2010年1月24日(日曜日)

『SATOSHI KON−THE ILLUSIONIST−』



何も私が自分で「イリュージョニスト」だと名乗っているのではない。
Andrew Osmondさんがそう仰っているのだ。
その形容がSatoshi Konに相応しいのかどうか私には分からないが、映画やアニメーションといった表現手法は元来手品的、奇術的な「見せ物」としてこの世に誕生したことを考えると、「イリュージョニスト」と冠されるのは名誉なことだろう。
だいたい静止画をつなげて動いているように見せかけるなんて、手品や奇術そのものである。
そういえば何年か前、パリで取材を受けたときのこと。写真撮影に際して、カメラマンは私にこういう注文をつけた。
「カメラに向かって、両手を大きく広げて見せてください」
「絵描きとしての手」がどのようなものかを見せろ、ということかと思ったのだが、どうもそういうことではなく、あとで何かを合成する都合なのだという。
後に記事が掲載された雑誌が送られてきたら、カメラに向かって大きく広げた私の両手から、トランプのようなカードが無数に飛び出しており、その一枚一枚は確か『パプリカ』の本編画面になっていた、と記憶している。
要するに、それもまた映像における手品師みたいなイメージであった。
その雑誌は仕事場のどこかに置いてあったはずだが、あいにく見あたらない。なかなか笑える写真であったと思うので残念だ。
その取材当日も多分、どうせ黒っぽい服装だったのだろうし(たしか黒のアルマーニにちゃんとネクタイもしていたはずだ)、髭にメガネに広いおでこに少ない髪の毛を束ねたその様は、フランス人の目にはきっとこう映ったに違いない。
「東洋のインチキ手品師」
私だってそう思う。

「東洋のインチキ手品師」から「イリュージョニスト」とはまた随分出世させていただいたものである。紹介が遅れたが、『SATOSHI KON−THE ILLUSIONIST−』とは本のタイトルだ。

illusionist.jpg

アメリカで出版された、すべて英文によるSatoshi Konに関する評論本のようだ。「ようだ」というのが情けないが、英語を解読するのが億劫なので内容をパラパラと眺めるだけである。
著者紹介によると、Andrew Osmondさんはイギリス人のフリージャーナリストで、主に映画やアニメーションについて15年に渡って書いておられる方。
今 敏監督作を取り上げていただき、どうもありがとうございます、Osmondさん。
ページにはびっしりとアルファベットが並んでいるが、カラーページが多く本編画像などの図版はすべてカラーで収録されている。
定価はUS$18.95(アマゾンでは新品¥1,614となっていた)。これまでに今 敏が監督したアニメーションがそれぞれ詳細に論じられている、ようだ。
目次は以下のようになっている。

Introduction
Kon on Kon
Perfect Blue・Psycho Pop
Millennium Actress・The Running Woman
Tokyo Godfathers・A Christmas Story
Paranoia Agent・We’re All Mad Here
Paprika・Dream Goddess
Postscript

『パーフェクトブルー』を「サイコポップ」と一言でまとめるセンスがなかなか素敵だ。
「Kon on Kon」は監督以前の仕事について書かれているようで『海帰線』(リニューアル版)や『ワールドアパートメントホラー』(イタリア版)の表紙、『老人Z』や『機動警察パトレイバー2』海外版DVDのジャケットが掲載されている。しかし……どうして海外版DVDジャケットのビジュアルはどれも格好悪いのだろう。当地の人には「日本版ビジュアルよりこの方が断然いい」と思えるのだろうか。いつも不思議に思うことの一つだ。
キービジュアルなどが文字が乗らない状態で掲載されているのが少々不思議。イラストのみのデータをどうやって入手したのだろう。
パラパラめくりながら目に付いたところだけ解読しているだけでも、随分と丁寧に取材されているようだと感心していたら、「Introduction」の最後にこう記してあった。

Finally, my deepest thanks go to the subject of this book, Saoshi Kon, for giving up his time to answer my question in person, and for generously sending me follow-up answers by email, all of which made this a far better book than it could ever have been otherwise.

すっかり忘れていたが、この書籍の制作に当たって私はインタビューを受けていた、ようだ。
己の杜撰な記憶力に恐れ入る。
せめて「Introduction」くらいは解読してみようと思って読み始めたら、なかなか興味深い描写にいきなり出くわした。

I first saw Japanese animation director Satoshi Kon in a Venice fetival cinema, at the world premiere of his fourth film, Paprika. With his immaculate black suit and beard, Kon cut a precise, slender, slightly satanic figure as he accepted the festival audience’s standing ovation.

……少し悪魔みたいな姿……。
タイトルと合わせて考えると今 敏は「悪魔じみた外見の奇術師」か。
何か……いい死に方しそうにないな、そんな奴(笑)

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