「千年女優」作品紹介

kumade

解 説

1998年に公開されたアニメ映画「パーフェクトブルー」
「サイコ」「リアル」「バーチャル」だのといういかがわしい惹句と「アイドル」「ストーカー」「インターネット」というベタベタなモチーフに彩られ、挙げ 句に「15R」という輝かしい称号まで冠され、国内のアニメ雑誌にはほとんど黙殺されていながら興行的には大健闘し、海外の映画祭でも高く評価されたこの インディーズアニメーション。
ジャパニメーションの鬼子ともいわれた、その「パーフェクトブルー」を制作したスタッフによる新作が「千年女王」です。
間違いです。「千年女優」です。

「千年女優」の監督は無論「パーフェクトブルー」の今 敏
脚本は「パーフェクトブルー」に引き続いて村井さだゆき、共同脚本として監督が名前を連ねています。
アニメーションの要であり魅力であるキャラクターデザイン・作画監督には「パーフェクト・ブルー」で原画を担当した本田 雄(ホントの代表作は「エヴァンゲリオン」)。
画面の品格を受け持つ美術監督も前作同様、池 信孝
アニメーションをまとめる扇の要の演出も松尾 衡
映画の魅力を音で支える音響監督も同じく三間雅文
描かれた絵をフィルムへと昇華させる撮影の監督にも同じく白井久男
そして赤字のリスクをも受け持つアニメーション制作は、やはり「パーフェクト・ブルー」と同じく業界の跳ね馬マッドハウスです。
そして今回は新たに音楽に平沢 進を迎えました。

動く絵にさらなる命を吹き込む声優陣も渋くて豪華な面々です。
主人公・藤原千代子には、年代別に荘司美代子小山茉美折笠冨美子の3人を配し、通常の3倍の熱演が聞かれます。
脇を固めるのは飯塚昭三山寺宏一鈴置洋孝津嘉山正種らベテラン陣。
「千年女優」は絵も音もクオリティアップしてお送りする自信作であり、「パーフェクト・ブルー」よりもさらに意固地にジャパニメーションの本流から遠ざかろうという意欲作に仕上がりました。

「パーフェクトブルー」に比べ、予算も少し多くなりました。
スケールもちょっとだけ大きくなりました。
そして制作期間はスタッフの都合で勝手に長くなってしまいました。
その分内容は保証します。監督が言うのですから間違いありません。
しかも前回「パーフェクトブルー」の「15R」からは打って変わって、文化庁の助成金を賜る幸運にも恵まれた作品です。

しかし未だ劇場公開時期は霧の彼方です。
いつその霧が晴れるのかは誰にも分かりませんが、晴れ間が見えたときにはこちらのHPで大きな声でお知らせしたいと思います。

「千年女優」は監督の原案によるオリジナルのストーリーです。
キャラクターは勿論のこと一から十までアニメーションの世界から発信される映画です。しかしその内容はおよそ日本のアニメーションに慣れ親しんだ方には奇異に思える物語かもしれません。

ストーリー

 かつて一世を風靡した女優の語る一代記……のはずが、その思い出はいつの間にか彼女が出演した映画のエピソードと渾然一体となり、彼女の話を聞くインタビューアー二人を巻き込んでの波瀾万丈の物語になって行く。

 関東大震災と共に生まれたその人、藤原千代子。
 千代子の話は戦争の足音が近づく帝都東京から始まり、満州に舞台を移したかと思うと、あろうことか、はるか戦国時代に時を移し、彼女は燃える城で姫君に 姿を変えたかと思いきや、はたまた江戸時代のくの一に扮して侍相手に大立ち回りを演じ、ときに幕末の遊女に身をやつしては上の太夫にいじめられ、町娘に姿 を変えて幕末の京都をひた走れば新撰組に脅され、明治の牢獄で官憲にいたぶられながらも必至に耐えた彼女が、やっとの思いで獄舎を抜け出したその先は昭和 の大空襲……。
 彼女は映画という虚構と現実の間を自由に行き来しながら、時間と空間を越えて行く。
 その千代子の想いはただ一つ。
 初恋の殿方に一目会たい。

 その男は絵描きであった。
 戦前、官憲に追われて怪我をしていたところを千代子が家の蔵にかくまったのがすべての始まり。彼に初恋とも呼べぬほどの淡い思いをいだく千代子だったが、軍国主義が二人の間を引き裂く。
 遂げられぬ再会の約束と残された大切な彼の人の「鍵」を携え、様々な時代の中で戦国の武将、幕府に捕まった罪人や尊皇攘夷の志士へと姿を変える「愛しの君」を追って千代子はどこまででも走って行く。そして彼女が走った道のりの分だけ、彼の人への想いも深まって行く。
 千代子の行く手には「愛しの君」を捕らえようとする官憲の男や彼女を目の敵にする女優が、やはり時代に応じた姿で手を変え品を変えて立ちはだかる。
 そんな千代子の昔語りに翻弄される二人のインタビューアー。
 二人は彼女の回想に入り込み、ときに彼女に置き去りにされながらも、彼女の後を追って共に時代の旅をする。
 彼女のファンである初老の男、立花源也は目の前で繰り広げられる映画の名シーンに大いに感激、思わずその役柄になりきり、ときに戦国武将、あるいは股旅 者に姿を変えては彼女の危機を救いに現れる。かたや白け気味のカメラマン井田恭二は呆れながらも彼女の壮大なホラ話に引き込まれ、不平ばかりを口にしつつ も否応なく壮大な時の冒険へと連れて行かれる。

 時代を超え、あたかも千年の間、愛しの君を追ってひたすら走り続ける千代子。
 やっとの思いで辿り着いた未来の月面で果たして彼女が見るものは……?

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