2010年1月3日(日曜日)

謹賀新年2010



明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!!

デフレスパイラルに巻き込まれて感嘆符も安売りだ。
不況のせいか年末年始らしさの濃度も薄いようだが、それだけ目にも耳にもうるさくないのは喜ばしい。もっとも、ろくに外にも出ていないのでらしいのからしくないのか、よくは分からないが。
テレビの中は相変わらず年中正月のようだ。極彩色の氾濫。目も頭も悪くなりそうだ。
うちのテレビはニュース専門チャンネルと化している。

どうも久々の雑文書きで言葉が出てこない。
去年更新を中断して以来、いくら忙しいとはいえ、雑文を書くほどの暇が全然なかったわけでもないが、制作中の『夢みる機械』の圧迫により、精神のスペースが減少している。
年が明けたからといって、突如こころが解放されるわけもないが、いつまでも放っておくと本当に当ウェブが窒息死しかねないので、重い腰を上げて更新を再開してみることにした。
どれ、よっこいしょ。

腰が重いのは何も比喩ではなく、本当に重いのである。
引っ越しのせいだ。
自宅ではなく会社が引っ越した。
ただでさえ忙しい年末に引っ越しが重なり、仕事場の箱詰めと掃除、それに自宅の大掃除と一週間以上にわたって肉体労働を続けていた。おかげで腰が痛く重い。
5年ほど通った荻窪のビルを離れ、制作会社マッドハウスは新中野に移ることになった。懸命な方ならご推察の通り、世を覆う不景気の波に流されて新天地へ。
もっとも、荻窪駅至近という好立地にあった5年間の方がイレギュラーだったと私などは思うのだが。
分相応という言葉はけっこう好きだ。

荻窪のビルでの仕事は『パプリカ』と「オハヨウ」だけで、『夢みる機械』の本格的な制作は新中野でということになる。いや、すでに本格的に作ってはいるのだが。進捗状況は思うに任せない。
考え出すと気が重くなるので、『夢みる機械』の話は措いておく。

荻窪での制作本数は少ないとはいえ、それ以前に累積していた「財産」の量が膨大になっており、箱詰め作業にうんざりさせられた。
スタッフルーム共有スペースの整理に二日、私個人の荷物の整理に二日もかかった。私は監督部屋という形で喫煙スペースを用意してもらっているのだが、四畳半ほどの仕事場に収まっていた個人所有のものだけで段ボール箱で24箱。さらに、収まりきらない資料本などが共有スペースにはみ出しており、こちらを合わせると私個人で30箱を越えるほどになる。
これでは半ば会社に住んでいるみたいだが、『パーフェクトブルー』以来、『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『妄想代理人』『パプリカ』「オハヨウ」、そして『夢みる機械』と、マッドハウスで仕事を続けているのだから資料の本や本篇素材だけでも膨大になろうというもの。
デジタルに変わってからは、セルや背景もデータになったが、『千年女優』などはまだセルが残されているし、デジタルによる制作でも原画などは「物」としてその存在を大きく主張している。
引っ越しを機会に少し整理することにした。

どのタイトルも制作中には、バックアップあるいは参考用としてレイアウトのコピーを取っているのだが、『東京ゴッドファーザーズ』と『パプリカ』、それに『妄想代理人』の一部話数のレイアウトが全カット分、束になって保管されていた。これを潔く廃棄した。
『夢みる機械』のスタッフと動画の子たちに好きなものを「形見分け」として持って行ってもらい、残りは全部処分。
いい気分だ。
原画のオリジナルが入ったカット袋も、スタッフで仕分けして保管するものと処分するものそれぞれを箱詰めした。
どの原画も見ていると懐かしいし、捨てるのも実は気が引ける。
教育用の素材として活用するなり、好きな人の手に渡るように出来ればいいのだろうが、そんな機会を考える方がよほど面倒くさい。
私の哲学はこうだ。
「面倒くさいに勝るものなし」
だいたい、今 敏が監督したからといって、使用素材の管理までなにゆえ監督が担当せねばならんのだろうか。
ただ、気の利く制作進行の提言により、廃棄するはずの素材も一部保管されたようなので、イベントでもあれば有効活用される可能性も残されているらしい。

仕事場の箱詰めが終わったのが、12月の24日。
この段階で私の腰はすっかり愚痴っぽくなっている。
「……痛いし重いし」
毎年恒例となっている、スタッフのささやかなクリスマスパーティは段ボール箱に囲まれながら、シャンパンの栓を抜いた。
仕事場に溜まっていたいただき物のアルコールも、なるべく荷物を減らすべくこの機に消費してしまうことにした。
「ドンペリ美味ェ!」
「Overture(ナパヴァレーの赤ワイン)美味ェ!」
そんな高い酒を開けておいて「ささやかな」もないものだが、段ボールと掃除用具に囲まれて、しかも使い捨てのコップで上等な酒を飲むという「台無し」な行為はしかし悪くない。

25日から28日までの4日間は、古い仕事場にも新しい方にも入れないので、ぽっかりと休みになってしまった。
その分たまにはのんびりすれば機能低下が著しい身体にも優しいのだろうが、のんびりを楽しめるほど気分はのんびりしていない。仕事場の片付けと箱詰めで降りてきたせっかくの「捨て神様」(物を処分する勢いのことだ)なので、自宅の大掃除にも活用することにした。
当ウェブサイト同様に、長らく放っておいた自室も多くの物を処分し、年々溜まる一方の書籍やDVDも収まるべき場所を確保して整理する。
部屋と物を整理したら、頭の中も少しは整理された気がする。
自宅の大掃除にも4日かかり、この段階で私の腰は愚痴っぽいのを越えて恨みがましい言葉が多くなっていたのだが、29日には新しい仕事場に出社。
「……ちょっと……まだ続くんですか」
とは腰の弁。
引っ越しは箱に詰めるだけにあらず。締められた箱は開かれねばならない。

荻窪で丸ノ内線に乗り換えて新中野駅下車。地図を頼りに歩くこと7分ほどで新社屋に到着。
初めて目にする新しい仕事場は、「うん、悪くない」。
何より一番心配していたのは「いられる場所」だったことだ。
私は霊感のようなものにはとんと無縁だが、時折「いられない場所」に遭遇することがある。以前神戸で宿泊した某ホテルなどはあまりの「いられなさ加減」で、耐えきれずにホテルを変えたこともあった。
こうした場所にいると、みるみる精神から養分が奪われて萎えてくる。精神にも変調を来すし、実際身体も不調を訴えるので、仕事どころでないのである。
もしそういう「いられない場所」だったらどうしようかと心配していたのだが、大丈夫のようだ。気の利く制作進行の子も「大丈夫みたいですね」と言っていたので、一安心である。

新しい仕事場も全面禁煙だが、前の仕事場同様、監督部屋だけはパーティションで仕切られており快適に喫煙しながら仕事を楽しめる。
もっとも、私は煙草を吸えない場所になど仕事をしに行くわけもないが。
スペースは以前より少し広いようでありがたい。何より、以前は壁面にある空調設備メンテナンスのために、空調との隙間を30センチ程度確保せよというお達しだったが、今度は壁面ぎりぎりまで使えるのでスペースを有効活用できる。
とはいえ。部屋の中にぎっしり詰まった24箱を開梱するにはスペースが足りない。部屋から箱を出すことから始めねばならない。
「……もう勘弁してくれませんか」
腰に口があったら哀願するのではないかと思われたが、腰が二つもあるわけもないので働いてもらわねばならない。
箱を運び出して、机やスチール棚を配置。再び出した箱を運び入れる。
まるでパズルだ。
他のスタッフは、荷物はせいぜい箱にして数個なので、みるみる机周りの環境を構築しているが、私は監督部屋に収納する荷物を10箱、半分にも満たない数を開けたところで挫折する。
専門用語で言うところの「グロッキー(groggy)」というやつである。

それに、開梱作業中「偉い人」に呼び出されてしまったのだ。校舎の裏に。
「焼きを入れられる」に違いないと思ったのだが、連れて行かれたのは校舎の裏では無論なく、本館の会議室だった。我々『夢みる機械』班は別館である。
『夢みる機械』の芳しくない進行状況のことで御上からお達しでもあるのかと思ったのだがさにあらず、会社の人事や体制などが大きく変化することのお知らせだった。
なるほど、会社経営は世間で言われる通りにたいへんな時期である。
私も応分の一の責任は感じる。
別館へ戻るとき、年が改まったら『夢みる機械』制作に一層の奮励努力を心に誓う私がいたのであった。
「頑張るぞ!」
でも、まずは段ボール箱を開けなくちゃ。

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