昨日、NHK「アニ*クリ15」のための短編「オハヨウ」の撮出しがようやく終わった。
後はラッシュチェックと音響作業を残すだけだ。
最後のカットは比較的簡単な撮出しで楽勝楽勝と高をくくっていたのだが、結局5時間近くもかかってしまった。
何で撮出しに5時間も(笑)
元々今回の撮出しはどれもひどく時間がかかり、丸一日かかって1〜2カットという難物揃いなのだが、何より撮出しをしている最中に自分で大変にしてしまうせいである。
私が行う撮出しは、フォトショップ上で本番のBG・BOOKにセルやマスクを組んで、完成画面をサンプルとして作成する。これをセルのペイントデータと一緒に撮影に渡してコンポジットしてもらうことになる。
セルと背景を組むだけなら、別にサンプルなどつくらずにそのまま撮影してもらえばいいのだが、私は撮出しであれこれと最終的なレンダリングの重荷となることをしてしまうのである。
しかし、これをしないと私が思う画面にならない。
作画に作画監督、背景に美術監督があるように、両者の組み合わせを監督するのが私が思う撮出しである。時間と負担がかかるのは致し方ない。
それに。コンテに次ぐほど楽しい仕事である。
というのも、目の前で画面が出来て行くのだから。
昨日のカットも、レイアウト時の設計通りにするだけだったら2〜3時間もあれば終わったであろうに、これがまた余計なことを思いつくのである。
以下、業界用語が頻発するが一々解説しない。
カットは歩くキャラに付けPANという内容。
基本的なBGの修正・調整は終わっているので、純粋に撮出しの作業だけ……の筈であった。
BGが01と02、BOOKが4段に分かれているがPAN幅は同じ。それでいいと思ってレイアウトしておいたのだが、物足りなくなったので移動幅に差をつけようと思い立った。
アナログ時代でいうところの密着マルチのスライド。
「付けPANの目盛りは、BOOK01に対して、ということになるんだから……と」
BOOK01の奥にあるBG01と02をそれよりPAN幅を短くして、移動幅を少なくすれば奥と手前で移動速度が変わるから奥行きが出る。
BOOK01より手前にあるBOOK04は、逆に移動幅を大きくする。3段のスライドになる。うん、いいかもしれない。
「いつもの感じよりちょっとスライド幅を大きくしてみようかな……こんなもん……かな」
付けPANの目盛りをフォトショップで縮小・拡大して、それぞれのフレームを作るが、当然素材がバレる。
スライドを想定していなかったのだから、スライドする分の背景素材が足りない。BG01とBOOK04は元素材のままで問題ないが、BG02少々厄介。
素材が大きく足りなくなるのは分かっていたのだが、思いついたことは実行しなくては気が済まない。やるったら、やる。
「足りないところはコピーペーストで何とかなんだろ」
何とかはなるが、時間はかかる。
「これをコピーして変形して、と。グラデーションのマスクで抜いて……ありゃ、それでも色が合わないな。補正して色を合わせて、スタンプツールで馴染ませて……あ、ここが大きく空いちゃうな。ちょっと描き足して埋めて……と」
背景の描き足しや修正も私の撮出しではお馴染みの項目である。
『パプリカ』でも随分とBGの修正はしていて、おかげで貧乏くさいノウハウが蓄積している。
素材が揃ったところでようやく撮出しとしての処理をあれこれ加える。
「えーと、キャラの透け方はいつもの通りで、と。マスクから縮小してぼかして塗りを重ねて抜く、と。A、Bセル両方とも透け具合は同じだな。透けて見える部分のボケは……こんなもんかな。中OLがあるから、この辺は色変えのセルも重なるんだな。AとBの色変えを重ねて、と」
独り言を言っているわけではなく、あくまで頭の中のセリフだ。
BG01にはわずかにボケをかけてみる。ちょっとピントを外す程度。
磨りガラス越しはちょいと大きめにボケ。
撮影用にぼける範囲のマスクを作ってアルファチャンネルに置いておく。
ガラス面は色も落としたいから乗算のレイヤーを一枚加える。
カーテンも明るい部分だけ少しキャラが透けるようにマスクで抜く。
キャラは下の方だけ少し暗くしたいからグラデーションを乗せる。
画面全体に乗せるグラデーションも忘れずに。
オーバーレイのフィルタを最後に乗せて、さらに明るさを補正する調整レイヤーを置く。
こんなもんだろ。
何だ、素材の加工がなければ簡単なカットじゃないか。
セルの切り分けやマスクの新規作成、ペイントの修正も貼り込む素材の作成もないんだから。
完成画面のサンプルは悪くない出来だ。
しかし気がつけば開始から既に5時間近く経っている。
こんなことしてるからいつも作業がスケジュールからこぼれるんだよな(笑)
技術的に出来るからって何でもしていいってことじゃないのだが。
しかし、1分くらいの短編だ。好きにしたい。
一番大きな問題は、「1分くらいの短編じゃなくても」同じことをしたくなることかもしれない。
考えるとゾッとした。