1999年7月12日(月曜日)

第九回「悪魔のようなあいつ」



 数の論理は娑婆と同様インターネットにおいても健在であるらしい。多数イコール善であり、まったき正義である、と。ったく。そうだそうだよ、エロサイトが一番エライに決まっている。スケベ心にかなうもの無し。

 訪問者が多いことは勿論「人気」のバロメーターであろうが、それがすなわち「面白い」「素晴らしい」と言うことにはならないはずなのだが、数の妄執に一度取り憑かれると振り払うのは困難至極。
 そしてその妄執の使徒こそが「アクセスカウンタ」に他ならない。

 大抵のHPの表紙にはこの「アクセスカウンタ」様が鎮座しており、波乗り訪問者を暖かく迎えて、コロリと一つ数を押し進める。私がインターネットバージンだった頃、訪れた先でカウントされたときはギョッとしたものである。
 「しまった!ばれてる!?」
 なぜ後ろめたかったかと言えば、それは、その……ナニである。

 それはともかく。確かに自分のHPのカウンタがよく回ると実際嬉しいものではある。かく言う私もHP開設後、割とすぐに利用してみたし、毎日カウンタがどのくらい進むのか、それはそれはもう楽しみにしていたものである。
 その楽しみはと言えば、自宅の庭先なんかに作った小鳥さんのレストランに集まる野鳥の観察の比じゃないし、夏休みに観察した朝顔の花の数どころでもない。
 増えていく銀行の残高を眺める程の楽しみは無かろうが。儲けてみたいな。

 私の利用しているプロバイダは当初CGIを許可していなかったせいもあり、レンタルの無料カウンタを使わせてもらっていた。
 HP開設後はマニュアルに従って、健気に複数の検索エンジンなどに登録をしてみたり、知り合いにメールを出して知らせたりしたが、当然訪れる人など大した数ではない。あまりに寂しい数なので自分でカウンタをいくつかコロリと回してみたりしたが、情けない気持ちがさらに深まるばかりであった。
 「おおおおい!私はここにいるぞ!」
 いたからどうした。

 ちなみに検索エンジンへ登録する際のキーワードは「化石、マンガ、アニメ、パーフェクトブルー」あたりだったと記憶している。「パーフェクトブルー」という単語を使うあたりが、娑婆の力を利用していてちょっとどうかな、という気もするが、利用できるものは何でも利用した方が宜しかろう。存在を世に知らしめねばやはり寂しいではないか。

 私がHPを開設したのは、1997年の9月26日。いわば誕生日である。この日の誕生花は「柿」で、花言葉は「自然美」だそうだ。そしてその花占いはといえば。

 「あなたの発想は、すべて大自然の壮大なるめぐり合わせから生まれています。会話上手で実行力抜群。有限実行のお手本ような人。愛する人との生活も、大いに語り合うことによって、楽しい生活をつくりあげていくことでしょう。」(原文のまま)

 どうだ。当たっているか?
 時々奇特な方が私のバカな文章を褒めてくれることもあるし、週に一度くらいは更新もしているので「会話上手で実行力抜群」というのはあながち遠くはあるまい。そうありたい、ホント。
 ただ気になるのが「有限実行」というのはちょっと……「有言実行」の誤変換だと思いたいのだが、実行力が「有限」じゃ洒落にならん……ホントに誤変換だろうな。
 しかし聞いたか?
 「愛する人との生活も、大いに語り合うことによって、楽しい生活をつくりあげていくことでしょう」
 「生活」という言葉が二回も使われているあたりのくどさは気になるが、それはさておきつまりあれだな。「愛する人」というのは当HPを読んでいる読者の貴方に他ならない筈だ。ということは「大いに語り合うことによって」というのだから、貴方からのリアクションによって、より「楽しい生活をつくりあげていく」ことが出来るわけだ。お手紙頂戴。
 しかしいつもながらに侮り難し!花占い。

 私も一般の人間に違いはないのだが、一応娑婆で人前に作品を出して口を糊している身だ。いや、その末席に座る身だ。いや座布団運びかな。
 とは言え開設当時はパーフェクトブルーの公開を半年後に控えていたせいもあり、作品の露出度と共にアクセス数も増えた覚えがある。
 当時記録していたアクセス数が残っているので、その推移の変化をみてみよう。
 最初から記録していたわけではないが、HP開設後一月ほどの時点で一日のアクセス数が平均30コロリだったらしい。
 それがどうだ、11/4を過ぎた途端に、60〜70コロリに跳ね上がっている。11/4とはパーフェクトブルーが東京ファンタスティック映画祭で国内初上映された日である。
 数日後にはまた20〜40コロリの間で推移していた。
 しかし私もこんな記録を取っているあたりが、数の妄執にとりつかれていたよい証拠だが、こうして何かの役に立とうとは思わなかった。
 もう少し大きく見てみよう。HP開設以後一ヶ月毎の推移だ。

 (09/26〜)   0
 (〜10/26)  991
 (〜11/26) 1142
 (〜12/26) 1010
 (〜01/26) 1119
 (〜02/26) 2998
 (〜03/26) 4819
 (〜04/26) 3544
 (〜05/26) 2902
 (〜06/26) 3601

 7月あたりにカウンタを外したので記録はここまでしかない。何故に外したかといえば、数の妄執に取りつかれ悪魔に魂を売り渡した己を解き放つためだ。半分ウソ。
 借りていたアクセスカウンタが無料貸し出しサービスをやめたから、というだけ。エヘへ。
 しかしお陰で妙に気が楽になって、より自分を楽しませるという目的が明確になった覚えがある。
 それにしても数字は正直者だな。

 1月から2月の間、それと2月から3月の間でコロリ数の飛躍的な増大が見られる。開設後三ヶ月間は一日平均が30コロリほどだったのが、一気に一日100コロリ、そして160コロリまで跳ね上がった理由は他でもなく、パーフェクトブルーの宣伝、公開によるものだろう。何も当HPの魅力とは思わないし、パーフェクトブルーのオフィシャルサイトからのリンクによるバブルに他ならない。
 当HPへのアクセス数が他のHPと比べて少ないのか多いのかは分からないが、ただ、こうして劇的に数字が跳ね上がることは、ごくごく個人的にHPを作成している人にはあり得ない事態かもしれない。どうなのであろう。
 ただ他にも覚えがあるのだが、アクセス数の多いサイトで取り上げられ、リンクが張られたりするとその直後にコロリ数が上がるのは間違いない。単純にコロリ数を上げたければ、そうしたサイトにリンクを張ってもらうのがよいかもしれないし、またよその掲示板を利用して宣伝するのも一つの手だろう。
 だが、問題はその後だ。合コンに100回出たからといって、必ずしも異性とお付き合いできるわけでもなく、末永いお付き合いに発展させるためには貴方の中身次第ということになる。あ、勿論同性とお付き合いしたい方もいるでしょうが。
 HPの存在を知ってもらうことも無論重要だが、来ていただいたお客さんをまた来る気にさせる内容かどうかが問題なのである。ごく一般的な娑婆での生活を送っている方が作ったサイトで、非常にアクセス数の多いサイトはいくらでもあろうし、私もほとんど毎日楽しみに覗きに行くサイトはある。そのわけは内容とまめな更新に他ならない。面白くない上に鮮度の低いサイトは間違いなくお客は減る。掴んだお客さんを離したくない人は、まめな更新と精進をお薦めする。

 アクセスカウンタに話を戻す。現在私のHPにはいわゆるアクセスカウンタは設置していないが、その代わりに「T’s Office Counter Services」という無料レンタルのアクセス解析を使わせてもらっている。
 これは実際にカウンタは設置されず、自分のIDとパスワードでもって本人だけがアクセス数やその傾向を知ることができる、というもの。98年末に設置させてもらったのだが、これを見ているとなかなか面白いことが分かってくる。
 ここで知ることができるのは「日次カウント」「週次カウント」「月次カウント」「ブラウザ占有率&プラットフォーム占有率」「訪問者ホスト順位表」「時間帯アクセス状況」の6つである。
 楽しみなのは勿論日次カウントなのだが、面白いのは時間帯アクセス状況、ブラウザ占有率&プラットフォーム占有率であろうか。
 日次カウントは過去12日のアクセスカウントが表示されるのだが、見ていて気が付いたのは、ネットサーフィンは平日の娯楽だ、ということであろうか。もっともこれは当HPのアクセス傾向に過ぎないが。

 データを見ると月、火曜日が多く週末は2〜3割減っている。週末は娑婆での娯楽が多いこともあろうが、いかに会社のコンピュータで見ている人間も多いか、ということになろう。それを裏付けるように時間帯アクセス状況を見ても、お昼休みに入る12時からのコロリ数が跳ね上がっている。この正直者。
 時間帯でいえばやはりテレホとやらに入る23時台から、1時台までが多い。それ以後3時を過ぎると急激に落ち込み、朝の6、7、8時台は寂しいものである。早起きという健康的なベクトルと密やかな行為のネットサーフィンは相容れない方向なのであろう。
 ブラウザ占有率&プラットフォーム占有率、というのもなかなか楽しい。
 うちへのお客さんもやはり一般的な世間の例に倣ってビルゲイツの支配下にあるようだ。ブラウザ占有率では Microsoft Internet Explorerが約50パーセント。プラットフォームにおいてはWindowsが種種合わせて72パーセントを占めている。
 しかしMacintoshも占有率23パーセントという健闘を見せており、これは一般的な娑婆での状況よりは高いOS占有率ではなかろうか。娑婆でのMacOSの占有率は6パーセント程度だそうだ。私の仕事とHPの内容のせいなのかもしれないが、よその状況が分からないのではっきりとは分からない。
 かようにアクセスカウンタは何もコロリ数に血眼になるばかりでなく、推移の傾向などを見ることで違った楽しみ方もあるわけだ。
 呉々も数に取り憑かれることなく、逆に利用していきたいものである。
 コロリ数に一喜一憂する姿はあまりみっとも良い態度ではなかろうし、コロリ数を増やすためには地道な努力と、HPの中身を充実させる精進が必要であろう。それ以前にコロリ数を競うのがHP制作の目的ではないはずだぞ。

 念のため断っておくが、私だってアクセス数の単位が「ヒット」というくらいは知っているからね。

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