2009年5月7日(木曜日)

苦難の女子よ



「高速道路が¥1000乗り放題だって?その効果で大渋滞?……へぇ、温暖化とCO2削減の話はどうしたんだ?時代はエコじゃなかったのか?」
私は素直にそう思ってしまうので、インチキな煽動に乗せられて素直に道路を埋める車の列とその中で群発しているであろう小さな悲劇を想像して皮肉な笑いを浮かべてしまう。
きっと大渋滞の構成者の中には「マイ箸」なんて使っちゃって「私はエコの人」なんて思わされちゃってる人間だっていたことだろうな。
排気ガスをまき散らす大渋滞を伝えるニュース映像の後に、南極で氷の隙間に落ちる白クマのインチキな映像でもつないでみれば面白いだろうに。
映像のモンタージュがどういうことが一目で分かるはずだ。
ま、エコだの環境問題だのと言ったところで、景気回復という名の金儲けが優先されるのが正しい世の中なのであろう。正確にはエコと環境問題が金儲けの種に他ならないのだが。
ともかく明日のことより今日の金、ってなもんだ。
たまには世間に倣って、「天下の回りもの」をいっそう回すべく私も黄金散財週間に参加してきた。

例年ならば、ゴールデンウィーク中はモニター前で先のような笑いを浮かべていたのだが、今年は珍しく混雑を形成する一人となった。
新幹線が全席満席なんて光景を初めて見た。
ゴールデンウィークに旅行をするなんて珍しいが、こと舞台の千代子たちのためとあらば、早めにホテルを抑え新幹線のチケットも用意するのである。
当サイトのトップページでも御案内していたとおり、2日〜4日までの三日間、愛知県長久手町で開催された演劇博覧会「カラフル3」において、舞台版『千年女優』が上演されるということで、「TAKE IT EASY!×末満健一『千年女優』」の一ファンとして全3回を観劇してきた次第である。

いやぁ、実に素晴らしかった。
何より美しい舞台であった。
セットがないにもかかわらず、ライティングや衣装やメイクが補い、広い舞台を大きく使った演出と女優さんたちの運動量によって、かつて見たと変わらぬ美しさが湛えられた60分であった。
90分が60分に短縮されたことで、私にとっては『千年女優』の骨格がより露わになっていた点が興味深かったし、何か怒濤の『千年女優』を見せてもらった気がしている。
何というべきか、「心」よりも「魂」が強調された印象だった。

私は大阪公演も3回見ていたこともあり、今回は観劇中アニメーション版『千年女優』の映像がダブることもなく、純粋に舞台版『千年女優』を楽しめたことも大きな収穫であった。
見れば見るほど面白く、正直、原作が誰なのか忘れるほど見入ってしまった。
そして見終わってふと思い出してこう思う。
「でかしたぞ!若かりし頃のオレ」
こんな面白い舞台のきっかけを作れたことについては、褒めてやってもいいと思った。
小耳に挟んだ話だと、どなたかのブログに「『千年女優』原作の監督一行が会場の喫煙所でベタ褒めしていた」といった記述があったと聞いたが、その通りだ。
特に、奇跡とさえ思わせる二日目の上演については「100%ベタ褒め」である。
で、他の日はどうなんだ?という話になるが、確かに初日と三日目は見ているこちらも別の意味でハラハラドキドキする面があった。

まず初日は、何といっても「制限時間」にハラハラした。
今回の上演時間は60分。演劇博覧会という性格上、出演する劇団は同じ条件。
プロデューサー水口さんの5/1付けブログにはこうあった。
http://d.hatena.ne.jp/mizugucchi/
「いやもうね、ほんと正直、今一番の心配事は制限時間。制限時間は60分。60分以内に終わらなかったら、緞帳が降りてくるそうです。これまでの通し稽古ではすべて59分台で終わっているので、大丈夫だと…大丈夫だと思うのですが。」
この記述を事前に読んでいたため、初日は見ているこちらがたいへん緊張してしまった。何しろ「60分以内に終わらなかったら、緞帳が降りてくる」のである。あな怖ろしや。
結果的には3回の上演はいずれも見事59分台のランタイムだったと聞く。
また演出の末満さんの5/1付けのブログにも不安な記述があった。
http://yaplog.jp/suemitsu/
「通常では仕込み二日&初日の半日を使って行う舞台リハーサル。今回の演劇博覧会カラフル3で、各カンパニーに与えられたリハーサル時間は2時間。」
「大阪の会場であったHEP HALLの倍はあろうかという広い会場。袖からセンターにたどり着くだけでも以前とは感覚が大きく違う。広くなった分、役者の体力の消耗も激しい。床にはパンチもリノの引かれていないので気を抜くとすぐに足が滑ってしまう。」
そんな諸々の「最悪の事態」を片隅に思いつつ見るのだから、見ているこちらの緊張が舞台を見る眼にフィルターをかけていたかもしれない。

そんな主観混じりの感想だが、初日は何しろ台詞が聞き取りにくいのが残念なところで、初見のお客さんには甚だ内容が伝わりにくかったのではないかと思われる。特に、音楽がかぶるとほとんど台詞が分からないことになっていた。もっとも、この点についてはマイクの不首尾が大きかったようで、翌日には飛躍的に改善されていた。
また、本来90分のものを60分に圧縮短縮しているせいもあり、そこに初日という緊張のせいか台詞が全体に「間」が失われ、言葉も気分も「前のめり」になっていたように感じられ、それらも手伝って音声による伝達がかなり損なわれたのではないかとも思われる。
だからって、感動しない訳じゃないんだけど。私はすぐ泣けるし(笑)
すでに大阪公演を3回も見ている者としては、最初の音楽だけですぐ泣きそうになるのである。おそらく、最初の音を聞くだけで一瞬にしてラストまでの展開がフラッシュバックするためではないかと思われる。
音楽の威力、大である。

その偉大なマジックを担う音楽が突然「消えた」のが3日目。それもクライマックスのもっとも盛り上がる場面で、音楽と効果音が消え去ったのである。
その瞬間、鳥肌が立った。
「何しやがんだ!バカヤロー」
叫びはしなかったが、怒りで全身に汗が噴き出した。
某巨匠のライブならば「出た、マシントラブル(笑)」てなもんでご愛敬の一つにもなるが、まったくシャレにならない事態である。
間もなく音は無事回復したが、回復するまでの間あれこれと不安がよぎる。
「このまま音がなかったらどうしよう!?」
どうしようったって、どうにもしようがないんだが。
「音が戻ってきたときタイミングが合うのか!?」
何も出来ない観客のくせにやっぱり我がことのように、焦るのである。
しかし、驚いたのは音楽が消えている間に聞こえてきた足音の物凄さである。
3日目は、前から確か4列目で見ていたのだが、台詞以外の音がなくなったことで女優さんたちの走る足音がストレートに聞こえてくる。場面はちょうど、千代子が鍵の君からの手紙を読んで走り出した後。5人の女優さんがずーーーーっと走るシーンなので、5人分の走る足音が打楽器のように鳴り響き、空気を震わせる。
「……こりゃすごい」
別の意味でいいものを見せてもらったが、下手をすれば上演を台無しにするほどのトラブルに怒りと焦りを覚えた。
もっとも、後に楽屋でご挨拶した際に聞いたところによると、演じていた女優さんたちには意外と動揺がなかったらしい。
「続けていれば音は回復するだろう。戻ってきた音にタイミングは合わせよう」
まあ、他に対処の仕様もないのだろうけど。

今回の公演は、神戸を本拠地とするTAKE IT EASY!さんにとって大阪以遠の初めての遠征だったそうだが、立ちはだかる様々な苦難を乗り越えて3日間、果敢に走りきったように感じられた。
さすが千代子たち。
その奮闘の甲斐もあって、TAKE IT EASY!さんは「カラフル3」において「ご褒美」を賜ったそうだ。おめでとうございます。
なかなか気の利いたご褒美だそうで、次回『千年女優』上演につながるものだという。

苦難の女子に、私も続きたいものである。

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