2010年1月7日(木曜日)

年賀状のレシピ・その2



昨日も引き続き新しい仕事場のセッティング。
この日は共有スペースにある打ち合わせ場所周りを中心に開梱作業とTVやパソコンの配線。
これまで監督したアニメーションのDVDやらビデオ、資料用映像、その他映画祭やイベントや、知り合いからもらった作品集など多くのDVDなどを箱から出して並べ、人形やオモチャ(立派な資料なのだが)に窓辺を彩ってもらう。
続いて打ち合わせスペースに鎮座する大型テレビ周りの配線。パソコン、DVDプレイヤー、ビデオデッキをTVにつなぐ。
開梱作業中に少なからぬDVテープも発掘されたので、これらも見られるようにするべく、現役を退いていたDVカメラもTVにつないでみる。
「お。まだ動くぞ」
試しに「『千年女優』スタジオ初期」と記されたテープを再生すると、阿佐ヶ谷芝萬ビルの片隅に出来たばかりの『千年女優』制作班の様子が映し出される。現在と同様、おそらく引っ越してからまだ間がない頃だ。
「ひゃあ、懐かしい」
何しろ12年前の映像である。
美術監督の池さんは現在より一回り「小ぶり」で、監督もはるかに細身で何より毛髪量も少なくなく、白髪もほとんど見えない。
使用しているパソコンもMACのG3で、えらく古いように思える。
しかし干支が一回りする時間が経っても、アニメーション制作現場の風景はあまり変わっておらず、TVモニタの中も外も原画机とスチール棚、段ボール箱が構成する景色は同じである。
DVも再生できるようになったので、ついでに監督部屋からラジカセもここに加える。CDとMDとカセットまで再生できるという便利だが現在では何の役に立つのか分からない私物。以前は、声優さんのボイスサンプルがカセットやMDで届けられることもあったので、その再生用に仕入れたもの。現在ではCDかMP3なのでラジカセの出る幕はないので、体のいい厄介払いだ。
新旧の機械とフィギュアと書籍に囲まれた打ち合わせスペースは、こぢんまりとしているが、なかなか快適な空間……というよりとも何だか子供が作った「基地」みたいでもある。

さて話は少しさかのぼって、年が明けた元旦のこと。
ゆっくり寝ていればいいものを、普段と変わらない10時過ぎには目が覚める。
描きかけの絵があると、楽しいと思うらしい。布団の中で年賀画像着色の段取りをあれこれ考える。真面目だね、まったく。
それに正月とはいえ、遅くまで寝ているくせを付けない方が好ましい。今年は、荻窪から新中野へと仕事場が遠くなったし、終電の時間も早くなるので、これまでと同じ仕事時間を確保するには、生活時間帯も少し前倒しにしなければならない。
今年の起床は目標9時半。それでも一般の会社員に比べれば十分遅い起床だろうが、毎日終電まで働くのである。

まずは煙草を吸ってコーヒーを飲み、さてデジタル作業である。
パソコンの作業は気が楽で宜しい。
まずはスキャンした素材の掃除から始める。年末の大掃除からこっち掃除ばかりしている気がする。
線を補正してゴミ取り。
正式な版権イラストでもないので、アニメのセルと同じに線は2値化して彩色作業を簡単にする。
分からない人のために一応解説しておく。
鉛筆で清書した線は、黒い線といってもスキャンすると単なるグレーの階調であり、白い紙もそのわずかな汚れやたわみなども読み取るためにうっすらとグレーになる。これをレベル補正して、なるべく白黒のはっきりした画像にする。このままでも塗りの作業はもちろん出来るのだが、いくらか手間が余分にかかるので、これを2値化する。と、グレーの階調は失われ、白黒だけのデータになる。線の滑らかさは失われ、小さな正方形のブロックが集積した線になる。折角の線がジャギジャギになってしまうがが、こうしておくと線で括られた面積内をペイントツールでとても簡単に塗ることが出来る。クリック一つでサッと塗ることが出来、後から色を変更することも簡単。同じ色なら一括で変換も出来る。
もっとも、超簡単に塗れるようにするための仕込みや修正に手間がかかるのだが。
大量にセルペイントを必要とする通常の商業アニメーションにおいては、作業簡便化のためにセルはすべてこうして塗られている。この年賀画像では影やハイライトなどは別素材で作成しているが、通常のセルは実線と一緒に同じ紙に書き込みになる。
2値化したままでは勿論線がジャギジャギで見るに堪えないので、このデータに「スムージング」とか「アンチエイリアス」といった処理を施すと、ジャギジャギが平準化され滑らかな線になる。
説明が足りないかもしれないが、概ねそういうことである。
上記のことを親切にも図に示すと次のようになる。

004.jpg

実線と同様、影とハイライトの色トレス線にも2値の処理を施して、塗るための下ごしらえは完了。
後はペイントツールで色を流し込むだけである。
ロビンの基本色はすでに決まっているので、以前に描いた設定のデータをパレットにして、ここから色を拾ってヒョイヒョイと移植。
新規に色を決めなくてはならないのが「虎の手袋と耳、顔のペイント」だけだが、どうということもない。虎の記号的な色は黄色と黒でロビンの固有色と相性が良すぎるくらいだ。というか、ロビンが黄色いから虎の扮装をさせたのだ。
ちょっとだけ迷ったのは、「虎柄」という記号で考えるか、本物の虎に準ずるか、というくらい。
耳にせよ手袋にせよ、黄色に黒の縞を入れれば記号的に分かりやすいが、その分ファンシーという不愉快な彼岸に近づく。リアルな虎に準じるなら、耳の裏は黒いものだし、手先に縞はない。だが、その分虎の記号が後退する。下描き段階でも考えた問題だが、ファンシーに近寄るのはやっぱり嫌だ。
虎の扮装パーツは無難な色で収めておく。

これで塗りは終わり。超簡単。
後は『夢みる機械』キャラ定番の「金属処理」。ロビンの場合はグレーのパーツがその対象。この部分のハイライトにのみフレアが出る処理を施す。
当該部分の色を選択して別レイヤーとして、ぼかしなどの処理を加えてレイヤーモードを変えて重ねると、こんな案配になる。

005.jpg

さらに胸のライト部分などに光の処理を施す。と、アニメの本篇画面でならばこれで完成ということになるが、一枚絵なのでわずかに「特効」を加える。
頭部や胸元、足先などにブラシとグラデーションツールで階調を伴ったハイライトを入れて作業は終わり。
完成した画像にさらに定番の処理を加える。画像をコピーしてぼかしたものをソフトライトで重ねて完成。この効果により、単なる塗りよりも湿度が加わる……ような気がしている。やりすぎると「ベチャベチャ」になるので、濃度は控えめにしておく。
これでイラスト部分は完成。
単なる塗りと比較すると、いくらか違いがお分かりいただけようか。

006.jpg

さて、このイラストをどのように配して年賀状に仕立てるか。
イラストだけでは年賀状としての機能に欠ける。
だからといって背景用に新たな素材を作るのは億劫だ。
面倒は嫌い。
ちょうど『夢みる機械』の「仮ロゴ」が円形で、これをアレンジすれば「日の出」に見えないこともあるまい、と思って流用することにした。
この仮ロゴは去年の4月に私が作ったものである。本番のロゴが出来るのはまだまだ先だが、制作期間中にも「旗印」が欲しいと思って作った。
こちらがその仮ロゴ。私はグラフィックデザイナーではないので、至らぬ点はあるが気に入ってはいる。

007.jpg

この仮ロゴの背景を赤から黄色へのグラデーションに変え、年賀状に相応しい「日の出」に見立てる。
これを先のイラストのバックに配置して完成。

008.jpg

お手軽に作った割には悪くない、と思っていたのだが作画監督の板津くんに指摘されてしまった。
「今さん、ロビン間違ってますよ」
ありゃ。
ロビンの下半身に付いている「オムツ状」のパーツ、これの曲線の向きが逆だった。「∪」ではなく、上に向かって「∩」となるのが正しいのであった。
元は自分でデザインしたくせに、ああ情けない。
ま、それもご愛敬ということで。

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