2009年1月27日(火曜日)

千代子讃江・その3



1月16日金曜日。
三宮駅そばのドトールで軽食とコーヒーで腹ごしらえして、アートカレッジ神戸へ。そうだ、私は舞台版『千年女優』を見に来ただけではないのだ。仕事もせねばならぬ……と、思いつつも、脳の割り当ての大半は舞台に振り向けられている。すまんな、学生諸君。
通常通り、1年生2年生合わせて5時間(50分×5)の授業。それぞれ1時間ほど世間話をして、制作の進行状況を確認しつつアドバイスする。
2年生はじきに卒業だ。2年間のつきあいだったが、実に早いものである。
卒業後の進路が決まった人も、曖昧な人もそれぞれの健闘を祈る。
と、感傷を覚えつつも気持ちは千代子たちに向いているので、申し訳ないが授業をいつもより早めに切り上げて、すわ大阪へ。
快速のおかげで思ったより早めに大阪へ着いたので、会場に直行予定を変更して先にホテルにチェックイン。
いざHEP HALLへ。

会場へ上る展望エレベーターには、舞台版『千年女優』目当てのお客さんも乗っておられるようで、若い娘さんのこんな声が漏れ聞こえる。
「(トークショウに)原作の人も来るんだって」
ええ、どうもすいません。後ろに立っている無駄に大きい私がその人です。
おお、ロビーは人で溢れているじゃないか!
公演間近になって、グッとチケットの売り上げが伸びたとは聞いていたが、やはり大勢のお客さんを見るとホッとする。
私も監督作の公開初日は多少の緊張を覚えるもので、お客さんの入りはたいへん気になる。さぞかし舞台版関係者はホッとしていることであろう。
良かったね、千代子。

プロデューサーにご挨拶して、トークショウの打ち合わせのため控え室に案内していただく。
上演前、それも初演の直前ということで、楽屋のムードはテンションが上がっており、こちらもその雰囲気に高揚感を覚えて期待がいっそう高まる。が、身体は正直なもので、打ち合わせの前に出た言葉は色気も緊張もありゃしない。
「すいません、何か食べるものありますかね?」
乞食かお前は。
TAKE IT EASY!さんに差し入れられたたくさんの食べ物の中から、お寿司をいただく。元「惑星ピスタチオ」メンバー腹筋善之介さんから、と聞いた。
おお、何だか余計に嬉しい。
「トークショウでプレゼントするサイン色紙ですが、いま描かれますか?」
「えー……(ムシャムシャ)……と(ああ、美味しい寿司だな)」
「トークショウの時、現場で描かれてもかまいませんけど」
「あ……ええ……(鰻かな、これ)……じゃあ、そのぉ……それで(美味いね、ホントに)」
食べるのに夢中である。申し訳ない。
しかし、観劇中肝心なシーンなんかで腹の虫にでも鳴き出された日には、よけいに申し訳ない。モグモグ。

19時、末満さん率いるピースピットによる極彩色溢れる「予告上演」ののち、いよいよ舞台版『千年女優』本編上演。
背景にロヲタスを大きくあしらったシンプルなセットがとても素敵だ。
観客席からだと認識しづらいのが残念だったが、舞台上にはロヲタスの葉が円形に大きく配されている。なるほど、このサークルの中で輪廻が巡るのだな。
シンプルながらもイメージが絞り込まれている。いい仕事だなぁ。
暗転して、照明が灯るといつの間にか5人の女優さんが立っている。
静かで幻想的な光景だ。
美しいセットを見ただけでも、かなりグッと来ていたのだが、開巻早々の群唱でいきなり涙目になりそうになってしまった(笑)
『千年女優』をよく知る者にとって、舞台版冒頭の台詞は思わず「いきなりずるいぞ(笑)」と言いたくなるくらい、泣かせるものだ。
感動的な台詞を何しろ「×5」である。破壊力十分(笑)
しかもノスタルジーと可愛らしさが同居する音楽が追い打ちをかけてくれる。
脳裏にはアフレコ収録での感動的なシーンがいきなり甦り、その感動が重なり合わさって涙腺を刺激しやがる(笑)
「歳食うと……涙腺が弱くなるものかね……」
などと、表に出ようとする涙へカウンターを入れて押しとどめる。
いずれこの素晴らしく感動一路の舞台やDVDを見る人のために、中味についてなるべく具体的には触れたくないので、まだ舞台版を見ていない人は想像を逞しくして読んでいただきたい。
この台詞でいきなり舞台版『千年女優』の世界に連れて行かれてしまった。
素晴らしい演出により、いよいよ舞台版『千年女優』開演である。

3回目にしてようやく本編に辿り着くなんて、いつまでこのシリーズを続ける気なのだ、私。

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