃文章を書いていなかったので、言葉が出なくて困ったな。ひらめきのお通じが悪くなっているのかしら。たまにはHPで駄文でも連ねておいた方が良さそうだ。暇があればの話。
 ということで新装「海帰線」はオリジナル版より一回り大きくなって、6/25に発売予定です。懐に余裕のある方は金を恵んでやるくらいのつもりで本を手にしてレジに行って下さい。¥1,200(消費税別)だそうです。ちょっと高いかな。

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