妄想の十三「終わり無き最終回。」
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ドガシャンッ!ガンッ!バンッ!ガシャァァァァァンッ! |
猪狩の怒りは実際に体を動かし、バットを振るい、そして風景を叩き割る行為の中でさらに増大して行く。怒りというのは得てしてそういうものではないか。
怒りのエネルギーが最初から蓄えられていて、それが一気に放出されるという図式的なものより、怒り出したらもっと怒りが湧いてくる。そんなイメージだ。
怒りのテンションはどんどん上がって行かねばならない。 |
風景も人も関係なく猪狩はぶち壊す。C.152で煙草屋のおばあさんまでブン殴っているが、作監・鈴木さんには「おばあさんまで殴るのはひどい」と言わ
れた。いいや、そんなことはない。ババアだろうがオッサンだろうが、記号の町はすべて打ち壊すのだ。心底怒った人間に見境なんかあるものか(笑)
それに「おばあさん」という弱そうなものまでブン殴る、ということが大事なのだ。C.151でオッサンを、152でばあさんをブン殴るからテンションが上がって行くのであって、この順序が逆では感じが出ない。 そしてテンションを上げて一旦「決め」のカットだ。 |
これは、バンクで使い回した「少年バットが金属バットを振り下ろす」カットに、意図的に構図なども揃えている。このカットについて、ネット上で興味深い指摘を見つけたので引用しておく。
【少 年バットがその曲がった金属バットで痛みが伴うとはいえ被害者たちに「救済」をもたらす者と考えると、猪狩は自らの意志でバットを振るい自らを「救済」す る者、といえるのではないか。つまり「猪狩=中年バット」であり、同時に他の被害者とは一線を画する自律性が託されている。(中略)救済を自らの手で行う 猪狩という中年男性には、これまでにも述べてきたように作者・今 敏の理想とするイメージが投影されていると思われ、注目に値する。また金属ではなく木製バットという点も、ここに猪狩の世代としての古さを象徴しようとし た作者の意図が見えるようである。】 冗談冗談(笑)、私がでっち上げただけで引用ではない。こういうのを屁理屈というのだが、あながちウソではないような気がしてきた。いや、それもウソね。 このカットが少年バットに韻を踏んでいるのはあまり意味はない(笑) ただ、何となく揃えた方がいいような気がする、という直感と冗談による。 この「決め」のカットでさらにテンションを上げて次へ。 |
C.155、156は並列的なカットで、文章的に言えば「あれやこれやたくさん」「等々」とでもいった意味合い。同じような行為を逐一追わずに省略して
テンポを上げて行く時によく使う手口である。通常3カットくらい繋げないとリズムになりにくいが、ここでは同じような「風景が割れるカット」を2つ繋い
で、次に1カットを挟んで並列的なカットとしてC.158「人をブン殴るカット」をもう一つ繋いでいる。
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短い尺のカットなので気が付かなかった視聴者も多いと思うがC.158でブン殴られるのは「かつての猪狩と美佐江を思わせる記号の人たち」である。おそ
らくはマロミが猪狩を止めるために、猪狩の過去のイメージを作りだしたということだろうが、そんな理屈は野暮というもの。 こうしたテンポやテンションを上げて行く時は音のリズムで考えた方が調子を取りやすい。C.154から159までを例に具体的に表記すればこんな感じ。 「どいつもこいつもふざけやがって!!」/ガシャンッ!!/ガシャンッ!!/やめなよ!ここはあんたの世界だよ!あんたの世界がなくなっちゃうんだよ!」/ドガシャッ!!/バラバラッ!! 「/」はカットの変わり目である。頭が悪そうに見えるが、私は以上のような音を実際に口に出しながら尺を計る。コンテには各カットの尺を記すが、1カット ずつ計っても繋がった時のリズムを把握しにくいので、私は一連のカットをまとめて計るようにしている。ストップウォッチはデジタル式を使用しているので、 ラップタイムが計れる。非常に便利だ。先の例に従えばセリフや効果音を口に出しながら「/」のところでラップ計測のボタンを押す。ちょっとやってみる。 「どいつもこいつもふざけやがって!!」(1秒81→1+18) ガシャンッ!!(0秒57→0+12) ガシャンッ!!(0秒75→0+18) 「やめなよ!ここはあんたの世界だよ!あんたの世界がなくなっちゃうんだよ!」(4秒91→5+0) ドガシャッ!!(1秒23→1+06) バラバラッ!!(0秒72→0+18) (ストップウォッチの実測→24コマ変換)となっている。実際のコンテの秒数と同じ結果になるまで十数回もかかってしまった(笑)。コンテで尺を入れる時はセッションを何度か繰り返して平均を出すなり、納得の行ったセッションの尺を使うようにしている。 しかしこれだけパソコンが普及しているんだから、もう少し便利なツールがあってもいいだろうに、ストップウォッチで計るのはなんだか時代とずれている気がする。 |
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