妄想の十「笑う人、まどろむ人」
-その1-

 トレビアン

 8、9、10話とちょっと番外編的な話数が続いて11話からはいわば「妄想代理人」の本筋に戻ってくるが、その前にオープニングエンディングについて振り返る。
 私は「妄想代理人」の視聴者のリアクションを積極的に知ろうとしたことはないが、それでも巨大有名掲示板に垂れ流されている感想やら勘違いやら独りよが りを人づてに聞くことはあるし、私の管理している掲示板にもリアクションは書き込まれる。制作中には随分多くのインタビューを受け、インタビューアーから たくさんの感想も聞いた。とりわけ好評だったのがオープニングのようで、お褒めをいただくことが多かった。好評を賜ることは素直に嬉しいのだが、ただ私と してはちょっとチンピラくさい発想になってしまったことが少々恥ずかしいとは思っている。「チンピラくさい」というのは、説明が厄介だがなるべく簡単にい うと「けれん」に過ぎるという感じだろうか。分かりやすすぎる。インパクトを狙った映像なのだから態度としては間違ってはいないと思うが、けれんに走るや り方はなるべく戒めている。つもり。
 なんだかんだいってもオープニングは気に入ってはいるが、それはまず何より曲が素晴らしいからだ。オープニングは無論平沢さん作詞作曲による「夢の島思念公園」。エンディングは「白ケ丘〜マロミのテーマ」。こちらも私は非常に気に入っている。
 どちらの曲も、最初のデモを耳にしたのは確かパリ滞在中のことだったと思う。う〜ん、インターナショナル。2003年の12月、フランスはパリで行われ た「フォーラム・デ・イマージュ」というイベントに招かれていた。日本のアニメーションを多岐に渡って紹介するイベントで、3回目の開催。私はその前回も 参加させていただいたのだが、その時は完成していたにもかかわらず「千年女優」を上映出来ず、「パーフェクトブルー」の上映に立ち会ったのみである。非常 に残念だったのだが、2003年末の同イベントでは完成したばかりの「東京ゴッドファーザーズ」と「千年女優」、そしてまたもや「パーフェクトブルー」、 さらには「MEMORIES」やあろうことか「ジョジョ」の私の担当した話数も上映するということで、いわば「今 敏レトロスペクティブ」とでもいった実にありがたいプログラムであった。回顧展には早すぎると思うんだがな。
 このイベントの事務局にあるパソコンを借りて、日本のスタジオにいるプロデューサー豊田君からデータを転送してもらってMP3のデモを聞いた。PCのスピーカーは貧乏くさい音しか出せなかったが、聞こえた曲は!
「トレビアン!」
 とは言わなかったが、「かっこいい」と日本語を口にした。

矛盾したイメージ

 音楽イメージについて私は平沢さんになるべくお任せしたいと思っていたので、あまり具体的なことをお伝えしなかったと思うが、オープニングテーマのイメージだけはビジュアルを含めてお話しさせてもらった。そのイメージの元になったのも平沢さんの曲であった。
 ちょうど「妄想代理人」のオープニングをどうしようかなぁ、と考えていた頃、素晴らしい曲を耳にした。「地球ネコ」である。平沢ファンの方なら知ってい るかもしれないが、NHK教育テレビ「おかあさんといっしょ」という長寿番組で「今月の歌」として使用された曲で、平沢さん作詞作曲、歌のおにいさんおね えさんが歌ったのがこの「地球ネコ」。子供向けに作られた曲ではあるのだが、私が聞いた印象は次の通り。
「気色が悪いほど晴れやか」
 一発でしびれました、私。歌のおにいさんおねえさんのあまりに伸びやかな歌声も同時にささやかな狂気を帯びていそうなほど晴れやかで(笑)、曲に合わせ て流れるビデオクリップも作りは安手ながらよくイメージが伝わり、中には大変な皮肉を思わせるカットも混じっている。
「おお!これだ」
 私、安直です。ということでオープニングのイメージは「あまりに晴れやかで気色悪い感じ」に決まった。そしてその表現のために「キャラクターたちが皆 笑っている」というかなり不気味なアイディアを思いついた。というと聞こえはいいが、同時に「笑っている」という芝居はリピートが利くので、原画の手間も 一気にダウンサイズ出来るという目論見もあった。
 最初に浮かんでいたイメージは「全身から血をダラダラ流しながら笑っている人」「晴れやかな笑顔の人が不意に爆発して四散する」などなどで、大喜びして周りのスタッフに話したら止められた(笑)
「危なすぎます」
 素直な私は「わっはっは、そりゃそうだ」とあっさり後退したのだが、またもやそのとき天啓が閃いた!そればっかだな。
 天啓というより、単に思い出したといった方が良いのだが、以前やはり平沢さんの曲に喚起されたイメージが浮上してきたのだ。以前、平沢さんのアルバム「BLUE LIMBO」を拝聴した折り、たいへん感激して御本人にこんな感想をお伝えしたことがある。

 まるで青天の下に惨劇を見るような、豪雨と濁流の中で笑顔を浮かべる子供たちを見るような、そんな相反するイメージに圧倒された感じでした。

 このアルバムを聞いたときの印象がこのような矛盾したイメージだったのだ。
 このイメージと「地球ネコ」という粗雑なリクエストにもかかわらず平沢さんはすぐにこちらの要望を了解してくれたようで、それは期待通りの「夢の島思念 公園」という形で表してくれた。そしてこのメロディと歌詩に刺激されてオープニングのコンテに取りかかった。

オープニングのレシピ

  オープニングの尺は90秒ジャストと決まっていた。カット数は20〜30くらいという制作上の制限はあったが実際には14カットに収まった。オープニング としては少ないカット数だと思われるが、カット数より何より問題なのはここでもスケジュールであった。とにかく時間がない。人もいない。いつものことだ。
 この頃は2話のコンテにも追われており、1話もまだまだ作業が残っていた。日誌によると、12/20に2話のコンテAパートを上げて、同日オープニング のラフコンテにかかって23日にオープニングのコンテをアップ、すぐにまた2話のコンテBパートにかかって、同時に9話の「TKO」のネタを捻り出すやら 7話のコンテチェック、「東京ゴッド〜」の海外インタビューなどをこなし、24日は1話のアフレコやら「妄想」がらみの取材、そして仕事場でクリスマスの シャンパンを飲むことも忘れていない。
 オープニングのコンテは14カットだというのに3、4日もかかっているが、同時に考えるべきことが多くてけっこう大変な思いをさせられた。どれも人的時 間的タイトな制限をクリアするためである。オープニングという作品の「顔」でもあるので、あまり貧相なものでも困る。
 先にも書いたように「笑う」という行為で統一することで作画の手間を一気に減らしてみた。笑い続けるといってもすべてリピートである。基本的には原画は 2枚(動画にして3枚程度)で済む。もっとも実際には髪の毛や服のなびきなどあるのでもう少し手間はかかるのだが。ともかくリピートである。そして、通常 の原画のようにカットごとに作画するのではなく、こう考えることにした。
「1キャラごとに作画」
 つまり特定のカットに対してそれぞれ作画するのではなく、月子なら月子の笑っているリピートを作画して、それを使い回す、と考えることにした。これで一 気に手間をダウンサイズだ。なので、私が適当と思えるキャラのサイズを指定して、各原画マンにはキャラのみを作画してもらうことにした。キャラのサイズは カットごとに違うが、そこはデジタルの便利さを利用して、カットごとにキャラのサイズを縮小・拡大して使用する、と。なので、オープニングの作画作業にお いて、レイアウトというプロセスは存在していない。私の描いたコンテがレイアウトである。背景作業もコンテを拡大して、それを原図として使用することにし た。こう書くと簡単そうに見えるかもしれないが、その分コンテ作業の負担が大きくなるのだ。たった14カットと言えど3、4日もかかるのは致し方ないのだ よ。
 作画の負担は大幅に軽減出来たが、背景とて豊かなキャパシティが許されているわけではない。ここもダウンサイジングしなければならない、ということで 「過去の財産」を使うことにした。「東京ゴッドファーザーズ」の背景を持ってこよう、と。何せ緻密に描かれた「東京ゴッド〜」の背景は、すべてサーバに データとして残っているのだ。使わない手はない。
 何事も良い面ばかりではない。背景は新作が少ない分、カットごとに密度を上げることは可能だが、リピートによる作画の負担軽減は同時に「見応えの減少」 を招くことになる。これを補う術としてカメラワークを大きくつけることで、リピートの単調さを軽減しようと考えた。と、このときまたもや天啓が!もうい いっちゅうの。
「ゴーストを発生させる」
 なぜこんなことを思いついたのかは分からないが、きっと「妄想代理人」に登場するキャラクターたちの「二面性」といったことを考えていたからかもしれな い。その「ズレ」みたいなものを表す意味でも、「ゴースト」はいいアイディアに思えた。さらにはリピートの単調さを隠す意味でももってこいだ。しかし良い ことずくめのように見えるが、作画の負担を軽減した分の「付け」は後で大きく撮出しと撮影にのしかかってくることになる。

お目覚め下さい

 オープニングの基本的なレシピを考えたところで各カットについてコメントを加えてみよう。

 C.1は青空に早回しのような雲が流れ、笑う月子が大きくIN。月子は脱いだ靴を両手に持って、高層ビルの上に立っている。かなり異常な状況だ(笑)
「妄想代理人」最初のカットともいえる重要な意味もあるし、「ラーイーヤ ラライヨラ」という平沢さんの雄叫びに負けないよう、インパクトを大事にしたつもりだ。
 またオープニングにはこんな意味も込めたつもりだ。
「視聴者を叩き起こす」
「妄想代理人」のオンエアはWOWOWの深夜0時台という枠が決まっていた。なので仕事で疲れて帰ってきて風呂も入ってビールも一杯飲んでちょっと眠気も 来ている、といった視聴者をまず叩き起こそう、と考えた。オープニングは「起きろ」、そしてエンディングは「寝ろ」。
 カットいっぱい流れている雲、処理としてはあまり上手く行ってないかもしれないがこれには苦労させられた。コンテを描いたときには実写のビデオ素材を合 成しようと思っていたのだが、ちょうどいいような素材が見つからず、結局、撮出し時に私が素材を作り処理を考えることにした。今となってはどうやっている のか私もよく覚えていないが、背景で描いてもらった雲を、雲状のマスクをスライドさせつつ数段引いているだけ。スライドも1コマスライド、2コマスライ ド、3コマスライドを混ぜてフリッカー風な効果も狙ったような気がする。素人さんにはよく理解出来ないかもしれないが、ともかくかなり貧乏くさい手法。
 作画は笑う月子のみで、原画は鈴木美千代さん。

 C.2は豪雨の中、濁流に浸かりながら笑うウッシーとイッチー。作画は笑いのリピートだけといいつつ、濁流も無論作画である。ウッシーとイッチー、濁流の作画は「パーフェクトブルー」作監で、どの監督・演出作品でもお世話になっている濱洲英喜氏。

 C.3 は水中でゴボゴボしながら笑っている妙子。魚はこのカット用に作画。どちらも原画は三原三千雄氏。魚は5匹のみ作画してデジタルで増殖している。画面上部 に見える海面の揺らぎは作画ではなく実写のビデオ素材を変形・加工して貼り付けている。作画の負担を軽減するためにこのCD-ROMに払った代価は ¥12,800(定価)。ちなみに「妄想代理人」通常の原画単価は¥4,800。う〜ん、どうなんだろう(笑)
「妄想」の場合、原画単価はカット内容や頼む相手によっては流動的で倍付け色付けなどしていたケースもあるらしい。背景単価は1カット¥3000。
 ついでにちょっと下世話な話。
 現在のテレビシリーズは原画単価の相場が1カット¥4,000前後らしい。「妄想」の¥4,800は比較的いい数字だろう。カット内容もアホみたいに大 変なものはごく一部の話数を除いて少なかったし、キャラの線も少なければ影も少ない。だから絵が余計に難しいという話もあるが。線が少なくて影が少なくて 助かるのは動画だが、「妄想」の動画単価は1枚¥220。仕上げ(彩色)も同じ¥220。これは安い方だそうだ。いまどきは¥240〜250くらい出てい ると聞いた。
 テレビでも凝った作画が必要なオープニングなどは¥10,000くらい出さないとやり手がいないそうだ。
 さらに話が逸れるしお恥ずかしい話にもなるが、劇場作品の場合は当然もう少し単価は高くなる。なるのが普通だが私の監督作品には貧乏がつきまとっているので、相場を遙かに下回る値段だ。
「東京ゴッドファーザーズ」の場合、
原画/1カット¥10,000〜30,000(基本的に¥15,000以上は出していたらしい)
動画/1枚¥350
 ピンと来ない人の方が多いだろうが、非常に安い。今時の劇場作品なら動画で「¥400〜500」、ジブリなら「もののけ姫」の時でも1枚¥1,000出ていたと聞く。
 大作劇場作品の原画なら相場は¥30,000〜50,000くらいではなかろうか。
 さらにお恥ずかしい話を披露する。
「千年女優」原画/1カット¥8,000
 とても劇場作品の値段ではないしビデオ並みだろう。さらには。
「パーフェクトブルー」原画/1カット¥6,000
 しくしく。
 ご迷惑かけた皆様ごめんなさい。

笑ってはいけない場所で笑う

 C.4 は大空を気持ちよさそうに落下してゆく馬庭のカット。原画担当は鈴木美千代さん。背景の描写がとても気持ちの良いカットだと思う。オープニングのイメージ は「あまりに晴れやかで気色悪い感じ」と書いたが、これだけでは具体的なイメージをたくさんは考えにくいので、こう考えてみた。
「笑ってはいけない場所で笑っている」
 だからといって「葬式」などとイメージしてはいけない。それじゃ絵にならないし(笑)、だいたい「晴れやか」から遠ざかる。

 C.5 は戦火に荒れた廃墟で携帯電話をかけつつ笑っている川津。原画は三原氏。廃墟を出したのは無論暴力国家に蹂躙されている土地をイメージしているが、コンテ では「ベイルートあたり」となっている。これは私が持っている写真集「BEYROUTH」を参考にしているため。5人のフォトグラファーによって撮影され た、銃痕だらけになった壁や半壊した建物などが満載の美しい写真集。
 本当は単なる瓦礫の中に川津が立っているのではなく、夥しい死体の山に川津を立たせたかったのだが、9話の「PKO」のこともあったので自制することに した。死体の山に立ち、笑いながら電話をしている様は川津に相応しい。何せ川津は下世話な世間様の代表なのだから。ふと4話の真壁のセリフを思い出した。 「自分の幸せっての他人の不幸のうえに成り立ってるんですよ」。清々しいほどの真実じゃないか。
 実はこのカットは完成していない、とまで言うと語弊があるが、コンテではカット頭、ワイプ用風に画面を横切る煙があり、川津の背後にも煙を流しておく予 定だった。素材は新作するのではなく「東京ゴッドファーザーズ」の煙の素材を流用する予定だったのだが、撮影のキャパがいっぱいとなって諦めることにし た。

 C.6 は晴美とまりあ。二重人格なので二人が同時にいるのはおかしいのだが、画面に華が欲しかったので同時に登場願った。原画は久保正彦氏。画面下半分を埋め尽 くしているゴミ袋は「東京ゴッドファーザーズ」の素材をそのまま流用している。早回しのように回る天体は私が撮出し時にでっち上げた素材だ。

 C.7 は美佐江が解体中の家の中で笑っている。作画はこれも久保正彦氏。解体中の家も「東京ゴッドファーザーズ」のBGをそのまま流用。このカット用に作った BGではないので、美佐江をそのまま配置したらあまりに浮いてしまった。そこで美佐江の背後に差し込む光を足している。テレビ画面ではほとんど分からない かもしれないが、差し込む光の中に埃をスライドさせている。
 美佐江をオープニングに出したのはいいが、初登場が11話というキャラクターなので、しばらくこの笑う中年女性が何者か分からず疑問に思った人もいたのではないかと思われる。

空に咲く見事なキノコ雲

 C.8 は横断歩道にキャラクターたちが次々に現れ、その周りでは人や車やライトの光跡がビュンビュン流れるというカット。データが重くなって処理や指示が大変そ うだったので、コンテではカット8A、8Bと分けている。このカットも未完成というわけではないが、撮影があまりに大変になったのでコンテで予定していた 処理を減らしている。元々はこの8A、8Bで「春夏秋冬」という流れにしようとしていた。完成画面でもそう見ようと思えば見られなくもないと思うが。

  背景は「東京ゴッドファーザーズ」から流用して描き加えたり加工したりして、春夏用と秋冬用、それぞれ昼と夜、計4種類を作ってもらっている。笑っている キャラクターたちは他のカットと同じ素材なので、原画としての新作はない。が、撮出しで私が苦労する羽目になった。キャラクター以外の動くものは私が撮出 し時にPC上で作成しなければならなかったからで、タブレットで描いたり素材を加工したりして素材をでっち上げている。
 早回しで歩く人々は「東京ゴッドファーザーズ」でも使った手法だが、これは人の列を作って大きくブラした横に長い素材を単にランダムで置き換えているだ け。だけ、というとあまりに簡単そうだが、単調にならないように2段ほど重ねている筈。またこれも一応季節に合わせて春夏用と秋冬用、それぞれ昼と夜の2 種類作成したのでモブの列計4種類ほど作っている。流れる光跡はPhotoshop上で直接タブレットで描いている。12枚のランダムな置き換えに過ぎな い。昼間の絵で見える車は「東京ゴッドファーザーズ」のセルを切り抜いて適当に配置、大きくブラしている。パースに乗ってないものも多かったがブラしてし まえば分かりゃしないし、どうせ1コマで置き換えているので目には残るまい。
 キャラが現れたり消えたりするタイミングは音楽に合わせているが、これは編集さんの方で音をシートに置き換えてもらい(これをスポッティングという)、 このスポッティングシートを元にタイミングをつける、というきわめてアナログな方法。原画マンには笑いや濁流、魚のタイミングしかつけてもらっていないの で、カットごとのタイミングはすべて私が担当している。
「妄想代理人」というタイトルが出るのはカット8Bだが、私はコンテの完成寸前までタイトルのことをすっかり忘れていた。キャラクターたちの上にスペース があったから良かったものの危なくカットを再設計する羽目になったかもしれない。ちなみにタイトルロゴのデザインは稲垣さん。「妄想代理人」関連のデザイ ンはすべて稲垣さんによる。

 C.9 は空に咲く見事なキノコ雲をバックに猪狩が両手を広げて笑っている。猪狩の原画は鈴木美千代さん。このイメージは平沢さんの歌詞が強烈だったのでそのまま 絵にしてみた。キノコ雲をバックに大笑いしている絵なんて識者からは不謹慎だとお叱りを受けそうだが、「あまりに晴れやかで気色悪い感じ」にこれほど相応 しい絵はないだろうし、色々な意味にも読める深いイメージだと思う。どんなに巨大な危険や不幸が迫っていようとそれをひたすら隠蔽して日々の安穏を貪りた い世の中のことを言っているのかもしれないし、日々の安穏を貪るためには巨大な不幸はよそに押しつけ済ましている世の中のこととも考えられる。

 C.10はパーティ会場のテーブルの上で笑っている老婆。背景と止めセルは「東京ゴッドファーザーズ」のパーティシーンから流用。ホームレスの老婆が溢れる飲食物を踏みつけにして笑っている様は何か皮肉でいいような気がする。老婆の作画は安藤雅司氏。

 C.11は冬山の山頂、アロハを着て笑う蛭川。作画は三原氏。孤高のバカ男といったイメージだが、どうか。

 C.12はキャラクターたちが次々にINして行き、その彼方から少年バットが滑ってくる。笑うキャラクターたちは他のカットと同じ素材で滑ってくる少年バットは新作。最後にバットを振り下ろすのは1話の素材を色変えして流用している。
 滑ってくる少年バットの作画は濱洲英喜氏。その場でリピートしている少年バットを作画してもらい、デジタルでそれを拡大して手前に滑ってきているように 見せかけている。その場のリピートにしておいたおかげで、2話と10話でもこの少年バットの滑りは流用出来た。経済的である。

 C.13は月面で笑う老人。作画は安藤雅司氏。背景の新作は無し。月面の背景は「千年女優」から流用。「千年」の背景はほとんど処分されていたのだが、セルと組ん で絵になりそうなカットだけは残しておいたのが幸いした。プロデューサー豊田君の賢明な判断のおかげで助かった。月面の向こうに見える地球は版権フリーの 写真素材を貼り付けている。地球上で起こる爆発らしき光の輪が広がるが、これは撮出し時に私がPhotoshop上ででっち上げたもの。ちゃちだな(笑)

 ラストがC.14。草原で笑う少年バット。作画はこれも安藤雅司氏。コンテでは少年バットの周りに、エンディングとは反対の向きでキャラクターたちが倒れているのだが、その原画を描く予定だった人間が忙しくて急遽取りやめた。私だ(笑)
 エンディングと対にしようと思っていたのだが、草原の本番背景に少年バットのセルを合わせてみたら、それだけで清々しくも禍々しくて非常にいい感じだったのでこう思ったのだ。
「いっか、無くても」

プリンタ用画面
友達に伝える
前
妄想の九「アニメのアニメ」
カテゴリートップ
TOP
次
妄想の十「笑う人、まどろむ人」 -その2-