1999年8月10日(火曜日)

南方より福来たる



 現在(8/9、午後4時)、私は仕事場にいてこの駄文を書き連ねている。

 私の机の上は、描きかけの絵コンテと資料、ストップウォッチ、ポータブルMD、琉球王朝と書かれた焼酎のビンとフランスの赤ワイン、BOSEのスピーカーシステムがそれぞれに存在を主張し、間を埋めるように鉛筆や消しゴムのかすが散乱している。そして今それら仕事の断片に混じって、見慣れぬ宅急便の小包が異彩を放って鎮座している。
 縦19センチ、横23センチ、厚さ6センチのそのボール箱の表面には「ガラス・ビン・セトモノ」の文字と壊れ物を示すイラストが入ったシールが貼られている。クロネコが子猫をくわえたイラストの付いた伝票のお届け先は、仕事場であるマッドハウス付けの私となっており、依頼主の欄にはネットを通じて知り合った友人の名が記されている。
 仮にH君としよう。
 H君は当HPをご愛顧いただいている方で、メールでも何度かやりとりをしたこともあり、またかつて催したバカ企画「希望の訛り」にも奮って参加いただき、結果秘密のMOをゲットしていただいたという経緯もある。
 さて肝心の伝票に書かれた品名の欄。そこには何と!

 「こけももジャム」

 おおっ!!あこがれのこけももジャム!
 10月12日生まれの私に幸運を運ぶ幻のラッキーアイテムと謳われたこけもものジャム!
 何とその甘美にして麗しい響き、こけもものジャム!!
 一気にはしゃいでしまったが、当HPヘビーユーザーならともかく故の分からぬ方もおられるかもしれない。そんな貴兄にはお手数ですが「NOTEBOOK/6“運命秘宝館”」をご覧いただきたい。もっとも私という人間に興味のある方も少なかろうと思いますので、読まない方が時間の節約になるでしょう。
 簡単に記せば、私の誕生花が「こけもも」(花言葉は「反抗心」)であり、「この日生まれの人は、こけもものジャムを食べると幸せがやってきます」というご託宣なのである。この「NOTEBOOK/6“運命秘宝館”」のバカな文章を記憶してくれていたH君がこの度出張先の九州は熊本でこの運命のラッキーアイテム「こけももジャム」を発見し、ポケットマネーを使って購入し私の元へと送ってくれたのです。何とありがたい。何と嬉しい。あまりの感激にキーボードを涙に濡らしてしまいそうです。
 H君、本当にありがとう。
 ただ気になるのは「こけもも」という植物は「北半球の寒い地方に広く分布している。 寒帯のハイマツの下や湿地に生える常緑の低い木。大きいものでも、15センチくらいしかない。果実は、赤く熱し、ジャムや果実酒に、葉は「こけもも葉」と呼ばれ、生薬とされています。日本では、別名「フレップ」。これは、アイヌ語が語源です。」というくらいで、北方の産であるというのに、なぜ南国熊本で売られていたのでしょうか。東京で私も何度か探したにもかかわらず見つからなかったというのに。

 さて、そんな些細な疑問は放り出して包みを開ける様を実況して行きましょう。
 まずは包みの3辺を止めてあったガムテープを丹念にはがしました。さぁ箱を開ける感動の一瞬!
 箱の中にはこけもものジャムが割れないように詰めてくれたであろう新聞紙にくるまれて、小振りなビニール包みが二つ、ゆりかごに眠る双子の赤子のように収まっております。そして一通のメモ書きが乗せられていました。
 「味の方は私もまだ試していないのでわかりませんが、どうぞご賞味下さい」
 何だかまた感激が喉元までせり上がってきてしまいました。ちょっと鼻でもかみましょう。失敬。
 緩衝剤として使われていた新聞を広げてみました。
 「朝日新聞 1999年7月29日 木曜日 11版 熊本」
 やはり熊本から届けられたんですね。ちょっと感動的な気がします。
 くしゃくしゃになった新聞を広げるとラジオやテレビの欄には見慣れぬ局名が並んでおります。RKB、TNC、NBC、KTN、NIB、FBS、TVQ、OAB、TOS、OBS、KKB、MBC、STS、NCC……。九州全域の放送局がカバーされているのでしょうか。沢山並んでいます。地元熊本のRKKというラジオ局に注目してみましょう。
 朝の7時からは「ハイ圭!朝です」などという安直なタイトルの番組が心地よい目覚めを運んでくれているようですね。続いて9時からは「太田黒浩一のきょうも元気!」午前中の番組はタイトル末に「!」が入っているあたりがいかにも爽やかで元気な振りをしていますね。
 午後になると「よかよかアミーゴ!!」が目を惹きますねぇ。「よかよか」という地元表現を大事にする姿勢と、急に「アミーゴ」というラテンの血が入ってくるあたりが肥後もっこすのますらおぶりを感じさせますね。させないよ。
 それにしても他の地元局に比べても明らかに「!」が多いですね。やはり熊本は元気の良い土地なのでしょうか。

 新聞の裏を返すと、嬉しいではありませんか。地元の記事が載っています。

 「くまもと未来国体 3万6000人滞在/宿不足困った/熊本市では最大3500人 民宿頼みの地域も」
 
受け入れ体制も整えられないというのに、国体を開こうというのも無謀な気もしますね。

 「収穫の夏? ビッグキノコ登場・早くも稲刈り
 ええ!?もう稲刈りなの。天草地方では既に早期米の収穫が始まっているんですねぇ。

 「九学ウェーブ 本格的練習を開始/高山主将“健康に注意したい”」
 健康に注意したいって、随分とまた基本に忠実な人ですね、高山主将は。こういう発言を高校球児らしいということになるのでしょうか。

 「県立美術館本館で手塚治虫展が開幕」
 へぇ、手塚治虫展そのものより開催場所である「熊本市二の丸の県立美術館」という記述に目が行ってしまいます。二の丸というのは当然熊本城でしょうね。別名“銀杏城”。熊本城は加藤清正公による築城でしたか。日本三名城にも数えられる男らしいといわれる城ですよね。

 「かんたん譜/母よ “長電話してたら注意するくせに、自分は平気で長電話。”(第二高二年 橋本慎吾)」
 慎吾君てば、それは違うぞ。親のすねをかじっている君が親と同格であるなどと思ってはいけない……おっと。新聞に夢中になってしまいました。

 いよいよ本題の包みを開きたいと思います。包みの袋には、

 「大自然テーマパーク 阿蘇ファームランド」
 “阿蘇ファームランドはくまもと未来国体を応援しています。”

 と書かれています。ファームランドも応援する未来国体がまさか「宿不足」だなんて……頑張れ、熊本。
 袋の中には小さな包みが入っております。包みの紙袋には、かわいげなイラストが描かれております。漫画風に描かれた多くの牛さんたちがにぎやかにテーブルを囲んで食事をしたり、またテーブルの間をやはり牛さんたちがごちそうを運んでいるのですが、もしかして食しているのは牛肉ではありますまいか……ちょっと怖いな。

farmland
う〜ん、共食いしているようにも見えるのだが……。

 いよいよ取り出しました!感動の一瞬!!
 縦5.5センチ、直径4.5センチの小さなガラスビンには、ピンク色の紙がかぶせられ「手作りジャム」の文字。そしてビン側面に貼られたラベルには「こけもも」の文字と小さなイラスト。可愛らしい赤い小さな実を付けた、こけももの絵です。
 裏のラベルには品名等が記されています。

 品名/こけももジャム
 原材料/こけもも、砂糖、水飴、酸味料(ビタミンC、クエン酸)、増粘剤(ペクチン)
 内容量/50g 保存方法/開栓後要冷蔵
 賞味期限/12.12.10
 発売元/有限会社だるまや
 大分県大分郡湯布院町大字川上2906-1

 もう一つの包みの中身も同じもののようです。私のラッキーアイテムを覚えていてくれた上に二つも送ってくれるとは、本当に感謝感激。
 重ね重ねありがとう、H君。

 それではいよいよ食してみることにしましょう。
 小さな白い蓋を開けて鼻を近づけてみますと、微かに酸味を含んだ香りがします。普通のジャムに比べると香りは弱い方でしょうか。甘ったるい匂いは苦手な私としては好みです。色はごく普通のイチゴジャムを想像していただければよいでしょうか。それよりも若干くすんでいて、渋い色合いでしょうか。
 ここは仕事場でスプーンというものが身近にないので、右手の小指をきれいに拭いてすくって食べてみます。では失礼して。
 美味い。美味しいです。
 程良い酸味とくどくない甘みです。食べ飽きしない味でしょうか。たっぷりと含まれた果肉と種が手作りの風合いを感じさせますね。トーストというよりは白いパンやロールパンに付けてそのまま食す方が適しているような気がします。
 どれもう一口。
 口いっぱいにこけももの味と幸運が広がるようです。

 あ、なんとこれを一口食した瞬間に、制作の豊田君が帰ってきました。しかもその左手には今まで無くて不便を感じていた大きめの掛け時計が携えられています。すごいですね。たった一口でニューアイテムが!
 この小さなビンの中のこけももを食べ終わるまでに、どれほどの幸運が私の元に訪れるのでしょうか。今からわくわくと心躍ります。
 大切に食べさせていただこうと思います。

 最後にもう一度。ありがとう、H君。

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