電源復活。
現在は「アートカレッジ神戸」内にいる。ちょっと時間が空いたのでまた下らないことを書きつづるとする。
中断していた間のことを記す。
新大阪で降りた髭も怪しいその長身の男は神戸線に乗り換え、住吉でさらに六甲ライナーにひらりと飛び移りアイランドセンター駅にたどり着いたのだ。六甲アイランド内にある駅だ。おお人造の土地、作られた街。何か一抹のうそ寒さも覚えるが、それより私は空腹を覚える。時は2時20分。
さてと軽く腹ごしらえだ。お、うってつけの場所があるぞ。
「アーバングルメポート」
誰だよ、こんなネーミングしたやつは。ま、さぞやアーバンでグルメな食べ物屋が集まっているに相違あるまい。
何々、一覧があるぞ。
え〜っと、そば……そば、と。軽く食べるにはそばが一番だ、それに関西のそばも楽しみだし……あった。
…………「家族亭」
おもいっきりファミリー向けかよ。どこがアーバンでグルメなんだよ。期待薄だけど、まぁいいか。
「いらっしゃいませぇ。お一人で?お煙草は?」
「いっぱい吸います」
「……じゃあ、こちらのお席で」
おお、さすがに大きな灰皿が用意された席だ。いっぺんに2本くらい吸うか。そんなに吸わんでよろしい。
さてと……何にしようかな……?
「合鴨なんば」??
ん?
“ん”がないぞ、“ん”が。
んぼりさんの策略か?
「合鴨なんばん」じゃないの?
由来は確か「南蛮」だったはずだ。パワーブックに入れてある広辞苑にも、
「かも‐なんばん【鴨南蛮】(鴨南蛮煮の略) 鴨肉と葱ねぎとを入れたうどん・そば。かもなん。」
と出ている。ああ、なんて便利なんだろう、モバイルって。今の私はまさに生き字引だな。
しかし確かに「かもなん」と略すことはあるが、「かもなんば」ではあまりに中途半端ではないか。“ん”の分だけ鴨の量が少ないのかな。それとも単に関西ではそういうのが正しいのであろうか。
あれ、ご丁寧にメニューの「合鴨なんば」の横に(合鴨入り)って書いてある。親切だなぁ……っちゅうか鴨が入っているから鴨なんばだろうが!と、一人心の中で突っ込みを入れつつ優しくお姉さんに注文する。
「合鴨なんば……ひとつ」
危ねぇ、「ん」まで言いそうになったぜ。うっかり「合鴨なんばん」なんて口にしようものなら、頑固者の親父に「とっととけぇっとくれ!」とか怒られるに決まってる。家族亭とかいってて頑固親父がいるはずはないだろうが。
「ご飯物はよろしいですか?」
そうか、関西じゃ麺にご飯は付き物らしいからな。ここは一つ郷に入っては郷に従うか。
「おひつで2合下さい」
そんなに喰わねぇよ。小腹が減っただけだ。そばだけにする。
来た来た。お、さすが関西、汁の色が薄いなぁ。ズルズル。
しまった……麺はやはり固めで注文すべきであった。こしのこの字もありゃしねぇ。まぁでも汁は結構うまいからいいや。でも何か鴨が貧弱だなぁ。鴨のバラ肉みたいじゃねぇか。これじゃ確かに「合鴨入り」って書かないと何の肉だか分からないかもなん。
よし駄洒落も腹ごしらえもできたし、いざ行かん、「アートカレッジ神戸」へ。
話は飛んで、すでに私はホテルにいる。
学校で明日の講義のための色々な打ち合わせ、使用する教室のチェック等を済ませ
た後、夕食にお寿司をご馳走してもらいおとなしくホテルに帰ってきた。
おすしは先程の「合鴨なんば」でお馴染み、家族亭のある「アーバングルメポート」の一角を占める寿司屋でご馳走になった。
店の名前は忘れたが、ここは侮れない店であった。アーバンでグルメ、に相応しかろう。お寿司のコースは無論のこと、ふぐの白子鍋がおいしゅうございました。
今度関西に来たらふぐを食べたいな。当地においては「ふく」というのが正しいのであったか。ふぐそのものにはあいにく遭遇できなかったが、とりあえずふぐの元である白子を経験したのだから、次こそはやはり本体だな。
私が宿泊しているのは「HOTEL PLAZA KOUBE」。学校から歩いて2分の至極便利な場所にあり、新しくきれいなホテルである。それもそのはず何年か前に一度潰れて生まれ変わったという話だ。
私の部屋は14階。眺めも良し。
夜なので暗くてよくは分からないが窓の外には港が見える。貨物用の大きな、多分赤色のクレーンが点々と並んでいる。4本足でクレーンを一本首のように長く伸ばしたその姿はキリンのよう。赤いキリンは以前来たときに見て印象的だった。今、赤いキリンたちは夜の海をバックにシルエットになって浮かび上がっている。
物言わぬ赤いキリンは水平線の彼方に何を夢見るのだろうか……いっぱいの貨物かな。ちっ、夢がないな、俺って。
ぷしゅっ。冷蔵庫のビールを開ける。「神戸ビール」というラベルが旅情を誘うことだよ。
キリンの御当地シリーズのようだが、しかし取りたてて変わった味ではない。ついつい名前にひかれて旅先ではこうした御当地ビールに手を出してしまうが、それほど当たりに出会ったことはない。ま、気分気分。
ビールを飲みつつインターネットに接続する算段を考える。
電話の乗った小棚をいきなりどけてみる。どっこいしょ、と。電話線を外してそこにジャックを入れればいいのかな、などと考えていたら電話機のすぐ脇に注意書きが。
「インターネット接続について」
ちゃんと見ろ、っちゅうの。
電話機にはモジュラージャックの差込口が付いているではないか。近頃のホテルは便利なものだ。そーれ、ジャックイン!
あらかじめ神戸のアクセスポイントは調べてあったので、外線発信のための「0」を頭につけて、さて接続。おお、一発接続。28800bps……遅いがメールをチェックする程度だから特に問題なし。
お、「千年女優」の好評を伝えるメールが2通も。嬉しいな。何々?
事前情報無しで見たというとある未婚女性は感動して泣きそうになったらしいぞ。泣け泣け、ちゃんと泣いてくれ。宣伝用の街頭インタビューで、
「涙でスクリーンが見えませんでした」とか言っておくれ。
試写の後、この出来の良さなら公開規模を少し大きくすることも考えられる、なんて話もあるぞ。広がれ広がれ、少しなんていわずにうーんと広がってしまえ。私に福をもたらせておくれよ「千年女優」。ついでにふくもね。
さらにもう一通には、これでもかと言わんばかりに賛辞が並んでいる。「本当に本当に素晴らしかった」「感動」「斬新な感じ」「色が全編にわたりとても綺麗」「そしてやはりストーリー」「わくわく」「夢を見ているときのように不思議な感覚」
やるな、えらいぞ、すごいぞ、俺……あ、いや、「千年女優」!!
さぁていい気分にさせてもらったし、風呂にでも入るか。おっとお風呂のお供にビールは忘れちゃいけないぜ。
風呂を出たのはいいが……ない。見当たらない、寝間着が。いやだわ。持ってきてないわよ、ネグリジェ。そんなものは着ない。
さっき着ていたシャツを着て寝るのか、とちょっとわびしい気になったが、引き出しの中に浴衣を発見。ネット接続といい浴衣といい、もっと分かるようにしておいてもらいたい……って、まずちゃんと見ろっちゅうの。
ああ、しかしほとんど移動だけとはいえ、意外と疲れた1日であった……って、まだ一日分のテキストなの!?これ。先が長いな。
ともかく明日に備えておとなしく寝ることにする。お休み。