2009年5月8日(金曜日)

脇役からの野次



当ウェブサイトにおいでになる人なら、ご存知の方も多かろう。
アニメーター本田 雄氏のニセモノ事件のことである。
ことの次第は以下のページなどにあるので省略するが、要するに本田 雄氏の名を騙って女子美術大学と尚美学園大学で講師をしていた本田「健」なる詐欺師がいた、と。

http://gigazine.net/index.php?……da_takeshi
http://khara.weblogs.jp/news/2……-6b19.html

この詐欺行為について、アニメ業界では随分前から話題にはなっていたし、私も何年か前から耳にしていた。女子美の学生からも聞いたし、現在私が一緒に仕事をしているスタッフの中には、当のニセモノに会って話をした人さえいる。
彼によると当時(ちょうど『千年女優』制作中の頃だったらしい)こんな会話が交わされたとか。
「『千年女優』の制作、たいへんなんじゃないですか?」
「あれは監督とトラブルがあって降りた」
何故そこで私が脇役で出てくるのだ。
最近になってこのインチキとうか詐欺がようやくお天道様の知るところとなった、というわけで、「脇役」として野次の一つも飛ばしたくなった次第だ。

この詐欺行為、「女子美術大学での講義」が「2001年4月から2009年1月まで」続いていたというのだから恐れ入る。
おかしいと気づいた学生は少なからずいただろうに。
他愛もないインチキな「人物設定」に騙された人ばかりなのだろうか。
まあ、国やメディアの垂れ流すインチキに騙される人がたいへん多い社会なので、それもむべなるかな……なわけないと思うのだが。

・「本田雄」という名前はワーキングネームである
・『千年女優』制作途中で今敏監督とトラブルがあって降板した
・現在活動中の「本田雄」は自分の弟子であり、名前と経歴は自分が譲った

アホか(笑)
こんなことを信じる人がいるとは、そりゃあ振り込め詐欺の被害が後を絶たないのも無理はない気がしてくる。
アニメ業界に関する知識があるなし以前の常識がないとしか思えないのだがどうであろう。
落語界や梨園じゃあるまいし、襲名なんてものがある業界じゃないことくらい分かるだろうに。
私も武蔵野美大やアートカレッジ神戸の先生として、名乗るか。
「初代今 敏」
二代目以降ありえないけど。

しかしまぁ、このインチキ本田センセー、何故『千年女優』を持ち出したのか。傍迷惑な話だ。
『千年女優』DVDボックス付属のメイキングに、本田“師匠”雄氏が映像として記録されているせいであろうか。
断っておくが、『千年女優』制作中に本田師匠と降板に及ぶようなトラブルがあったという事実はないし、まして降板などという事態はない。「○イル」じゃあるまいし。
私は本田師匠に褒められたことさえあるぞ。
「こぉんなに働く人見たことない」
ありがとよ。

この詐欺行為は法律的にはどういうことになるんだろう。
経歴詐称した政治家なんぞがメディアでやり玉に挙げられて辞職するといったニュースは覚えがあるが、辞職だけで済んでいるのだろうか。それ以上の処分があってもよさそうだが。
横浜市では大卒のくせに中高卒を装って市の職員になっていたという下劣極まりない事件があったと思うが、これには相応の懲戒処分があったのではないか。
インチキ本田センセーは辞職したそうだが(当たり前だ)、それだけで済ませられるものだろうか。
私がもし騙された学生だったらまず学校を訴えたいね。
「金返せ」
だってこれ、立派な詐欺だ。
「本田 雄」だと思ったから講義を受けた学生にとっては(そうでない学生にとっても、だが)、詐欺以外の何物でもないのだから、辞職して謝罪すれば済むものではなかろう。
「本田 雄」に限らず、その仕事で名をなした人間の名前には、それに付随する業績や実績という裏打ちがあり、だからこそ他の人と同じ言葉を発しても、そこにその人物だけが持つ奥行きや信用が生まれる。
そこにこそ名前の価値がある。
それを騙るのは詐欺だ。それを利用した学校も同罪であろう。
もっとも、そんな事態になればどこぞの週刊誌と同じで、きっと学校はこういうに違いないが。
「我々も被害者だ」
詐欺に遭った学生は怒った方がいい。

株式会社カラーのウェブサイト( http://khara.weblogs.jp/news/2……-6b19.html )の方には、文末に女子美大やニセモノからの謝罪文も画像として掲載されていて、これがなかなか興味深い。
インチキセンセーが本田“師匠”雄氏と女子美術大学に当てた文面がイカシテいる。

「学生に対して本田雄様の業績を私の業績と混同させるような言動を行いましたことにより、本田雄様、女子美術大学様に混乱を与え、大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。」

おやおや。学生に対する謝罪が抜けているようだが、いかがか。
第一「混同させるような言動」という物言いが、詐欺行為を行ったという自覚に欠けている。意図的に混同させたものを、「混同させるような」などと曖昧な表現をするのだから、反省が足りていない。混同したのは相手のせいかよ。
まるで立派な「木っ端役人」だ。
私が当事者ならこの謝罪文を「リテーク」にして突っ返すね。

「今後は、このような事は二度と起こさないことを誓い、細心の注意をはらう所存でございます。何卒、寛大な処分のほどお願い申し上げます。」

細心の注意をしなければ起きない事態かよ(笑)
細心の注意を払ったのはインチキ「人物設定」の方だろうに。
それに、元の画像を御覧いただければお分かりの通り、まず注意を払うべきなのは文頭の奇妙な位置にあると思うのだが。

この事件、悪いのはインチキ本田センセーに決まっているが、しかし考えようによっては、学校側の対応の方がもっと根深く、質が悪い気もしてくる。
女子美術大学が本田“師匠”雄氏に当てた「ご報告」にはこうある。

「但し、本学におきましてこれまで本田健氏が担当した授業内容、課題講評、学生指導については、メディアアート学科研究室で検証し、大学として問題なかったと判断をいたしております。」

おいおい。身内の上に犯罪者に「氏」をつけるやつがあるか。
この点だけでも十分に常識のなさを露呈していると思うが、何より奮っているのは「大学として問題なかった」という「判断」とやらである。
表沙汰にしたくない、私たちは悪くないといった典型的な「木っ端役人」だ。
ここには一番の被害者である騙された学生への配慮など欠片もない。保身の化け物め。
教えている内容に問題がなければ経歴詐称はたいした問題ではないとでもいうのであろうか。
だいたいどんな学科なんだ「メディアアート」って。
メディア自体がインチキの固まりだっていうのに……あ。
そうか。
だからインチキセンセーは正しいのか。
身をもってメディアのインチキを実践して見せたのであるから。
や、天晴れ。まさに生きるメディアアート。

追記

思った通り、大学も被害者面なのであった。
http://www.joshibi.net/media/t……90502.html

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