妄想の四「少年バント参上!」 |
さて、月子の萌えぇもいや増す能登まみまみ嬢の息芝居に誘われて踏み込むメタの世界。ここでは少年バットが現れる、という現象である。何しろ少年バット
は月子が10年以上も前にその内面から欠落させることで生み落としたメタよりの使者なのである。とはいえ、1話のこの時点でお客がそんなことを分かるわけ
もなく、素直な視聴者には単なる通り魔に見えてもらえば良いし、勘の鋭い視聴者にはメタからの使者の可能性を暗示する程度に考えていた。
一部で萌えぇと評判を呼んだここでの月子の芝居。原画は松本憲生氏。 作打ち時に私は氏にこうお願いした。 「月子萌えでお願いします」 けっこう萌え狙ってました、私。この一連のシーンのコンテを描いていたときの私の目論見はこうだ。 「2チャンあたりで月子萌えって言われますように」 半分以上本当だ。「言われますように」というよりは「言わせてくれる」という偉そうな思い上がりだったようにも思う。違う言い方をすればこうだ。 「君たちはどうせこういうのが好きなのだろう」 このシーンの中でもとりわけ萌えをターゲットに作ったのがC.70、月子が泣きそうになって鼻をすするカットだ。どうだ、萌えているか。ラッシュチェック時にプロデューサー豊田君も嬉しそうにこんなことを言っていた。 「うっわ、月子萌えだよ。世界が認めた才能が萌えアニメ作ってるよ!」 ああ、そうとも。下心いっぱいだ。 同じように「君たちはどうせこういうのが好きなのだろう」という偉そうな態度で作ったカットには後半のカフェのシーンで出てくる「透けブラ」がある。案の定こんな書き込みがあったと聞く。 「透けブラ来たーッ!」 もう、思惑通り。私は嬉しいです(;´Д`)ハァハァ。 ちなみに私は2チャンの反応は見ていない。2チャン自体ほとんど読んだことがないので、顔文字や語句の使用方法はよく分かりません。詳細キボン。 ウソです、詳細を知らせたりしないでください。 月子が自室で見ていたBBSに2チャン風の書き込みがあったが、この素材は演出担当の平尾君の手によるもの。当時私はその元が何か知らなかったくらい で、撮出し時にその素材を見て「上手いもんだなぁ。私にはこんなにそれらしく作れないなぁ」と素直に感心していた。 |
さていよいよC.81で少年バット登場。少年バットのシルエットが金属バットを振り下ろす、というカット。その後この話数内でも、「夢告」ラストやオー
プニングや他話数でも何度もバンク(使い回すこと)として使用されている。私は気に入っているカットの一つでいわば「妄想代理人」という作品の「顔」とも
いうべきカット。振り下ろされる金属バットのぶれた処理は撮出し時に平尾君が作成。0+18くらいの短いカットだが、後々使い回す予定もあったし、少年
バット登場の大事なカットなので割と手間をかけて作っている。
振り下ろしたバットでガーンとブン殴ってやりたいところだが、月子が殴られる絵は、ない。シナリオ段階から、そういう直接的な絵は使用しない、という制 約の下に作っている。テレビの規制を考慮しての自主規制ではなく、そういう直接的な描写はおとなげがない、という制作者の態度でもあるが、インパクトの強 い映像を濫用するとそのインパクトのせいで他のシーンの微妙な味わいが消し飛んでしまう可能性もあるので、「地味アニメ」の王道を行く監督作品としては地 味な面白さのためには刺激の強い映像を使わないという意図でもあった。 続く慌ただしいM&F社内。社内に貼られているマロミのポスターなどは私が撮出し時にでっち上げたもの。また携帯電話で話ながら右へOUTして 行く鳩村の奥、会議室らしきブースのテレビ内に映っているワイドショー画面は「東京ゴッドファーザーズ」からの使い回し。ミユキの夢のシーンで出てくるテ レビに映っていたもの。制作のデジタル化によって、データの保管が容易になったため、背景を初め、こうした「一々作ると面倒だけれど無いと困る素材」は以 前の作品からの流用が可能になった。もっとも、SFやファンタジーのように流用の利かない世界観の作品を作っているとあまり財産には出来ないかもしれない が。 ちなみに1話冒頭に出てくる携帯電話で話す男も、ここでの鳩村も手前(カメラ側)に携帯電話を持っているのは口を隠すため。歩きながらの口パクは枚数が 余計にかかるので手間を省くための苦肉の策。月子が夜道を歩きながらマロミに話しかけるところでは髪の毛で無理矢理隠してみたりしている。 病室内での月子と猪狩、馬庭のやりとりは楽しくコンテを描いたと思う。初稿で考えた「噛み合わない」会話をさらに水上さんが膨らませてくれたお陰で、コンテでは間の外し方やセリフのタイミングでさらに噛み合わなさ加減を強調したつもりだ。 2話に出てくるM&Fでの月子の事情聴取も同じパターンだが、こちらも気に入っている。月子のキャラクターがキャラクターの芝居や表情そのもの ではなく、他の人間との関係やムードで月子らしさを多少は出せたのではないかと思っている。逆に月子単体という意味では、2話Bパートで出てくる自室の シーンで、月子がベッドに寝そべって頭を逆さまにしてテレビを見ている、というポーズはキャラクターが出ていると思える。要するに月子には世の中が正しく 見えていない、と(笑) 月子の逆さまになったポーズはシナリオにはなかった描写なのだが、2話は極力作画内容を楽にしなければならないという制約もあって、なるべくキャラクターに芝居をさせずに「らしさ」を表す必要があった。苦肉の策としてひねり出したアイディアである。 月子とはまったく対照的に、そのキャラの芝居や豊かな表情でキャラらしさを表すというオーソドックスなスタイルを取っているのが川津。病院のロビーでボ ケ老人にののしられているシーンから、同病院内エレベータ前のシーンは江口寿志氏が原画を担当してくれており、川津にいい味を出してくれている。私は川津 はデザインが上がったときから描きやすそうなキャラクターだな、と思っていたのだが、実際描いてみるとなかなか思うに任せなかった。江口さんが上手に描い ておられて、江口さん描くところの川津を作監共々参考にさせてもらった。 ちなみに江口氏はその後の駐車場の猪狩と馬庭のシーンまでを担当している。 1話において川津は月子と同じくらいに重要な位置にある。何せ、月子が「対決」しなくてはならなくなる相手なので、その対決までに川津のキャラクターを視聴者に把握しておいてもらわないと、対決が楽しみに感じられなくなる。 また「よく分からない人」月子は「静」の人なので、月子を描写するためにも「動」の人、川津がより重要になってくる。川津の下世話な動の部分で月子を照射しようというのが「対決」シーンの狙いである。 先ほどから「対決」といっているのは後に登場するカフェのシーンのことである。私にとっては1話の一番の見せ所はここであった。その対決のシーンに行く前に順序通りBパート頭から振り返る。 |
B
パート頭は猪狩と馬庭の聞き込みシーン。電器店の店頭、住宅街やゲームセンターで聞き込みするカットの間に、ワイドショーのコメンテーターのカットが挟ま
る。私はこのコメンテーターをバカにして描いている。ワイドショーに出てくるコメンテーターすべてではなかろうが、したり顔して正論らしきことを口にして
いるコメンテーターを見ると私は不快になる方だ。なのでそういう人をバカにしてやろうという意図も同時に込められている。要するにこういうことだ。 補の補/このテキストを書いている頃、私が運営する掲示板にこんな書き込みがあった。 「私はこう思う」(掲示板から再録) |
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