2008年5月6日(火曜日)

リングザリングリングイネ



「晩御飯のメニューを何にするか」
主婦ならずとも日々ちょっと面倒な問題である。
私は月曜〜土曜は、ほとんど仕事場のある荻窪で外食ということになるが、毎度「何食おうか」が問題になる。もっとも、選択肢はほとんどないので、何を食べるかよりはどこで食べるかという問題にしかならない。
家で晩御飯を食べるのは休日だけだが、よほど食べたいものがはっきりしているときでもない限り、夕方の時分に口をついて出るのはやはり「何食べようかねぇ」である。
昨日は特に食べたいものがなかったので、少々イレギュラーに「駄洒落」でメニューを選択してみた。
「リングイネ」
断面が楕円のパスタである。
どう駄洒落なのかというと、その夜にオリジナル版の『リング』とアメリカリメイク版の『THE RING』を見比べようと思っていたからである。ただそれだけの話(笑)

いまさら『リング』というのも時流と合わないこと甚だしいかもしれないが(どうせいつものことだ)、別にホラー映画や『リング』『THE RING』そのものに興味があったわけではない。
両者を見比べてみたかっただけである。映画ではなく映画の「関係」に興味があった。
というのも、最近読んだ『時計じかけのハリウッド映画』という本がなかなか面白かったからである。

『時計じかけのハリウッド映画−脚本に隠された黄金法則を探る』芦刈いづみ 飯富崇生・著/角川SSC新書¥760

要はハリウッド映画脚本の定型フォーマットを簡単に紹介した内容。基本的な「3アクト・ストラクチャー」などについて知る入門書として良い本ではないかと思われる。
「3アクト・ストラクチャー」というのは、物語の展開の基本といわれる「起承転結」のような考え方で、それが三段階になっている。いわば「序破急」である。「序破急」は広辞苑によれば「能や人形浄瑠璃などで、脚本構成上の区分。序は導入部、破は展開部、急は終結部」ということ。
こうした三つの構成をもう少し細かに定型化したのが「3アクト・ストラクチャー」ということになろうか。
「アクト1」にはイントロダクション、インサイティング・インシデント、ファースト・ターニング・ポイント、「アクト2」はミッド・ポイント、セカンド・ターニング・ポイント、そして「アクト3」はクライマックス、エンディングという具合に区分分けされている。

シナリオ構成について同書をお読みいただきたいが(入門書としても一般的な読み物としても面白く読める)、ともかくこのフォーマットに従って行けば、ハリウッド的オーソドックスな構成が可能になる(らしい)。お話作りを学習しようという人はハリウッドの蓄積されたシナリオ分析や構造を知っておいた方がよいと思う。日本の映画は構造や構成という点で脆弱に思える(おそらく日本語という言語そのものが、英語やそれに類する言葉に比べて構造が弱いせいかもしれないが、だから別な点での強みもあろう)。
必ずしもマニュアルに従う必要はないと思うが、ガイドがあった方が学習はしやすい。要は最終的に鵜呑みにしなければよいのだと思うし(最初はまず鵜呑みにした方が良いだろうけど)、知っていなければ「外す」ことも出来ない。
私は以前、同じようなことをシナリオ術の本を読んで知識としては知っていたが、自分の監督作のシナリオでこうした考え方を実践しようとしたことはないので、知らないに等しい。
不勉強で申し訳ない。
しかし、ハリウッド的脚本構成法を知っている日本の映画関係者は多いだろうに、実際にはハリウッド的な意味でよく出来た脚本という話は聞いたことがないが、どうしてなのだろう。
体質的に合わないのか、うまく実用できないのか分からない。

同書でもっとも興味を覚えたのは、『リング』と『THE RING』の比較である。
両者を比較してその違いを指摘していた第4章「日本映画はいかに翻訳されたか」が面白く、日米の脚本術や文化の差異が浮かび上がっているように思えたので、実際に見比べてみようと思い立った。
私は以前にオリジナル版は見ていたが、リメイク版は見ていなかった。オリジナル版があまり趣味に合わなかったというせいもあるし、基本的に興味のある世界でもない。
だから、内容的なことよりも内容を取り扱う「構成」や「構造」、あるいは「手つき」などに着目して見てみた。
私にとっては「怖いかどうか」は全然関係なく(笑)、「怖がらせ方」の方に興味がある、と言った方が近い。もちろん怖さの演出や何をして怖いと想定するのかというホラー的な面ばかりではなく(それは映画の一要素に過ぎない)、オリジナル版からどういう「筋立て」や「構成」「構造」に変化したのかという全体に興味の重心を持っていた。
ちなみに、そういう見方をしているとホラー映画なのに全然怖くない。少々勿体ないように思う(笑)

シナリオや構成、画面作りも含めてリメイク版はたいへん上手に作られていると思う。
アイディアも満載で、オリジナル版ではかなり気になる「芝居」や「編集」の問題もないので、ツルツルと娯楽を楽しめた。ロジカルになっている分、オリジナルよりホラー的なムードが後退しているという指摘はありうるだろうが、「構造」を見たい私にはあまり関係がない。
オリジナルをもっと大胆にアレンジしているのかと思ったのだが、元の映画(原作は読んだことがないので分からないが)に随分忠実なリメイクであった。その分、差異が際だつので、比較するにはたいへん都合がよい。かなり良いサンプルではないかと思われる。
すでに出来た映画のどの部分に疑問や不満を抱き、どう改善しようとしたのか、リメイクした彼らのやり方がよく分かる。もっとも感心したのは、やはり「一目で分かる」という絵的な発想とその具体化だろうか。
しかし私にとって、具体的にどういう差異が面白かったかは、ここでは記さないことにしておく。
仕事場にいるスタッフで、この比較に興味のある人にも見てもらった上で「酒の肴」にするつもりだし(そのためにもDVDを購入したのである)、今度のムサビのゼミでも触れる予定である。書いてしまうと喋る楽しみが減ってしまう(笑)

まぁ、ウェブを探せば両者を比較したテキストがたくさんあるだろうから、興味のある人は是非そちらを。
本当に両者は、よく似ているだけに違いが分かりやすい映画である。

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