2007年11月18日(日曜日)

たわけて神戸・その5



ここはまだ授賞式会場。
ステージで続いているトークショーが終わってから受賞者、関係者は交流会のために神戸ポートピアホテルに移動することになっていたが、『パプリカ』関係者は一足先に移動させてもらうことにした。勝手な行動で申し訳ないが、早く空気のいい場所に移動したいという切実な理由である。

交流会というのは、要するにパーティである。立食スタイル。
ビールを飲みつつ他の受賞者や関係者と歓談する。
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』の監督、神山君と業界世間話。
「神山君、働き過ぎじゃないの(笑)」
「いやぁ、さすがに少しセーブしようと思って」
言い古された言葉だが、本当に「身体が資本」である。大切に使った方がいい。
「でも、ホントにもうきついですね」
とは、「描き手」がいないことを嘆いた言葉。彼の言葉でもあり私のでもある。
「描き手」というのはもちろん「上手な描き手」ということである。単なる描き手は数多いが、能力のある人はとにかく少ない。
しかしIGさんでそんなこと言われたら、立つ瀬のないスタジオは多いと思うのだが(笑)
とはいえ、スタッフの能力は「実現しようとしているレベル」に対する相対的な問題なので、常に高みを目指す限りいつでも上手い人間は足りなくなるという構図になっている。
その乖離が特にひどくなっている、ということであろう。私もそう思う。
「○○さんのところは、どうするんでしょうねぇ……」
「○○君と□□さんと△△さんの3人で作ればいいんじゃないの(笑) 時間かけて」
「かけ過ぎですよね、時間」
「一年かけてコンテが半分行ってないってさ。怖ろしいものを作ってそうだよね」
「でも、10年で一本じゃ寂しいなぁ」
私もそう思うが、長いインターバルが必要な人もいるし、そうでない人もいる。

面識はなかったが、他の受賞者の方とも挨拶を交わす。
『コードギアス 反逆のルルーシュ』関係者の方から耳寄りな話を聞いた。
「声優の池田秀一さんが監督の作品はいいって仰ってましたよ」
エ!? ホントに!? 嬉しいな。
だが私の頭の中では矢のようにこんなセリフが。
「シャアが見ているのだぞ!シャアが」
コンスコンか俺は。

前触れもなく受賞者がコメントすることになった。ステージに上がって何か喋れ、と。
「事前に聞いてなかったので、何を話せばいいのか……」
トップバッターに指名された高畑監督は額に汗を浮かべていらっしゃったが、人前で喋ることなど特に苦手にしているのがアニメ業界人である。アニメーションを主役としたイベントなのだから、配慮をして欲しいものだな、と思ったがしかし、随分前に「交流会で何かコメントを」と言われていたような気もする(笑)
そういう連絡をちゃんと聞いてないのも業界人の傾向である。
さて、私は何を喋ろうか。
これまで数百本のインタビュー、舞台挨拶やQ&A、学校の講義など、だてに喋る仕事を重ねてきたわけではないはずだ!と思うものの、別に喋りたいことがあるわけでもない。こういう時は、「素直」な心根が大事である。思ったことを率直にお伝えすることにする。
それに、パーティは佳境であり皆それぞれ歓談に打ち興じておられるから、人の話なんてどうせ聞いてはおるまい。
「少々横柄な話をします」
どういう切り出し方なんだか、まったく(笑)
以前、アニメーション神戸とは別の、とある受賞に際してこんなコメントを出したことがある。以下は抜粋。
「どんな作品もそれを観る人なしには完成し得ないものでしょう。本作制作中や完成後の披露の場において、私は作品が発生する場所とは観るものと観られるものの間にこそある、という思いを新たにしました。今回の受賞を、観るものと観られるものの豊かで健全な関係の回復を目指すための追い風にさせていただきたいと思います。」
「観るものと観られるもの」の「健全な関係」とは、字義通りに取っていただいてもいいし、そこに「審査員自身が参加している映画に平然と賞を与える厚顔さ」を揶揄した皮肉を読み取っていただいてもいい。
ちょうどいい機会だったので、このネタを補足してお話することにした。
「お客様は神様です」という妄言以来、この国では「金を払えば何を言ってもいい」というイナカモンルールが支配的になったように思える。消費者世代の申し子たちは特に顕著にその傾向を示す。インターネットには手前勝手で節度のない戯言が溢れているのはご承知のことであろう。
それがいかなる創作物であろうと、接した方々の大半はこのような態度に見受けられる。
「これは傑作。なぜなら私が好きだから」
「これは駄作。なぜなら私が嫌いだから」
なるほどそれもけっこう。
お客様とやらは査定者である、ということで多くの方々は意見の一致を見ているらしい。
だが、私は必ずしもそうは思わない。こういう構図だって私は常に感じている方だ。
「見ている私がその作品に査定される」
あまり同意をいただけないかもしれないが、実はそうしたものである。査定する者の位置を譲りたがらない方々とて、その構図を日常的に都合よく利用なされているはずだ。
「この作品の良さが分からないなんて○○だ」
○○にはバカでもアホでも低能でも無能でも蒙昧でも何でも好きな言葉を入れてよいが、こうした構図が有効だからこそ「ブランド物」は成り立っている。つまりはこういうこと。
「□□の良さが分かる私は素敵」
□□にはシャネルでもルイ・ヴィトンでもプラダでもエルメスでもビットでも……ビットは違うか、ともかく好きな言葉を入れて良い。もちろんユニクロでも。
当然ブランド物たちは無言であるから、どなたが手にしようがどんな仕打ちを加えようが、そこに異議を申し立てることはない。だが、きっと口があればこんなことを言いたい物たちだってあるだろう。
「お前なんかに持たれたくないね。ロレックスより」
「お前がハンドルを握るには10年早いね。ベンツより」
「アニメ監督なんかに着られたくないね。アルマーニより」
うるさい。
世の中には、意を決しなければ高級ブランド店に入れない人は多かろうし、そういう店に入るための服を購入するのが先決となってくる人も多いのではないか。私はそうだ(笑)
こんなのも同じ。
「スポーツクラブに行って少しくらい身体を引き締めたいが、入会する前にせめてこの腹の出っ張りをもう少し減らしてからじゃないと……」
そういう恥ずかしさも悪くないと私は思う。
対象物によって査定される構図とはそうしたことである。
それが文学や映画などの創作物であれば、「この良さが分からない私の方に問題があるのではないか」と思うことも多い。消費者世代の申し子たちはそうではないのかもしれないが、自分を拡張するためには自身に対する絶えざる疑いが必須であろう。知性とはそうしたものだと私はそう思う。
さて、上記の話はそのまま授賞する側と受賞する側の関係に置き換えられる。
横柄な話、というのはこのことである。平たく言えばこういうこと。
「どのタイトルに賞を与えるかによって、その賞の権威がどれほどのものか査定される」
受賞者がパーティの席上で喋る内容ではないかもしれないが、私は素直である。
胃の中のアルコールもこう言っている。
「もっと素直に」
「アニメーション神戸ならではの権威が生まれるように続けて欲しい」というようなことを申し上げたと思うが、翻訳すればこういうこと。
「是非とも欲しくなるような賞に育ってください」
批判的な態度で書いているように思えるかもしれないが、半分はその通りだ。
以下は、さすがに口には出来なかったことである。
「過去、代理店に投げ込んできた震災復興基金はすでになくなり、金の切れ目が縁の切れ目という人たちも随分前に去っていることでしょう。だから、これからこそ観るものと観られるものの健全な関係を作り出せることでしょうし、独自な視点で存在感のあるイベントに育って欲しい」
私はアニメーション神戸を応援しているつもりだ。本当に。

宴はお開きとなり、マッドハウスチームはすぐにOUT。丸山さんはホテルに戻って仕事をする、とのこと。たわけたちは三宮で飲み屋を探す。課長が参加し、Hさん、家内と私である。
店の当てもないので、飛び込みで入ってみる。
店の名前を失念したが、この「薩摩地鶏 吹上庵」という店だったろう。
http://kobe.pos.to/wasyoku/fuk……agean.html
外観からはもっと落ち着いた店を想像したが、客には若者が多く活気に溢れている。
メニューを開いて、さてと。
パーティではビールとワイン以外はほとんど口にしなかったので、腹が減って腹が減って腹が減って。
「うどん」の文字に惹かれて「地鶏スペシャルコースすき焼き(卵・うどん付)」をオーダーする。おそらく甘い味付けだろうとは思うのだが、どうしてもうどんを食べたい。
出てきた鳥のすき焼きは、やはり甘かった。しかし、パクパク食べられる。お腹が空いているせいもあるだろうが。そしてうどんもツルツルと。
この店は無論、地鶏が自慢なのだろうが、女性店員さんの対応が宜しい。見た目の良い人も多いし。
だがそれよりも何よりも、もっとも驚くべきサービスはこれだ。
お土産をくれる。
それって、どういうシステムなんだ一体(笑)
帰りしな、4人それぞれに炊き込み御飯の折り詰めが渡されたのである。
小さな折り詰めをぶらぶらさせながら歩く姿は、まるで記号のような酔っぱらいではないか。ウィーック。

いい心持ちで夜風に吹かれて出る言葉はこの通り。
「もういっぱい行きましょうか」
やはりたわけである。
腹は一杯なので、気分はバーである。前日と全く同じパターンなので、再び昨日のバー「mishima」に赴く。
「昨日も来ました(笑)」
多分、店の方はこちらを覚えておられたようである。私は比較的、店の人に覚えられやすいらしい。外見のなせる技か。
この日も昨日と同じく2階の同じ席。日曜で夜も遅いのでやはり他に客はいない。
とても居心地の良い店だ。
今度から神戸の定番にしようかな。深夜3時までの営業というのも魅力だし、食べ物もパスタやピッツァもあるので都合がよい。それに常宿のホテルからも近い。
今日はシャンパンにしてみる。もう少し冷やしてもらった方が好みだが、気分も良いのでたいへん美味しくいただき、バカ話の花を咲かせる。
「この間講義に来たとき、帰る日のホテルが新大阪だったから、駅でお土産に豚まん買って帰ってね。久しぶりに食ったら美味かったなぁ」
「豚まんて、蓬莱の?」
「そうそう、あれ美味いんだけどさ、新神戸の駅で売ってないんだよね」
「三宮の駅やったら売ってますよ」
「あ、そうなんだ。買って帰ろうかな」
「新幹線で食うんですか」
「いや、新幹線は駅弁を楽しむ場所だから(笑)」
「けど、あの豚まん、すごい匂いしません?」
「あ、そうそう、すっごく食欲をそそる匂いがするんだ」
「プ〜ンってしますでしょ」
「するする、プンプン」
散々飲み食いして、話題まで食い物である。

店を出て折り詰めを下げてブラブラとホテルまで歩いて戻る。
部屋に戻って、中身を確かめてみようと折り詰めを開く。
「けっこう美味しそうだな。パクパク」
食うのかよ(笑)
家内も一人分を見事に平らげてしまった。寝る前に米粒を摂取するなんて、泣くぞ、ビリーが(笑)

トラックバック・ピンバックはありません

ご自分のサイトからトラックバックを送ることができます。

現在コメントは受け付けていません。