2008年1月31日(木曜日)

アワビとウルトラ



この一週間ほどの間、急に忙しくなってきている。
突然仕事が降って湧いたわけでもなく、暢気にかまえていたら予定していた仕事がいつの間にか目の前に迫っていた。いつでもこうだ。
さらにいつもそうであるように、仕事というのはどうも寂しがりのようで、仕事同士はなるべく一緒になりたいらしい。
つまりいつでも仕事が重なってくる。2月はきっとエライことになりそうだ。
予定されているイレギュラーの仕事だけでも「アジア学生アニメコラボレーション」に講師として参加、「アートカレッジ神戸進学説明会」出演、「デジスタ」収録、「新文芸坐アニメスペシャル・今 敏ナイト」トークショー出演などなど。インタビューも一件あったはずだ。
もちろんこの他に新作の準備と、間近に迫ってきてしまった「あるイベント」の準備が何より忙しい。
「あるイベント」については、明日発表予定。
そして仕事だけでなく、仕事以外の予定というのも一緒になりたがるようで、彼らはついでに仕事とも仲良くしたいらしい。
つまりいつでも仕事と仕事以外の予定も重なりやすい。
暇なときはうんと暇で、忙しいときはとても忙しい。
そういうものだ。

先週から気忙しくなってきたが、であるにもかかわらず、以前から予定されていたイベント事がなくなるわけもなく(なくなっちゃ困るけど)、先週の金曜土曜と仕事以外の楽しい時間を過ごしてきた。
まず金曜日はアワビである。
かねてよりプロデューサーから「是非行きましょう」とお誘いいただいていた「あわびの源太」というエゾアワビ専門店に行き、アワビ三昧を楽しんできた。
私はアワビが好き。
実はこの「あわびの源太」、一度行ったことがある。
金曜日に行ったのは銀座にある店だが、以前、この店は札幌のススキノにあった。
一昨年’06年、『パプリカ』のプロモーションで札幌を訪れたときに「あわびの源太」で接待してもらい、満願成就を果たしたのである。
大袈裟な物言いだが、この店についての噂は以前から、ザ・マッドハウス丸山さんから聞き及んでおり、札幌に行ったら是非にとまで言われていた。私の心を捕らえて放さなくなったその店独自の調理法とはこうだ。
「アワビをすり下ろして供する」
何ということだ。歯ごたえこそ命ともいうべきアワビをすり下ろすとは。
実際口にしたときの感動は筆舌に尽くしがたい。
アワビが好きな人には、丸山さんの真似をしてこう言いたい。
「是非行くといい」
一昨年、札幌の「あわびの源太」を訪れた際もエゾアワビをふんだんに使った(というかアワビしか出てこない)コース料理を堪能したが、その時、店主は近く銀座に店を移す予定だと仰っていた。
こうした「予定」は得てして話だけで実現するものではないと、正直高をくくっていたのだが、去年本当に銀座に店を出したのである。侮ってたいへん申し訳ない。
その移転を知らせる挨拶状が、札幌にも同行したプロデューサーの元に届き、「是非行きましょう」ということになっていた次第。
少々時宜を外した新年会という名目である。

昨年銀座にオープンしたばかりの店内は、コンパクトかつ上品にまとまっている。
味については私の表現力では全然伝えることは出来ないが、たこの卵の突き出しに始まって、次々と出されるアワビの様々な料理は勿論どれも美味しい。
まずは「あわびの水貝」。
店のウェブサイトからその魅力を引用する。
「あわびの源太の命の泉とも呼べるだし汁をはり、生きた鮑を盛り込みました。中をのぞけば、そこはあなただけの日本海。」
大きく出たね、また。「あなただけの日本海」(笑)
小さな器の中に大きな世界を見る。これぞ茶室以来培われてきた日本人の心性であろうか。
「あわびのウニ焼き」もまたすごい。
「鮮度の高い生きた鮑の上に北海道産の生ウニをふんだんにのせ、秘伝のタレでじっくりと焼き
上げた究極の料理です。香ばしい生ウニの甘さが鮑のうまみとやわらかな食感をかもし出してくれます。鮑料理の中で最も贅沢な一品です。」
そりゃあ、贅沢に決まっている。
「ウニonアワビ」なんて「ゴージャスonゴージャス」の極みではないか。私がこれまで食べたものの中で匹敵するものといえば「ステーキのフォアグラ乗せ」くらいだ。
そしてそしてそして、「あわび秀飯」。これこそ勿体なくも贅沢というもの。
「生きた鮑をおろし金ですばやくすりおろし、北海道十勝産の長イモと合わせ、とろろ状に
したものを、あつあつの御飯の上にたっぷりとかけ、さらに鮑、キモ、生ウニ、海苔をのせた
最もすぐれた御飯です。」
これで美味くなかったらそりゃウソだ。
コースの料理は懐に余裕がないと難しいかもしれないが、先日店のメニューで見たら単品で確か¥5000だったはずで、これだけでも食べてみる価値は大きい。
是非、一度食べていただきたい。

「あわびの源太」ウェブサイト
http://www5a.biglobe.ne.jp/~tomo-san/

土曜日はウルトラ。
祖師ヶ谷大蔵にある円谷プロの倉庫を見学してきた。ソニーピクチャーズのプロデューサーにお誘いいただき、関係者による見学会に参加してきたのである。
初めて降りる祖師ヶ谷大蔵の駅。
そこにはウルトラマンやウルトラセブンの勇姿と共にこんな文字が。
「ウルトラな街」
ウルトラな……って(笑)
円谷プロを御輿に担いでで町おこし、ということなんだろう。アニメタウン杉並なんていうのも思い起こされるが、しかしもし自分が地元住民であったらと想像すると、「かなりいかがなものか」とも思われてくる。
小田急線のウェブサイトに写真が出ている。
http://www.odakyu.jp/80th/ultr……index.html

駅には、なんと現・円谷プロ社長ご夫妻が迎えてくれていた。
こっそりした見学会かと思ったのに意外な展開。
社長ご夫妻とは「ウルトラマン大博覧会」で初めてお目にかかったが、とても気さくで、笑顔が素敵な方々である。
円谷プロの倉庫の入り口には、ウルトラマンとミラーマンの勇姿が迎えてくれていた。
そして、なんとなんと桜井浩子さんが笑顔で出迎えてくれる。
感動だ。
去年の12月「ウルトラマン大博覧会」で初めてお目にかかり、一緒に記念撮影をしていただいたが、以来、私的なウルトラブームの高まりによって『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』のBOX買いをしてすべて見終えている私にとっては、つい先日まで我が家のテレビの中で活躍していた「ユリちゃん」「フジアキコ隊員」が目の前にいるのである。
感動ひとしお。
すごいリアリティ。
40年前の世界から現代へ一足飛びにシュワッチ。

倉庫の中には、20〜30体の怪獣たちやウルトラヒーローの着ぐるみや小道具などが並んでいる。近作のシリーズのものが多いので、私にはよく分からない怪獣が多いが、それでもこうした実物を見て思うのは、作り手たちの熱意や創意工夫である。
だが、思わず注目してしまうのはやはりあそこだ。
「おお、これが背中のチャック」
着ぐるみを操演していた役者のリアリティが一気に浮上してくる。
圧巻は、一面のガラス越しに展示されているウルトラシリーズのメカニックである。大小取り混ぜて100機以上はあろう。私が知っているのは『帰ってきたウルトラマン』、せいぜい『ウルトラマンA』くらいまでなので、ほとんど馴染みがないとはいえ、ウルトラホーク1号や3号、マットアローなどにはいたく感激する。
ミニチュアが眼前にある、そのリアリティは格別。
この日は関係者のみの見学会ということで、普段は撮影禁止の倉庫内も、「私的に楽しむ分には撮影はご自由に」。ありがたい計らいに感謝して、手当たり次第にシャッターを切りまくる。
画像をお見せできないのは残念だが、もっと残念なのはこの倉庫が失われることだ。
この倉庫に併設されているデジタルの編集室も何もかも、この土地からなくなるのだそうだ。
その背景に広がる諸々の事情は耳にしたが、それこそ「私的に楽しむ」性格のものなので、ここでは秘密。
円谷のこの倉庫がなくなるのは残念だが、しかし何より気になるのは祖師ヶ谷大蔵の街である。
円谷がここから失われたら、一体どうなってしまうのだ。
「ウルトラな街」というアイデンティティは?
宙づりとなったアイデンティティはM-78星雲に帰ってしまうのだろうか。

倉庫を後にしながら、そんな余計な心配も頭をよぎったのだが、しかし私の頭の中は帰りがけに桜井浩子さん手ずから渡していただいたウルトラグッズ土産の中身のことでいっぱいなのであった。
うう、とても嬉しい。

と、こんな雑文を熱心に書いている場合ではない。
「イベント」に備えてひたすら準備だ。

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