2007年10月21日(日曜日)

NOZOMI superexpress bound for Metabolic Syndrome



18日から神戸に出張。いつも通り2泊3日で専門学校・アートカレッジ神戸アニメーション学科に講義のデリバリー。
19時33分の「のぞみ」で新神戸へ向かう。いつもの通り喫煙10号車。
車内放送がいつものように迎える。
「”Welcome to the Tokaido Shinkansen. This is the NOZOMI superexpress bound for Himeji.”」
アートカレッジ神戸へのこの出張講義を月一回程度のレギュラーにしているのだが、今回は宿泊はいつものようには行かないイレギュラー。
どういうわけか、この時期神戸のホテルが異様に混んでいるらしい。来月上旬はアニメーション神戸の授賞式に出席する予定なのだが、こちらも一月以上前に申し込みしたにもかかわらず満室の返事が多い。
今回も常宿にしているホテルがいっぱいで予約が取れず、アートカレッジ神戸の近くにあるホテルプラザ神戸に一泊。それでも連泊は出来ないそうで、二日目は帰りのことも考えて新大阪に近いホテル、という有様。落ち着かないが仕方がない。
チェックイン時に受付の女性に聞いてみた。
「明日は、いっぱいなんですか?」
「はい全館満室で」
「どうしてこんなに混むんですか?」
「何か学会とかがあるらしくて、市内のホテルはみんなこんな状態のようです」
「へぇ、学会……そりゃまた迷惑な話ですね」
そう言われてもホテルマンが「うん」とは言わないだろうが。

六甲アイランドにあるこのホテルは、ホテルとしての設備やらサービスに不満はないのだが、立地が少々難儀。何しろこの六甲アイランドはまったくの人造の島で、生活臭は希薄で飲食店が少なく、さらには夜が早い。私にはこれが一番困る。
神戸出張の際、ホテルのチェックインは夜になる。今回だと23時くらい。常宿にしている三宮市内のホテルだと繁華街のネオンも近いので、もっと遅い時間からでも飲食に不便はない。コンビニだって数多い。
だが、六甲アイランドではそうは行かない。チェックインした後、買い物が出来る場所といえば近くにあるコンビニだけ。しかも24時閉店。それ以後は駅にあるコンビニまで行かねばならない。
せっかくの神戸出張が途端につまらなくなる(笑)
だからといって、普段だってどうせホテルの近所で麺類でもすすり、コンビニでアルコールとつまみを仕入れて部屋に戻るだけなのだが。しかし、このホテルの部屋で酒を飲みながら読書をしたりパソコンに向かう、という時間が贅沢で良いのである。
何だか分からない学会のせいで、今回の出張の楽しみは半減されてしまったが、近所のコンビニで晩酌のセットを仕入れることにした。赤ワインのハーフボトルとハム、入浴剤などをカゴに入れていると、目の前に見たことのある女性が、カゴにテンポ良く食料を放り込んでいる。どっさりと。
チェックインを担当してくれたホテルの女性だった。目が合ったので会釈をして、ついどっさりと食料が放り込まれたカゴに視線を向けてしまった。
ばつの悪そうな笑顔で彼女はこう言った。
「あはは、夜食の買い出しで」
たしかに一人で食べる量ではあるまい。夜勤の同僚の分まで買っていたのであろう。
「ホテルマンだって夜食くらい食べますよね」
何だその答えは。

このホテルの何よりの利点は学校に近いことである。
偉そうに書いてみてから、何だか話が転倒している気がしてきた。そもそもが出張なんだっちゅうの。仕事場に近いホテルが最適に決まっているだろうに。何が夜の麺類だ、何がネオンの手招きだ(笑)
授業は午後から。3、4、5限を担当している。3、4限が1年生、5限が2年生。いずれの学年も一年間を通じて短いアニメーションを作るという内容。
今回は授業の前にもイレギュラーが一つ。私が言い出したイレギュラーだ。
現在、NHK企画「アニクリ」のために1分の短編を鋭意制作中なのだが、これの声優を学生に頼もうかと考えた次第。理由は色々あるのだが、台所事情などの話は措いておく。だいたい予算の割りに凝りすぎなんだよな。
ちなみに私なんてほとんどボランティア仕事になっている(笑)
アートカレッジ神戸には「DJ・声優学科」というコースがある。ここの学生さんで希望者がいれば、オーディションしようという目論見で、普段は面識のない声優科の学生を相手に、短編の内容を紹介する。
「半裸の若い女性が一人、ベッドの上で、こーなってあーなって、それでこんなことになって、そしてセリフは最期にわずか一言」
セリフはたった一言なのだが、「息芝居」が多いのである。
「あ…あ…ああっ」とか「ハァ…ハァ……」とか「あっは〜ん」とか。
NHKでそんなものを流せるわけないっちゅうの。
実際、NHKさんとの打ち合わせの席上、こんなことがあった。
「主人公の下着をちょっと凝りたくてね。一部を透けさせようかと思ったんですよ」
返事、速攻。
「勘弁してください。放送できません」
分かってますってば。
声優科の女子学生には制作中のラフ映像を見ておいてもらって、再来週講義に来た際、オーディションしようというわけである。
適当な子が見つかると良いのだが。いなかったら……その時考える。
「でも、なんかその話、おかしいんじゃない?」
そう思ったあなたは正しい。
「切ない台所事情→学生起用」
これが基本構図であるにもかかわらず、神戸の学生をNHKのスタジオに呼んだら普通にプロに頼むギャラ以上の、旅費やら宿泊費がかかるではないか。その通り。そこには色々な思惑や交渉が関わっているので内緒にしておく。
当初、多少経験のある新人さんに声をかけるとか、東京の専門学校に話を持ちかける、という話もあったのだが、自分が関わっている学校に先に話を持って行くのが「筋」というものではないか。
アートカレッジ神戸に関わるようになってかれこれ10年近い。恩の一つも返したい。出来れば。

声優学科の皆さんへの説明の後、1、2年生相手に通常の授業。私の監督作の作画や背景の本番使用データ、途中のデータなどを紹介しつつ、いかにアニメーションが手間暇のかかるものかを思い知らせてやる。
「たとえば、このカット。この画面を作るために必要な処理はこのようになっている」
フォトショップデータのレイヤーセットをすべて開くと、モニタ画面に収まらないほどだ。少しは驚け。
かかる手間暇の大きさは冗談じゃないんだぞ、本当に。そんな面倒な仕事に就こうとしているのだぞ、君たちは。ま、まだまだまだまだまだまだ想像も及ばないだろうけど。

仕事がすべて終了して18時半。うう、疲れた。
疲労を一番癒してくれるものといえば決まっている。
美味い酒と御飯。
ということで、アニメーション学科の先生と広報の人間と3人で美味い物を食いに行く。
二日目のホテルは新大阪から二駅ほど離れた江坂というところにあるので、今回の美味い物は神戸ではなく大阪にあった。
私たちの乗った車は関西のオタクの聖地・日本橋にさしかかる。夢と萌えに溢れた道を抜けるとそこにあったのは。
「ふぐ料理の太政」
http://r.gnavi.co.jp/k043000/
上のウェブサイトの見出しが奮っている。
「味覚の魚王−ふぐ料理の老舗」
……魚王(笑)
それは持ち上げすぎ。だいたい何だ、その造語。他にもあるのか?「牛王」とか「豚王」「野菜王」とか。「スパ王」なんてインスタント食品があったような気はしたが。
ともかく「ふぐ」、それは幸福の「ふく」。
とか何とか言いつつも、実は私、世間で言うほどにはふぐにありがたみは感じていない方だ。そりゃ確かに美味しいけどね。なんだけれどもこんな感じ。
「値段の程に美味しいのか?」
正直な疑問。
これまでの44年の人生で、ちゃんとふぐを食べたことなどわずか数回程度なので、こんな粗雑極まりない感想しか持ち合わせていない。少しだけ悲しい。というか44歳の大人としてちょっと情けないな。
しかし。この店のふぐは美味しかった。さすがにふぐの専門店。何しろメニューにはふぐしかない。ふぐづくし。
「てっちり」「てっさ」「ゆびき」「白子(ナベ用)」「白子造り」「白子の味噌焼」「ナベ皮」「雑炊」「アッサリ」。
アッサリ? 何だよアッサリって。
「アッサリ ¥105」
マクドナルドの「スマイル�」みたいなものか?
そんなわけないよな、消費税までかかってるんだから。
お茶? お茶で105円取るってことはないよな。お会計? お会計してもらうのに金を取るわけないわな……などと思いをめぐらせていたが、何のことはない「漬け物」のことであった。
ビールを飲んで喉を潤し、いきなり「アッサリ」を食べる。確かにアッサリだ。看板に偽りなし。
「てっさ」をいただく。要するに「ふぐ刺し」だ。
「うむ…うむむ……美味い……あれ?美味いや、これ」
身がしっかりしていて大変美味しい。
「てっちり」もすぐに用意される。要するに「ふぐ鍋」だ。
これも身がしっかりとして、歯ごたえがあって美味い。これまでの私の「ふぐ歴」のトップランクに躍り出たかもしれない。
「ありゃ。美味いぞ、ホントに」
これまですまなかった、ふぐ。うん、見直した。美味い。
会計さえ気にしなければ(笑)
お一人様一万円はアッサリ超える食い物だ。さすが「魚王」。

ふぐによる多幸感に浸って宿泊するホテルへ移動。
チェックインしてから近所の居酒屋に行き、先生や広報課長から色々と専門学校業界の話や美味い物の話、アートカレッジ神戸の来期の展望や美味しい物の話、広報の裏話や幸せになる食べ物の話などを魚に焼酎を飲む。
「来年度の入学志望者数が上向きなんですよ!」
「へぇ!珍しくいい話じゃないですか。美味しそうですね、その甘鯛」
全然話が噛み合ってないじゃないか。まぁ、酔っぱらいの会話を要約すればそんなものだ。
飲んで喋るにはつまみが欲しい。だが、胃の腑のふぐが存在を主張して止まない。
こういう時はこれに限る。
「枝豆ください」
「枝豆280て、エラク安いね」
「あ、ホンマや。それはそうと監督、来年の2月にまた学校の説明会があるんですわ」
「ほほぉ。値段ほど悪くないね、この枝豆」
枝豆をパクパク。焼酎をチビチビ。
「で?2月に讃岐うどんを食いに行くんですか?」
「今年、監督にも来てもらいましたよね、学校説明会。讃岐でめちゃくちゃうまいうどん屋も見つけたんですが、来年の説明会はまたさらに派手にしたいんですわ」
枝豆をパクパク。
「へぇ、めちゃくちゃ美味しい説明会かぁ、今年食った神戸牛も美味しかったですよ」
「そうそう、老舗の肉屋がやっている店が美味しい神戸牛を出すらしいです」
枝豆をパクパク。
「すいません、枝豆もう一つ下さい。いいですねぇ、その店」
「そんで来年の学校説明会、また監督に出てもらえないでしょうかね?」
「説明会ですか。今年は二日酔いですいませんでしたね。美味しい焼肉屋の話はどうなりました?」
「一日に8人しか客を取らないんですよ、その焼肉屋」
「え?新しい学科の学生が8人?」
枝豆をパクパク。
「これから増えますて。問題は2月の学校説明会ですよ、監督」
「説明会か……そうですねぇ……何かつまみ、頼みます?」
「まだお腹いっぱいですわ」
「うーん……じゃあ……枝豆もう一つ下さい!」
単価の低い客だね、まったく。続けざまに枝豆三皿(笑)
しかし、飲んで喋ってるうちに段々腹が減ってくるもので、訳の分からない会話の果てにこういう注文が出てしまうのであった。
「すいません、天ざるうどんください」
食い過ぎだっちゅうの。ズルズル。

ホテルに戻って満腹感のうちに眠りに落ちる。
起きると快晴。
今時のホテルのくせにケチくさい11時チェックアウトに急かされて、荷物をまとめてそそくさと新大阪の駅へ。
以前、神戸出張の際は新大阪の駅を利用していたのだが、最近は新神戸を使っている。新大阪を使うのは久しぶり。
さて、新大阪の駅といえばマストアイテムは決まっている。
「551蓬莱の豚まん」
東京までの新幹線のチケットを確保して早速買いに行く。久方ぶりの豚まんに心も弾むというもの。
駅構内にある店の前には豚まんを求めようと意地汚い食いしん坊どもが列をなしていやがる。
「ったくよぉ、そんなに食いたいのかよ、豚まん」
はい。
「豚まん10個入り二つ」
新幹線の中でこれをすべて食べるのだ! 食わないっちゅうの。
現在制作中は「アニクリ」だけなので、仕事場の私のいる部屋にはスタッフはごくわずかだが、隣の部屋には動画の子たちがたくさんいる。単価仕事で頑張っている若い子たちであり、新聞や雑誌などでよく紹介される「月給5万円のアニメーター」とは彼らのような子たちである。
その差し入れにもなると思い、豚まんを20個ほど注文してみる。
「いまからですと、出来るまで7分ほどかかりますが?」
「2分でやれ!」
言わないっちゅうの。
「7分ね。いいですよ」
「では豚まん10個入りを二つ。焼売はいかがですか?」
「じゃあ、百個」
そんなに買わないっちゅうの。10個入りを一つ買ってみる。
外でタバコを一服して、豚まん20個と焼売10個をピックアップ。
げ、重い。

蒸し立ての豚まんは食欲をそそる香りを立てているが、駅弁の魅力にだって顔を背けるわけにはいかない。
弁当をあれこれ見比べる。いつもは無難の路線を取るのだが、今回は噂に聞いたこともあってキワモノに挑戦してみる。
「たこむす」
たこ焼きが入ったおむすびだ。「天むす」を思い浮かべていただけると良い。エビ天の替わりにたこ焼きが入っているのが「たこむす」。
11時53分発の「のぞみ」10号車D席に座ってビールを空け、「たこむす」の包みを開く。
マヨネーズが添付されている。かけろというのか、おむすびに。
マヨネーズを絞り出し、五つ並んだ小さなたこむすの一つを早速口に入れてみる。

20分ほど眠り、起きてパソコンも起こして仕事にかかる。
今回はのんきな出張というわけでもなく、テキストを書く仕事と二人三脚だ。神戸へ向かう車内でもキーボードを叩いた。
あーでもない、こーでもないと考えをめぐらしつつ、メモをする。
名古屋を随分過ぎたあたりで、窓のブラインドを上げる。天気は快晴。富士山はきれいに見えることだろう。
予想通り、富士山が美しいプロポーションを見せている。
めったに使わない携帯のカメラを向けてみる。
カシャッ。
携帯のモニタに収まった富士山は随分遠く小さい。何だか各地にある「○○富士」みたいだ。「蝦夷富士」とか「讃岐富士」とか。
「静岡富士」
そりゃ本物だってば。
東京駅に着いて中央線に乗り換え、仕事場へ。ふう、疲れた。
エ? 「たこむす」はどうしたって?
ノーコメント。

重たい思いをして持ち帰った豚まんを動画部屋に持って行くと、「美味しい」と好評であった。自分でも食べてみる。おお、久しぶりの豚まん。うん、美味い。
「カントクゥ、どっか行ってたんですか」
「神戸に出張だ。これは大阪土産。かの蓬莱の豚まん」
「いつ帰ってきたんですかあ?」
「いまだよ、いま。モグモグ」
「ええ?いま帰ってきて会社来るんですか?モグモグ」
「ああ、新幹線でビール飲んで、少し眠れたし」
「昼間からビール飲むんですかぁ?」
「ビールくらい飲むさ、大人だぞ。モグモグ」
「カントクゥ、なんか中華料理似合いますね」
意味が分からん(笑) 謎の東洋人みたいだと言いたいのか。だったらその通りだ。
「カントクはいま何の仕事なんですか?」
「オレか、オレはな時速300?で移動する豚まん屋さんだ。モグモグ」
からし醤油が合うのだな、豚まんは。
ボリュームたっぷりの豚まんだが、美味しくてついついもう一つ食べてしまう。シューマイも開けようっと。「たこむす」などノーカウントだ。
「シューマイうまい!」
そんなコマーシャルがあったような気がする。シューマイももう一つ。モグモグ。
うう、満腹してばっかり。
神戸への出張は楽しみだが、ついつい食べ過ぎに要注意。
腹を引っ込めるのが「のぞみ」どころか、肥満への超特急だな、新幹線。
ビューン。

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