2008年7月3日(木曜日)

無事帰京、しかしまだニューヨーク四日目



今日の夕方、無事に東京に帰って来た。
ニューヨークJFK空港から成田まで14時間ほどのフライト。トータルで数時間寝られたので、随分楽であった。
機内で矢作俊彦の『傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを』四分の三ほど読み、成田からの車の中で読み終える。ハリウッド映画を思わせるエンターテインメントといった内容もさることながら、『傷だらけの天使』をリアルタイムで見ていたものとしては、オサムやアキラ、アヤベ、タツミの声が聞こえてくるようで懐かしい。
うう、シリーズを見返したくなってしまった。

ニューヨーク滞在記は時差以上の遅れながらも、まだ続く。

7時過ぎ起床。
ゆっくりと風呂に浸かりながら、筒井康隆先生の『ダンシング・ヴァニティ』を読み進める。
ブログのためのこのテキストをちまちまと書く。
10時半に集合して、タクシーでチャイナタウンへ向かう。ニューヨークに来るたび、一回はチャイナタウンで朝食を食べている。夕べの夕食はヘビー級だったので、お粥と麺などを食べたくなった。
「大旺飯店」(Big Wong King Restaurant)店内は、チャイニーズで賑わっている。繁盛の通り、食べ物は「安い早い旨い」。オーダーして1分も経たないうちに出てきたのには驚いたが、お粥や極細の麺など、頼んだものはどれも美味しい。
ゆっくり食事を楽しむという雰囲気ではないので、飯が済んだらさっさと出る。

腹ごなしに散歩。
強い日差しの中、チャイナタウンからリトルイタリア、ソーホーへ。
去年も歩いた道だが、チャイナタウンから道を一本渡っただけで緑と白と赤のイタリアンカラーばかりの景色に変わるのが何とも不思議。

聞くところによると、イタリア街はかつてもっと広かったのだそうだが、移民の末裔たちは「イタリア移民」から「アメリカ人」へと姿を変え、ここに住む人々も減少しているという。私は見ていないがアメリカの人気TV番組「ザ・ソプラノズ」でもその問題がクローズアップされているのだとか。
リトル・イタリアが縮小して行く分、チャイナタウンが広がっている。イタリアからの移民はないが、中国からの移民はいまも続いており、その分住民が増えるためであろう。

暑さにも疲れて、コーヒーブレイク。
アイスコーヒーを飲みながら、少々意外な話を聞いた。同行してくれている方によると、10年位前まではアイスコーヒーを出す店などほとんどなかったのだという。
「エ?アイスコーヒーを飲む習慣がなかったってこと?」
「ええ、スターバックスが出来てからですかね。コーヒーの飲み方も変わったみたいです」
なるほど。道理で滞在中2回ほど頼んだアイスコーヒー(いずれもスターバックスではない)はたいへん味が淡泊で、入れ慣れていない様子であった。もう少し美味しいアイスコーヒーを入れられるよう研究していただきたいものだ。
アイスコーヒー以外にも、近頃では普通のスーパーに日本のお茶が売られるようになったようで、散策中に覗いた店では「お〜いお茶」のペットボトルが棚に並び、ラベルの緑色で存在感を主張していた。
慣れない場所に見慣れたものが置いてあるのは、少なくない違和感と同時に安心も感じられる。何というか、不意に自分が慣れ親しんでいるスペースが出現したような安心感。ラベル一つで大きな威力である。
ということは、アメリカの人間にとっては世界のどこに行ってもコーラとマクドナルドを見かけられるのだから、同様の感覚を抱くのかもしれない。つまり「ここもオレたちの一部だな」とか(笑)

ソーホーをブラブラし、「kidrobot」を覗いてみる。私の柄ではないが、以前この店のオモチャを集めた洋書の写真集を資料として買ったこともあり、興味が湧いた。実際にオモチャを買うほど気に入ったものはなかったが、なかなか目を楽しませてくれる。
http://kidrobot.com/

タクシーでイーストビレッジの「蕎麦屋」へ。この店は昨日、通訳をお願いした女性から評判を聞いた店だ。

sobaya.jpg

日曜日の午後ということもあってか、満席。30分待ちということで、リストに名前を記してから、あたりを散歩して時間を潰し、時間に正確な日本人の遺伝子によって25分後には店に戻る。店内は相変わらず満席で、その後に来るお客さんも引きを切らない。
ようやく席に案内されてビールと枝豆、板わさ、卵焼きといった蕎麦屋のつまみの定番を頼む。店内は、海外にありがちな「フェイクな日本」という感じではなく、日本のどこか地方都市にある評判の蕎麦屋、といった様子。
出された玉子焼きは日本で見慣れている黄色に比べて随分と色が白い。白人向け?
どうもこちらの国ではこれがスタンダードだそうだ。また、オーガニックの少々お高めなものを除いて、生では食べられないのだとか。衛生面の問題らしい。
蕎麦は鴨せいろ。
うむ。店内でヒスパニックのお兄さんが打つ蕎麦は悪くないと思うのだが、どうも蕎麦はゆですぎ。パスタにおいてはアルデンテを「ちゃんと火が通ってない」と言うようなアメリカ人向けという判断なのだろうか。残念だ。
つけ汁ももう少し何とかなるだろうに、と思うのだが、これも地元向けの工夫の結果なのかもしれない。
鴨せいろとしては好みのタイプではないが、ニューヨークで鴨せいろを食べられるだけで満足するのである。
以前ソーホーにあった「本むら庵」はすでになくなったというので、是非「蕎麦屋」には頑張って欲しいものだ。
デザートまで食べて、さて店を出ようとしたら派手なにわか雨が降り出している。
軒先で食後のタバコを肺いっぱいに吸い込んで待つことしばし。降り出したとき同様に、不意に止んだところを見計らって、タクシーを拾ってホテルへ。
いい心持で仮眠。夢うつつに豪雨が聞こえる。
18時半、シアターへ。18時45分からのイベントと聞いていたが、多少予定が変更されたそうで、到着した途端にステージに上がることになった。
会場は『妄想代理人』の上映が終わったばかりということで、これに関するQ&A。会場で手が上がり、小学生くらいの男の子からかわいい質問をもらう。
「留置所の中で少年バットが殺されるけど、誰が犯人だったのですか?」
そうかぁ、分からなかったかぁ。あれはね、殺されたのはコピーキャットで、本物の少年バットにぶっ殺されたのでした。
男の子は兄弟二人で、お父さんに連れられて見に来ていた。Q&A後、男の子たちはお父さんに促されながらも、恥ずかしそうに全身真っ黒な服で身を包んだ「怪しい東洋人」におずおずと近寄ってきた。怯えているのかはにかんでいるのか、もじもじしている兄弟は実に可愛らしいが、しかし『妄想代理人』ってアメリカではレイティングによって小中学生では見られないのではないか?
「どうして私たちが作ったアニメーションを見るようになったの?」
「……いやぁ、私がアニメーションが好きで見せるようになったんです」
と、答えたのはお父さん(笑)
兄弟のためにパプリカとマロミのサイン2枚を描いて渡したら、子どもよりお父さんの方が喜んでいたみたいだ。
この後、『東京ゴッドファーザーズ』上映に先立って、軽くご挨拶。
これで今回の渡米の主目的であるリンカーンセンターでの仕事はすべて終了。拍子抜けがするほどの仕事量で、何だか申し訳ない。残るは明日の全日空さん主催による上映の舞台挨拶だけだ。
まだ空腹を覚えるには間があるようなので、有名なホテルのバーで一杯飲むことにする。無論、私がそんな気の利いた場所を知っているわけはないので、リーダーにしてスポンサー様の提案による。
「セント・レジス・ホテル」(THE St.REGIS HOTEL.NEW YORK)はデラックスクラス 5ツ星ホテルだそうで、ロビーに踏み入れた途端落ち着いた空気が感じられる。そのバーは、暗い照明と柔らかなソファでまことに居心地がよい。
何より、バーカウンター背後の壁面上部で堂々と飾られたマックスフィールド・パリッシュの壁画が素晴らしい。暗い店内でそこだけが照明を浴びて浮かび上がっている。
絵のタイトル「OLD KING COLE」に因んで、バーの名称は「キング・コール・バー」。
http://www.starwoodhotels.com/……pertyID=81
上のページの解説によると、
「この伝説的なクラブは、ブラッディ・マリーがアメリカで始めて紹介され、完成された場所(ここでは「レッドスナッパー」という愛称で親しまれれています)。ホテルのお客様や博識のニューヨーカーたちの目を楽しませるマクスフィールド・パリッシュの名作、キング・コールの壁画を眺めながら、アペリティフをお召し上がりください」
私も壁画を正面に見上げる位置で、シャンパンカクテルと、とてもドライなマティーニを飲みながらたいへん贅沢なひとときを過ごさせてもらう。
マティーニがよく効く。
以下の画像は、ホテルの絵はがきから。

oldkingcole.jpg

最高級のホテルのバーで贅沢な時間を過ごした後、それに相応しいディナーが望ましいということで、昨日も行ったにもかかわらず再びあの「めんちゃんこ亭」である。
どこか贅沢なバーの後に相応しいんだか。いや、長時間の贅沢に耐えられない貧乏性ゆえ、これこそが相応しいのである(笑)
ビールと枝豆、それにおでんを数種類頼み、締めにつけ麺を平らげて満腹してホテルに引き上げる。
ふう、疲れた。
風呂は起きてからだ。

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