妄想の四「少年バント参上!」
-その5-

  透けブラ来たーーーーッ!(*´Д`)ハァハァ

 オプンニャテクストブック。
 絵コンテのページ93。

01093.jpg

 C.233が「透けブラ来たーッ!」ってカットである。こんなカットでお喜びいただけた方がいらっしゃったのなら私は本当に嬉しいです。(*´Д`)ハァハァ
 この両カットは私も撮出しが非常に楽しかったカットである。

 まずC.232だが、キャプションにある通り、(月子がオーダーしたであろう)トマトジュース、そのグラスの表面にたくさんの水滴が付いているという カット。同じポジションのカットは、さらに月子が精神的に圧迫されたあたりC.243でもう一度出てくる。こちらでは水滴が一筋、タラリと流れる。
 このトマトジュースは勿論、月子の内面の表現であり簡単なモンタージュである。月子の顔に直接汗を描き込めば、そんな余計な手間をかけなくてもよいでは ないかという考えもあろうが、それじゃあ身も蓋もない。何度か書いているが月子は表情に乏しいキャラクターなので、別な何かに代替させたり投影させる形で 表現する方がそれらしい。
 グラス表面の水滴は以前のアナログでは考えにくかった表現のひとつだが、デジタル化されたお陰で単純な線画と塗り分けで描くよりも感じを出しやすくなっ た。私の低予算へっぽこデジタルを自賛する気はないが、この処理は私が撮出し時にPhotoshop上ででっち上げている。次カットの透けブラの処理も私 が担当したのだが……う〜ん、もう一つだった気がする。撮出し時に作成したサンプルデータを引っ張り出して見てみたが、やっぱり今ひとつの感じがする。前 後のバランスを考えるとこのくらいにしか出来なかったのだろうが、透けブラ好きのみなさん、ご勘弁のほど。前後関係を気にしなければ、もっと写実的な表現 も可能なのだが、あまりやりすぎると前や後のカットでも同様の表現を強いられることになり、手間が一気に膨れあがる。膨れあがるどころか、不可能なケース も出てくる。なので目立つ表現は万事控えめにしておくのが賢者の心得。

C.232のトマトジュース。上がセルと背景を組んだ「素」の状態。(但し、撮出し時の加工を前提としているのであまり色は合わせていない)
下は撮出しした後の状態。
ペイントの修正、グラスに加えた特効なども撮出し時の作業による。

左上の画像はサービスショット(笑)
別素材で作画した服を単純に乗せても、右上みたいな絵にしかならない。
その下はシャツに重なる肌とブラ部分を分離して、服の上から「比較的(明)」というモードで重ねた状態。
右上の絵よりましだが、全体に透けすぎるのでこの絵にマスクを加えて、透ける部分と透けない部分を作って合成したのが下の絵。

  しかし本当にこんなカットで喜んだ人がいたのだろうか。甚だ疑問だ。だって全然エッチじゃないと思うんだがな。川津がそのねぶるような視線で月子を眺め回 す、視姦しているという演出としては有効だったと思うのだが、いやらしく見えるのかな。シーン全体としてもここでは川津が月子を擬似的にレイプするという 演出を重ね合わせたつもりなので、シーンがいやらしく見えてくれればコンテ・演出担当としては非常に嬉しいのだが。「パフェを舐め上げる」だとか「チェ リーを口の中でころがす」だのといったクローズアップカットは無論性行為をイメージしている。もっとも川津が積み重ねたこうした「前戯」も月子から事件の 真相を聞き出すという「本番」には至らず、このシーンでの「本番」は少年バットに譲ることになる。
 あ。こうやって性的なことと結びつけて書いたりすると、こんなことを言い出す人間も出てくるのだろうか。
「少年バットの持つ曲がった金属バットは、抑圧された性的欲求を象徴したものであり、また少年というその体現者が示すように未発達な性的能力を何たらかんたら……」
 別に言い出してもいいが。

 川津に狂言ではないかと(実は図星なんだが)突きつけられて、さらに圧迫された月子の耳にゴオォォという例の音が高まってきて、ハッと振り返ると駐車場 のシーンがフラッシュバックする。短い回想だが、やはりここでも回想への進入路として「ゴオォォ」という音を使用している。以下、コンテ。

 C.246で「金色のローラーブレード部分のみがフェードイン」とあるように、ここで「金属バット」という最初の手がかりに、新たに「金色のローラーブ レード」という特徴が加わる。月子が手がかりの一つを思い出した、とも言えるが、記憶が勝手に作り出したという方が正しいかもしれない。記憶は嘘をつく、 とは何かの本のタイトルだったように思うが、私もそう思うし、そうした記憶の変形や歪みを非常に面白く感じる。「千年女優」なんてまさにその典型である。
 この新たな特徴が警察に伝えられ、そして月子が言ったのか勝手に付け加えられたのか、少年バットのイメージは噂を介して一人歩きして行く。
「妄想代理人」に込めようとした重要なモチーフの一つがこの「噂」による拡大。少年バットは噂を肥やしにして具体化して行くというイメージだったし、「口裂け女」のような都市伝説の類と考えてもらってもよい。
 何かの雑誌のインタビューでも話した内容かもしれないが、たとえばネット自殺の方法としてメジャーになった練炭・七輪などを使った一酸化炭素中毒による 自殺。他ならぬ「妄想代理人」8話でもモチーフとして扱っているが、しかし、今時普通に暮らしていて練炭や七輪などお目にかかることは少なかろう。なのに 自殺業界ではその手だてとして大きくシェアを拡大したことだろう。
 この背景には練炭によるネット自殺というかネット心中が報道されたことがあろう。メディアを通じてその方法を知ることがなければ、練炭の売り上げもそれ ほど伸びることはなかったのではないか。知ったからこそ「じゃあ私もそれで」ということになった人もさぞや多いと思われる。
「オレオレ詐欺」だって似たようなものなのではないか。報道されることで被害者になるかもしれない人間に注意を促す効果は間違いなくあるだろうが、報道さ れたことでその手段を知って真似した人間も少なからずいるだろう。さらに最近では「オレオレ詐欺」の手口も多少バージョンアップして、「警察官役」が現れ るなど複数による役割分担もあると聞く。これも報道によって注意が呼びかけられた分だけ、多少被害者が注意深くなり、手口もその上を行くべく進化したのだ ろう。報道や噂で情報(それが本当であれ嘘であれ)が広まることがいいとか悪いとかいった話ではなく、私としては単に世の中には「そういうことがある」と 思っているだけである。
 こうしたことを考えていると、確か「ミーム(模倣子)」についての本で読んだ示唆深いエピソードが思い出される。手元にその本がないのでうろ覚えで記すとこんなこと。
 たとえば南洋の小さな島でサメによる被害者が年間一人いたとする。たいした
脅威ではない。さてこれと同じ事情の島が周辺に9つあったとする。これら計10の島々をメディアによってネットワークすると、それぞれの島におけるサメ被害が相互に伝えられるることになり、結果その島々の事情は次のように一変する。
「年間にサメ被害が10件」
 サメの脅威、大である。
 いい加減な記憶で書いているので恐縮だが、実際にその本に書かれていた内容より私の印象に残った内容を重視しているのでご寛恕いただきたい。非常に示唆 に富んだ小話だと思う。じゃあ「妄想代理人」にどう影響したかといえば、単にそういう考えが背景にあったというにすぎず、引用するほどのこともなかったか もしれないが、少年バットがどこにでもオンデマンドで現れるようになり得たのは、こうした作用が働いたからである。いかに少年バットといえど彼を知らない 人の元には現れない。

ただいま

 さて、人々の噂によって具体性を帯びた少年バットが月子の元に戻ってくる。
 川津が月子の自宅にまで現れ、ちょうどそこへ帰ってきた月子は川津から逃げる。怪我した足を引きずって逃げる月子は実に気の毒だが、総監督は女性キャラをいじめるのがお好きらしい。

 先に川津は「世間の下世話な目、好奇の目」はすなわちメディアの下世話な在り方と同じであると書いたが、このカットなども川津のその機能がよく発揮され ていると思う。メディアは俎上に上げた人間の都合などお構いなしにその生活圏へ侵入してくる、という描写である。
 川津に追われた月子が心理的に圧迫され、そして例の「ゴオォォ」という音が近づき、さぁいよいよ襲われた! 川津が。
 いかにも月子が襲われるような感じでカットを積み、ミスリードさせておいて外すやり口なのだが、しかし川津が襲われるのはかなり奇妙と言える。この時は まだ視聴者には分からないが、「妄想代理人」の他の話数の被害者が襲われる場面と比べても、川津が襲われるにはプレッシャーが足りない。心理的に極度に圧 迫されて少年バットを呼んでしまう、というルールから外れている。これは何故か。
 作者の都合による。
 身も蓋もないかもしれないが、そうなのである。もちろん7話でフォローしているように、川津は賠償問題で追いつめられていたとは言えるが、そんなことで 追いつめられるようなたまではないのは私もよく分かっている。虚勢を張っていても奥底では実はストレスが肥大していたのかもしれない、と都合よく解釈する ことにした。
 だって。1話には月子以外にどうしても「やられ役」が必要だったんですもの。
 そういうこともある。
 それに多少ルールを外れたケースを混ぜた方が、先読みしづらくなって面白いという積極的な考え方も一方にあった。何せ1話である。少年バットが現れる ルールやパターンがすぐに読まれてしまっては、想像の余地がなくなるので、川津が襲われること自体にミスリードという狙いもあった。たとえば少年バットは 月子の思惑によって現れるものかもしれない、という余地もあるじゃないか。
 ま、屁理屈なんだけど。
 川津を襲った後、月子の元に少年バットは現れる。

 C.291の「マロミを覆っている少年バットの影」という見せ方はマロミと少年バットの「実はどちらも同じものである」という本性を暗示したつもり。
 C.293の「ただいま」のセリフがきっかけで音楽がスタートする。曲はオリジナルサウンドトラックより「逃亡」。アップテンポのかっこいい曲である。 「妄想」のサントラとしてお願いした楽曲は、平沢さんの方から上がり次第MP3でアップしてもらって、すぐに聞けるようになっていた。私がある日、自室の パソコンでこの「逃亡」を流していたときのこと。女房がひょいと顔を出してこう言う。
「かっこいい!何これ!?」
「妄想のサントラ」
「ひゃあ!」
 何が「ひゃあ!」なのかよく分からないが、愉快な家庭だ。そんな話はどうでもよかろうが。
 この曲のかっこよさもさることながら、使い方も非常に気に入っている。これは私のイメージではなく音響監督のアイディア。1話のBGMのセレクトや使い 方はほぼ音響監督のイメージによる。私がダビング時に口にしたのは「いいですねぇ」という言葉だけだったような気がする。
 効果音についても倉橋静男さんがつけてくれた音にほとんど注文はなかったように思う。実際ダビングにかかった時間も短かったと記憶している。ただ残念な のは、1話の効果音は、テレビアニメとしては非常に贅沢に付けてもらっていると思うのだが、自宅などで普通の音量で聞いていると、ほとんど聞こえてこない こと。これは日本の住宅事情による問題で致し方ないことのだし、ほとんど聞こえなくてもその豊かさの効果は確かにあると思うが、DVDを購入された方など は是非一度ヘッドフォンで聞いたり近所迷惑を覚悟して大音量で聞いてみるなどしていただきたい。

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