1999年10月10日(日曜日)

番外編 – その1



 当HPの連載企画「ホームページを作ろう(笑)」も11回に渡って、バカなテキストを書き連ねてきたが当初の意気込みはどこへやら、尻切れトンボになっている。飽きた。いずれまた意欲が湧くことがあれば、続けるつもりである。
 今回はその番外編である。というか、そのつもりであった。
 とある友人からのメールに刺激されて、そのメールを素材にホームページ運営についてあれこれと話題を展開するつもりで書き始めたのだが、意外な方向に展開してしまい、冒頭からしばらくはホームページには縁のない話題が続くことになってしまった。
 「ホームページを作ろう(笑)」というよりは「お話を作ろう(笑)」といった内容である。しばらくその話題が展開した後に「ホームページを作ろう(笑)番外編」の主力艦隊が登場するかと思われる。
 それをご承知の上でお付き合いの程宜しくお願いしたい。


 当HPの開設以来、見ず知らずの方々からメールをいただく機会が多くあり、光栄の至りである。中にはメールの交換をするうちに、巷でいう「メル友」になっていただいた方もおられ、次第にやりとりする内容がディープになったりもして、大変面白い目に合わせてもらうことも多い。とりわけ彼からのメールは色々な意味で楽しませてもらっている。
 仮にA君とする。A君は21歳の大学生である。
 以前一度酒席を共にしたこともあるが、彼は下戸であった。煙草も吸わない。女は……その方面はよく知らない。大学4年生にもかかわらず、就職活動に精を出さないという点と、HPを開設したにもかかわらず私にその所在を明かさないという不義理を除いては、概ね健全な若者のようである。もっとも就職に関しては将来的に志すものもあるようで、私がとやかくいうのは筋違いというものであろうか。
 A君は映像関係に興味があるようで、私が名作と思われる映画や芝居などを推薦・紹介するとレスポンス良くそれらに目を通し、足を運び返信においてその感想が述べられていたりする。書き甲斐のある相手の一人である。
 さて、そんなA君から先日もらったメールに大変興味深いエピソードが発見されたので、ここで茶化して……いや、考察を加えてみたいと思う。

 まずその前に、A君の真剣かつ微笑ましい趣味について紹介させてもらう。
 A君は去年念願のデジタルビデオを手にし、短い映像作品などを作ったりしている。私はその処女作とバージョンアップした2作目を見せてもらったのだが、大笑いであった。勘違いしないでいただきたい。「大笑い」というのは非常によい意味である。
 無論、その作品は拙い。撮影にしろ編集にしろ「素人がビデオを持った」という以外には見るべきものはない。処女作は特に「面白がってビデオを回してみた断片をつなぎ合わせた」に過ぎなかった。意図が薄弱であった。一本目の結果や自身の感想をメールで教えてもらい、いくつか助言をしたように思う。それを踏まえての第2作目には、大きな進歩が見られた。短い作品とはいえ、そこにおいて観客に向けて何事か表現しようという演出意図が芽を出していたのである。だからといって彼のその2作目がプロを呻らされるような物になったわけではないし、素人レベルでそうした映像を趣味にしている人間達には遠く及ばないであろう。けなしているわけではない。プロの真似事をしている素人よりも遙かに好ましい態度がそこに見られるのだ。
 まず作ってみる。そこがまず素晴らしい。機材収集に躍起になって「明日の遠足」を夢見ている者よりも、与えられた環境の中でまずやってみる、というその態度は称賛に値するとまでは言えないが、可能性を感じさせるのは間違いない。「明日の遠足」を夢見続ける者に、明日は絶対にやってこないものだ。
 技術的には見るべきものはないといったが、それでも良い意味で「大笑い」したのは表現しようと思ったアイディアそのものの面白さであった。その内容について詳述はしないが、小さいアイディアではあるけれど軽い笑いを誘う馬鹿馬鹿しさもあり、現状の彼が抱えている漠然とした不安感なども垣間見られ、そしてともかく頭とケツがとりあえずは揃った作品の態をなしていた。
 まずやってみる、一番大事なことである。
 最近はA君の創作活動も下火ではあったようだが、カメラを向ける新しい対象を思いついたとのことで、「ドキュメンタリー」に挑戦しみた(笑)旨の報告があった。
 以下A君のメールから引用させてもらいながら茶々を入れて……いや考察を加えて行きたい。

>今年に入ってからビデオこそ回していたものの、作品という作品も作っていな
>かったので夏の終わりに何かやろうと思っていて、フィクションで作品を作るの
>ことにあまり興味が湧かなかったことに加えて僕の想像力の限界を鑑みて無理が
>あるなと思い、いっそのことドキュメンタリー、またはインタビューを作品にし
>ようと企てたわけです。
>少し前から僕は「人間そのものがエンターテイメントだ」と考えていましたの
>で、それを映像をもって自らの手で証明しようと目論んで、やってみました。

 21歳の若さですでに「想像力の限界」という言葉が現れるあたりにやや腰砕けの感もあるが(笑)、その企て自体はすばらしい発想の転換とも言える。

>場所は友人の家で、友達からDVをもう一台借りまして、一台は固定、もう一台
>を手に持ってインタビュアーを気取ってやってみたのですが、これが全然ダメで
>した。
>そもそもいつもバカ話ばかりしている相手に、シラフで真面目に質問してみたと
>ころできちんとした答えが返ってくるわけもなく、ぎこちないまま時間だけが
>経っていきました。

 なかなか胃の痛い気まずい時間であったろうか。しかし思いついたことをすぐに実行に移すあたりが宜しい。
 ここに何らかの助言を加えるのも大人げないとは思うが、なぜ失敗するのかを考えてみる。
 このメールの文章だけでは詳しいことは分からないが、失敗の原因はおそらくインタビュー側の計画の無さに起因しているように思われる。カメラを向ける対象者が素人であれば尚更のことだが、相手に過度の期待をしてはいけない。質問を余程具体的にして用意しておかないと、話そうにも話せないものである。
 私もお陰様でこれまでに30〜40のインタビュー取材を受けたが、一番困るのは質問が漠然としているインタビューアーであった。インタビューアーの無能を何故私が補わねばならないのかと思うことは度々あった。少しは工夫しろ。
 よくキャメラマンが被写体のモデルなどに賞賛の限りを尽くしたような言葉を発しているが、相手を乗せないことには美味しい果実は手に入らないものであろう。
 思いつきを形にする前に、具体的に何が必要かを考え、準備を整えるのが賢者である。
 誘導尋問というと人聞きが悪いが、人に話を聞く以上、何についてどういうことを言ってもらいたいのかという、聞き手側の明確な意図がない限り、インタビューというのは散漫なものにしかならない。常に具体的な意図を心がける方が宜しかろう。

>開始から30分程は、監督の影響受けまくりの「酒のよた話でストーリーを考え
>る」というのに三人でチャレンジし、
>「田中角栄が日中友好の架け橋としてパンダを日本に連れてきたが、実はもっと
>以前に密輸でパンダをどかどか輸入していた伝説のディーラーがいた。時は流
>れ、1999年、そのディーラーの息子も親父と同じくディーラーになり、バリ
>バリと働いていた。がある日、一本の電話で頼まれた『○○を運んでくれ』とい
>う依頼から話は始まり・・・・。」
>というストーリーで何を運んでくれと頼まれたのかを決めるところから始め、
>「アンモナイトだ」だとか、「いや、メルヘンチックに虹だ」だのと言っており
>ましたが、集まった人間がみな貧乏で下戸だったため、紅茶を飲んでいたことも
>あり、思った以上に盛り上がらず、気まずい雰囲気だけが立ちこめていました。

 ……どういう話なんだ、一体……。
 ちなみに「酒のよた話でストーリーを考える」というのは当HPの不定期連載企画「遙かなる千年の呼び声/第4回“飲み屋のたわごとは百万の夢」の影響らしい。
 影響を受けるのは良いし、すぐに実践してみるのも素晴らしいのだが、話作りの経験のない素人が頭を付き合わせてもそうそう上手くいくものではなかろう。
 ここに助言を加えるのもまた大人げないと思うが、老婆心ながら言わせてもらえば最初の設定は不要ではないのか。「禁制品の密輸を頼まれる」というだけのことだと思うのだが。
 余分な設定は話作りの邪魔になる。そういうことは後で考えればよい。
 【禁制品の密輸を頼まれる】
 これだけでは話になりようもないだろう。小さなきっかけに過ぎない。
 もう少し元ネタを具体的にしないことには素人が話を作るには難しすぎようか。

 例えば最近大阪の業者が摘発されたりしてニュースで話題になっていたが、「オランウータンの密輸」などとしてみよう。確かインドネシアでは禁制動物の注文が多いのは日本人だそうだ。アイディアの膨らませ方によっては別にそれが違う「ブツ」になっても構わないのだし、もしかしたら何を頼まれたのか最後まで分からないことになっても面白いかもしれない。要は最初のきっかけが必要である。
 【禁制動物オランウータンの密輸を頼まれる】
 となった。これでも到底話にならない。
 もちろん、禁制動物の密輸の実体を細かに調べて、リアルに徹した裏社会の密輸の具体的な手段や実態を描写したり、動物虐待や絶滅動物の危機をテーマに話を作ることも可能であろうが、冗談で作る話にはあまりに向くまい。
 どういうメディアを前提にするかの問題もあるが、所詮ただのヨタ話である。漠然と「エンターテインメント」ということで考えてみる。

 アイディアが足りない。ろくなアイディアは思いつかないが、ここに何か別なアイディアを加えてみる。エンターテインメントのお話作りに欠かせないのは「子供の発想、大人の技術」という考え方であろう。
 子供の発想にあたる部分がまず足りない。こういうのはどうであろうか。ちょっとファンタジーめいてしまうが、現実逃避の傾向も著しい35歳既婚男性の私なので許されたい。
 【禁制動物オランウータンの密輸を頼まれるのだが、それは人語を解するオランウータンであった】
 こうなると、素人にもアイディアを出す余地が生まれてきはしないか。しないか。するだろ。するって言え。
 まぁ面白い話にはならないかもしれないし「ホームページを作ろう(笑)」の話題からは大きく航路は外れるが、続けてみる。右八点転進。よーそろ。

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