2007年11月19日(月曜日)

たわけて神戸・その6



翌朝。10時半に起床すると、脳はまだアルコールに蝕まれている。
再びまたもや同じ書き出し(笑)
懲りない「たわけ」である。
入浴して酒を抜くのも前の三日と同様だが、体内に残留しているアルコールは昨日よりさらに増えている。うう、しんどい。
ドリップバッグ式のコーヒーは、規定の一人前の量では薄くなるので、1.5倍に増量して濃いめにしてみる。
「……あんまり変わんないや」

正午、チェックアウト。マッドハウスHさんはすでに帰京している。
ホテルのカウンターにメッセージが届いていた。
「新幹線の中で肉まんの匂いをぷんぷんさせながら帰って下さい」
課長からだ。「蓬莱551の豚まん」10個のお土産ある。
夕べ、バーで「豚まんが美味い」という話をしたからだろう。
ありがとう、課長。
メッセージにはこんな気遣いも記されていた。
「重たいっちゅう話もありますが」
その通り。

かさばる荷物と重たい豚まんはホテルのクロークに預かってもらい、軽く腹ごしらえをしてインスタントの観光に出かける。雲行きが怪しいので近場のロープウェイで山に登ってみることにする。
漠然と「山」とか「六甲山系」としか認識していなかったが、正しくは「世継山」というらしい。気の重くなるような名称だ。ここにかかる「新神戸ロープウェー」を上がると「布引ハーブ園」がある。
新神戸ロープウェーは別名「神戸夢風船」。丸みを帯びたゴンドラからイメージされた名称と思われるが、歴とした成人男性が乗り込むには相応しくないことこの上ない。
なぜ世の中はすべて婦女子に阿るのだ。「夢みる夢子ちゃん症候群」と名付けよう。
夢みる夢子ちゃんの夢風船で揺られること10分。
だがあいにくの曇天で山上からの見晴らしはいいとは言えない。
眼下には三宮の風景が広がる。
「わっはっは、この愚民どもめ!」
高いところに上がると人間はバカになりがちだ。高いところを好むのはバカと煙と相場が決まっているので、タバコに火を付けて揃い踏みにしてみる。
海上には神戸空港が見える。その存在意義同様に霞んでぼんやりしている。
政治屋と土建屋の欲望で埋め立てた夢の島だな。
折角来た以上、布引ハーブ園も見て回る。そこかしこに「夢みる夢子ちゃん症候群」の症状が現れている。真っ黒な服装で謎の東洋人みたいな男はさぞや不似合いであろう。
不似合いついでに携帯のカメラで花を接写してみる。
ふと中崎タツヤ先生の漫画を思い出す。
確か男があれこれと書き初めをしている一編で、堂々とこんなことを墨痕鮮やかに書き付けるのである。
「女は花が好き」
月曜日の観光地は客の姿はまばらだが、中年や熟年の女性同士のグループが目立つ。やはり「女は花が好き」。この年代の女性たちは子供も自立し、自分の楽しみを優先できるようになったのだろう。観光であれショッピングであれ、率先してお金を落とすのは女性であり男性はそれに付随することになるのだろうか。ということは「夢みる夢子ちゃん症候群」が遍く日本を覆うのは仕方ないということなのか。
世の女性の大半が「夢みる夢子ちゃん症候群」でもないと思いたいが、つまりはこういうことか。
「女性はいくつになっても夢みる夢子ちゃんであって欲しい」
誰の欲望だ?

夢風船で下界に戻ると、雨がぱらつき始める。運が良かった。
我々と入れ違いに夢風船に期待を膨らませて上がってくる女性ばかりの団体があった。
「あぁ〜降ってきたよぉ」
「えぇ、やだぁ」
やだっていうな、夢みる夢子ちゃんめ。

夢みる夢子ちゃんウィルスに少し感染したので、珍しく私もショッピングとやらを楽しむことにする。旅行先で買い物をするなんて滅多にない。
新神戸駅そばのショッピングモールに「Adolfo Dominguez」というスペインのブランドが入っており、ここで秋冬物を物色してみる。
このブランドは以前吉祥寺のTAKA−Qに入っていて、時折世話になっていたのだがいつの間にか置かなくなってしまった。私は別にブランドにこだわるわけではないのだが、国産のブランドは体型に合わないことが多くて困る。どうも私は腕が長いようである。
普通のLサイズだと袖丈が足りず、LLはサイズが用意されてないことが多い。
その点このインポート物は私の体型に合致するし、デザインも好ましい物が多く、何より値段も手頃である。
おお、店頭には好ましい色とデザインが並んでいる。出会った途端に懐かしい、というかすでに私が持っていても不思議ではない物のような気がする。つまり私の買う服は変わり映えのしない物ということか。
ニットを中心に選ぶ。サイズも理想的だ。
「あ、この黒いいな、お、この濃いめのグレーもいいじゃないか、あ、この黒もいいな、たまには薄めのグレーもいいかな」
というわけで、私の買い物はグレースケールの暗い方半分の範囲に収まることになっている。先週も吉祥寺で秋冬物を仕入れたのだが、その内訳はやはり変わり映えしない。
黒の上下、黒のハイネック、黒とダークグレーのタートル2枚。
新しいアイテムを仕入れても、以前から持っていたものと全然区別がつかない(笑)
部屋の中に黒っぽい服ばかりが並んでいる様は、まるで『バットマン』のクローゼットみたいである。
店内を物色中、たまには焦げ茶もいいかな、と思ったのだが家内から素早いアドバイスが届く。
「焦げ茶はダメだよ。“衰退”の色だから」
そ、そうなのか。全国の焦げ茶愛好者から猛反発が来そうだが。
お会計を待つ間にシャツ一枚とついでにネクタイも一本。
大漁大漁。
お会計も大量(泣)

ホテルのクロークで荷物をピックアップして新神戸の駅へ。
新幹線のチケットを確保して、新装なった駅のショップを物色する。以前は小さな店が並んでいるだけだったが、スーパーマーケットみたいに統合されている。
スエヒロの「天むす」を買って、さてお土産でも買おうと物色していて不意に思い出した。
「あ。札幌に肉を送るんだった」
札幌の私の実家から時折北海道の海の幸を送ってもらっているので、お返しをする予定であった。危うく忘れるところだった。
すき焼き用の神戸牛を配送してもらうことにする。
伝票に実家の住所を書き入れながら、しかし頭の片隅ではこんなことも考えている。
「ホントに神戸牛かどうかは怪しいもんだが」
世の中は偽装ブームである。
安手の牛肉だってラベルを貼り替えさえすれば立派な神戸牛の出来上がりになる。
たとえ神戸牛には程遠い味や食感であっても、食べ付けてない人間に分かるわけがないだろう。
折角贈り物をするというのに夢のない人間であることだよ。
偽装でないことを祈ろう。

新神戸15時15分発の「のぞみ」は全席禁煙車だった。最近導入された新型車両で、乗るのは初めてだ。全席禁煙といっても喫煙所は用意されているし、その近くに座席も確保したので問題はない。
新しいだけあって、車内は快適である。床に敷き詰められた絨毯の毛もまだしっかりと立っている。お恥ずかしい話だが、私は新幹線に乗るとすぐに靴を脱いでしまう。ホテルから失敬してきた薄手のスリッパは車内用に大変重宝する。
新型車両の座席では変わったところに読書灯がついている。シートの背もたれ、肩が来る上あたりに小さなライトがついている。なるほど肩越しからの光ならば本も読みやすいかもしれない。
お、手すり部分にはコンセントもついている。
携帯電話の充電、パソコンの電源として使用してくださいとのこと。バッテリー切れの心配をせずにパソコンを使えるのはありがたい。
ビールを飲んで「天むす」を食べる。定番だがこれは美味い。
駅弁というのは得てしてうんざりするほど甘ったるい味付けで、添加物の見本市のようになっているが、スエヒロの「天むす」は飽きずに美味しく食べられる。だからといって賞味期限や材料が偽装されていないという保証はないが。
美味しく食べられて腹をこわさなければ良しとしよう。
食ったら寝る。起きたら読書。
至福だ。
連日の痛飲で内臓には巨大な負担を強要したが、笑いと美味いに溢れた4日間であった。
間もなく東京駅に着くというアナウンスが日常へのドアを開く。
さて、仕事だ。

トラックバック・ピンバックはありません

ご自分のサイトからトラックバックを送ることができます。

現在コメントは受け付けていません。