2010年1月5日(火曜日)

年賀状のレシピ・その1



昨日4日が仕事始め。
私のことだからぼんやり電車に乗っていたら荻窪の仕事場に出社しかねないので、気を引き締めて中央線を降り、丸ノ内線に乗り換える。
仕事場は遠くなり電車の乗車時間が増えたが、その分読書の時間が確保されるのはありがたい。
昨日は正月期間支度に持ち帰っていたノートパソコンという重りをカバンに詰めていていたので、その分携行する本は薄い文庫にしておいた。近頃は体力に自信がないので(元々ないが)、なるべく身体をいたわらねばならない。
読んでいたのは『はい、泳げません』(高橋秀実/新潮文庫)。
これが実に面白い。何しろ「史上初、“泳げない人”が書いた水泳読本」である。
去年の暮れにこの著者の『トラウマの国ニッポン』を初めて読み、すっかりファンになってしまった。続けて『やせれば美人』、『からくり民主主義』(いずれも新潮文庫)を読んでいた。いずれも爆笑ものである。

仕事始めというと聞こえはいいが、まずは段ボール箱と戦わねばならない。
箱を開いては棚に収める。ファイルやCD、DVD、小物類は可愛いものだが、真打ちは何といっても本である。監督部屋、共有スペースそれぞれに収める本を合わせると20箱近いのではないか。
開けれども開けれども続く本の山。
写真集や画集など重たい本を数冊持って、しゃがんだり立ったり伸びたり。まるでトレーニングである。
「運動不足解消のいい機会じゃないか!」
と、思いこもうとしても足腰は不機嫌になるばかりだ。折角正月休みで回復しかけたのだが、今日はまるで他人の足腰みたいになっている。
だが。荷物との格闘は今日もまだ続くのである。

話は少しさかのぼって年末年始。
元旦といえば年賀状である。
私の場合、届けられる年賀状を楽しみにするのではなく、作るのだ。
難しい言葉で言えば「泥縄」である。
今年の年賀状制作は、年も押し詰まった大晦日31日午後から開始。遅いよまったく。
「描かなきゃ描かなきゃ描かなきゃ」と思いつつちっとも手が着かない有様は仕事と同じである。
「あの設定描かなきゃ」「コンテ描かなきゃ」「レイアウトチェックしなきゃ」「シナリオ書かなきゃ」「インタビューのテキスト書かなきゃ」等々。
堆く積まれた「先にやらねばならないこと」を掻き分けて仕事をしているのだから、年賀状が大晦日に着手されるくらい致し方ない。

とはいえ少々困った。
何しろ、12月21日以来引っ越しと大掃除の連続で、絵を描いていない。それに自宅で絵を描くのは去年の年賀状以来のこと。勘が鈍っているに違いない。
「えーと……鉛筆はどこだっけ……紙は……と……あれ、消しゴムどうしたっけな……あ、ライトがないと手元が暗いぞ……」
勘以前に環境が鈍っている。
あれこれ用意を整え、ラフを描き始めたまでは良かったのだが、すぐに絵を描くことにすっかり自信をなくしてしまった。
「げ……描ける気がしないぞ」
絵柄はぼんやりと決まってはいた。
「虎に扮したロビンがガオーッ」
ちなみにロビンというのは新作『夢みる機械』の主人公なのだが、コンテで描き慣れているはずのロビンがまるで形にならない。
「……絵描き、廃業しようかな」
そんな思いが頭をよぎるくらいに情けない絵しか描けない。ま、普段からそんなものなのだが。

適当な鉛筆が見あたらなかったので、鉛筆立てに入っていたシャープペンシルでコリコリとコピー用紙上で線と格闘することしばし。何とかポーズが決まってきたので、ディテールを固めるべく、ネットで画像を検索する。
さすがにロビンはだいたい覚えているが、虎の扮装をさせるための「ネコ耳」やらアンパンみたいな「手袋」がどのようなものであるか記憶は定かではない。
「虎」「肉球」「ネコ耳」などなど、必要な画像を集めてディテールアップ。
この頃には随分絵を描く勘も少しは戻ってきて下描き終了。

001.jpg

省力化のために小さめに描いた下描きを、一旦スキャン。A4サイズに拡大して吐き出す。年賀画像としては無駄に大きいが、老眼には多少大きい方が清書の負担も少なかろうし、大きめにプリントアウトして新しい仕事場の彩りにするのも悪くあるまい。

「しまった、作業用のメガネを会社に置いてきちゃった」
加齢には不便が付き物であることだよ。
仕方ないので裸眼で清書する。筆記用具はそのままシャーペン。
「……清書出来るのかいな?」
清書の仕事から遠ざかっていたので、若干心配。
それに近頃は清書が億劫になってきている。だが、ラフな線は好ましくないのでなるべくちゃんと描く。
大掃除の際に出て来たA4のコピー用紙が上等らしく、線が滑って清書しやすくて随分と助かる。
一番面倒な清書をやっつけて、気が楽になる。これで半ば出来たようなものである。

002.jpg

これをスキャンして、一旦吐き出す。単なるコピーだ。このコピーに影とハイライトの線を描き加える。
後で分離しやすいように色つきのボールペンで描く。
「あ。赤ペンしかないや」
『夢みる機械』の設定を描く際は、いつも青で影の線、赤でハイライトを描くなだが、あいにく赤しかない。
「赤があっただけでも幸いだと思おう」
何事も前向きに捉えた方が精神は健全に保たれるはずだ。
さらに、虎柄を別紙に描いてアナログ作業は終了。
影のトレスラインを青に変換し、虎柄を加えるとこうなる。

003.jpg

素材のスキャンが終わって気がつけば3〜4時間も経っている。
着色は年明けにするとして画像作成作業は一旦終了。
晩のおかずを買いに行かなくちゃ。

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