2009年2月19日(木曜日)

千代子讃江・その18



とある舞台芝居を見た。
演劇界に伝わるという、こんな言葉を思い出した。
「面白い舞台は面白い映画よりはるかに面白いが、つまらない舞台はつまらない映画よりはるかにつまらない」
細部は不確かだが、そんな内容だったと記憶している。
過日の舞台を見ながら、まったくその通りだと思った。
何しろ、まったく話が展開しないのである。
並列のエピソード(とも言えないようなただの説明)が延々と繰り返されるTVバラエティのようだ。
間に入る休憩までの一時間、最初に事件が起きた状態から何ら進展がない。同じ内容を繰り返すだけ。
後半が始まって、「The end」に至るまでも結局同じことであった。
展開が見られないくらいだから、台詞は何のひねりもなく磨かれた形跡もなく、音楽は学芸会みたいで、堂々と音を外して歌い続ける者もいる。笑いと想定されているらしいギャグだか冗談だかは言うに及ばない。
あまりにひどい脚本・演出に、舞台で矢面に立つ役者さんたちが気の毒で仕方がなかった。だから途中で席を立つのは悪い気がしたが、怒り出すほどイライラした。
まるで「寝床」に出てくる大家の義太夫である。
つまらない映画なら途中で立つことも出来るし、それでフィルムが気落ちしてパフォーマンスを下げることもないし、DVDで見ているなら早送りも停止も気兼ねなくできる。
見るべきものもないので、役者を見ているくらいしかなかったが、それでも2時間オーバーの上演時間は苦痛である。
これほど「The end」が待ち遠しく思ったことはないというくらい、こう願い続けた。
「後生だから早く終われ」

というわけで、たった一月ほどの間に、冒頭の言葉に上げられる「両者」を体験した次第である。もう一度記す。
「面白い舞台は面白い映画よりはるかに面白いが、つまらない舞台はつまらない映画よりはるかにつまらない」
ではその一方の雄をたたえ続ける「千代子讃江」、しつこくも18回目。

これまで一方的に、今 敏の主観による好評をお伝えしてきたが、客観的な数字などを引きつつ、舞台版千代子たちがいかに観客を魅了し、その印象を刻んだかということも紹介したい。
何しろ、全回満員御礼であった。すごいぞ、千代子たち。
総観客数は800半ばを越えたそうで、会場の規模を考えると大入り満員であろう。回を追うごとに当日券も順調に伸びたようで、最終回はこれ以上は入らないだろうというほどお客が入っていた。やんや。
私の知り合いの娘御は、わざわざ東京から出かけて土曜の昼の回を楽しみ、あまりの感激に続けてもう一回観劇していた。
「映画と同じところで泣いちゃいました」
と、化粧を押しのけた涙の道筋をくっきりと頬に残した顔でそう言った。
彼女の話によるとチケットの受付の方が「続けて見てくれるお客さん」ということで、二回目は一番前の席を用意してくれたそうで、そんな配慮がなされるのも小規模の良さでもあろうし、そうした心遣いの積み重ねがこの公演をさらに気持ちの良いものに仕上げてくれたのであろう。

物販はたいへんな盛況だったようで、これもたいへん嬉しいことだ。
映画の興行においても、物販もまた大事な興行収入の一部である。
舞台版『千年女優』のパンフレットは、用意した250部が見事に完売。
「250部」という数字に「あまりに少なくない?」と思われるあなたは間違っている。
聞くところによると、こちらの業界において物販は「来場者の2割」という常識があるのだそうで、公演前の段階で来客数「○○○」くらいの数を想定して、そこから算出される数字を考えると「250部」でも大英断であったと思われる。
「公演前の時点で300はさすがに無理」
そう聞いた。
結果的な動員数の2割の方にお買い上げいただいたとしても、売れ残るはずの数字であるし、事前に予測された控えめな動員数を分母にすれば、250部でもかなり多いことになる。
しかも、このパンフレットはサウンドトラックCD付きで(あるいはパンフレット付きサウンドトラックCD)、安くはないものである。
それが完売したのだから、よほど観客は舞台を楽しんだのだろうし、その記憶や印象を「物」と「音」の形で留めたかったのではないかと思われる。
いずれの日も用意したパンフレットは完売になり、残念ながら入手できなかったお客さんもおられるというのに、ありがたいことに私は一部いただくことが出来た。しかも、関係者のサインまでもらってしまった。
パンフを開くと、役者さんたちの顔が活き活きと浮かんでくる……あ、山根さんのサインだけもらい忘れた!
名古屋まで持ってこうかな。

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