2007年11月25日(日曜日)

2秒で焦る



昨日はNHK「アニクリ15」のために作っている1分の短編アニメーション「オハヨウ」の編集作業。
渋谷のNHKのスタジオを借りて規定の尺に収める、という仕事。
スタジオは2時間抑えてもらっているが、なあに、たかが1分。1時間もかかるわけがない。パッパと切ってパッパと帰ろう。
だが、NHKの駐車場に入るところで警備員に止められる。NHK構内の駐車場に予約を取っておいてもらったはずなのに、年若い警備員ははっきりしない口調でこういう。
「えっと……ないです」
担当者が迎えに来てくれて事なきを得たが、ちょっと嫌な予感がした。

アニメーションの編集は、実写の編集のように素材をたくさん撮っておいて編集時に一本の映像として構成する、という訳にはいかない。結果的に無駄になる部分まで作る予算も余裕も労力も時間もない。だいたいバカバカしい。
だからアニメーションの場合、基本的な編集は絵コンテで先に済ませて、編集ではカットの頭とお尻をつまんでリズムを整合するという感じである。
文章を推敲するのに似ているかもしれない。文章の書き出しや語尾に注意して、流れが滞ったりしないようにする、いわば仕上げである。
編集の良し悪しで映像のテンポ、生理的な快不快が決まってくるのでたいへん重要なプロセスである。
編集での「間」の作り方一つで芝居の意味合いや感情や情感が大きく異なるものだ。
編集も芝居の一つである。

編集で映像を切るためには、当然だが完成時の尺より映像を長めに作っておかないとならない。
たとえば本編尺21分のTVだったら、40〜50秒くらいが望ましいだろうか。AB2パートそれぞれ20秒ずつくらいオーバーさせておくことになる。確か『妄想代理人』の1話が40秒くらいのオーバーで理想的だったように記憶している。
予定の尺に足りないのは論外だが、あまりにオーバーしていると予定していたテンポと大きく異なったり、必要だったはずの間さえ落とさなくてはならないし、ひどい場合はカットごと欠番ということもある。
何事もほどほどが望ましい。

「オハヨウ」は約1分。正確にはタイトル1+12K(一秒半)込みで57+12K。これに「アニクリ15」規定のエンドクレジットが2+12入ってちょうど1分のミニ番組となる。
タイトルを抜いた実際の本編尺が56秒ということなので、だいたい2+0くらいオーバーさせて作っていたつもりだった。
ところが、すべてのカットをつないでもらったところ。
「4秒のオーバーです」
エエッ!? ウソッ!?
想定の倍じゃないか!? そんなバカな!?
制作中に計算ミスでもしていたのか?
56秒から2秒切るのと4秒切るのでは考えが大きく変わってしまうではないか。
困った。
元々タイトに作っていたのに予定していた2秒から、さらに2秒切るなんて。
ウゲッ。
うむ。だがオーバーしているのだから仕方ない。
詰められそうなところをすべて詰めていって、それでもまだ4秒には達しない場合はそこから考えよう。

覚悟を決めて切り始めてから、気がついた。
「あれ? このカット、尺がおかしい」
恥ずかしい話だが、編集に間に合わなかったカットが3つある。
動画撮影が2つ、原画撮影が1つ、計3カットが鉛筆画の未完成カットである。いずれも編集には問題がない状態で、これらはクイックタイム(QT)のデータで納品してあったのだが、この3カットの尺が妙なことになっている。
芝居が遅くなっている。
そんなこと一目で気がつけよ!という話もあるのだが(笑)
あるはずのない部分でのエラーは意外と気がつかないものなのである。
しかし、何で?
QTのデータ混じりで編集することなんてよくあることだし、これまでそんなエラーがあったことはないのだが。
QTのデータを編集機に読み込む際にエラーでもあったのだろうか。
原因はともかく、目の前のエラーに対処する方が先決だ。
編集担当者の方にこの3カットのトータル尺を出してもらったところ、10秒半くらいとのこと。手元のデータではこの3カットで8秒半となっている。
編集機でこの3カットを予定の尺にまで圧縮してもらい、全体でちょうど2+0オーバーになった。私の目算は間違っていなかったのだ。
ホッと胸をなで下ろすとはこのことである。

これでようやく本来の編集作業にかかれる。ここまでですでに1時間半が経過していた。
2+0ならどこを切るかはだいたい決めてあったので、頭から順にコマ数を指定して切ってもらう。
少々厄介なのは24コマを30フレームに変換しなくてはならないことくらいだ。
アニメーションは通常フィルムと同じ1秒24コマで作られるが、TVやビデオ、DVDは1秒30フレーム。1秒間を24のセグメントに分割するか30に分割するかの違いである。
たとえば、フィルムで12コマ(0.5秒)はビデオだと15フレームとして変換できるが、6コマ(0.25秒)とかになると7.5フレームという半端が出るので7か8フレームになる。
頭の中でこの変換をするのが面倒くさい、というか慣れていないのでついついコマ数を口走ってしまう。数字を取り違えるとどんなエラーが生まれるか分かったものではない。
そこで絵の枚数で指示することにした。
「カット5のラスト、10フレーム、絵にして4枚切ってください」
「カット7の頭を、絵1枚切ってください」
「カット14のラストを絵で3枚」
こんな具合。

原画や動画上がりをクイックアクションレコーダーで確認し、QTでつないでみたりもしていたので、どこをどう切るかはだいたい予定していたので楽なものである。
「オハヨウ」は全編2コマ作画にしてあるので絵1枚というと、フィルムで2Kになる。
なぜ日常芝居しか出てこないのに枚数を食う2コマ作画を選択したのかは、また別の機会にでも触れよう。
ちなみにTVアニメや劇場でも、日本のアニメは3コマ作画が基本で、1枚の絵を3コマ使うことになる。だから1秒動くのに8枚の絵が必要になる。
2コマ作画なら1秒に12枚使う。
その分3コマ作画よりは滑らかに動くことになるのだが、枚数=予算を食うことになるし、原画をたくさん入れないと単に蠢くアニメーションになったりするなど複雑な事情がある。
昨日聞いた集計によると、「オハヨウ」は本篇56秒、18カットで「759枚」というアホな動画枚数になっている。1カット平均約42枚。『東京ゴッドファーザーズ』や『パプリカ』だって1カット平均30枚程度なのに(笑)
「オハヨウ」は何も派手なことはしていないが、地味によく動いている。
原画はすべて鈴木美千代さんが担当。「オハヨウ」スタッフはまた機会を改めてご紹介したい。

編集に話を戻す。
一カ所、想定していたのに切る必要がなかった箇所が一つあったが、すべて切り終えたところで、残り11フレームのオーバーとなった。フィルムにして約9コマ。
よしよし、思ったより切れていたぞ。
後はたった11フレーム。こういう時のために切りやすいカットを作っておくものだ。尺の調整用に作っておいたカットに戻って、頭から11フレーム切ってもらってジャストサイズ。
タイトルと次のカットにO.L.を加えてもらって完成。
結局編集には2時間もかかってしまったが、最初のエラーとその処置がなければ40分程度の作業だった。
プレビューすると、なかなかいい感じである。
オンエアをお楽しみに。

さて、後は原動撮の3カットを本番のカットに差し替えるのと音響作業だけだ。
作画作業は動画まで含めて昨日終了、背景はとっくに終わっているし、後は撮出しが1つ、撮影が2つ。
たった1分の短編を作るのに随分時間がかかってしまったが、ようやく終わる。
遅れてどうもすいません、NHKさん。
もっとも、聞くところによると同じサードシーズンの中で、もっと遅れている方がおられるそうなのでちょっと安心(した笑)
やっぱり、「どべ」は嫌なものだよ。

ちなみに「広辞苑」によると「どべ」は、
1 (東北・北陸・中国・四国地方などで) 泥。
2 (中部地方などで) 最下位。びり。
なのだそうだ。

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