2009年6月3日(水曜日)

儲かってますか?



さて、多くの人が興味をお持ちであろう「収入」の実態。
「アニメの仕事は儲からない」という定説は本当か!?
いや、疑うまでもないんだけど。
まずは「職種別」の「平均年収(アニメ以外の収入を含む総収入)」

【職種】 【年収(単位:万円)】
・絵コンテ−−−−454.5
・監督−−−−−−−495.0
・演出−−−−−−−333.6
・総作画監督−−−513.1
・作画監督−−−−399.5
・原画−−−−−−−232.5
・LOラフ原画−−166.2
・第二原画−−−−102.0
・動画チェック−159.7
・動画−−−−−−−105.9

監督で年収約500万……。
監督が業界における「出世」の頂点というわけでもないだろうが、しかし作品を代表する立場の報酬が月に40万そこそこというのは、かなり寂しいのではないか。
仕事の仕方にもよるが、割に合わない報酬に思える。
もっとも、制作過程の川下にいる人たちに比べれば真っ当な生活を送れるレベルではある。

LOラフ原画から動画までが年収100万円台……。
月収にすると、動画が「8万8.250円」。
平成の日本の話なのか。
仕事がないのではなく、毎日10時間以上働いてこの月収だ。
アニメーション制作会社の大半は東京に集中している。
東京での生活費が「8万8.250円」では家賃、光熱費を除くと食費を捻出することも難しい数字だろう。
数年前のこと。私の紹介で動画職に就いた娘さんがいた。才能のある子だと思った。紹介した手前、彼女の様子が気になるので、時折仕事の様子を見に行った。
ある時、彼女は食事中だった。食べていたのはメロンパンである。
「御飯が菓子パンで大丈夫?ちゃんと食べてる?」
「いえ……もう一月くらい菓子パンしか食べてない」
落涙しそうになった。
ちゃんとした食事をご馳走するくらいしか出来ることはなかった。
確かに手の遅い子ではあった。当時のその制作会社では、単価以外の手当はなかったはずで、動画の新人が単価だけでは「一月菓子パン」ということにもなってしまう。
その子は離職した。
能力がもったいないと思った。
別の会社に就職し、しばらくして後に仕事場に顔を出してくれた彼女は、びっくりするくらい健康で、年相応の輝きを身にまとっていた。
そのこと自体はとても嬉しかったが、しかしやっぱり落涙しそうになった。
アニメ業界って、いったい……。

これは別に珍しい話ではないだろう。
近年でも、知り合いになった多くの動画マンが、似たり寄ったりの事情で仕事場を離れていった。
業界で最も苦しい立場に置かれている動画職で生きるには、親元に暮らしているか、親からの仕送りでもないと生活はアクロバットみたいなものになる。
実際、聞くところによると新人動画を採用の際に、「親元で暮らしているか」「仕送りは期待できるのか」といった基準が採用の合否に影響を与えているケースもあるとか。
作画の能力や可能性より、低賃金で暮らせるのかどうかが優先されるというのはいかがなものか。確かに現実的で切実な問題ではあるとは思うが。
しかしそれは「未来の切り売り」ではないのか?

原画の232.5万円というのも若いうちならともかく、30歳を過ぎてこの年収だとかなりつらい数字だろう。
知り合いの超有名ベテラン原画マンに聞いた話。
この人は、手も早く仕事の内容は常に超一流で、アニメーターの鑑である。
彼は基本的に劇場作品の月拘束という立場だが、40歳を過ぎてからのある一年間、原画の単価ばかりで仕事をしたという。
その結果がこうだ。
年収300万円。
しかも、「この人ならば」ということで、通常の単価に上乗せしてもらうことが多くてこの結果だったという。
「アニメーターは単価が基本だよ」
手の遅いアニメーターにそう苦言を呈していた人間にして、やはり単価ではとても食えないという。
誰よりも早くて誰よりも上手いこの人で、単価仕事だと300万。
絶望的な数字に思える。
あまりに古いたとえで恐縮だが、野球で言えば「王、長島クラス」で300万という数字である。たとえをもうちょっと新しくするか。業界の「イチロー」が300万ということにしよう。
後に続く、それより遅くて上手くない原画マンがどういうことになるか想像に難くない。「夢」なんか見あたらなくなる。
グラウンドにお金は落ちているかもしれないが、作画机の上には何が落ちているのだろう?
夢の残骸。
話が湿っぽくなっていけねぇや。

今度は「年代別の平均収入」を見てみる。

【年代】 【収入(単位:万円)】
・20代−−−−−−110.4
・30代−−−−−−213.9
・40代−−−−−−401.2
・50代−−−−−−413.7
・60代−−−−−−491.5
・70代−−−−−−−30.0

業界では「年齢×1万円=月収」を稼げたら「いい方」という話をかつて耳にしたが、確かに上記の平均から考えると、それなら確かにかなりましということになる。
30歳で月収30万円、年に360万。
コンスタントに稼ぐのは容易な数字ではない。

「収入の満足度」は以下の割合となっている。

・十分に満足している−−−−−2.7%
・満足している−−−−−−−−−7.8%
・普通−−−−−−−−−−−−−20.0%
・多少の不満がある−−−−−−35.0%
・大変不満がある−−−−−−−34.6%

収入の具体的な数字を見れば「不満」が計70%に達するのも頷けよう。
特に動画や20代の低収入は目を覆わんばかりの状況といってもいい。
アニメーター・演出の「年代別平均収入」「国民全体の平均」(国税庁、平成18年分 民間給与の実態統計調査による)と比較してみる。

【年代】【収入(単位:万円)】

20〜24歳−−−−251
25〜29歳−−−−343 [国民20代平均−297:アニメ20代−110.4]

30〜34歳−−−−404
35〜39歳−−−−465 [国民30代平均−434.5:アニメ30代−213.9]

40〜44歳−−−−499
45〜49歳−−−−505 [国民40代平均−502:アニメ40代−401.2]

50〜54歳−−−−503
55〜59歳−−−−490 [国民50代平均−456:アニメ50代−413.7]

60歳以上−−−−370 (アニメ60代−491.5)

「60歳以上」を除いて、すべての世代において国民全体の水準を下回っているが、20代と30代が世間の平均からすると三分の一から半分である。
「アニメの仕事は儲からない」という定説は真実といってよいだろう。そんなことは知ってたけどさ。
「儲からない」どころか、若いうちはほとんど「食えない」と言っていいほどだ。
「コンビニのバイトの方がよほど食える」
とは昔よく耳にした話だし、現在でも実際にそうだろう。
しかし、バブルの頃に「バイトや派遣で食っていける」と口にしていた人たちの末路がどうなったのか。少なくともその一部は、近頃の新聞・ニュースで御案内の通りの状況であろう。
バイトと違ってアニメーションの仕事は、仕事を重ねた時間だけのキャリアになる。一応は特殊技能が必要な仕事だ。
とはいえ、単純に金銭を得るだけの仕事として捉えれば、こんなにひどい仕事もない。
いくら「好きで選んだ仕事」でも、程度というものがある。
仕事がなくて食えないのではなく、仕事をし続けてもろくに食えないのは、やはり異常ではないのか。

これらの問題は「予算が上がれば解決される」などといったシンプルでスイートな話ではない。
そもそも商業である以上、見込める売り上げ以上の予算が投入されるわけがないのは道理であるし、巷間悪の権化のようにいわれる代理店が介在しなくなっても予算が増えるなんて楽観はあるまい。おまけに、この不況の影響でただでさえ制作本数が減っているのが現状だ。
よしんば予算が増えたところで、動画の単価に反映されることなど期待できるはずもない。
たとえばTVシリーズの予算が一本につき100万円増えたところで、増えた分はまずは素早く「上流」に手厚く配分されるに決まっている。
どんぶらこっこ、どんぶらこ。
川上から流れてきた大きな桃は、おばあさんとおじいさんがみんな食べてしまいましたとさ。
川下に配分される桃が残っているわけがない。
せいぜい、種とかね。
蒔くか、種。
実りを収穫できるまで仕事を続けられればいいけれど。

予算の枠は大きな問題だし、予算が増えればそれに越したことはないとは思うが、私個人としては予算の「配分」に異常な問題があるとしか思えない。
そこを改善しない限り事態はまったく解決しないと思うのだが、この「配分」にまつわる問題はここではひとまず差し控えておきたい。
何しろここで紹介しているデータはJAniCAの努力による成果であり、JAniCAの思惑に抵触するかもしれない問題なので。
ただ、これだけは指摘しておきたい。
政治家や官僚と同じで、どこの世界でも一旦手にした「既得権益」(その大小に関わりなく)を手放したがる人間などいるはずがないのである。
自分たちの給料や権益を損なう法案を提出する政治家や役人がいるわけないだろう?

トラックバック・ピンバックはありません

トラックバック / ピンバックは現在受け付けていません。

現在コメントは受け付けていません。