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お台場を駆け抜けるカモシカ

こともあろうに足が筋肉痛です。
何故?
デスクワークの毎日で、筋肉痛になるようなことがあるのかって?
それが、あるんです。

実は、先日11/27は土曜日はアニメーション業界連合大運動会が開催されたのです。私はキリンさんチームから「借り物競走」に出場しました。長髪を振り 乱し韋駄天宜しく運動場を駆けに駆け、「若い娘」と書かれた借り物の紙に驚喜したものの、見物人におよそ若い娘などいるはずもなく、すかさず一計を案じ、 手にしていたPowerBookでネットに接続して若い娘をゲット!モバイルアニメーターの面目躍如です。
残念ながらネットに繋いで時間をロスした分、惜しくも43等でしたが、ブービー賞の賞品として筋肉痛をもらって返ってきたわけです。無論ウソだと思うで しょうが、やや本当も混じっています。とりあえず「運動会」はウソに決まっていますが、もっともウソと思われるであろう「若い娘さん」という部分は本当で す。羨め。「筋肉痛」も悲しいことに本当です。癒せ。

本当のところは、かねてより実行に移そうと思っていた「第一回ランニングモデル撮影会」を行ったのです。「第二回」があるのかって?それはこれを読んでい らっしゃる若い娘さんのあなた、そうです、モニター前の、ほら綺麗な肌のお嬢さん!あなたのことですよ。あなた次第で第二回もあるかもしれません。とにも かくにも「千年女優」作画参考のためです。
どうせそんな企画の名の下にいい年こいたオッサンが、遊んでいるんだろうという邪推も聞こえてきそうですが、その通りです。
オッサンのスタッフが変わるがわるにスカートを身にまとっては女の子走りを繰り返し、自慢のデジタルビデオで嬉々としてお互いを撮影しあうわけです。ス カートはイトーヨーカ堂で買いました。すね毛は無論剃りました。走りに走ったために筋肉痛になったわけです。ウソです。そんな楽しくないことを、このクソ 忙しいのに好き好んでするわけはありません。
無論、走るのは年若い娘さんです。ウソです……と書くと思うだろ?ウソじゃないんだなこれが。驚け。当HPの「他力本願」のコーナーでモデルの募集にあった通りです。
走っていただいた娘さんの都合もあるので、彼女の名前は仮に「姫様」とします。この名称に他意はありません。別にわがままな娘さんだったから「姫」などと悪意を忍ばせた呼び名ではありません。姫様は大変心根の優しいきれいな娘さんでした。
さて、では早速「姫様ズームイン」。通は「ひぃさま」と読め。

姫様はあろうことか10代の娘さんです。あな怖ろしや。
何が怖ろしいかといえば、千年スタッフの普段の付き合いには決して属さないお年頃の女子なわけで、冗談ではなく「珍獣」といっても過言ではありますまい。 撮影を前に「10代の女の子と口聞くなんて、いつ以来かなぁ」などと本気で、古い記憶をひもときだす輩まで現れる始末。笑うな。これを読んでおられる方の 中にも似たような境遇の方が少なからずおられるはずです。そうです、モニター前の、ほら眼鏡をかけて、最近ちょっと腹が出てきたなぁなんて思っている、紛 れもないあなたのことですよ。
姫様は19才。私が36才。半分の歳といっても良いほどです。私がもし、かつてヤンキーでその昔に間違いを犯していれば姫様ほどの大きな娘がいても不思議 ではないほどの歳の差です。例えが分かりづらい?そういう貴兄には「ガンダムが始まった年に生まれたのだ!」というジャブを喰らわせてやる。驚け。テクノ なファンには「P-modelがデビューした頃には、まだ生まれてなかった娘だ!」という回し蹴りだ。効け。
私以外の参加者を記しますと以下の通りです。頭は子供並ながらも集まればやれ「腹が出た」だの「毛が抜ける」だの「体質が変わった」「体の調子が悪い」「仕事に粘りがなくなった」だのといった話題が定番の30過ぎのオッサンばかりです。
「千年女優」作画監督/本田 雄(32)
「千年女優」演出/松尾 衡(32)
「千年女優」制作担当兼運転手/豊田智紀(31)
「ああ女神様」キャラクターデザイン・総作画監督/松原秀典(33)
……おや?……おやおや?
さて問題です。この中に一人種類が違う人がいます。さて誰?
正解は「ピエール」。ピエールが誰か分からない?そんなことまでは教えません。

ともかく以上の私を含め5名のオッサンと姫様という、警察に見つかれば職務質問すらされそうな胡散臭い集団を乗せた車は、私の普段の善行が呼んだであろう 晴天の下、マッドハウスのある阿佐ヶ谷から一路撮影地を目指しました。勿論、私の何よりの善行とは「姫様を連れてきた」ということに他なりません。「他力 本願」を書いた豊田君のお陰ではありません。
実は、「他力本願」に応募してくれた女性もおられるのですが、急遽決まった撮影日までに連絡が付かなかったなど、諸々の事情もあって今回は姫様オンリーの 撮影だったわけです。姫様は私のメル友です。ウソです……と書くと思いきやウソではありません。けけ。5名の参加者の中では唯一若い娘さんや坊ちゃんとの コミュニケーションを怠っていないのが私。私には年若い男子や女子のお友達が大勢おります。
これは嘘偽りのないところなのですが、やはり何といいましょうか、演出家という者は不断の厳しい勉強と向上心や努力が要求されるもので、何事にも興味をいだき、その作品の対象となるであろう年若い方々の意識を……以下省略。
ちなみにこういうことを喋るときの私は「クロワッサン」の笑顔からはほど遠い、さながら悪魔みたいなさわやかな笑顔を口元に湛えているのだそうです。素敵ですね。

さてお台場。
何故わざわざお台場か、といえばフジテレビを見たかったわけでは当然なく、人も車も少ないという理由によるもの。無論空き地で良ければ近場でも想定された のですが、走りをカメラでフォローするため車が乗り入れられる場所でないと困るであろう、という事情によるものでした。
お台場等という胡散臭い場所は、中央線近辺でしか生息できないアニメ関係者にとっては、ほぼ無縁といっても過言ではありません。少なくとも私は昼間のお台 場に来たのは初めてのことに思われますし、フジテレビ近くに止まった鳩バスの観光客と大差のない田舎ものです。
倉庫が建ち並ぶ一角で車を止め、怪しげな集団は手に手にカメラを携えて若い娘を取り囲んだのです。知らない人が見れば、すわ!アダルトビデオの撮影か!!と色めき立った光景でしょうが、どう見ても若い娘の存在に緊張しているアニメ制作スタッフです。何か無口。
最初は何事も調子が出ないものです。
口を聞くにも緊張を余儀なくされる娘さんに、あろうことか「走って」などとい
う、尋常ではないお願い事をするのです。何をきっかけに「走って」といえばよいか、本気で悩んでしまいました。しかも絵を描くなら慣れた人間とはいって も、概ね現場にへばりついてきた我々には「生もの」相手の撮影などは苦手に決まっています。こういうときに限って私の無駄口も少なくなってしまいがちです が、ちんたらしていても何も解決しないのはアニメ制作と一緒です。やってから考えろ、と名言を残したのは他ならぬ私です。
「じゃ、お願いしま〜す!」
言われたとおりに健気に走る姫。ピエールと師匠と松尾氏と私の4台のカメラが一斉に追う……明らかに変です。さらに正確に記せば、実は松尾氏のカメラは姫 様を追わずに「姫様を追う3人の姿を追う」という、いわばメタな状態です。よけい変です。何だかそこはかとない罪悪感まで漂い始めます。重たい空気を払う には無駄口が一番です。思いついたことを考えも無しに口にしてしまう一同。
「足速いね、姫様」
確かに驚いたことに漠然と一同が想像していたより、姫様は足が速い。
「最近の子はやっぱり足が長いねぇ」などとここでもオッサンらしい感想とも溜
息ともつかない言葉が口々に漏れます。ちょっと悲しい。しかも姫様にその感想を伝えたところ、
「普通です」と言下にいなされました。何のことはない、足が遅いオッサンばかりなのでしょう。

最初はカメラ位置をフィックスしてパニングで撮ってみましたが、やはり欲しい絵は走る姿をフォローしたものです。つまり姫様と同速度で移動しながらカメラ に収めたい。そのために車を乗り入れられる場所を選んだのです。「多磨霊園」という候補地も上がったのですが、さすがに主旨と違うものまで映りかねない上 に、魂の安眠を妨げるのも憚られるので却下となりました。
車はバンを選んでいたので、サイドドアを開け放ち、走る姿をフォローしてみたのですが、そうそう上手くファインダーに収まるものではありません。何度かテ ストをすれば良いのでしょうが、何といっても相手は生身の人間です。疲れも考慮に入れなければなりません。私たちも業界では厚顔で知られているようです が、若い娘さん相手には睾……あ、いえ紅顔なオッサンです。鬼ではないのです。しかもお願いしている相手が素人さんでなおかつこちらが頼み込んで走っても らっているのです。
そこでテストをすることにしました。
姫様には最初パンツ姿で走ってもらっていたのですが……あ、モニター前のあなた、色めき立たないで下さい。ズボンという意味のパンツですよ。まさかパンツ丸出しで走ってくれる若い娘がいるわけありません。いたら紹介して下さい。
やはりスカート姿を撮りたい。走りに合わせて揺れ動くスカートの様は、絵心と下心を誘うものです。ああ、激情アニメ。違う。
もとい。「千年女優」においては千代子が雪の中、制服の上にオーバーを着て走るカットがあるので、それに近い格好をしてもらえるよう、事前に姫様と打ち合 わせしてあったのです。そこで、近くのビルのW.C.で着替えてもらうことにして、その間我々は、姫様に無駄な走りを強いないために撮影テストを試みたわ けです。

車でのフォローが難しいのは、やはり車が低速で安定しないのが原因です。そこで。こんなこともあろうかと運んできた台車でもってフォローしてみようという ことになりました。ちなみに台車は韓国帰りのセルなどを運搬するために、アニメ会社には必携のアイテムです。
師匠が走る!台車にちょこんとピエールが座ってカメラをかまえ、松尾氏が鬼のような顔でそれを押して走る!すごい!爆笑!ぎゃははははははは!
笑うな。
実はこれが一番の方法であることが判明したのです。やはり撮影する方にも汗が要求される、ということでしょうか。姫様ばかりに苦労をかけるわけにはゆきません。

実は当HPや「KON'STONE」でも一切触れてこなかったのですが、私は高校2年まで陸上部にいたのです。北海道の地区大会では400メートル走で割 と良い成績を収めたりしていたのですが、高校2年の冬休みにスキーをしていて人と激突して転んだ際に膝を痛めてしまったのです。しかもぶつかった相手のス キーの破片が私の額を割り、大きな傷跡を残したのです。激突した相手は早乙女愛とかいうご令嬢でした。私はさらには退部を余儀なくされるという、大きな心 の傷も負ってしまったのです。
さて妄想はこの位にして、着替えの済んだ姫様が戻ってきました。
おお、スカート姿。短いし(照)。中学時代の制服のスカートだというのに、今
の子はまったく……いいなぁ。

まずはテストです。バンの後ろのドアを開け、撮影者が後ろ向きにカメラを向けて走りを正面からフォローするということにしました。
私も上着を脱ぎ捨てました。うん、寒い!
車がスタート。その後を私が懸命に駆ける!車は次第に加速!私のカモシカのような脚が大きなストライドを刻む!頭の中には「太陽にほえろ!」のテーマが流 れていたのはいうまでもありません!逃げる車!必死に駆ける私!「待てぇ!!」いや、待ってもらっては意味がありません。
「最後に必死で走っていた感じがいいッスねぇ」とピエール。
「……ゼイ……ゼイ」と私。しかし身をもって知りました。こんなことを素人の
姫様にお願いしていたのか。疲れるんだ、本当に。
真面目に走ったのはいつ以来のことでしょうか。普段の生活で、親からもらったこの長い2本の足で走ることといえば、終電か閉まりかけたエレベーターに乗り 遅れそうなときくらいしか思い出せません。あ、今モニター前で鼻で笑ったあなた、そうですよ、そこで酒ばかり飲んでいるあなた。他人事じゃないはずです よ。

さて本番。バンの後ろの席に、後ろを向いて私、師匠、ピエールが仲良く並んで座り、カメラを向ける姿は異様としか表現できません。姫にも笑われてしまいま した。いやいや、そんなことででも笑いを取って場を和ませねば、という涙ぐましい演出家の心遣いなんですよ、本当は。
さて実際に姫様に走ってもらいました。
このスタイルは良い結果で、良い参考が撮れました。しかしピエールがボツリといいます。
「上着着てるんじゃな……」
この寒空の下、若い娘にオーバーを脱いで走れ、と目が訴えていました。そういう無理難題はベルダンディにでも言え。「ああ女神様」だ。
しかも、
「もう少し必死な感じが……」
車のスピードを上げろ、と綺麗な二重瞼の目が私を脅します。
致し方ありません。私も確かにその絵を撮りたい。
「……あの…姫様、申し訳ないんですが……」
心優しい姫は二つ返事で引き受けてくれましたが、オーバーの下は半袖のTシャ
ツです。見ている方が寒い姿です。風邪でもひかれては一大事、と心配になってしまいましたが元気良く姫様は走ってくれました。とはいえ、日も落ちて暗く なってきましたし、いかに体力に溢れる若い姫とはいえ、何度も何度も走らされて疲労もたまってきております。労少なく、多き実りを得るためには一度の走り で二つのアングルから捕らえればよい、実に単純な道理に基づくことにしました。

車による正面からのフォローは、師匠とピエールが受け持ち、残る松尾氏と私が側面からのフォローを台車で行うことにしました。台車は無論自力で走るわけで はないのでどちらかが押します。体重が軽い者が台車に乗るのが道理。松尾氏より私の方が遙かに重いことが判明し、私が自慢の快速を披露することになりまし た。
これまでどこでも触れたことがなかったのですが、実は私は高校2年の時まで陸上部に……。
車がスタートし、その後に続いて姫様が可憐に走り、その横を台車にしゃがんだ松尾氏を押して私がおでこで風を切る!スピードを上げる車!必死に走る姫様!狙うカメラ!スピードに乗る台車が姫様を追い抜く!って抜いたら意味がないだろ。
あ!その時姫様のスカートが!!ヒラリ〜ンッ!ラッキー!投稿写真だ!……というのはウソです。こんなこともあろうかと姫様にはスカートの中身が見えても大丈夫なようにしてきてもらっていたのです。ち。
ともかくなかなか良い結果が得られたので、復路は前後からのフォローをすることにしました。無論、姫様を車で後ろから追いかけ回すわけにはゆきません。そんな様が人に見られようものなら、警察沙汰です。
車がスタート。かなり疲労の色も濃くなってきた姫様が健気に走る!36歳と32歳のオッサンも負けずに後ろから追いかける!台車のゴロゴロという走行音も高まる!

「……ゼイ……ゼイ……疲れたでしょう!?姫様」と私。
疲れているのはお前だろ、などと心優しい姫様はそんなことは口にしません。しかし私はともかく姫様は誰よりも若いとはいうものの、誰よりも多く走ってお り、疲労も無理からぬこと。そろそろここを切り上げることにして、カメラフィックスによるローアングルでの撮影をいくつかして移動することにしました。ま だやるのかって?そうです。最後に階段を駆け上がる絵を撮るのです。過酷です。下からのアオリで撮るのです。えへへ。

ということでゆりかもめの駅の階段を利用することにしました。
陽はすっかり落ち、お台場の観覧車はネオンを灯し始め、さながらオモチャ箱のように綺麗です。そんなことをいう柄ではありませんが、これを読むであろうた だ一人の読者のために「オモチャ箱」という表現を差し挟んでしまいました。分からない人は気にしないで結構です。
ゆりかもめの駅の階段は、勿論照明がなされているので撮影には困りません。
松尾氏が階段の上で狙い、師匠と私と女神様が下からの「アクションカメラ」です。開祖は石川さゆりの元旦那でしたっけ。そんな話はともかく。
私が階段のすぐ下でカメラをローアングルでかまえ準備万端整ったところで、さぁ姫様お願いします、といった矢先に階段の上から高校生のカップルが。私のカメラに気付き、ちょい顔黒の娘さんがその短いスカートを手で押さえる!……あ、私は別に怪しいものでは!
いや。どこからどう見ても、一点の曇りもなくとびきり怪しいに決まっています。どうもご迷惑おかけしております。
さてそんな微かなハプニングなど気にして入られません。
「姫様お願い!」
疲労も省みず姫様は元気に階段を駆け上がってくれました。
すっかり疲れただろうに姫様は嫌な顔一つせずに、最後までヘッポコ撮影隊に協力してくれたのでした。

かくして無事に撮影は終了しました。さぁ、お台場などという浮ついた連中の遊び場などはとっとと後にして、懐かしき阿佐ヶ谷の猥雑へと帰る……筈だったの ですが、東京名物の渋滞に囚われの身となり、テンションは下がりっぱなしのままスタジオへと帰還したのでした。



ウソです。いい年こいたオッサンがテンションが下がったままイベントを終わらせる筈はありません。何と言っても、柄にもなく運動をしたのです。運動の後は 喉が渇き、お腹がすいているに決まっています。喉には麦からの恵み、胃には牛からの恵みです。しかも韓国スタイル。平たくいえば焼き肉です。
姫様を囲んでささやかに打ち上げをし、撮影イベントそのものよりも盛り上がりを見せたのでした。

ありがとう。姫様。(1999.11.30)

 
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