前回の続き。
先週の月曜日に広島から戻る。全然観光が出来なかったのは少々残念。原爆ドームだけは見ておくべきだったかもしれない。
翌日火曜日はムサビのゼミ、前期のラストである。
本来、その前の週で正規の授業は終わっていたらしいのだが、ニューヨーク行きで一度ゼミを飛ばしてしまったので、その替わりに試験期間であるこの時期にゼミを実施。在学中よりよほど学校に通う態度は真面目である。
神戸・広島遠征で慌ただしくしていたため、ゼミで喋ることを考えていなかった。学生たちそれぞれの卒業制作、その経過素材を見たり話を聞いたりしながら批評や助言を加える。
お、何かゼミっぽい感じがする(笑)
実写とCGの合成によるビデオクリップを制作予定の子は、以前から2度ほどバージョンアップしたビデオコンテを見せてくれる。最初の時より流れは良くなっており、「一本」としてのまとまりもついてきた感じがする。
アイディアが具体的に成長する様を見るのは気持ちがよい。
グループ制作の子たちも、ビデオコンテを初披露。全体に気持ちが先走りすぎるのか、流れが忙しい。間にもう少しカットを挟むなり、見る側が認識しやすいカット内容に変更することをお薦めする。作画力も技術力もある子たちなので、まずは伝わるコンテ内容に仕上がることを期待したい。
漫画での卒業制作を考えている子もおり、短編のプロットを読ませてもらう。
必要な設定は出揃っているとは思うのだが、どうにも展開が不自然。おそらく考えに考えているうちにアイディアが迷子になってしまったのではないか。当人が本題イメージしていた内容と大きくかけ離れてきているように思える。
そこで人物の「設定」から読み取れる(多分こういう話にしたかったのではないかという)「話」を補完・想像しながらペラペラと話してみたが、勝手に話を作りすぎたかもしれない。申し訳ない。
しかし、お話として完成するにはまだまだアイディアが足りないので、今後の当人による工夫に期待したい。きちんと構成すればオーソドックスで手堅い短編に仕上がると思う。
さて、この日のゼミのメインイベントは「打ち上げ」。
鷹の台駅前通にある「風神亭 ちから家」で「飲めや描けや」の宴会。
http://www.fujintei.com/map/index.html
食べ物がなかなか美味しい店である。確か私が在学中も「風神亭」という店はあったはずだが、当時と趣は違うように思えるし、「ちから家」というサブタイトルは付されていなかった。
「風神亭」で馴染みがあるのは同じ系列の西荻窪店で、ここは『走れメロス』制作時に何度か利用した。もう随分長いこと行ってないが、印象の良い店であった。
打ち上げ参加者は10人弱。食い物の話から、飼っていた動物の話やら子ども時代の話になり、そしてなぜか筆ペンの使い方が話題に(笑)
アニメーションの仕事に筆ペンは無縁だが、漫画を描いていた頃はたいへんお世話になったアイテムだ。筆ペンで髪の毛先の「ギザギザ」やハイライトをちょいちょいと作る。
「どうやって?」というリクエストに応えて、酔った頭で実演してみる。筆ペンを持ち歩いている人がいるあたりがさすが美大生。
「こうやって一気に力を入れて引く。これをこのように繰り返して、ギザギザを作って、今度は反対側からギザギザの間に筆先が入るようにしてまた繰り返すと、ほらハイライト」
文章ではよく分かるまい。
慣れるとどうということはないが、使いこなすにはかなりのコツがいる。実際、学生諸君もやってみるが、思うような「ギザ」が出来ない。
漫画や絵、そのビジュアル面でのテクニックは、見る目さえあれば印刷物から学べることが多いが、「描線」については実際に引く様を目にしないと真似るのは難しい。というのも、描線の味である太さや勢い、緩急といったものは線を引く速度やリズム、力の加減などに由来することが多い。
精妙に再現された印刷物であっても、速度やリズムは伝えてくれない。
だから、達者な人が絵を描いている様を直接目にすることは刺激的なのである。私が特に達者な絵を描けるわけでもないが、学生たちよりはよほど技術はこなれているはずなので、多少の参考にはなりうるだろう。
視覚的なイメージは身体化への大きな一歩である。
もっとも、多くの絵描きは描いている様を見られるのは嫌うものなので、間近に目にすることは難しいかもしれないが。絵描きの多くは、多分「恩返しに来た鶴」みたいなものであろう。
「見ちゃダメ」
翌水曜日は夕方からNHK「デジスタ」の収録。
「デジスタ」は一日に二本撮り。私の出番は二本目。
一本目の収録が押し気味のようで、打ち合わせも少し遅れて始まる。
今回もゲストは藤谷文子さん。
以前収録の回でご一緒して以来、「十年の土産」においでいただいたり、酒席を共にしたりと懇意にさせてもらっている。
とても話のしやすい方で、「デジスタ」の作品についても的確な発言をされるし、またご自身が小説を書かれるので、創作活動における「リアルな悩み」にもたいへん共感できる。
たとえば、こんな。
「朝起きた途端、現在抱えている創作について「足場を失いそうな不安」を感じることがある」
ああ、あるある。よくあるよくある。
良くないけど、よくある(笑)
「今さんでもですか?」
「でも」って、私なんざ毎度毎度のことで、むしろ作る度にひどくなってくる。
「足場を失いそうな不安」というのは、平たく言えばこういうようなこと。
「これって……全然面白くないんじゃないか」
あるいはこんな。
「……何が面白いんだっけ?」
その仕事に関わり始めてどのくらいの時間が経過しているかは関係なく、そんな不安が頭から離れなくなることはよくある。特に起き抜けに(笑)
ひどくなればこういうことだって頭をよぎる。
「これ……止めた方がいいのかもしれない……」
小説や映画、漫画などの創作に限らず、こうした不安を覚える体験に共感される人は少なくないだろう。
「でも、しょうがないんだよね、そういうのって」
少なくとも「自分だけじゃないんだ」と思えると多少の気休めにはなる。
「今さんの場合、どうしてるんですか?」
そうねぇ……私の場合ねぇ……。
「後戻りが許されないくらいに進めてしまう(笑)」
冗談ではなく、いつもそうだった気がする。
他にこれといった対処法があるわけでもないが、迷ったところからまた面白くするように考える……しかないのではないか。
そういう「濃い話」はいつだって収録の外にあるのが残念な気もするが、だからこそ面白くもある。
藤谷さんはオムニバス映画『TOKYO!』の一本(ミシェル・ゴンドリー監督)で主演、今年のカンヌ映画祭に参加されている。
http://www.oricon.co.jp/news/m……vie/54698/
画像を見るとたいへん華やかだが、その裏舞台を聞くとあまりに「過酷」で気の毒になった。
映画祭参加におけるスケジュールの過密とアテンドの不備については私も多少なりとも想像は出来るが、幸運なことに私はそれほどひどい目に遭ったことはない。せいぜいインタビューが二日で40〜50本くらい……それ十分きついな(笑)
雑誌『映画秘宝』に載っていた彼女のインタビューを読むと、どうも不自然に「飛んでる」印象だったのだが、実際に話を聞いてその理由が多少立体的に把握できた。
そりゃパジャマで飛行機に乗りたくもなるわな(笑)
女優さんはもっと壊れ物扱いされると思っていたのに意外だ。
「デジスタ」収録は18時半から。
今回からセレクションは3作品で、作者は皆スタジオに来ている。
今年度からテーブルのないセットに変わっている。全身が映る可能性があるというのはけっこう不安なものだ。それに、台本を置くスペースもないので、台本なしでの進行になる。
しかし、台本がなかった分、却っていつもより喋りやすかった気がする。台本が目に入るとついつい自分の「役目」を意識してしまうが、なければその場の流れで喋ることになる。確かにその方が喋る方も聞く方も面白いであろう。枠組みは必要だが、束縛されるとつまらないものになるのは、こちらの仕事も御同様である。
収録はたいへん順調に進行。
今年から新設された「キュレーターズプロファイル」は、担当キュレーターの仕事を紹介するコーナーということらしい。
最近全然本業の仕事をしてないんだけど(笑)
(笑)いごとじゃないや。
一番最近の仕事で形になったものというと、すでに去年のことになるが「アニ*クリ15」で制作した「オハヨウ」である。このアニメーションのプロセス素材を紹介しながら、画面の密度を上げるための地味で地道な工夫を解説。
自分の仕事を見ながらカメラの前で喋っていると、何だかセレクション作者になった気分になってきて、妙に居心地が悪い(笑)
肝心の各セレクション作品の内容やそれらに対するコメント、ベストセレクションの行方はオンエアをお楽しみに。私のコメントなどはともかく、作者それぞれの制作秘話や苦労譚、工夫の軌跡はたいへん興味深いので是非御覧いただきたい。
オンエアの日程は後日インフォメーションでお知らせする予定。