さてさて、何事も始めるに当たっては意欲と楽しみと夢がと下心がいっぱいであろう。
多くの人が自分だけのホームページ、自分も情報発信者になれる、その甘美な誘惑にあらがえず時間を惜しむことなく作り始めるはずだ。表現の自由が確保された素晴らしい世の中だな。
さぁせっせと作るのだ。
スキャナーだ、デジタルカメラが必要だ、ああ、お絵描きソフトだって欠かせない、ホームページ作成ソフトは……。
平成大不況を蹴散らしそうな物欲の奔流が押し寄せ、キミを電子の聖地・秋葉原へと押し流すであろう。
「ホームページが出来たら、色々な人が見に来てくれて、沢山の人がメールをくれて知り合いになれる…」
楽しく甘美で身勝手な夢に溢れた時を享受するであろう。わくわく。
ケ。現実を知るのはまだまだ先のことだ。
まさか折角手に入れたデジタルカメラが埃をかぶり、お絵描きソフトやHP作成ソフトが起動すらされない状態になるなど思ってもみない楽しい一時。とっくと味わっておくがいい。
「誰でも超簡単!あなたのホームページがすぐ出来る」などと書かれた腰巻きの付いた本を買い込み、早速素材を用意し、配置していくことになろう。CD-ROMに入ったテンプレートや画像素材集もある、気に入ってる他人のホームページのデザインなどをお気楽にパクれば、頭を使うことなんか一つもありゃしない。謳い文句に間違いなし。
「チョーカンタン!」
批判的な書き方をしてみたが、私だって概ねそんな微笑ましい関わり方であったのだ。
しかしここでは少々角度を変えて、電子の巷に溢れる「よくあるケース」を考えながら、笑ってみることにしよ…いや、より良いHP運営の糧にしてみよう。
ここに一人の人間を想定してみる。
匿名性を考慮してここは一つ「オオキド」という名前にしてみよう。もしこれを読んでいる貴方が「おおきど」という響きを持つ名前の方だったらごめんなさいよ。貴方のことじゃないからね。
さて、オオキドはまず考えるわけだ。
「さあてと、コンテンツは何にしよっかな?」
読者のキミならここはもうクリアしているはずだが、闇雲に「HPを持ちたい」としか考えないオオキドの本領発揮はここからだ。
「そうだまず、自己紹介は欠かせないな。これからすっごく沢山の人が訪ねてくるわけだから、誰がこれを作っているのか知ってもらおう。オオキドのことを知ってもらいたい…」
正しい考え方であろうし、礼儀にも叶っているような気がする。
する、けどさ。
この「ボク(ワタシ)のことを知って知ってもっと知ってよ、お願いだから分かって分かって」光線は燦然と光を放ち、眩しいほどに肥大した「自己紹介」コーナーはかくしてどのホームページにも頑なにその大きな存在を主張することになる。
というよりはオオキドに代表されるこうした人々のホームページは、それ自体が自己紹介になっていることが多い。娑婆やインターネットに吹き荒れる「自己紹介ブーム」の一大旋風が止む気配はないらしい。
いや、それが悪いわけではあるまいし、私は過度な自己紹介などを返って面白がっている一人だ。ただそうした「自己紹介」という脆弱なコンセプトのHPは長続きすることはない。紹介したいような自己はすぐに底をついてしまうのだから。それではつまらない。
オナニーだけじゃ、わからないこともあるんだなぁ みつを。
ちゃかしているわけではないが、どうせならもっと突っ込んだ自己紹介をすれば面白いだろうに。家系図をたどって一体私が存在するに至ったプロセスはいかなるモノか、くらいやってみるとか。みんなの大好きなアクセスカウンタはあまり回らないかもしれないが「徹底した自己紹介だけのページ」は魅力があるはずだがなぁ。少なくとも作り手自身にとっては。
HP制作の楽しみの一つに、外在化した自分を客観的に見つめられる、という効用があると思う。自分が作ったものを自分で見返して、客観性を養うということだな。いかに自分が格好を付けているかとか、頭が悪いなど様々な発見があるぞ。
どんなネタを扱うかは種種雑多ではあるが、その一つが「自分」であっても別に構わない気がするのだ。「自分マニア」という極小の閉鎖系もとことん突き詰めていくと、どこかで極大に至るのでは無かろうか。ただしある程度の客観視は当然必要。
芸能人やら人気商売の人ならいざ知らず、ごく普通の生活を送る一般人の私生活や生い立ちに、赤の他人がにわかに興味を持つはずもない。
自分を特別な人間と思いこむのはよいとしても、あたかも芸能人の様なつもりで書かれても見る人はさっさとバックボタンを押すに決まっている。そのくらいのことが分かっていた上でなら、「自己紹介」を徹底して楽しむことは出きるかもしれない。
「いいでしょ!私が好きでやっているんだから」
オオキドは反論するかもしれない。確かにその通りだ。
しかしオオキドは内心多くの人に来てもらいたいと熱望しており、実際アクセスカウンタが回らないと「インターネットはつまらない」という大雑把で否定的な感情論にすり替え、HPはうち捨てられてしまう結果となる。ここらあたりは少し大人になりたいものだな。
さてオオキドは「自己紹介」のページに、物欲の甘い囁きにそそのかされて購入したデジタルカメラを早速使い、写真を入れてみたりするわけだ。
「でもなぁ、自分の顔をさらすのも嫌だなぁ、そうだ、ここは一つ…」
お面をかぶったり、気に入ったモノだのフィギュアだのを写真に撮るのはよいのだが、そこに「著者近影」などというコメントを付けたりする、ギャグセンス最高なオオキド。おいおい。
いや、楽しいならいいけどさ、別に。
確かに女性の方は素顔を晒すのは注意がいるかもしれない。麗しい顔をアップしておけば一気にカウンタは回り、メールも続々と届いたりはするみたいだが、それで逆に困ったことになることもあろう。この世界にも娑婆同様ストーカーやいやがらせも存在する。実際その被害に遭っている人も多いようだし、巨大なサイズのメールを送りつけられ、開くと大きな画像で「男性自身がこんにちは!」というケースなどもあるとも聞くし。
送りつけられた方は実に気の毒だが、その写真を自分で撮ってる姿というのはちょっと笑える。
「自分のモノ」を紹介して、「交際相手求む」みたいな自己紹介を見たことがあるが、いくら「好きでやってる」にしても、それはいかんだろう、普通。
ただそこまで直接的じゃないにしろ「恥ずかしい自分」を晒すのは大概にしておいた方が良いだろう。自分は恥ずかしいと思わなくても、お客が恥ずかしく思うことも多々あるので、客観的な物の考え方も忘れちゃあなんねぇべ。
なるべくなら簡潔な自己紹介の方が、キミの品格を疑われないかと思われる。
そう言うお前の自己紹介は何だ?って。ふん、私の自己紹介は物忘れがひどくなった頃の私に向けてのメッセージなの。人前に出すなって? 出しとかないとどこにしまったか分からなくなるから。それじゃあ、もう呆けてるじゃないかって? だからこんなバカ文章を書いてるの。