1999年11月1日(月曜日)

番外編 – その5



 少々の無理があるとはいえ、「母親探し」という具体的な目的を設定したのだから、後はそれに伴う困難が必要である。例えばあまりにマンガッぽい発想だが、「オランウータンの母親は暴力団の組長の家で飼われている」とか「大企業のビルの最上階で飼われている」とかそういったことだ。母親の救出にクライマックスをおくとすれば、より困難である方がいいわけだ。さらには話がうまく運びすぎると面白くないの法則も考慮すると、恐らく話の途中で主人公は「オータム」を奪われたり離ればなれになったりする必要もあろうか。しかしそんなことは後で考えれば宜しい。とりあえず話を最後までざっと考えてみる。
 母親との感動の再会の後、当然彼は母子をもっとも幸せな形にさせてやりたくなるのが人の道。概ねこの話は常識的に考えて「善」とされる考えに基づいて進めているので、安直に「森へ返す」のが一番の幸せの形になろうか。安直なエコロジーブームと相まって、「善なる作品」として大受けすること間違いない。オランウータンの子供とか言ってる時点で「大受け」するわけがないだろ、というモニター前からのマッハの突っ込みにも省みずに進める。
 「森へ返す」ということは「幾多の苦労と危険の末に密輸入してきた」にも拘わらず、最後には「幾多の苦労と危険の末に密輸出してやらねばならない」羽目になると考えても良い。これも一つの「反転」である。
 もっとも、「苦労して密輸出」するというのも不自然であろうか。当局に知られる形にすれば、親子共々無事幸せに本国に還れるのだから。おっと。「当局」なんて単語が出てきた。
 「当局」。当然、禁制動物の摘発・取り締まりをしている警察当局が存在するであろう。具体的にそれが警察なのか税関に属するものかはよく分からないが、ここでは単に「当局」としておく。
 名うての密輸業者である彼は常日頃から「当局」にマークされているはずだ。「母親探し」の途中、彼を付け狙い彼の行動の邪魔だてする存在として「当局」は打ってつけの筈だ。
 さてさて。ここまでの登場人物はまだ主人公の彼とオランウータンの子供の二人である。エンターテインメントとして何が欠如しているか、賢明な読者諸氏においてはすでにお気づきの筈だ。
 「女」
 当局の捜査官は「美人」に決まりで…………何ともまぁ、ベタベタを通り越してただの凡庸である。ま、いい。パターンで考えるのがこの稿の当初の目的だったはずだ。いつそんな目的を掲げたんだよ、というモニター前からの矢のような突っ込みを無視して続ける。
 「美人」が登場した以上、主人公とこの美人さんとの間にも「心温まる交流」が生まれて欲しいのが人情。敵対する相手とのロマンスは話に華を添える筈………………やっぱりやめよう。ベタにも程がある。扱いにくそうだし。
 こうしよう。「当局」の敵役はやっぱり男にして、エンターテインメントに不可欠な「美女」は「動物学者」みたいな役回りにしよう。ありがちだがいい役回りだ。うん、そうすれば、上手く使えるかもしれない。それにこの「美人動物学者」は仕事に打ち込みすぎて、離婚経験があるというさらにありがちな設定にしておけば、男と女の「心も体も温まる交流」も自然と生まれてくるはずだ……って、冗談話に何を私は本気になっているんだ。
 「当局」というのも「困難をもたらす相手」という意味合いだから、考えようによっては、別に「当局」という合法的な組織でなくても構わないし、もしかしたら「密輸業者のボス」とかにしておくのも良いかもしれない。ということは、男がオランウータンのために「組織を裏切った」というケースが想定され、はっきりとした意志と行為を表現できる。それに「人語を解するオランウータンの商品価値」をボス側も知っていても良いことになる。「人語を解する」ことを主人公しか知らないのでは都合が良すぎると思っていたので、ちょうど良い。
 「密輸業者のボス」、この方がいいような気もする。「当局」は彩り程度に後退させる。それに場合によっては敵方だったはずの「当局」を、主人公たちがボス側に追いつめられたときの救世主として登場されるパターンも考えられる。絶体絶命のピンチに現れる騎兵隊の役回りだ。ということは「当局」の担当捜査官は人が良くて、憎めない感じのオッサンだな。しかし、これを読んでいる若い読者の方に「騎兵隊の役回り」の意味が分かるのだろうか。言い換えておけば、「カリオストロ」の「銭形」みたいな感じだ。敵の敵は味方である、と。
 ともかく、ここまでの考えをまとめる……って、「ホームページを作ろう(笑)・番外編」は一体いつ出て来るんだ。

【悪徳で名高い動物密輸業の男が、密輸入界で絶対的な力を持つマフィアから「お宝」を日本へ運び込む依頼を受ける。その「お宝」は好事家の間ですでに数億の値段が付いているという。
 マフィアの依頼を断ることなど出来るわけもなく引き受けた男は、インドネシアに飛びその「お宝」に対面する。禁制動物オランウータンの子供であった。禁制とはいえ、さして珍しくないブツに男が拍子抜けした瞬間、男は自分の耳を疑った。
 「ママはどこ?」
 何とそれは人語を解する子供のオランウータンであった!
 名を「オータム」といった。
 男は長く禁制動物の密輸に携わっていたが、無論動物に愛情のかけらも持ち合わせることはなかった。が、現地の警察に追われ、困難の伴う日本への移送の最中、男とオランウータンの間に次第に交流が生まれてくる。
 盛んに母を恋しがるオータムに、男はかつて自分が失った愛児の陰をそこに見いだしたのだ。オランウータンの母はすでに日本に密輸されていた。
 男はマフィアを裏切ってオータムのために、危険を省みず母親探しの冒険に向かう。
 男の裏切りを知ったマフィアは「お宝」を奪還するべく追っ手を放ち、さらには以前から男を密輸でマークしていた「当局」は密輸業者の一斉検挙を目論み大がかりな捜査を開始する。二重にかけられた追っ手の網の中、男はオータムを抱えて東京の街を駆け回る。男の命がけの苦労をよそにオータムは初めて目にする東京の街の様子に浮かれ気味。ビルに、車に、コンビニに、テレビに、オータムは目を見張り、男の背中で「あれは何?」の質問攻撃をマシンガンのように浴びせかける。追っ手とオータムの相手でへとへとになる男。
 はしゃいでいたオータムがみるみる元気を失って行く。急激な環境の変化に病気になったのである。窮地に陥った男は一計を案じ、かねて禁制動物密輸糾弾の最先鋒の動物学者に救いを求める。女医であった。
 密輸業者の男に怒りながらも女医はオータムに治療を施す。病状は軽く、次第に元気を取り戻すオランウータンの子供。人語を解することに驚愕する女医。オータムを挟んで、犬猿の仲だった男と女医の間にもわずかなコミュニケーションが生まれる。
 事情を知った女の協力を得て、再び母親探しを再開。男は密輸業者の仲間のつてを辿って八方手を尽くす。果たして母親オランウータンの所在が判明する。
 その時、彼らに追っ手が迫る!!
 二人は命を賭して脱出を試みるが、肝心のオータムがマフィアの手に!!………………】

 さて、あなたならこの後どうする?

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