2008年11月10日(月曜日)

三日目・夜



中国人の商売に対する勤勉さのおかげで、フィンランド滞在最後の夜、日曜日の上に「父の日」というハンディキャップにもかかわらず無事に夕食を済ませた。
「白王朝」と漢字で記された店。モダンな内装の中華レストランだ。
味は……まぁ、「庶民にフレンドリー」という感じだろうか。あっさりとしていて食べやすかった。
旅先では思いのほか身体の調子が狂っていることがあるので、あっさりした味付けは身体への負担が少ないように思える。
ヘルシンキ滞在中に利用した店は、たいていその内装は大変感じが良く、空間や色彩、調度類にセンスが感じられる。だいたい色彩が氾濫していないことが目に優しい。
街の景色も同様だ。抑えた色調でまとまっており、広告も少なめ。街中にやかましい音も溢れていない。
宣伝と騒音の喧噪の洪水が荒れ狂う祖国とは大きな差である。
ま、言葉を換えれば甚だ地味ともいえるが。

中華レストランでは、丸テーブルを囲んで総勢5人。滞在中ずっとお世話になっている大使館の方とその奥さまにもご一緒していただいた。大変感じのよいご夫婦である。
チンタオビールを飲み、酸辣湯、天心数種類、麻婆豆腐や回鍋肉、青菜炒めなどをいただきながら歓談。
テーブルに備えられた醤油はドロリとしており、食欲を減退させる代物だったので、海外出張には欠かせない持参した「キッコーマン特選丸大豆醤油」ミニボトルにご登場いただく。
これさえあればたいていの物はおいしくなるマジック・スパイス。

奥様からも現地の生活でのあれこれと面白いお話を聞かせてもらう。
フィンランドではお金に余裕のある人たちを除いて、共働きが基本なのだそうだ。それだけ税金が高いということらしい。とすると、託児所や保育園、小学校など子供を預かる施設も充実している、ということになる。それもかなりケアが行き届いているらしく、子供たちのお弁当の心配どころから朝御飯の心配もしなくて良いのだとか。
朝、出勤前に子供を連れて行けば、朝ご飯から出してくれるらしい。
もっとも、あまり「家庭の味」とか「家庭料理」が「良きもの」である、という日本のような考え方があるわけではないようで、家庭でもレンジで温めるだけで済むような食品が重宝されているという。実際、立ち寄ったスーパーマーケットでは、そうした食品の豊富さが目立っていた。
高福祉や高社会保障にはそうした税金が高い(いわゆる消費税は22%、食料品だけは17%)などの半面があるのは仕方ないのであろう。
そう思う一方、妙な話も聞いた。

北欧は高福祉社会、というのは一般的なイメージでそれに間違いはないのだそうだが、だからといって保険制度まで充実しているわけでもないのだとか。確かに、老後は大変快適に暮らせるそうだが、病気になるとかなり面倒なことになるようで、公立の病院は日本と同様、保険によって医療費の大半を保証してくれるが、「待ち時間」が恐ろしく長いのだそうだ。
「待ち時間」が長いのは日本の大きな病院でも同じだ、と思われるかもしれないが、ロビーでの待ち時間のことではない。病院に予約を入れると、たいていは1、2週間先の診療になるのだそうだ。
そりゃ切ないな。
病気の軽さ重さによって「待ち時間」に変わりはないそうで、患者よりも働く側、つまり医者の労働条件が優先されるという。
患者がどうあれ医者はきっちり休みを取る、と。

医者だけでなく、フィンランドでは基本的にお客よりも働く側が優先される傾向にあるそうだ。
しかし、具合が悪くて病院に予約を取って、診察がそんなに先になるようだと、それまでに治ってしまう、もしくは最悪死に至ることだってあるだろう。
だから、早く診察を受けたい人は私立の病院を利用することになり、こちらは保険で負担してくれる額が少なく、7割くらいの自己負担になるらしい。
だから基本は「病気にならない」という至ってシンプルな考え方になるそうで、病気の兆候にはすぐさま各自が対処することになり、当然「病欠」はごくごく当たり前になるらしい。
「風邪をひいたので10日休みます」
なるほど。

食事をしたレストランは、日曜だと21時には閉店となるようで、最後の客となった我々が最後のお茶をいただいている間にも、多くの従業員がぞろぞろと帰って行く。なるほど、働く側の条件や環境が優先されるというわけだ。

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