2007年6月24日(日曜日)

ご無沙汰しておりました



お久しぶりです。
『パプリカ』のDVDをお買い上げ下さった皆様、制作スタッフを代表して御礼申し上げます。
おかげさまで売れ行きも良好と聞いておりますし、アメリカでの公開もアート映画としてはかなり健闘しているとのこと。上映館数も当初の80館から1.5倍に増えたと耳にしました。
最近、『パプリカ』制作を振り返ってあれこれ考えておりました。
『パプリカ』は本当に私のわがままに溢れた作り方だったように思います。次回への反省等、多々ありますが、『パプリカ』を作って本当に良かったと思えます。
劇場に足を運んでいただいた皆様、DVDをお買い上げ下さった皆様、そして製作・制作に貢献いただいた皆様、映画『パプリカ』に成り代わりまして感謝したいと思います。

『パプリカ』DVDは特典など含め、一応私もチェックしました。
通常版・ボックス版の特典映像はいずれも丁寧に作られていましたね。制作中、長期に渡って取材をしてくれたスタッフのおかげです。
本編制作終了後に、あわててDVD特典として撮影したものとは異なり、制作の臨場感みたいなものが漂っていました。
元々、特に特典のために撮影をしていたわけではなかったのですが、DVD特典という長く残る形で収録されてたいへん良かったと思います。
オーディオコメンタリーに関しては、少々反省してます。収録中、飲み過ぎです、私。
ボックス版収録のコンテ本の出来も非常に良いです。ちょっとした辞書並みの厚さになっていますが、この重さも制作の労苦を忍ばせてくれます。紙も悪くないし、印刷もとてもいい感じです。『東京ゴッドファーザーズ』のコンテ本は、少しばかり印刷が薄めで、少々絵の迫力に欠けたのが残念でしたが(私のチェックがいい加減だったせいです)、『パプリカ』のコンテ本の状態はとても良いと思います。
肝心の本編の画質もたいへん良好です。
確か『東京ゴッドファーザーズ』はフィルムからマスターを起こしたはずですが、今回『パプリカ』ではデータから直接マスターを作った…はず。なので、単純な意味での画質は向上していると思います。

『パプリカ』は通常版、ボックス版の他に、ブルーレイ版とUMD版がリリースされております。
後の二つは、視聴環境を持っていないので細かいことは分かりませんが、動画の女性にPSPでUMDを見せてもらった感じでは、たいへん良かったです。
小さい画面に密度が圧縮されて、何というか「映画が手の中に収まっている」ような感触でした。
ブルーレイ版は先日、「ニュータイプ」という雑誌の誌上企画で、視聴させてもらいました。
これもたいへん素晴らしかったです。
私は過度に高画質を追求することに興味がなく、むしろネガティブに感じているくらいで、ブルーレイにも少々懐疑的ではありましたが、実際『パプリカ』を見て、その再現性に感動しました。
これまで見た『パプリカ』の画面で、もっとも監督の意図が再現されているのではないか、と。
発色もフィルムよりも好ましいです(劇場用として作っているので、本末転倒といわれても仕方ありませんが)。

実際に視聴するまでは、「高画質であるが故に、同時に粗までよく見えてしまうのではないか」という危惧の方が大きかったのですが、杞憂に終わってホッとしました。
DVDがリリースされる前に、参考としてあるアニメ映画をブルーレイで視聴させてもらったのですが、この時は愕然としました。
粗だけが拡大されているような感じだったのです。
背景は紙の目(紙の細かい凹凸)が際だち、空間としての背景ではなく、単なる書き割りに見える。「そこに絵を描いた紙が置いてある」ようにしか見えない。
セルのトレスラインも悲惨なもので、アンチエイリアス(ジャギのある2値データを滑らかにする効果)がかかってないんじゃないか、と思えるほど黒い実線が際だち、浮き上がって見える。
人物が描かれているというより、人物を描いた絵が動いているようにしか見えず、全体にえらく小さなものに見える。
高画質というより、画面のマイナス面だけが拡大されたように思えたんです。
『パプリカ』もこれと同じようなことになるのかと思うと、夜も眠られぬほどに気鬱になってしまいましたというのは嘘に決まっていますが、『パプリカ』は画面の作りがハイビジョンに向いていたのか、結果は本当に良好でした。あっちゃいけないゴミを見つけたりしたのはご愛敬ですが。

その向き不向きがどこに起因するのか少し考えてみたのですが、テスト視聴したアニメは画面にあまり加工を施さない、素朴な画面でした。近年の劇場アニメーションですから、3D、CGはもちろん使用されているのですが、紙の背景にセルを重ねて合成(撮影)するという、シンプルな構成を基本にしているような感じでしたし、それが狙いのアニメーション映画に見受けられました。
セルごとに異なるグラデーションをかけるとか、紙の背景をスキャンした後処理を加える、画面全体に最終的にノイズをかける、処理をするといった加工が少ない。加工が少ないから、各素材の生の質感が浮き上がった結果、貧相に見えてしまうのかもしれません。
高画質であるが故に貧相になってしまうのではシャレになりません(笑)
『パプリカ』がその滑稽な悲劇から免れられたのは(その判断は私の主観に過ぎませんが)、テスト視聴したアニメと画面の作りがまったく逆の方向性を持っていたからではないかと思います。
これは何も『パプリカ』を自慢しているわけでもなく、単に向き不向きの問題ですし、映画の満足度の比較でもありません。ただ、今後の制作では当然ハイビジョンも視野に入れることになるので、その対策を考えているだけです。実際、失敗した点、改善すべき点も多々発見しました。内緒ですけど。

『パプリカ』は加工に加工を重ねた画面作りです。
制作中盤までは、「今回は内容的にも加工をしないシンプルな画面作りの方が向いているんじゃないか」と思っていたくらいで、実際最初の50カットくらいは私が撮出しをせず、かなりシンプルな撮影をしていた。
しかし、これがやはり上手くなかったんですね。
とにかくちゃちな画面にしか見えない。
密度の不足が露わとなり、スケール感も全然出ない。
ちなみにラッシュチェック(最終的なカットの上がりのチェック)はハイビジョンのマスターモニタを使用していました。
この画面では甚だまずい、ということで、予定を変更して撮出し時に監督が細かな加工を施すようにしたわけです。さらに、すべてのカットに対して最終的に加える処理も考えました。
これらの対処でようやく見られる程度の画面になってきたのですが、これらの加工がハイビジョン対策としても有効だったようです。
加工に加工を重ねてやっと普通に見える、ということらしい。
これって、テレビの撮影に似ていると思いました。
私も数は少ないとはいえ、テレビ出演の機会がこれまでにも何度かありました。主にNHKで(笑)、十数回くらいはスタジオ撮影の経験があります。
最初の頃、どうせこちとら素人なんだからメイクなんて仰々しいまね何かしなくていいと思っていたんですが、すぐにそうじゃないことに気がつきました。
要するに「メイクをしてやっと普通に映る」ということなんです。
一緒に出演している方々を間近に見ると、メイクは濃いのだけれどモニタを通すと「普通に見える」。
これもまた、加工してやっと普通に見える、ということです。
逆に言えば、加工しないものは普通にすら見えない。
これを肝に銘じて、今後の制作に取り組もうと思っています。

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