2007年10月14日(日曜日)

JAniCA



昨日、10月13日(土)、「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」という団体の設立発表会見に参加しました。通称・ジャニカ。
JAniCA設立の趣旨や目的等については、ウェブサイトをご覧下さい。
http://www.janica.jp/

昨日の毎日新聞の記事から抜粋します。

(略)アニメ大国と言われながら、長時間労働と低賃金で人材離れが進むアニメ制作現場の労働環境を改善しようと、アニメーターや演出家が13日、「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」を設立する。アニメ業界でこうした団体ができるのは初めてで、賃金アップや残業代の支給を業界に訴えていく。
人気アニメ「北斗の拳」の監督としても知られる制作会社「スタジオライブ」(東京都板橋区)の芦田豊雄社長の呼びかけで実現した。JAniCAには約500人が参加。代表の芦田社長は「劣悪な労働環境を背景に国内では人材不足が慢性化している。このままでは、日本の制作現場は崩壊する」と語る。JAniCAは今後、国や地方自治体にも人材育成支援への協力を働きかけていくことにしている。(略)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071013-00000022-maip-soci

ま、早い話があまりに過酷で貧乏なアニメーターと演出家の待遇を改善していこうじゃないか、という目的で設立された協会です。
といっても、労働組合のような拘束力を持った団体ではありません。そういう側面も将来的には必要とせざるを得ないこともあるかもしれませんが。
昨日の会見には多くのメディアの方々が取材にいらしており、あらかじめ受け付けていた質問にJAniCAの代表や事務局が答える形で質疑応答がありました。その質問者の中に「赤○」さんと「○日新聞社」さんのお名前があったのは、ちょっと象徴的な感じがしましたが(笑)、特にそういう傾向の協会ではないでしょう。
JAniCAは設立されたばかりの協会で、現実的に何が出来るのかはまだ固まっていませんが、「まず作ってから考えよう」という在り方も悪くありませんし、そういう態度でもないと何事も始まらないように思えます。
実際問題として、協会の活動によって制作予算が増えたり、すぐにアニメーターのギャラが上がるということは考えにくいとは思いますが、何もしないよりは遙かに「まし」ではないかと思い、私も発起人の一人に名前を連ねました。
「どうせやっても何も変わらない」
「誰かが何とかするだろうから私には関係ない」
「昨日までこれでやって来られたんだから明日もそのままでいい」
こうした「木っ端役人」みたいな考え方が、己の首を絞めることになるのですが、その構図を理解できないから「木っ端役人」になるのでしょう。「木っ端役人」に溢れた社会ではわずかなことでも改善するのはたいへんな労力が必要になると思われます。
でも。やらないより「まし」。

JAniCAの中心になっている方々それぞれにも、活動の捉え方に幅があるでしょうし、私には尚のことよく分かりませんが、こうした協会の設立によって即効性はなくても、わずかずつでもアニメーション業界とそれを取り巻く人たちの意識が改革されることを期待しています。
アニメーターや演出本人たちの意識が変わることが先決。
私個人としては、JAniCAがフリーランスであれ社員であれアニメーターや演出家たちのゆるやかなネットワークとして機能してくれることをまず期待しております。
インターネットが普及したとは言っても、真に必要な情報は手に入りにくいものですし、それ以前に自分にとって真に必要な情報がある、ということ自体を知らないケースも多々ある。
あることさえ知らなければ、知ることはなかなか難しいものです。
ですから、業界の先人がそれぞれ知り得た情報を提供し、それら断片が組み合わさることで大きな「地図」になってくれれば、と思います。そうした「地図」があれば、後続の人たちが少しでも業界の道を歩きやすくなるのではないでしょうか。
たとえば、いきなり生々しくも具体的ですが、一本のアニメの予算配分とかね(笑)
もっとも、先日まったくその通りの情報がネットに流出したとの噂を聞いて、早速検索したら某制作会社の某シリーズの「予算表」が出てきました。
いやぁ、リアルでお馴染みの数字が並んでいましたね。
眺めているとあれこれ考えてしまいますね。
「作品ごとに制作予算には大きな幅があるのに、どうして動画の単価はさほど変わらないんだろう」
「動画と仕上げでどうしてこんなに単価の差が少ないのだろう」とかね。

単純に制作予算全体が上がれば待遇が改善されることもあるでしょうが(もっとも予算全体が上がることなど現実味が薄い)、上がったところで上流でその分を抜き取るでしょうから、結局は大差がないことになる。予算全体も問題だとは思いますが、私はそれよりも予算配分の仕方そのものに大きな疑問を感じることが多い。
そこを改善する方が先のような気がしますが、政治家や役人と全く同じく「既得権益」を手放そうとしない人たちが分厚い層をなしているのはどこの業界も同じでしょう。私もその一人にカウントされる向きもあるでしょうし。
以前、自分の監督作の予算表を見ていたときのこと。
「うーん、苦しいねぇ……どこか減らせるところはないのかね。あ、誰だこんなに取ってる部署は!?」
私でした。
そうは言っても、最大で原作脚本キャラクターデザイン美術設定絵コンテ演出レイアウト原画修正背景直し撮出しその他諸々の素材作成まで兼ねる監督なんですから不当と後ろ指指されることは無いはず(笑)

不本意なデータの流出とか、具体的なタイトル名を明らかにするのはかなり問題があるとは思いますが、それらを伏せる形ででもサンプルケースとして具体的な数字を公表した方がいいのではないかと思っています。
テレビアニメ、OVA、劇場用で予算は大きく違いますし、それぞれにも幅が大きくありますから、TVシリーズ「A」「B」「C」……といったようにそれぞれのケースで予算配分がどうなっているのか、分かると参考になるのではないでしょうかね。
たとえばアニメーターにとっては単価がいくらなのか分かれば、自分の仕事がましな方なのか、ひどいものなのかが分かるでしょうし、あまりに理不尽な額ならば交渉する、他の仕事場に移るなどの対応も出来るというものです。
金を話をするのはみっともない、という傾向がいまだに強いのかもしれませんが、フリーランスで生きて行くためには報酬の交渉は死活問題です。
私は随分戦ったことがあります。
あるケースではこんな。
「エ?脚本買い切り40万!? 美術設定レイアウトは単価!? ふざけるのもたいがいにしていただきたい」
そう言って怒ったら、次回の交渉ではこんな条件が提示されました。
「月拘束40万」
想像のつかない方のために簡単に解説いたしますと、当初の提示条件と後の提示条件では総額で優に2〜3百万からの差が生まれるわけです。
どういう予算配分だったのでしょうか。理解不能。
言ったもん勝ち、ってこと?
そうでしょうとも。

予算配分が分かってくると、同じ仕事場にいながらろくに働きもしない人間が立派な月給を取っていたり、あまりに不必要なほどの重点配分がなされているケースなどが見えてきます。それが知られてまずい人もさぞや多いとは思いますけどね。
どうして同じ程度に使えない新人なのに制作進行は15万程度の月給で動画は5万円なのでしょう。
どうして原画動画撮影のためのコピー取りより動画の報酬は安くされなければならないのでしょう。
デジタル化のしわ寄せを一手に引き受けた動画なのに、どうして考慮されないのでしょう。
とかね。
予算配分の他にも、「版権イラスト」の報酬というのも長らく深い霧に包まれている領域で、アニメ雑誌やパッケージのジャケット、ポスターなど色々なケースに分けて報酬が分かれば、そうした仕事での交渉の参考になるのではないかと思われます。ケースバイケースではあっても分からないよりはましです。
もちろん金銭面以外でも、ネットワークとしての機能はたくさんあるでしょう。フリーランスが仕事を選ぶに当たっては、知り合いの業界人から仕事を紹介されることが大半だと思いますが、JAniCAそのものだけでなく、そこに参加している人の人脈によって仕事の選択範囲が広がれば良いのではないでしょうか。
ともかく、まだまだ具体的な活動については不明な点も多いでしょうが、JAniCAの活動に期待したいと思います。新聞記事によれば、こうした団体の設立は初めてということですし、即効的な成果を期待するよりも、存続させて行くことが大事じゃないでしょうか。
だって、JAniCAが失われたら、次にこうした団体が設立されることは不可能に近くなるように思えますからね。
何しろ、アニメーターや演出家などは、その根本は「趣味人」や「オタク」的な気質が強く、身の回りのこと以外には視野が到達しにくい人が多い。世間から絶縁されているような人が目立ちます。
だいたい「団体」とか「組織」が肌に馴染まないからこうした仕事をしていることが多い。だからこれまでJAniCAのような協会も出来なかったのでしょう。
逆に机の周りにしか目を向けない人が多かったからこそ、現在の日本のアニメーションの技術が鍛えられ磨かれて来たわけですが、その功罪の半面が自分たちの仕事を窒息させることにもなったと言えます。
私も応分の一の責任は感じる者です。微力ながら協力したいと思います。

昨日のJAniCA設立発表会見は「杉並アニメーションミュージアム」が入っている「杉並会館」の一階で行われたのですが、会場へ向かうべく自宅の最寄り駅から電車に乗ったら、ポンポンと腕を叩かれました。
「あ、沖浦くん」
『人狼』監督の沖浦啓之くんでした。おお、久しぶり。『パプリカ』でもお世話になりました。
沖浦くんもJAniCAの発起人に名を連ねていて、会見に向かうところでした。
ちなみにこの日、10月13日は沖浦くんの誕生日。私が前日の12日。だからどうしたということでもありませんが、とりあえずは
「おお、誕生日おめでとう」
「ああ、今さんも昨日おめでとう」
いい年した男が電車の中で互いの誕生日を祝い合うという光景もなかなか不気味なものがありましょう。
沖浦くんが41、私が44。いやあ、どう見ても私の経年変化の度合いが遙かに大きいな(笑)
久しぶりに会う業界人とは決まって仕事と噂話に話が咲くもので、道すがらあれこれろくでもない噂話に笑いました。
「今さん、○さんが□□されたって聞いた?」
「知ってる知ってる、去年のことでしょ。去年のうちに△△したって聞いたけど」
「○○○で▼▼の仕事してたらしいけど、今どうしてるか知ってる?」
「聞かないなぁ、××したって話は聞いたけど」
「ええ!? ◎◎したんじゃないの!?」
「××する前には◎◎してなきゃ無理だろ」
全然、分からない内容ですいませんが、分かるとまずいことなので(笑)
会見場では井上俊之さんも姿を見せました。井上さんもJAniCA発起人の一人です。
現在関わっている作品がエライことになっているらしく、一刻も早く仕事場に戻りたかったようでした。
「今まで仕事してきた中で一、二を争う状態」
だそうで、そりゃまた本当にエライ状況です。
「いやぁ、○○まではまだ何とかなるだろうけど、それ以後はもう▼▼▼で撒くことになるかもしれない」
「でも、■■■用に直したりするんじゃないの?」
「それが、△△と○○○がもう××でさ」
以下、このような話ばかりになるので切り上げます。

JAniCAの活動に期待しつつ、同時にアニメーターや演出の仕事の仕方も多々反省して行かなければならないと感じた次第です。

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