2009年5月29日(金曜日)

休んでますか?



調査項目は続く。
「勤労理由」は複数回答で高い方から順にこうなっている。

「絵を描く仕事が好きだから(474人)」
「お金を得るため(397人)」
「この仕事が楽しいから(384人)」
「生きがいのひとつ(269人)」

なるほど。
「絵を描く仕事が好き」、という表現よりも単に「絵を描くのが好き」な人がそれを仕事にしたという方が実態に近いだろう。私もそうだ。
微妙な差異に思われるかもしれないが、そうではない。
絵を描くという「仕事」という認識から始まったのであれば、こうまで過酷な労働環境にならなかったであろうし、この業界でお馴染みのスケジュール崩壊もここまで傷口を広がらなかっただろう。
多分、趣味の延長が仕事になっている、と考えた方が実態に即しているはずだ。
プロ意識に欠けると言ってしまえば身も蓋もないが、しかし、趣味の延長だからこそ現在見られる日本のアニメーションのクオリティに達したのだし「注目されるコンテンツ産業」とやらにも辿り着いたのである。
業界のその履歴を見落としてプロ意識に欠けるとだけは言えまい。
「勤労理由」は、以下こう続く。

「自分が自分らしく生きられる仕事だから(201人)」
「自分の才能や能力を発揮するため(194人)」
「社会で自分が所属する場所として(179人)」
「ほかにできることがないのでしかたなく(100)」
「作品を通じて自分の考え方を伝えるため(75人)」
「自分のとっては一番楽な仕事だから(69人)」
「なんとなく(67人)」
「社会の一員として務めを果たすため(62人)」

「ほかにできることがないのでしかたなく」という答えには自嘲も含まれているのだろうが、実際そのように見える人は数多い。
語弊はあるが、この業界を去る人には「有能だから去る」というケースが存外多いように思う。
有能というのは必ずしもアニメーションの仕事についてのみ指すわけではない。要するに現代社会を生きることに有能ということは「ここじゃなくても食える人」ということであり、そのくらい頭が回る人ならもう少しましな場所に移ろうという気になるのも無理ないことだろう。

「経験年数」はこんな数字。

【職種】 【平均(単位:年)】

・絵コンテ   22.1
・監督     21.8
・演出     12.5
・総作画監督  19.7
・作画監督   14.5
・原画     10.4
・LOラフ原画  9.6
・第二原画    3.0
・動画チェック  9.9
・動画      4.1

大雑把に言えば、業界暮らしが長いほど制作プロセスの上流や責任ある位置する傾向にあるということになろう。

「勤務形態」については、設問の仕方にも問題があったのかもしれないが、「会社に所属」という言葉をどう解釈するかで大きな誤差があったようで、数字の信憑性が低いので省略する。
要するにフリーランスなのに特定の制作会社に机があることを「所属」と考えてしまったケースが多いようで、本来の意味での社員と重複してしまい、「社員」と「フリーランス」の区別があいまいになってしまったようだ。残念である。
「自分は社員のつもりでいるのに実際は契約社員でしかない」という場合が多いはずで、自分の立場をきちんと認識していない人たちがいることに情けなくも悲しい気持ちになってくる。
いくら月極のギャラをもらっていたって、保険等の社会保証がつかなければ社員ではないのである。
マッドハウスを例にとれば、マッドが募集し入社試験を受けて採用された動画マンはしかし社員ではない。制作職は社員である。
同じ程度に使えない新人が、片や手取り10万以下、片や十数万。
どうかしてると思うね。

「作業時間・休日」の結果も、おおむね実感と重なるともいえるし、実態をうまく伝えていないような気もする数字。

【職種】【作業時間(一日)】【休日数(一月あたり)】

・絵コンテ  10.1     4.4
・監督    10.8     3.7
・演出    11.1     3.9
・総作画監督 10.5     3.5
・作画監督  10.6     3.8
・原画    10.2     4.0
・LOラフ原画  10.1     4.1
・第二原画  10.5     4.1
・動画チェック10.7     4.3
・動画    10.9     4.4

「何だ、そんなに過酷じゃないじゃないか」
そう思われても不思議ではない結果かもしれない。
もっとも、週休二日が当然と思っている人には気の毒に見える数字かもしれないが。
監督、演出、総作画監督、作画監督の休日数が4日を切っているのは、諸々のしわ寄せを受けやすいポジションだからだろう。
20年前なら動画や動画チェックへのしわ寄せが最も過酷だったかもしれないが、海外動画への依存度が高い現在では、国内動画はむしろ仕事が手薄になることの方が問題かもしれない。

平均すると上記の数字になるとはいえ、アップが近づけば作業時間は1.5倍くらいになる日が続き、仕事場に泊まるケースが増えてくる。休日など確保出来るはずもない。
実際、私の場合『妄想代理人』を制作中は、休日を確保することなど素人が松茸を見つけるよりも難しい状態だった。

アニメーション制作現場の「過酷」とはアップ間際にこそ相応しい形容に思われる。
それをスケジュールを浪費した絵描きのせいだから自業自得だ、というのは短見である。絵描きだけでアニメーションを作っているわけではないのだし、制作管理の仕事でお金をもらっている方々がたくさんおられるのだから、「責任は応分」が筋というもの。
だろう?

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