恋は曙、と思っていたら恋はブチブチと千切れ、大人の欲にまみれたピーターパンよサヨウナラ、こんにちはYASUKO。
モアイが結婚? イースター島にも医者はいたのだな。その顔同様幸せも長く続くことだろうよ。
夢の途中でやっぱりさよならは別れの言葉と気が付いたであろうか、それとも「カ・イ・カ・ン」と感じたであろうか。原因は男が安全地帯に逃げ込んだのか、はたまたよその女に玉を置いたせいか。
ああ、下らない。
そんなことはさておきもっと下らない前回の無駄話の続きである。断っておくが誰かに読んで貰おうという気もなく書いているので、お付き合いしてくれている方がいたらつまらなくてすいません。
3月に入ると取材もなくなり、落ち着いた生活が戻ってきたのも束の間、大阪イベントそして大阪公開初日挨拶、となぜか大阪に縁のある月であった。
ハードディスクを整理してた時に大阪イベントについて当「NOTEBOOK」にアップしようと書きかけていたテキストを見つけたので、旬は過ぎているが遅ればせながら補完してここに載せることにしよう。
♪いーりゃんさんすう、いーりゃんさんすう、いーりゃんさんすう、いーりゃんさんすう、今度はどこだぁ、西か東か南か北か、どこへ行っても鼻つまみ♪という歌声も高らかに3/11、大阪はABCホールでの「パーフェクトブルー・イベント」に行って参りました。原作者・竹内氏、北野誠氏という「サイキック」コンビと、「パーフェクトブルー」の企画を立てた岡本晃一さん、主演声優のお二人岩男潤子さん、松本梨香さん、そして私という面々で関西初の一般上映舞台挨拶に立ちました。イベントチケット発売早々の売り切れという話は聞いてはおりましたが、本当に沢山の客さんに集まっていただいて、関係者一同大喜びでありました。
何と言っても大阪はパーフェクトブルー発祥の地。大阪で生まれた企画やさかい、東京へはよう行かん、と駄々をこねることもなく、阪神大震災を乗り越えて東京に渡り、こつこつと制作されてカナダ、韓国、スペイン、ドイツ等の映画祭を巡り、東京で公開され、そしてやっと大阪に戻ったわけであります。企画を立てた岡本・竹内両氏の感慨もひとしおであったかと思われる。
さて、実をいえば私は舞台挨拶に加えて、裏にもう一つ大事な目的があった。スタッフ慰安旅行というお楽しみ。イベントにかこつける形でスポンサーのREXさんにお願いして実現してもらった企画だ。多大なるご厚意に感謝。
参加者は私の他に8名。一番の目的はパーフェクトブルー制作時、非常識極まりなく安い単価で原画をお願いした人を招待することだった。もっともそういった上手な人たちは現在も他の作品で非常に忙しいこともあり、残念なことに参加がかなわない方も多数いた。結局参加願えたメンバーは次の通りで、「パーフェクトブルー戦記」でも登場願った方も多い。
“師匠”本田 雄、“ピエール”松原秀典、“温泉番長”中山勝一、“ゲーマー”二村秀樹、“ハチ公”垪和 等、“大トラ”鈴木美千代、“パーフェクトブルーの理性”松尾 衡、そして妻と私。苦労をかけたスタッフというよりただの飲み仲間という話しもあるが、ごく内輪のレクリエーションという趣。
この中では本田君、松原君と垪和君が制作当時特に割りの悪い思いをした面々。劣悪極まる待遇にもかかわらず、いい仕事をありがとう。他はスタジオ内に月拘束という形で関わってくれた人たちだが、苦労したことに変わりはない。ありがとう。
参加者のパーフェクトブルー内での仕事を紹介してみよう。
“師匠”本田 雄 | 作品の中盤の見せ場、未麻がラジオ局内でもう一人の未麻を見つけて追いかけて行き、トラックに轢かれそうになるまでのシーンの原画を担当してくれました。短いカットを積み重ねてリズムで見せたいと思っていたシーンで、師匠のおかげで思った以上にかっこいいシークェンスになりました。かなり気に入っているところ。作品の予告やダイジェスト版でも随分使われたシーンです。 制作も後半の修羅場で、このシーンから数カット欠番にしたのは残念でなりません。 劇場版「エヴァンゲリオン」のメカ作監とスケジュールがかぶる中仕事をしてくれて本当にありがとう。 |
“ピエール”松原秀典 | キャラクターデザイナーとして“超”が付くほど売れっ子の“ピエール”。自分の仕事を「所詮ギャルアニメッすから」と謙遜していたが、いやいや、色気の漂う動かし方で、原画の腕も素晴らしかったです。 作品終盤のクライマックスで30カット弱、未麻がルミの部屋のベランダから隣に逃げようとしているカットから、屋根づたいに走りアーケードの上からゴミ袋に落ちてアウトするまで。鬼のような枚数の原画を描いてくれてやはり思った以上の素晴らしいシーンにしてくれました。まったく頭が下がります。未麻が向かいの建物に落ちて転がり落ちるカットが特に気に入ってます。痛そうで。 |
“温泉番長”中山勝一 | 普段のつきあいでは仕事場より酒の席が多く、よく一緒に遊んで貰っておりパーフェクトブルー戦記でも登場率の高い勝一氏。「ジョジョの奇妙な冒険/5話」の時にも原画をお願いしたのですが、パーフェクトブルーの中でも非常にいい仕事をしてくれました。 担当シーンは二つに分かれていて、作品中盤の脚本家渋谷が殺された後、車の中でテレビを見ている未麻、ルームミラーに映ったカットから隣の車の中にバーチャルの未麻を見かけるあたりを経て、デパート屋上の楽屋で未麻の噂話をしているレイと雪子のシーンまで、がひとつ。雪子が「毛ボーンよ、毛ボーン!」とやるのは勝一さんと飲んでいて出てきたアイディアでした。勝一さんの提案で、積極的な意味での欠番を出したりもできました。 それと勝一さんには作品の、ドラマ的に一番大事なシーンをお願いしています。前述の“ピエール”松原君のちょうど前に当たるところです。撮影所で内田に襲われた未麻をルミが見つけるところから、ルミの車のシーンを経て未麻の部屋へ。そこで自分の部屋ではないことに気づき、「バーチャル未麻-ルミ」が登場、ベランダに逃げた未麻を追ってバーチャルが立ち上がってくるカットまでを担当してくれました。数的にもかなりの量です。このシーンを外したら目も当てられないと言うくらい大事なところを、きっちりといいシーンにしてくれました。「恋はドキドキするけど〜」と歌うルミの原画を見たときは思わずニヤニヤと笑いが出るほど喜んでしまいました。制作も最後の最後の修羅場で原画の直しやこぼれ分なども救って貰い、本当に助かりました。 |
“ゲーマー”二村秀樹 | 二ちゃんは最初随分と担当原画を持っていたのですが、仕事が遅くてその大半が他の人に引き上げになってしまい、フィルム上ではあまり数は残っていません。劇中劇「ダブルバインド」内にでてくるファッションショーのシーンはキャラも二ちゃんのオリジナルでお願いしてます。他にも何カットか原画も描いていますが、仕事の印象としては原画よりもレイアウトの直しで随分助けて貰いました。 ちなみに女子にナンパされることもあるくらいの美男子です。 |
“ハチ公”垪和 等 | 変わった字面の名字ですが「はが」と言います。“大トラ”の亭主でもあります。村野を殺す悪夢から目覚める未麻のアップから、クロゼットで血の付いた服を見つけ愕然としているところにレポーターが詰めかけてくるところまでを担当してくれました。作品に参加するに当たってわざわざ酒を携えて我が家に来てくれましたが、そんなにたいそうな作品ではなかったのですよ、ヒー君てば。 コンテを描いているときから難しいシーンだなぁと思ってたのですが、丁寧な仕事ぶりでこなしてくれました。タイミングを遅めにとったカットは演出チェックで手を入れちゃいました。ゴメンね。 |
“大トラ”鈴木美千代 | “ハチ公”君の奥様でもあります。よって本名は「垪和美千代」になるのですが、業界的にはやっぱり「鈴木さん」。彼女とは「老人Z」からのつきあいで、「ジョジョ」の時も原画をお願いしたりしてますし、酒の席をご一緒させてもらった数も多い方です。コードネームの由来、「大トラ」に化けたところもお目にかかったことがありますが、私もあまり人のことは言えない方さ。パーフェクトブルーでは未麻の写真集撮影シーンから、二人バージョンのチャムのデパート屋上でのミニコンサートとのカットバック、そして未麻がお風呂で「バカヤロォ」と叫ぶカットまで。歌い踊るという面倒くさいところをキャラも合わせて描いて貰い、作監も随分と助かったみたいです。私的には赤いトイレの中のシーンが気に入っています。担当原画が終わった後も作監の手伝いに回ってくれました。最後に出したカットはフロントクレジットが流れるシーンの、未麻が自転車を押し自動車をやり過ごすというカット112だったと思いますが、その自動車が作監の濱洲さん、未麻を鈴木さんで共作したはず。最後まで頑張ってくれて本当にありがとう。 |
“パーフェクトブルーの理性”松尾 衡 | 松尾氏については演出という立場なのでどこを担当、というより全体に見て貰ってます。アニメ技法に拙い監督に替わって色々と説明できないくらい多岐に渡っていい仕事をしてくれました。一部では“真っ赤な”松尾氏という呼び名もありますが、口を開けばデマカセばかりを喋るスタッフが多い中、いかなる事態にも冷静に対処してくれたのでありました故、ここはやはり“パーフェクトブルーの理性”ということにしておきましょう。 私にとって何が面白いのか分からなかった「F1」というモノを、今ではすっかり楽しく見られるようになったのは“ラーメン男”栗尾共々、松尾氏のおかげでありますよ。 |
“妻”京子 | スタッフクレジットに名前はありませんが、タイトルロゴや本編内にでてきた「地下鉄吊り広告」「ピザの箱」は、デザインを本職にしている彼女にお願いしました。もっとも、そういったことよりも制作中日毎に不具合が多くなっていった監督を支えてくれたことに多大なる感謝。ありがとう。 |
前置きが長くなったが本題の大阪行状記に戻ろう。
アニメ関係者には少々つらいと思われる午前11時過ぎの東京駅、時間にはルーズという業界人の常識をうち破り定刻には全員無事集合。天気は快晴だ。
新幹線のホームに移動し、ビールなどを抱え乗り込む一同。岩男潤子さん、そしてまもなく彼女のマネージャさんも到着。パーフェクトブルー宣伝の仕掛け人金子氏、そしてMr.REXを含めた総勢13名で出発。新幹線が動く前からビールを飲み出す者、ビールを飛ばして持参の日本酒を開ける勝一さん。車内は賑やかである。
新横浜で松本梨香さんとそのマネージャーが乗り込んできて、一段と華やかさも増す。反対に大阪に近づくに従い外の雲行きが妖しくなってくる。
「私が大阪に行くときは絶対雨なんですよぉ」とは私の真後ろに座る岩男潤子さん。
「東京で晴れてても大阪に行くと雨だったりするんです」その通りであった。雨女、だな。
「違うんです、雨女じゃないんです! 他はなんでもなくて大阪だけなんです」それで充分、さ。
新大阪の駅で自由行動組とお仕事組に分かれる。岩男さん、松本さんたちとタクシーでABCホール近くのホテルのラウンジへ。原作・竹内氏や企画の岡本氏と合流。
私はここで産経新聞の取材を受け、他の二人もそれぞれ取材をこなす。開演が近づき会場へ。楽屋には竹内さん宛に堀ちえみさんからの花束が届いていたっけ。イベントの司会、北野誠氏も到着し簡単なリハーサルをして準備万端。
本番では松本姉さんが舞台に下がった幕の後ろから強引に登場するという冗談が滑ったくらいで、誠さんの、さすがプロといった感じの流れるような仕切りで何事もなくあっという間に終了した。
一方イベントの間、パーフェクトブルー現場チームは、小糠雨降る御堂筋〜♪を歩いて欧陽菲菲を探しまわった、というはずもなくあちこちと大阪市内見物をしたらしい。
通天閣に上ったり、たこ焼き、麺類を食したり、おもちゃを買う者、大阪に来てまで「バーチャファイター」でストリートファイトを挑む者。さすが“ゲーマー”二ちゃん。岩男さんが降らせた雨にもかかわらず、みんなそれなりに楽しんでくれたようでよかったよかった。
イベント終了後ABCホール前で合流し、「PERFECT BLUE様」の張り紙も恥ずかしいチャーターバスで雨の中を京都へ。松本梨香さんとマネージャー・工藤さん、“仕掛け人”金子さん、そしてMr.REXも一緒。岩男潤子さんは残念ながら、ここで別れ名残惜しげに東京へ戻って行った。
ポケモンマスター松本梨香さんが一緒ということもあり、バスの中は賑やかなことこの上ない。陽気で気さくな楽しい人である。病み上がりで体調も万全ではないらしいのに参加してもらい、嬉しい限り。「ビバヒル」ケリーちゃんファンの妻も大喜びだ。
出発してまもなくとんでもない大失敗に気づく。車内で飲む酒を買い忘れたのだ。しかしそんな非常事態にも関わらず慌てることなくさすが“温泉番長”中山勝一氏。すかさずバッグから日本酒を取り出す。
「お酒ならまだ残ってるよ、飲む? 冷えてないけど」
そうはいってもいきなり日本酒というのも打ち上げの道に反する気もする。
「運転手さん、酒屋の前に着けとくれ」
わざわざバスを止めてもらいビールを買いに走るMr.REX。勝一氏がすかさずその背中に注文を飛ばす「お酒に入れる氷もね」 松本姉さんもすかさず追い打ちをかける「私は杏酒!」あ、あるのか、そんな商品。
繰り出される難題にも見事に答え戻ってくるMr.REX、さすが宴会部長。こういう仕事になると実に生き生きしているようで、いそいそと立ち働くその姿にアマチュアハードロックバンドでギターを弾いていたありし日の姿は想像できないよ。
乾杯のビールも二本三本と空き、参加者の紹介を済ませ、松本姉さんの放つ原色のオーラに車内が盛り上がってきた頃には、ライトアップされた京都タワーが見え、まもなく旅館「秀峰閣」へ到着。4部屋に分かれ荷物を置いてすぐに宴会場へ。慰安旅行ですら忙しくも時間が無いのは「パーフェクトブルー」の古式ゆかしい伝統というものか。
エレベーターを出ると大浴場の暖簾の前に腕組みをする背広の男が二人。
何事かと思いきや、「女湯」からでてくるジャージ姿の女子数人。自然と視線が後を追う我が一同。おお、そうか、修学旅行か。背広の二人は見張りの先生か。その風呂上がりの女子中、高生であろうか、がエレベーターに乗り込む。ああ、一緒に乗って大きく深呼吸してみたい、と思ったのは私だけではなかったはず。我々の同行者の中には羨ましくも運の良いことに、女学生さんとエレベーターに乗り合わせた者もいたようで、その時交わした会話によると沖縄の学校の生徒さんだとか。わずかな情報に色めき立つ男子。
「沖縄? いいねぇ」なにがいいんだか。「酒くらいもう飲めるんじゃないの?」「泡盛で鍛えてるよ、絶対」どこが絶対なんだか。「お酌の一つもしてくんないかな?」「いいよねぇ、ジャージ。素人っぽくて」素人だって。それにしてもなんとかならんか、このおっさんの下世話な発想は。
宴会用の大広間は総勢13人の我々一行には広すぎて心なしか寂しさが漂うが、そこは子供心と心意気でカバーだ。偉そうに私が乾杯の音頭をとり、飲めや飲めや飲めやの宴会に突入。夜の9時過ぎの宴会ではさすがに歌は無し。旅館のお姉さん、もっとビールを。
とりあえず作品スタッフの慰安であるからして、酒をつぎながら皆のところを回って歩く。
「いやいやいや、どうもどうもその節はお世話になって」
正しい宴会の日本人の挨拶はかくあらねば。
作画スタッフは普段からも酒の席をともしているとはいえ、改めて感謝の気持ちが甦る。ここに参加できなかった人たちも含めて、重ね重ね本当にありがとう。
こんな席ででもなければ松本梨香さんと話す機会もないかもしれないと思い、ちょっと話し込んでみたのだが、姉さんのパーフェクトブルーに込めてくれた思いのほどを聞いて鳥肌が、立った。彼女の事情もあろうし、ここではその経緯を記さないが、正にルミ役はこの人しかなかったのだなぁ、と改めて感じ入った。さすが俺。いや、そうじゃない。
姉さんはルミ役のオーディションの前から「この役は自分しかない」と周りの人間にも言っていたそうだ。そうだその通りだ、色々な人のオーディションテープを聞いたはずだが迷いもなく「松本梨香」に決めた筈だから、ルミ役は姉さんしかいなかったのだと思う。岩男さんの未麻役というのも彼女の経歴から考えても、作品にとってまた彼女にとっても巡り会うべき仕事、のような印象を覚えたが、松本姉さんのルミというのもそれに負けぬほどの、いやもしかしたらそれ以上の「引き合わせ」だったようにも思える。騒がしい宴会の席ではあったが、姉さんと二人、偉大な無意識の呼び声にひたすら感謝したのであった。
ちなみに「姉さん」と言っても私よりは年は下。そのキャラクターがそう言わしめるのだろうな。
食べるものも食べ終わり、ひとしきり盛り上がったところで締めて、風呂へ。沖縄から来ている若いつぼみを思いながら男子欲情、いや男子浴場へ行くと他に客はおらず我が一行の貸し切り状態となる。温泉でないのが残念ではあったが、男10人の肉風呂で一日の疲れを流す、って気持ち悪いな。それにしても酔った挙げ句に風呂に入るというのは少々剛気、というよりは無謀か。倒れるものもなく無事に部屋に戻り、また酒となる。
どうということもない無駄話などしながら、ビールをあおるうちにさすがに疲れたのかMr.REXが布団に大の字になって眠り始める。酒というのは悪戯心を刺激するもので、デジタルカメラを持ったハチ公がMr.REXに忍び寄り、浴衣の裾をめくってパシャリ。
「あ、映ってる」
「エエッ」「ヤダぁ」っと女子から声があがり、松本姉さんが大きな地声で口にする。
「何が何が!?ウソ!?撮ったの?湯葉」
ゆ、湯葉ときたか。「おいなりさん」という表現は聞いたことがあるが、そうかぁ、湯葉か。表現力豊かな声優さんだ。その後も酒を続けたが姉さんのマネージャー、工藤さんは正座を崩さず横になろうともしなかったな。そりゃあそうか。うっかり居眠りでもした日には、自分の湯葉の危機だものな。
翌日姉さんとマネージャーさんは仕事のため朝の新幹線で東京に戻った。
我々一行11名は小雨降る京都市内観光に出かける。まずは歩いて三十三間堂へ。居並んだ仏像を見てはおよそ罰当たりな発言に笑い転げる一行。やれ「アレ梅宮辰夫に似てる」「ホントだ、辰ちゃん漬け持ってるよ」だの「この仏像ラテン入ってる」だのと、無邪気なもの。今日日のコギャルの不作法を笑う資格は、無い。ゴメンよ、仏様。ラテンはないよな。
麺類とビールで簡単に昼食を済ませ、Mr.REXが手配してくれていた定期観光バスに乗り金閣寺、清水寺、銀閣寺というショートコースを回る。何処も遙か高校生の修学旅行で回った名所だ。当時は何の知識もなく漫然と見ていたが、歴史小説の一つや二つも読み、名刹古刹の良さも味わえるようになったかと思いきや、やはりそんなわけもなく何を見ても冗談のネタにしかしないのは成長の欠落というものか。いいや、楽しいから。
深い緑に映え下品に輝く金閣寺、こと鹿苑寺を拝観していたときのことであった。およそ由緒あるお寺には不似合いと思われる、現代人必携アイテム携帯電話が鳴る。“ピエール”松原君のだ。仕事仲間からの電話らしく雨に濡れた小道を歩きながら話し込んでいる。
「え?今? 今は金閣寺の前」どこにいるのか聞かれたのであろう。「ホントだって、10メートル向こうに金閣寺があるんだって」
そりゃあ相手も俄には信じないわな、普通。
一カ所30〜40分で回る忙しい観光である。次の清水寺への移動のためにバスに戻ろうとしたとき、約一名が一生の不覚をとった。他愛もない夫婦同士のライバル心から階段を我先にと急ぐハチ公と大トラ。階段は雨に濡れている。誰もが「危ない」と思った瞬間に期待に応えるハチ公。
ビタン。
見事に転んだ。よろよろと立ち上がった姿に一安心したものの、階段の角で頭をぶつけた日には、一大事。慰安旅行も台無しではないか。
一同の心配とは裏腹に降りしきる小雨をつんざいて響きわたる笑い声。
「アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
大トラの勝利の雄叫びか? 自分の亭主が痛がっているというのに、ツボに入ったのか彼女のよく通る笑い声は高く低く止むことはない。痛みをこらえ、心なしか体を細かく震わせて歩くハチ公の姿はあまりにパーフェクトブルー、その隣の笑い続ける大トラの姿と対照的なことこの上ない。それも夫婦の形の一つなのかもしれないがな。怒るに怒れずやり場のない怒りと痛みに耐えるハチ公の姿を思い出す度、私も笑いがッッハッハッハッハ止まらないよ。すまん。
後の酒の席で大トラは笑いながら言ったさ、「私じゃなくてホントによかった。私なら立ち直れない」と。
このあたりのことはハチ公のページ内「金閣寺に散る」に詳しいので、自作のアニメ付きで見て貰いたいものだッハッハッハッハッハッハ。
清水の舞台ではMr.REXがお約束通り飛び降りるはずだったのだが、意外に小心者らしく後込みをし、折角のイベントダイブも雨天中止となる。若干名がはぐれたり時間ぎりぎりまでバスに戻らないという小さなアクシデントもあったが無事に集合、次の銀閣寺に向かうが、帰りの新幹線に間に合わなくることが懸念され、一行はわりと綺麗なガイドさんに別れを告げてタクシーで京都駅へ。
新装された京都駅を初めて見る一行はそのばかばかしいほどの空間の使い方とはったりに目を奪われる。すばらしい。最後にまた一段と良い物を見させて貰ったことだ。
ということで帰りの新幹線も賑やかに過ごし、東京駅に安着。短い慰安の一時を楽しませて貰ったのであった。
このイベントの10日ほど後、「パーフェクトブルー」の大阪公開初日に合わせ、“仕掛け人”金子氏とMr.REXと共にまたも大阪へ。新幹線の中、ウナギ弁当で精を付け荷物をホテルに置くが早いか、3人揃って夜の街に繰り出してみる。
店を物色しながら道頓堀あたりを歩いていたときである。着飾った夜の蝶たちが道行くお兄さんの気を引いている。
と、その一匹がヒラヒラと我々に舞い寄ってきて、20メートルほど付いて来ては盛んに誘いの鱗粉を振りかける。
「おにぃさんどっかで見たことあるわぁ」そんなことはないだろうよ。
「いや、あるある。そうや、おにぃさん歴史上の人物に似てるわ。あ、ホンマ似てるよ。」誰や、それ。
「何て言うたかなぁ、けど歴史上の人物で………あ、教科書にも出てたわ。な?」な?って、言われてもな。そんな客引きがあるか。
だいたい似ていたからといってどうだというのだ。歴史上の人物に似ているからといって嬉しくなるものか?「あ、俺よくいわれるんだよねぇ、足利尊氏似だって」とか「え?そうかな、そういえば前にも言われたな、人斬り以蔵に似てるって」どんな顔だよそれ。
私が歴史上の誰に似ているかを確認できなかったのは残念至極。結局、Mr.REXが以前来たことがあるというお店で2時間ばかりビールをあおり、その後金龍ラーメンをすすりおとなしくホテルに戻る。
翌日ロフトの中にある劇場「テアトル梅田」は満員の盛況と相成った。竹内氏の人気の程も知れようというもの。初回の上映後、2、3回目の上映前の3回の挨拶をさせてもらったと思うが、この劇場、綺麗で感じが良いのはいいにしても、最前列とスクリーンまでが極端に近い。1メートルないほどだろうか。その隙間に私と竹内氏が立つ形となり、我々と最前列のお客さんの膝が触れそうなほど。お客さんの顔が見えるというのは嬉しいものであるが、見えすぎるというのも照れるものだ。緊張したわけではないが、いつもより言葉少なになってしまったよ。それに、だ。多大な偏見とは分かっていながらも頭のどこかには「大阪の人間は普段から漫才のようなコミュニケーションをしているので笑いに厳しい」という圧力がかかっており、迂闊につまらない冗談も言えない、とも思っていた。寒いのはいや。
初回の上映には在阪のメール友達も顔を見せてくれたりして大変嬉しい思いをさせてもらった。ありがとうよ、M君。
また、韓国で知り合った“竹内氏のバーチャルストーカー”こと、西川君とも再会して串カツに舌鼓を打ちながら楽しい一時を過ごしたのであった。
というわけで大掃除パート2はここまで。この続きは更にパート3に続く。