2007年11月15日(木曜日)

たわけて神戸・その3



翌朝。11時に起床すると、脳はまだアルコールに蝕まれている。
前日と同じ書き出し(笑)
まったくもって「たわけ」である。
前日にならって風呂に入り、アルコールの排出に努める。
チェックアウトの時間が迫っているので暢気にはしていられない。ホテルの冷蔵庫にあったミネラルウォーターだけでは目が覚めないので、カフェインを摂取するべく缶コーヒーをあおる。グビッ。
「うう、甘い」
却って気持ちが悪くなる。

チェックアウト。この日宿泊するのは別なホテルで、そちらのチェックインの時間まで2時間ほどある。
とりあえず飯でも食べようということで、また蕎麦をすする。
前日と同じ店、前日と同じメニュー「鴨せいろ」。しかし盛りは普通で。さすがに大盛りを収めるには私の胃だって機嫌が悪い。
すまんな、内臓の諸君。私は暴君だ。
蕎麦を食べ終わってもまだ時間がたっぷりある。北野坂をノロノロと上がってみることにする。宿泊するホテルはクラウンプラザ神戸で、坂を上がっていった新神戸駅のすぐ隣である。
天気が良く、汗ばむほどの陽気だ。この日は祭日の土曜日。異人館のあたりには観光客の姿が多い。
新神戸の駅に隣接したショッピングモールで時間を潰して、さてチェックイン、と思ったら。
驚いたことに、ホテルの受付にチェックイン待ちの行列が出来ている。
行列が出来るホテルなんて初めて見た。
どうやらこの日、ホテルは結婚式のラッシュらしく、あちこちのお国言葉が漏れ聞こえるロビーは正装した人でいっぱいである。
チェックインを待ちながら思い浮かんだ、結婚式に対する素直な感想はこの通り。
「ふん。どうせすぐ別れるのに」
半分くらいは当たっているであろう。
そういえば、異人館のあたりにも友人の結婚式に招かれたのであろう人々の姿も見えた。あのあたりはブライダルのメッカらしい。その辺の白いチャペルで上げる結婚式が地元の娘たちの憧れなのだろう。
それらに対する私の素直な感想は次の通り。
「たわけめ」
二日も続けて二日酔いを抱え込んでいる男の方がよほどたわけだとは思うが。

ホテルの部屋は23階。眺めは悪くない。
神戸から大阪方面側の景色が眼下に広がり、ひしめいて立ち並ぶ建物がミニチュアのように見える。
「わっはっは、この愚民どもめ!」
アホなこと言ってないで、さて仕事である。
「デジスタAWARD」の採点がいくつか残っていたのをやっつけ、NHK「デジスタ」事務局へ採点表を送る。
16時過ぎに新神戸駅に到着する家内を迎えに駅へ。仕事にかまけてばかりの旦那としては、「授賞式」にかこつけて家内を神戸に招待した次第である。一人で美味い物ばかり食べていては申し訳ない、というもの。
広報課長にも連絡を入れておく。
「今日は神戸牛を食べましょう、適当な店を4人分予約しておいてもらえますか?」
「ほな、当たってみます」
4人というのは課長、家内、「世界が認めた才能」そして第四の男はH氏である。
このHさんは「脳ストップアメリカ」に登場したマッドハウス・Hさんと同一人物である。

神戸入りしたHさんと合流して、ステーキの「カワムラ」本店へ。課長に予約しておいてもらった店である。
店の所在を失念してしまい、ネオンの雪崩の中で遭難しかけるが、広報課長が救援に駆けつけてくれて無事に店へ。
「カワムラ」は以前、支店の方に入ったことがあるが、本店は初めて。煉瓦造りの内装はいかにもオーソドックスなステーキハウスといった趣である。
http://www.bifteck.co.jp/
神戸牛のコースに、アワビのステーキを二人前付けてもらう。
ビールで乾杯して、コースのトップバッターである「牛の刺身」を三球三振させ、続く「テールスープ」も一気に打ち取る。美味い。
そしてクリーンアップはまずアワビである。アワビのステーキが大好きなのである。
ジュワッ!
目の前で手際よく焼かれて身を縮める気の毒なアワビ、期待膨らむ幸せな私。
一切れ口に入れるとお口いっぱいに広がる幸福。それがアワビ。
刺身で食べるとあれほど硬いものが、なぜ焼くとこんなに柔らかくなるのでしょう。モグモグ。
ああ、美味い。
身も美味しいがワタも美味い。
注文した二つのアワビは、そのワタの色が見事なほどに異なっている。片や茶系のアースカラーだが、一方は不自然なほどの緑系である。
どちらかが近頃ブームの偽造なのではないかと疑いたくなるほどだ。片方は本物のアワビだが片方はトコブシの化け物とか。
店員さんに聞いたところ、ワタが緑の方がメスで茶色いのがオスだとか。きっとメスの方が美味しいのであろうと思ったら、味にはあまり違いがないようだ。
コースに戻って「フォアグラ」である。うう、身体に悪そう(笑)
しかし美味い物とは得てしてそうしたものである。「不健康な生活するためには健康でなくてはならない」とどなたかが仰っていたそうだが、私も見習いたいものである。
フォアグラはまさに口の中で溶けて広がるようだ。
食事を強力にサポートしてくれる赤ワインがまた美味い。有名な割りに中身はピンキリといわれるジュヴレ・シャンベルタンだが、飲んで美味しければそれで良い。
そして真打ち、神戸牛のステーキ。
ヘレとロースを2人前ずつ頼んだので、半々にシェアしてもらう。
うむ。どちらも美味いが、私はやっぱりヘレだな。
デザートとコーヒーまで、きれいに完食。満腹。
ごちそうさまでした。
さて、美食の多幸感の後に待っているのはお会計という厳しい現実。
いつも皆さんにはお世話になっているので、ここはひとつ私が接待することにする。
行け、諭吉部隊。
満足度と財布の中身は常に反比例であることだよ。

続いては課長の案内で世界のビールが飲めるという店に移動。
店の名前を失念したが、ネットで検索したところ多分、この店であったろう。
「ビアカフェ・ド・ブルージュ」
http://gourmet.yahoo.co.jp/000……006783537/
ソファの具合も悪くないし、薄暗い照明もいい。店内は盛況で少々やかましいのは致し方ない。業務連絡のために携帯電話片手に外に出て行ったHさんが、電話で話しつつ店内に戻って来た。はて?
「いやぁ、外の方がうるさくて(笑)」
三宮は路面にも活気があるということか。阪神淡路大震災から12年。街の中で震災の爪痕はまったく見られない。

店のメニューには確かに世界中のビールの銘柄が並んでいる。
ワインもビールも銘柄はよく分からないので、ベルギーの「サタン」にしてみる。「世界」をよく知る課長のお薦めである。濃いめのビールも美味しい。
なぜ一専門学校の広報課長が「世界」をよく知っているか、というと別に彼が金持ちで外国旅行が趣味であるといったリッチな背景ではない。
彼がいかなる履歴の持ち主か、簡単にかいつまんで紹介すると次のようになる。
「専門学校の広報担当だったが、ある時一念発起、ヨットに夢を馳せて「海の男」になるべく職を辞して単身オーストラリアに渡る。帰国したらタイ式マッサージ師になっていた」
かいつまみすぎると訳が分からん(笑)
「美大を出て漫画家になるが、いつの間にかアニメーション監督になる」
全然面白くない。
彼は、退屈している暇もない人生を生きているように見受けられる。
「人生山あり谷あり」だとか、家康の「人生は重い荷を背負って坂道を行くが如し」なんて人生訓もあるが、彼の人生は『パプリカ』の歪む廊下の如しである。
昨日の山も今日の谷。
話を聞いているとこの上なく楽しい男である。
私がアートカレッジ神戸に関わりを持つようになったのも、彼のおかげである。

そんな話をしながらビールを飲む。グラスの中の「サタン」はすでに調伏して私の胃に収まったので、次なるビールの魔物に相対してみる。メニューを眺めることしばし。
「じゃ、ギロチン」
何だか刺激的な名前の銘柄ばかりをオーダーする。
腹はいっぱいなので、肴はは課長の海外武者修行譚。
「そういや、聞いてなかったけどさ。オーストラリアに行って、どうやって食ってたの?」
「金持ちのヨットの貝殻取りとか、ピッキングとか」
「犯罪かよ!?」
と、思ったら果樹園で果物を収穫する仕事をピッキングというのだそうだ。
日本の飲み屋で高らかに言うな(笑)
さらには洋上でヨットが故障して漂流した話やら、周囲360°見渡す限りの水平線という景色の中で排便する爽快感やらについて聞きながらビールをあおる。
「サタン」と「ギロチン」ですっかりいい気分になって店を出る。
課長は帰り、我々はホテルにブラブラと歩いて戻る。
私も、そ・こ・で・ホ・テ・ル・に・か・え・れ・ば!、翌日アルコールの余韻が主張することもなかったのだろうが。
「一杯くらい飲んでいきましょうか」
気分がいいのでさらに飲みたくなるのが「たわけ」の「たわけ」たる所以である。
ホテルまでの道すがら、雰囲気の良さそうなバーがあったので入ってみる。
「mishima」という店である。
http://www.bar-food.com/
ウェブサイトの説明によると、場所は「北野坂の東側の不動坂の途中」ということになるらしい。
2階に案内されると、そこは大変快適な空間である。
サイトの「どんな人?どんな店?」という案内から引用してみる。
「2階は、北欧のソファが3つ。カップルや友人たちと楽しめる吹き抜け天井のゆったりした空間」
まったくその通り。座り心地のいいソファでくつろぎながら飲める。
たまたま他の客がいなかったので、静かなのもいい。
「私たち自身が、お客さんになりたい、そんな店です」
なるほど。それはいい心がけに思える。
「私自身が、お客になりたい、そんなアニメーション映画です」
言ってみたいものだな。
店主の奥さんと覚しき女性がPHSを置いて行く。
「御用がありましたら、この1番のボタンを押してから、通話ボタンを押してください」
変わった店だな(笑)
メニューでお勧めの白ワインをいただく。
ブログによると、この店の最近のお勧めはこちららしい。
「11月にはボジョレー解禁ですが、その前に「mishima」では、
イタリアの初のも「ノヴェッロ」をプッシュ!毎年、こっちの方が旨い」
つい最近まで知らなかったのだが、フランスのヌーボーワイン同様、イタリアにもやはり新酒ワインがあり「ノヴェッロ」というらしい。先日、別な店で飲んだがこれもまた美味しかった。

雰囲気のいい店で気持ちよく美味しい酒をいただき、バカ話の花を咲かせつつも仕事の話なども交えて歓談。
すっかり楽しい気分になってホテルに戻る。ウィーック。
楽しいのはいいが、連日内臓は悲鳴を上げ、直訴状が届いている。
「勘弁してください」
うむ。考えておこう。

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