2008年11月9日(日曜日)

二日目・さらに続き



ホテルのネット回線がえらく遅い。
ストリーミングでニュースを見るというのが、海外旅行での楽しみなのに。
ち。

街中を2時間散歩する。
初日から歩きすぎではないか。
異国に来て張り切ると思いのほかに疲れるものだ。

宿泊しているホテルは街の中心街に近い。華やぎとはほど遠い、朝の中心街。土曜日は休日なので通勤する人もいないせいだろう。この国では日曜日には多くの店が休む。
こういう国情ではアニメーション制作は育たないような気がする(笑)

大きなショッピングセンターのショーウィンドウで、見覚えはあるがやや奇妙なものを見つける。

donarinototoro.jpg

トトロのパチもんである。
「どなりのトトロ」
なんだか大声で怒りそうなトトロである。

中心街から港の方まで歩く。港にはお土産物屋や食べ物屋のテントが並び、やけに人に慣れたカモメが間近に寄ってくる。
港からの景色は晴れていればさわやかなのだろうが、生憎の天気だ。
外気温は2℃、昼近くになってようやく5℃まで上がってくるが、替わりに小雨がぱらつきだす。

13時前に大使館の方が迎えに来る。
「古都」という日本食レストランで昼食。
在フィンランド日本大使館の公使さんや書記官の方、上映館ORIONのフィンランド人女性、講演で通訳を担当してくれる方と、打ち合わせを兼ねて会食。
シャケの塩焼きに「+8€」で定食セットにしていただく。
地元で採れるシャケなのであろう、日本のものとは少々味が違う。若干マスに近いテイストで悪くない。
茶碗にこんもりと盛られた米は、仏壇に供えるコメを巨大にしたような姿で、米も日本の安い食堂で食べる米よりも悲しい。
しかし、醤油をかけて食べれば何でもおいしくいただけるものだ。

15時から仕事。
200席の会場は7割方埋まっているが、それでも「満席」という表現を聞いた。
ゲストへの心づかいなのか、この国ではそういうものなのか、よく分からないが、人当たりが柔らかい印象の人々ではある。なんだか居心地の良い国らしい。大使館の方もそうおっしゃっていた。
「たいへん暮らしやすいが刺激に乏しい」といった様子。

最初に90分ほどのトークイベント。もらっていたスケジュール表によると「懇談会」となっていたが、実際はあらかじめ貰った十数の質問に答えるというもの。
「マンガ家からアニメーションの監督になった経緯」「『パーフェクトブルー』制作のいきさつ」「絵描きとしての能力が監督という仕事に与える影響」「夢と現実が混じり合うという題材をなぜ好んで描くのか」などなど、これまで300回は聞かれた質問なので、とりたてて言葉に窮することはない。
時折、会場から挙手があり質問が追加される。
「ヒラサワススムの音楽は監督にどういう影響があるか」など。
驚いたことに、日本語による質問がいくつかあった。たどたどしい日本語がほほえましい。

時折時間を確認しながら進めていたので、ちょうど90分で切りの良いところとなる。
ちょっとしたサイン会となる。『パプリカ』や『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』のDVDを持参しているお客さんもいる。『千年女優』DVDボックス付属のコンテ本にサインを求められたのは日本人の女性。
「主人がすごいファンなんです」
それはどうもありがとう。
日本語で話しかけてきたフィンランド人女性はこういった。
「コンサトシのエイガはテンサイだ」
天災? いや、まさかね。
お褒めをいただきどうもありがとうございます。
我々スタッフが東京の片隅で作ったアニメーション映画が、遥かフィンランドの地で少なからぬ人たちが好んで見てくれているとは光栄なことだ。
スタッフを代表して、日本の伝統にのっとったお礼を申し上げる。
サンキューベリーマッチ。

この後、『千年女優』上映に先立って、挨拶と紹介。
先ほどのイベントとはお客は入れ替えたようだが、客席には同じ顔も目立つ。トークイベントの前には、『パプリカ』と『妄想代理人』1話、そして短編「オハヨウ」が上映されたそうで、両方ともに参加されたお客さんは今 敏監督映画三昧の一日ということになる。
どうもありがとう。

上映前の挨拶は、通訳の問題を考慮して、事前にテキストを送っておいた。文章を読み上げる挨拶なんてつまらないことこの上ないだろうが、たいへん楽なものだ。何より通訳さんの負担が少ない。
10分ほどで終了。

場所を移動して「Anime」「Japan Pop」というたいへん分かりやすい媒体の方たちの合同取材。フィンランド地元のビールを飲みながら気楽にお答えする。
取材の最後に、来年開催されるというアニメ・マンガのイベントオープニング用に、ビデオ収録を依頼される。
酒の入った頭でヘラヘラと挨拶し、締めにはリクエストによる現地の言葉を口にする。
「TERVETULOA(テルヴトゥロア)」
「ようこそ」という意味だそうだ。
取材は1時間ほどで終わり、これで最初の訪問国フィンランドでのミッションはすべて終了。
体力的にも精神的にもたいへん余裕のある仕事であった。

この後、地元料理のレストランで大使館の方と一緒に打ち上げ。
存外、美味い。
存外というのは失礼な話だが、大使館の方に北欧の料理はあまり期待しない方がいいと思いっきり釘を刺されていたので、十分以上においしく感じられる。
聞くところによると、フランスのシラク元大統領が「イギリスの料理はフィンランドよりまずい」といった趣旨の発言をして物議をかもしたそうだ。
まぁ、そう言うなよ、大人げない。
イギリスにケチをつけるのによその国を引き合いに出すこともなかろうに。
私はトナカイの薄切り肉やらエルク(へらじか)のミートボールをおいしくいただく。
満腹してホテルに戻り、シャワーも浴びずに爆睡する。

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