2009年1月16日(金曜日)

いよいよ初日、舞台版『千年女優』!(付録「デジスタ」収録)



世間的にはそろそろ正月気分も抜けてきた頃だろうか。
エ?もうとっくに抜けてる?
気ぜわしい世の中だよ、まったく……って、元旦からカレー食ってる人間が何が正月気分だよ。
気がつけば、1月ももう半分が過ぎている。詐欺に遭った気分だ。
しかし、昔から言うではないか。
「師走と正月は合わせて一月」
言ったのは私だが。

2009年の1月も半ばを迎えたということは、つまりは舞台版『千年女優』であり、今日16日が初日である。どんな舞台を披露してくれるのか、わくわくしている。
千代子に会うのも、久しぶりだな。
思えば、藤原千代子という人物が最初に浮かんだのは、東京は武蔵野市、吉祥寺の飲み屋においてであった。名付けはその二つ隣の地にある自宅の6畳間だった。
初めて「ふ、じ、わ、ら、ち、よ、こ」と叩かれたキーボードが繋がっていたパソコンは、アップルコンピュータのパワーマッキントッシュ8500であった。
以来、私の操るパソコンは進歩し、その間に『千年女優』はもちろんのこと、『東京ゴッドファーザーズ』『妄想代理人』『パプリカ』を監督してきたが、私にはさして進歩は訪れないもののその分確実に歳だけは食った。遠近両用レンズのお世話になるくらいだ。
遠くの物も近くの物もよく目に入らないなんて、何だか千代子みたいだ。
約1000カットの、多くのスタッフとキャストによる決して楽ではない世話を受け、健やかに育った千代子。宇宙の果てに向かってロケットで飛び出して行った千代子が、さぞやひたむきに月を越え、宇宙の彼方まで駆け巡り、遥かな円を描く軌道を辿り帰ってきた。大阪市北区角田町5-15へ。
武蔵野市から大阪市北区角田町5-15へ。
あまりにかいつまむと夢もロマンもありゃしないが、辿り着いたら大阪市北区だった、なんてある意味たいへん千代子らしいかもしれない。
後先のことなんか、考えちゃいない人である。
どうせ帰ってくるならお盆のころが似合いだったんだじゃないのか、という考え方は最近志ん生に耽溺している原作者に似合いではあるが、これまた夢のない話である。
原作者が夢も華もない話をしてばかりで申し訳ないが、何、TAKE IT EASY!さんと脚本・演出の末満健一さんたちスタッフ・キャストが補って余りある大輪の花を舞台に咲かせてくれるに違いない。
さて、『数え歌 無限千年回廊』でも聞いて、期待をさらに高めよう。
この曲、たいへん気に入って繰り返し聴いている。
会場でサントラ買おう。
あ、関係者の皆さんにサイン貰っちゃお。

以下は、今日のブログの付録みたいなものである。

14日はNHK「デジスタ」の収録。
「デジスタ」は一日二回分収録で、ここのところ私は遅い方の収録でさして日常のペースを阻害されることもなく楽をさせてもらっていたのだが、今回は早い方の収録。
お昼12時に渋谷はNHK入りである。私にとってはそれなりに早起きせねばならない。
文句も言わずに9時過ぎ起床。
「ああ、眠い」
口に出してみるが、眠気は晴れない。外は快晴なのに。
コーヒーを飲みながらメールチェックすると、
「【デジスタ】本日の収録よろしくおねがいします」
という件名のメールがあり、台本が添付されていた。
「いまもらってもしょうがないような気もするのだが(笑)」

最寄りの駅から新宿を経由して原宿へ。渋谷駅からNHKまで歩くと面倒なので、いつも原宿駅前からタクシーを使うことにしている。
電車の中では『志ん生讃江』(矢野誠一・編/河出書房新社)を読み進める。
志ん生の落語を聞くだけでは収まらず、最近は『志ん生、語る。』(岡本和明/アスペクト)、『志ん生芸談』(古今亭志ん生/河出書房新社)と、志ん生関係の本を楽しんでいる。周辺のことを知れば、なおのこと志ん生を楽しめるというものだろう。
原宿には11時半には着いてしまった。早いね、また。
時間にあまりに余裕があるので、駅のそばにある喫煙所で本を読みながら、タバコを二服とリポビタンBizという見慣れないバージョンを一気に飲み干す。
「ファイト一発!」
いや、口に出したわけではない。

NHKに入ってすぐにメイク。
メイクさんの話によると、近頃はすべての番組においてメイクもハイビジョン対応になったそうで、それだけ予算もかかるようになったらしい。
髪の毛の乱れ一筋だってきっちり映し出してしまうハイビジョンというのもありがたいのか迷惑なのかよく分からないが、今 敏の顔なんか放送禁止にさえならなければいいという程度である。モザイクなんかかけられたらそれはそれで困るが。
控え室でお弁当をいただく。
血糖値もすっかり上がって、仕事をしようという気になってくるが、食べた後はまず何より煙草だ。
や。喫煙コーナーは人でいっぱいになっている。人気の割にスペースが狭いね、また。ま、喫煙スペースがあるだけ民主的だが。
「ああ、煙草の美味いこと美味いこと」
いや、口に出したわけじゃない。
本を読みながらタバコを吸っていると、仕切りのガラスを叩く音がする。
コツン、コツン。
今日のゲスト、藤谷文子さんが和服姿で微笑んでおられる。
いいねぇ、女性の和服姿は。
私がキュレーターを担当する「デジスタ」ここ3回続けてゲストは藤谷さん。
彼女がゲストだと話がしやすくてたいへんありがたい。誰だとありがたくない、というわけでもないのだが。
「いやいや、こんなヤニ臭いところにお入りいただかなくても、ね、立ち話もなんですから、どうぞどうぞこちらにおかけ下さい。汚いソファですが」
って、NHKの備品に失礼だが(笑)
新年のご挨拶などを交えつつ、藤谷さんとロビーでしばし雑談。
彼女はめざとく私が手にしていた本に気づいて、「あ、志ん生」。
久しぶりにお会いしたばかりだというのに、落語の話からあれこれ芸談義になる。そうなるあたりが、私にとって藤谷さんのありがたいところなのである。いや、くれぐれも誰だとありがたくない、というわけでもないのだが。

番組収録前の打ち合わせはごく簡単である。
「デジスタ」は年を追うごとに打ち合わせも台本も簡単になっている気がする。それだけ、番組の年季が入ってきたということだろうし、ゲストやキュレーターの、より「生」の発言を期待してのことであろう。
それにしたって、出演者の台本に「○○」なんて伏字はないじゃないか。
スタッフの台本は違うことになっているそうで、なんだかどうも本番でこちらの発言を試されるみたいな気もしてくるが、まぁいいや。そのくらいの緊張感はあった方が面白い。
キュレーターとして関わるようになってから数年になるが、その間「デジスタ」のセットはその分代替わりしている。収録時に台本をそばに置くわけにはいかないセットに変わってから、確かに喋りやすくなったように思える。
台本があればあったで、ついつい期待される発言をしたくなるだけ、「生」の勢いは失われるものだ。

13時半からさて本番。
本番前に「もしや!?」とも思い、「社会の窓」の開閉状態をそれとなく確認する(笑) 事前にちゃんとしとけよ。
もちろん、全国に恥をさらすような状態になっていなかったが、気がつくと目の前にいるスタッフの一人が堂々と「全開」になっていた(笑)
「社会の窓」を大きく開け放っているのだから、きっと社会性にあふれた風通しの良い人間に違いない、などとバカなことを考えつつも、しかし指摘するのもいかがなものかという気もするし、そのうち「5、4、3……」と本番へのカウントダウンが始まってしまった。ま、彼が全国に恥をさらすこともないのだし。
今回は音楽にまつわる作品3本をピックアップ。
作者のスタジオゲストは一人、というか一団というか。彼女らのナイスな「ミニライブ」なども交えつつ、収録はスイスイと進行。
実際、開始から2時間ばかりで出番は終了。たいへんスピーディな収録であった。こりゃあ、楽でいいや。
紹介する各作品についてあれこれ話をするのは毎度のことで、それを依頼されている仕事なので苦も何もないが、去年から「キュレーターズプロファイル」というコーナーが出現した。要するにその回担当のキュレーターが最近どういう仕事をしているか、を紹介するコーナーである。
これが厄介だ。
前回はまだ「アニ*クリ15」用に制作した短編「オハヨウ」という素材があったので事なきを得たが、現在の今 敏の仕事というと新作『夢みる機械』で、これはまだまだお披露目するような状態ではない。
まぁ、コンテ作業もお見せすれば面白い部分もあるだろうが。
さて「そこで……」とピックアップされたのが、武蔵野美大・映像学科のゼミ。確かに今 敏の仕事の一つである。
ということで先月26日に行ったゼミに「デジスタ」の取材が入った。
この様子をまとめた映像を収録中に見て、あれこれと質問に答えてコメントするのだが、これがかなり「お恥ずかしい」というか実に「決まりが悪い」のである。
こりゃ、参った。
普段だって自分がモニタに映っている様なんてのはなるべく見たくないうえに、スタジオで番組収録中という「映されている状況」の中で、さらに「モニタに映った自分」を見ねばならぬのである。
うう……マトリョーシカ状態というか何というか。
気恥ずかしさが圧縮されたみたいだ。
場違いなものを見せられているようで、ただでさえ身の置き所に困るというのに、編集された映像の中でゼミ生たちがまた「かわいいこと」を言ってくれるのである。
何ていい人たちなんだ(笑)
自分たちに要求されているであろうことをよく呑み込んでいる。偉い。
いやぁ、どうもすみません、皆さん。ご協力ありがとうございます。
ゼミに撮影が入るという落ち着かない状況に協力していただいた上に、「空気を読んだ」発言までしてもらって。
助かりました。
どうもありがとう。今度、酒でもおごらせてください。

ちなみに、皆さんの映りはたいへん良かったと私は思いますが、自分で見るときっとそうは思えないのではないかとも思われます。
その時、上の私の発言も少しは理解いただけるのではないかと(笑)
オンエア、見てね。
親は喜ぶぞ、きっと。

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