2008年3月20日(木曜日)

多忙な道のり・その5



2/6〜8で行われた「アジア学生アニメコラボレーション」を何とか乗り切ったものの、中一日挟んで「アートカレッジ神戸学校説明会」の出張仕事が待っている。
この貴重な「中一日」を有効利用しなくてはならない。

まずは頼んでおいた大判プリントアウトが仕上がっていたので、これらをピックアップ。
フォトペーパーに油性インクジェットでプリントし、その上にマットラミネートの処理をかけた結果はたいへん良好。
思った以上に鮮明な発色に大満足である。
会場に展示した際も改めて感じたのだが、とにかく発色が良い。描いた当人が吃驚するほどだ。
特に版権イラストはポスターなどで印刷された色に目が慣れている。つまりCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・クロ)の減色法による出力結果だ。
しかし、元データの作成はRGB(レッド・グリーン・ブルー)の加色法による。
興味のある方は下記のページを参照してください。
http://www.coara.or.jp/~ynakam……kisai.html
本来ならデータ作成時からCMYKに対応すれば良いのだろうが、データも重くなるしあまり快適な作業とは言えないので、データと出力結果のズレには目をつぶることにしている。
発色が変わったからといって、絵が壊れるほどずれるわけではないし(たまにあるけど)、一応時折はCMYKでの発色も確認することにしている。
それに何より、同じデータなのに扱い方によって結果が異なる方がなんだか面白い。
「イラストレーター」として機能する立場からは無責任な発言かもしれないが、その態度でこれまで困ったこともない。
展示用に出力したものは、大判もA3以下のサイズもすべてRGBによるプリントアウトで、いずれも自分のイメージがかなり忠実に再現されている。
特に青色の発色は、印刷では絶対に得られないほど鮮やか。『千年女優』のメインビジュアル下方の青色は、展示されたイラストの色が実にきれいだ。

出力された大判16枚を抱えて出力屋「東京リスマチック」を出て、その足ですぐ近くにある画材屋「世界堂」へ持ち込む。額装してもらうためだ。両店の距離が近くて本当に助かる。
大判を単にフォトペーパーに出力するだけだと、額装後に内部で「たわむ」という可能性もあると聞いたので、プリントアウトしたものを5ミリ厚のボード(タックボードというらしい)に貼り付ける加工もしてもらっている。出力サイズも、額にぴったり収まるようにしてある。
これを「世界堂」さんの方で、それぞれのサイズのフレームに入れてもらう。
絵の周囲には5ミリ厚の「マット」が敷かれているが、これをどういうサイズで切り抜くか、つまり、絵に対するフレームをどういうサイズにするかはすでにパソコン上でシミュレーションしている。そのサイズをプリントアウトして渡してあるので、絵さえ運び込めばあとは「世界堂」さんの方ですべて仕上げてくれることになっていた。
とりあえずこの時点で大判16枚の目処はついた。
残る大判3枚は後日出力、持ち込む手はずになっている。

問題は、多くの直しを必要としているA3以下の、主にプライベート系のイラストである。
プライベートイラストは印刷を前提に描いていたわけではないので、基本的に大きくない解像度で作成している。だからA3(実際にはマットがフレームになるのでもう少し小さめだが)程度に出力するには少々心許ない。
しかも場合によっては「お買い上げ」の可能性だってある。
単純な意味でも品質を上げねばならない。
もっとも、修正を加えずに出力したとしても、それほど大きな差があったとは思えない。
解像度が少し足りない修正前と解像度を上げてレタッチした修正後を、実際に出力して見比べたわけではないが、多分素人目にはその差は分からない程度ではないかと思う。
私自身、あまり高解像度への興味とか指向があるわけでもない。
高解像度を求めてデータが重くなって、その分試行錯誤の幅が狭まれば、再現上の品質よりもっと大きくて大事なものが失われるのではないか。
「十年の土産」開催までに残された短い時間の中で、無理してまで修正する必要が本当にあるのかどうか、もっと他にやるべきことがあるような気もしたのだが、そこはそれ、何しろ「ただの絵描き」モードに突入している。
目の前にある、「気にくわないもの」は直さねば気が済まない。
自分が主催する展覧会だ。好きにする。

まずは「自画像」と言われる「メガネウサギ」の直しにかかる。
この絵を描いている当時は特に自分に似せる気はなかったし、似ているとも思っていなかった。
だが、出来上がった画像を見た複数の方々から「本人に似ている」という嬉しいのか嬉しくないのかよく分からない感想をいただいたので、以後「自画像」ということにしている。
展示する絵の作者の自画像であるゆえ、少々気合いを入れて直さねばなるまい。
この絵に修正を加えるのは2度目だ。
以前、単行本『KON’S TONE』の表紙に使用する際、一度解像度を上げて手も加えている。
とはいえ、「本の表紙」としてではなく単純に「一枚の絵」として展示するには少々物足りない気もするので、さらに解像度を上げてレタッチすることにした。
主にウサギ本体の描写を丁寧にする。
「似ている」と言われたせいか、自分でも似ているような気がしてくる。
タイトルは「Lunar Rabbit」。「月のウサギ」だ。
この画像は元々年賀状用に作成したもので、私が卯年の生まれだから「ウサギ」、ウサギといえば「月」ということで「月のウサギ」なのだが、ではなぜ「moon」ではないのか。
ご存じない方もおられたようなので一応紹介しておくが、「lunar」は単に「月の」といった形容に使われるが、「lunatic」となると「精神異常者」「狂人」「変人」「狂気じみた」「ばかげた」といった意味になる。こちらの意味も欲しいので「lunar」にしてみた。

「狂気じみた」という言葉をキーボードで打ったところで、不意に思い出した。
「十年の土産」会場では、監督作の予告編をループで流していた。
そこで、うっかり『千年女優』の予告を目にしてしまった。
あの予告に私は一切関与していない。私が宣伝側のいい加減さにもううんざりしきって一切口を出さないことにした予告である。だから見たくもなかったのだが、久しぶりに見てしまった。
笑い出したくなるようなコピーが画面に踊っており、当時そのコピーを見せられた当時のことを思い出した。
「その愛は狂気にも似ている」
似てねぇよ。

「自画像」のリファインを片付け、「TGF年賀画像」にとりかかる。
これは解像度を上げて、新たにスキャンした高解像度の線画に差し替える。
やっぱり「ズレ」が生じる。
地道かつ根気のいる直しが必要だ。
しかし翌日からは神戸出張。
まさか神戸までタブレットを持参するのも面倒だ。
2泊3日の神戸出張の間は、ひととき展覧会の準備を忘れて、神戸を楽しむことにする。

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