2007年12月3日(月曜日)

「オハヨウ」完成



昨日、NHKのスタジオでアフレコ、ダビング作業を行ってNHK「アニ*クリ15」用短編「オハヨウ」の全作業終了。
日誌をひもとくと、この短編のコンテにかかったのが7月の5日。
5ヶ月かかったことになる。
たった1分のアニメーションにこんなに時間をかけるとは少々非常識な気もするが、それだけ満足の行く仕上がりにはなったと思っている。なぜそれほど時間がかかったかについては、別の機会で触れるつもりなのでここでは措く。

昨日はNHKのスタジオ入りして、まずは音素材の確認。
音楽は既にラフの段階でMP3で送ってもらい、確認しているが、スタジオのスピーカーで大きな音量で聞くと違った印象を受ける。
仕込んでもらった効果音と合わせて聞くと映像がより活き活きしてくる。
音楽の出る位置を調整したり、効果音を前倒しする箇所、画面には映っていないが継続しておいて欲しい箇所などを伝えて調整してもらう。
効果音の感じが良く、生音が非常に効果的に入っている。
音楽と効果音だけが乗った状態でプレビューすると、まだ入ってない声まで聞こえる感じがする。翻訳するとこんな感じ。
「ここにこういう声を入れてください」
そんな「余地」が聞こえてくる。いい兆候だ。
良かった。失敗じゃないみたいだ(笑)

アフレコはまずニュース原稿から。
テレビがニュースを伝える場面があるので、その素材を「本職」の方にお願いする。
「アニ*クリ15」制作に当たっては、総尺やタイトルなどすべての作品に共通するいくつかの制約があるが、本篇内に「NHK」の文字を入れる、というのもその一つ。
「オハヨウ」ではちょうどニュースを伝えるテレビ画面が登場することになっていたので、そこにはめ込むことにした。ニュースの内容は「自爆テロ」を伝える現地からの中継。
若い娘が自分の部屋で目を覚ますだけ、という内容には不似合いかもしれないが、得てして世の中とはそういうものだ。
私が用意した拙いニュース原稿に目を通してもらい、NHKのニュースとして「らしくない」部分を指摘してもらうが、単語を一つ修正しただけで問題なしと判断してもらう。
収録は本番一発でOK。
ニュースは「いまだ黒煙が上る現場からの中継」という想定で、アナウンサーの方にはそれらしくテンションを上げて原稿を読んでもらうのだが、実に的確な「芝居」である。
わずかにアレンジも加わり、文節を区切った感じのしゃべり方も実にそれらしい。
収録したセリフを少しだけ編集して、映像に乗せてもらう。ニュース音声の尺は十分足りているので、TVが画面外になった後、どこまで引っ張るかはミックス作業時に判断することにする。

続いて、主人公の声を収録。
演じてもらうのは19歳の麻植美由紀さん。
アートカレッジ神戸・声優学科の1年生。先日のNOTEBOOKで記したとおり、アートカレッジ神戸でのオーディションで決めた娘さんである。
神戸からの遠征、初めてのアフレコ、NHKのスタジオ、さらにはメイキング用のカメラ取材が入るなど緊張する条件は揃っていたので多少心配していたが、本人はこちらが拍子抜けするほど緊張していない様子。
私が見込んだだけのことはある(笑)
実に物怖じのしない子である。
何度かリハーサルをしてすぐに本番収録。
セリフは最後に「おはよう」の一言だけなのだが、オーディションについて記したとおり、これが意外と難しい。
主人公が起きる、座るなどの動作に合わせた息芝居や欠伸などはほとんど問題ないが、この「おはよう」が難しい。
何度かやり直してもらうのだが、どうしても「おはよッ」になってしまい、語尾の「う」がなくなる。
「う」をちょうだい、「う」を。
かといってあまりそこを意識されると「おはようぅ」とこれまた不自然なことになりかねない。
「おはよう」のセリフだけ何度かテイクを重ねて行く。
何度も同じセリフを喋っていると、妙に上ずったり、元気がなくなったり、と調子が外れるテイクが出てくる。こうした「見失う」事態はよくあることだが、麻植さんは大きく外すことなく、「近い線」を出してくれる。
割といい感じの「おはよう」が出たので、これを「キープ」ということでさらにテイクを重ねると、相応しい「おはよう」をキャッチ。
OKである。

これで素材がすべて揃う。
音響ソフト上で不必要な息芝居を削ってもらいセリフを編集。
後はバランスを調整する。NHKの音響スタッフがたいへん的確でとても助かる。
こちらの希望で効果音を上げてもらったり、音響スタッフからの指摘で、効果に飲まれて聞こえなくなった声を大きめにしたりする。こうして段々と「収まる」感じになって行く。
この「収まる」という感触が大事である。
私の場合、いまだ慣れたとはいえない音響作業では、「何がどうなれば完成といえるか」といった基準が明確ではない。
極端に言えば、いつまでも「もうちょっとああしたい」「こうしたい」という希望をいうことは可能なのだが、それを続けると先にも触れた「見失う」ことにもつながり、完成度を通り越してイメージがぶれることになりかねない。
角を矯めて牛殺す。
昔の人はよく言ったものである。
慣れている絵の作業でもこうしたことは起こりうるが、慣れている分回避する術も身につけている。
あれこれ考えを重ねつつ作業をしていて、「何か収まったな」という感触が訪れることがある。何がどう収まったのか、その一歩前までとどう違うかを他人に伝えるのは難しいが、自分なりに「収まった」が来たら、こう判断することにしている。
「OK」
絵の作業で身につけた感触は、おそらくいまだ慣れない音響作業でも同じことであろう、と考えることにしているので、何か「収まった」という気がしたところで「完成」とする。

バランスの調整すべて終わり、完成した「オハヨウ」をモニタの正面、左右スピーカーの真ん中という特等席でプレビューさせてもらう。モニタはフルハイビジョン。
音響が耳に心地よい。
映像も密度が高い。ハイビジョンを念頭に作ってきて、初めて大きめのフルハイビジョンモニタで見たが、十分に納得できる密度になっている。動きもほぼすべて2コマ作画にしたので、こちらも密度感がある。
映像、音響ともに満足の行くものに仕上がった。
90分の長編における「満足度」と比べるには分母が違いすぎるが、いかに1分とはいえ、1本は1本である。
1本の仕事の満足度ではこれまでにもっとも高いものに仕上がった。
是非オンエアを楽しみにしていただきたい。

関係スタッフの皆様にはこの場を借りてお礼を申し上げます。
最後まで根気よく面倒な作画をしてくれた鈴木美千代さん、高い画面密度に大きく貢献してくれた美術の東地和生さん、上品な色彩を設計してくれた林可奈子さん、759枚を一人で動画をしてくれた関家良子さん、面倒くさいことこの上ない撮影を担当してくれた加藤道哉さん、、気持ちのいい音楽を作ってくれたおかもとだいすけさん、素敵な声をあててくれた麻植美由紀さん、及びオーディションなどたいへんお世話になったアートカレッジ神戸さん、NHKのスタッフの皆様、マッドハウス・プロデューサー原史倫さん、そして面倒な監督の要求に応えてくれた制作プロデューサー松尾亮一郎くん、どうもありがとうございました。
本当にお疲れさまでした。

メインスタッフの皆様には「割りの悪い」仕事をお願いしてしまい、たいへん心苦しく思っております。
ささやかな埋め合わせしかできませんが、打ち上げは監督にまかせてください(笑)

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