2007年5月5日(土曜日)

近況



長らく書き込みもしていませんでしたが、取り立てて仕事が忙しいわけでもありませんでした。じゃあ、何をしてたかというと……身辺があわただしい割には仕事らしい仕事はしていません。
そんな近況です。
さて、以前こちらでも少しばかりお伝えしたかもしれませんが、去年の暮れから演出として関わっていた短編。これが3月中旬に制作中止と相成りました。
事情はお知らせしませんが、私の都合ではありません。
お誘いしたスタッフの方々には多大な迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私自身はせいぜい100カットほど描いていたコンテが無駄になったくらいです。
無職になったのだから、せっせと新作長編の方に励めば良い、という考えもあるのですが、こちらはまだシナリオにかかったくらいで、本格的に動かすにはまだまだ時期尚早。
それにいまだに『パプリカ』がらみの仕事やら細かい仕事もあって、それらをポチポチ潰しておりました。

4月の10日から9泊11日で『パプリカ』プロモーションのためにアメリカに行っておりました。5月に『パプリカ』がアメリカで公開にされるのだそうです。
ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスの三カ所を各3泊で回って、またもや同じ質問に同じ言葉を繰り返してきました。さすがにもうウンザリです(笑)
最終的にはこんな気分になりました。
「おめぇら、英語喋るんじゃねぇ」
そりゃ無茶な話ですが、そういう気分になるほど疲れました。
私に英語の能力でもあればいいのでしょうが、あいにく通訳なしではコミュニケーションが成り立たない人間ですので、疲れた頭で分からない言葉を大量に浴びていると、日本語そのものというか日本語によって成り立っている思考が乱れてきて、さらに続くと頭が壊れてくるみたいです。
担当してくれる通訳の方の能力や相性などにも大きく影響されるんですけどね。アニメーションや映画に詳しくないとか、こちらの仕事の履歴を知らない方だと、こちらがかなり言葉を選ばねばならず負担が飛躍的に大きくなるわけです。冗談も言えないですしね。
それにNY、DC、LA三カ所それぞれで別な通訳の方が担当されるので、取材の回数分の蓄積が都市を移動する度にパーになる。これも結構しんどいものです。何というか、賽の河原の石積みとでもいうか(笑)

LAは日本人が多く住んでいるせいか、日本人による日本語の取材が3つくらいあって、息がつけました。日本語で答えると急に早口になったりして。いつも通りに喋ってよいと随分楽になるものです。
アメリカでの取材は、NYが少々小難しいことを聞く傾向にありましたが、総じて質問内容は荷が軽い物でした。NYでは、これからの日本やアメリカのアニメーションや映画の方向性だとか、分析的なことを聞かれることが多かった印象です。そんなのは将来の話なので当たっていようが外れていようが、どうということはないので気が楽でした。ただ、DCで新聞社(ワシントンポストだったかな)の方が発した質問にはちょっとギクッとしました。
「では最後に簡単な質問ですが、『パプリカ』の中では“テロリスト”という言葉が多用されていました。ご存知のようにアメリカでは“テロリスト”という言葉はたいへん重く受け止められます。この言葉の多用には意図がおありでしたか?」
全然、簡単な質問じゃないじゃないか(笑)
いやぁ、そういうことを聞いてくる人がいるんじゃないかと思っては異端ですけどね。いや、思ってはいたんですけどね。
まさかワシントンで真正直に答えるわけにも行かないので(笑)、低下している言語能力を貼り合わせるのに苦労しました。
「この“テロリスト”というのは、私はサイバーテロのようなものを重ねてイメージしていました。日本でもネットにおける情報流出や、ウェブサイトへの攻撃や内容の書き換えといった問題が日常的に報じられています。いまはコンピュータというと人間にとって外在化した脳のようなもので、それが勝手に書き換えられるというのは非常に怖いことです。あるいは人間の脳そのものも日々垂れ流されるメディアによって都合良く洗脳されていると言ってもいい。あれを買え、これも欲しかろう、ほらもっと欲しがれもっと欲望しろもっとバカになれ、とね。これも一つの……なんたらかんたら」
咄嗟に思いついた割には必ずしも間違ってはいませんでしたが(笑)、断片化した脳から言葉を拾い集めるのはたいへんでした。

そんな私の脳の乱調をいくらか修復するのに役立ったのが日本語のニュースとiPod。
今年2月に買ったWindowsのVGN-SZ93NSというノートブックパソコンを持って行ったので、ホテルでネットに繋ぎ、日本語の動画ニュースを見ていました。同じニュースばかりだっていいんです、日本語なら(笑)
そして、渡米の前日、予定されていた打ち合わせが急にキャンセルになり、その空き時間に衝動買いした80GBのiPod。使うようになってから考えたら30GBで十分だったと思いました。どうすんだよ、80GBも。
このiPodに愛聴する音楽(ほとんど平沢さんの音楽だけど)と、映画評論家、町山智浩さん( http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/ )の「アメリカ映画特電」「コラムの花道」を仕込んでいって、飛行機の中、寝る前、取材の合間に聞き続けて、英語に被爆して痛んだ脳の修復に努めました。本当にありがとうございます。あれがなければもっと危機的な状況でした、冗談じゃなく。
ポッドキャストも著作もたいへん面白いです、町山智浩さん。

ということ近況はまだ続きます。

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