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妄想の十三「終わり無き最終回。」
-その1-
結論から言え
人間、休むことは大切である。休息は未来への英気を養ってくれる。人に限らず機械だって正常な動作を維持するために、時に休ませ、メンテナンスも必要であろう。作品だって同じだ。「妄想代理人」にも休みが必要だったのである。
無理矢理な論理を展開し始めているが、ここに言い訳を透かし見たあなたはなかなかに賢い。
私は「妄想代理人」制作中、若い者が仕事上の報告に来た際、幾度となくこんな小言を言った。
「結論から言え」
仕事上の伝言・報告は手短でなくてはならない。基本だ。
「すいません、実はこれこれがありまして、○○さんがえ〜と、あれなことになったものですから、そのことであれもああなってしまって、だからそうじゃなく
てああすればいいんじゃないかと○○さんが言ったんですが、▽▽さんはそういうことではなくて××さんが昨日からそれはああすると言っていたらしくて…」
「結論から言え!」
「編集の開始が延びました」
なぁ〜ぜぇ〜そぉれぇかぁらぁ言わんのだぁ。
どういうわけか「経緯」から喋り始める人間が多い。気のせいだろうか。経緯が必要ならこちらから尋ねるのだから先に結論を言え。世間話ではないのだ。
まるで「結論」から喋ったら怒られるとでも思っているかのようだ。そうだ、さながら言い訳から喋り始めるかのようなのだ。つまり前置きの意味はこうだ。
「私は悪くないんですが」
お前のそんな話はどうでもいいのだ(笑)
お前が良いか悪いかは他人が判断する。予防線に意味はないのだ。
しかしこういう人は増えているのではないか。まず予防線を張る。張って張って張りまくる。そんなにまでして何を守っているというのだ。ははぁ、さては自
我だな。己の些細な自我を守ろうとして言い訳予防線を重ね、そのことで他人の時間を奪うことが許されると思っているのか。そんなに自我が大事か。そんなに
傷つくのが怖いのか。他人を傷つけることには無頓着なくせしてそんなに自分だけ大切か。そんな脆い精神でタフな仕事が勤まると思っているのか。大切な自我
を少しは突き放して見たらどうだ、若者よ。
そんな話はいいから結論から先に言え?
すいません。放送を3回休んでしまいました。
休みなよ休みなよ休みなよ
10話「マロミまどろみ」のラストでマロミが繰り返す。
「休みなよ休みなよ休みなよ休みなよ休みなよ休みなよ……」
はい。休みます。
「妄想代理人」全13話オンエアの間に、結果的に計3回ものお休みを取らせてもらった。このWOWOWさんの温かい番組編成のお陰で我々「妄想代理人」スタッフは救われたのだ。海よりも深い感謝を捧げたい。助かりました、本当に。
WOWOWさんはとってもいいテレビ局です。みなさん、加入しましょう。
放送のお休みは、1、2、3、4話のオンエアがあってまず1回、5、6、7話があって2回目、8、9、10、11話があって3回目。1クール(13本と
いうこと)のシリーズにしては休みが多すぎるといわれても仕方ないと思われる。実際、WOWOWさんに視聴者からお叱りの電話もあったと聞く。
「“妄想代理人”を見るために3ヶ月だけ契約したのに、先延ばしにするのはわざとなのか!?云々」
すいません。わざとじゃないです。ご迷惑をおかけいたしました。
「妄想代理人」を楽しみにしてくれた貴重な視聴者にはこの場を借りてお詫びしたい。
しかし。お叱りをいただいた方々の気持ちと事情は十分にわかるのだが、この休みがなければ「妄想代理人」はもっとずっとググッと危機的な状況に陥り、結
果、視聴者の皆様にみっともない姿を晒して、却ってご迷惑をおかけしたことと思われる。ホントに。我々の事情もご理解いただきたい。決してWOWOWさん
のせいではないのだ。
3回のお休みの際、替わりにオンエアされたのは「クレヨンしんちゃん」と「宇宙戦艦ヤマト」だったろうか。我々「妄想」スタッフは、今どきの親がその子
供に見せたくない番組の代表に上げるといわれる「しんちゃん」に癒してもらい、そして宇宙戦艦ヤマトに満載された「愛」は地球を救うのだ。ありがとう、ヤ
マトの諸君。
私としては特に助かったのが3回目のお休みである。12話の前に入ったこの休みはオンエアが始まってから、制作の危機的状況に配慮して設定されたものと思われる。この休みを耳にしたときは小躍りするほど喜んだものである。
いーーーーーーっやっほーーーーーーい!
3/22
(月) 11時起床。雨の中、出社。冬に逆戻りしたような寒さ。8話のビデオ編集は無難に終了とのこと。13話のコンテ清書。23時、13話20カットほ
ど井上氏作打ち。頼みます。7話オンエア。朝までかかってコンテ清書は12、3カット。まずい。間に合わない。朗報一つ。WOWOWさんが12、13話を
一週下げてくれるとのこと。
まるで雲間から指す一条の光。それほど13話はよろしくない状況を迎え……かけていた。かけていただけで最終的には拍子抜けするほど順調に進んだ印象ではあるが。
そこには多くのスタッフの尽力と他ならぬ私の叡知があり、それは追々ご紹介しようと思うが、13話の制作前半は本当にまずい状況だったのである。
寝ぼけても答える
「最終回。」のコンテに入ったのは実は2月の初めのことなのだが、そのラフコンテはしばらく放置されることになる。コンテの話に入る前にちょっと寄り道。
以前「黄色い爆弾事件」と相前後して「不幸の連鎖」があったと書いた。私自身はこの連鎖による被害はなく、無事にこれを乗り切ったがその後で小さくない不幸が私を見舞った。
2004年2月2日に「妄想代理人」第1話オンエア。その二日後のこと。
2/4
(水) 7時40分起床。10時から5話のアフレコ、17時から3、4のダビング。一日音響作業。飯塚さんが電車の人身事故に巻き込まれて40分ほど遅
刻。アイキャッチが入ってないことも発覚。結局11時過ぎスタートで終了16時頃か。プロデューサー丸山さんと打ち合わせ。18時ダビングスタートまでの
間、少し眠る。ダビング開始。3、4話と通しで見てチェック。音楽の使い方で多少変更あり。スタジオのソファで眠る。後で考えるとこの時風邪をひいたらし
い。起きたときに体の節々が痛んでいたように思える。12時前には両話ダビング終了。丸山さんの誘いで新宿でビピンパとスープをいただく。自宅に直帰。
38度の発熱。やられた。
後に分かったがインフルエンザだった。
1話と2話とオープニングとエンディングを1月にやっつけ、体力的に落ち込んでいたところをやられたのであろう。
音響作業スケジュールについて少し書く。この日は3話と4話の2本のダビングを行っているので珍しいケースではあるが、音響作業の日としてはごく普通の
スケジュールだ。アフレコとダビングがセットになっている。同じ話数のアフレコとダビングでは無く、5話のアフレコだったら4話のダビング、という風に一
週ずれた形になるのが基本。後々このスケジュールも崩壊して、アフレコのみダビングのみという形になって行く。
アフレコ・ダビングが揃った日はなかなかにしんどい。一日最低12時間程度は音響スタジオに籠もることになるのだ。これで一日の仕事が終わりなわけもなくそれから会社に戻って絵の仕事をする。
アフレコは朝10時から。これがまず夜型の私にはとてもつらい(笑)
家か会社で朝方少し寝てから音響スタジオに行くのがほとんど。よってアフレコ中は寝不足の頭を振って耳に神経を集中する。しかし不思議なもので自分の演
出担当、コンテ担当話数(「少年バット参上!」「金の靴」「ETC」「最終回。」など)は全然眠くなったりしない。現金なものである。私は総監督だが関わ
り方が深い話数ほど特に可愛い。
アフレコは半パート2時間平均。2回程度のリハーサル、本番、抜きという段取り。AB両パートで4時間くらいかかる。長い時で5時間くらいだったであろ
うか。アフレコ後、ダビングが基本的には17時開始。効果音の仕込みの進み具合で1〜2時間遅れることもあったが、このアフレコとダビングの間の3〜4時
間ほどの休み時間が貴重な睡眠時間であった。音響スタジオのソファではよく眠らせてもらった。
だが。私には安穏と寝ているわけにはいかない事情があった。取材である。本来この時間は単なる「空き時間」で、会社に帰るには片道1時間はかかってしまい、戻って仕事をするほどの時間もない。そこで膝を打った。ポンッ。
「おお、ちょうどいいじゃないか!取材は音響作業の日にまとめてもらおう」
自分で自分の首を絞めるとはこのことだ(笑)
「妄想代理人」を中心に、時には「東京ゴッドファーザーズ」について、あるいは「今
敏」についてなど、音響作業日に受けた取材は合わせて20本くらいはあったろうか。「原作・総監督」としてはこれも断るわけにはいかない大事な広報の仕事
である。眠い頭でインタビューに答えるのは少々つらかったが、それでも概ね楽しかった印象である。私はインタビューも楽しいと思う方だ。というより、どう
せやらなければならないなら楽しみ方を見つけるのだ。
日誌に残っている範囲で音響作業中に受けたインタビューを列挙してみると、
「NEW TYPE」「SPA!」「クイックジャパン」「English Zone」「Men's
Nonno」「AVレビュー」、ステファン・サラザン氏、「ソトコト」「コミッカーズ」「ゲットナビ」「サブラ」「映画秘宝」「DVDビデオデータ」「映
画芸術」「TVブロス」「TOKYO
HEADLINE」「ファミコン通信」「週刊アスキー」「共同通信」などなど。写真撮影も多くて、眠たい顔をさらしたのは若干恥ずかしい。
とりわけ印象的だったのは「ソトコト」。インタビュー開始早々の質問に眠い頭もちょっと覚めた。
「今監督は環境問題やエコロジーにもとても関心が高いとお聞きしましたが?」
「……はい?」
誰に聞いたんだよ、そんなこと。「妄想」の取材を入れてもらいたい宣伝屋さんが適当に言ったに違いない。しかし無下にはしたくない。
「エコロジーって、やはりひとりひとりが実生活の中で……」
答えりゃいいってもんじゃないだろう。
休むなよ休むなよ休むなよ
私のインフルエンザはなかなか治らなかった。当初、単なる風邪だとしか認識していなかったことも快復の遅延に繋がったのであろう。インフルエンザに罹患し
たのは40年生きてきて初体験だ。随分熱が出るもので、39度まで上がったろうか。二日間ほど自宅で完全休養したものの、それでも熱は下がらなかった。し
かし外せない仕事が入っていた。NHK・BS1のテレビ出演である。朦朧とした頭と枯れた喉で人前に出て喋るのはさすがにきつかった。
2/7
(土) 朝方熱がぶり返す。解熱のためバファリンを飲んで眠る。13時前、出社。ハイヤーでNHKへ。CIMAの乗り心地は悪くない。簡単な打ち合わせと
織作峰子さんによる写真撮影、メイクの後本番。喉がつらいが1時間近く喋る。再びハイヤーで会社へ。17時から6話カッティング。頭がボーっとする。編集
後のラッシュを見るまで耐えられず豊田君に車で送ってもらう。一旦家に戻り、そのまま救急病院へ。インフルエンザと発覚。
「他の人への感染も懸念されるため最低一週間は自宅で療養して下さい」
ドクターのお言葉。実際うちの女房に感染した。すまぬ。
この後、熱が下がっても大事をとり、二日後まで自宅療養となる。結局6日間も現場に穴を空けてしまい多くのスタッフに多大な迷惑をかけた。たいへん申し訳ない。
風邪や個人的な事情などで仕事を休む場合、「迷惑をかけてしまって申し訳ない」という態度はごく当たり前だと思っていたのだが、近頃はそうでもないのだ
ろうか。体調不良は本人の自己管理能力の欠落が大きく手伝っているにもかかわらず、そういう時は「堂々と休んで良い」と思っている人が多いのではないか。
「妄想代理人」企画の大元となった「学校へ行く段になるとお腹が痛くなる法則」とも大いに関わりがある問題だ。受け持つ仕事は個人の責任として引き受ける
ものなので、それを放り出して穴を開け、結果他人に迷惑をかける、ということはそれがどういう理由であれ無責任なことなのである。無論人道的に考えて休む
に致し方のない事情は考慮されるだろう。
しかしだからといって「堂々と休んで良い」というわけでもあるまい。「妄想代理人」制作現場においても体調不良を理由に簡単に仕事を休む人間は見られた。特に理由もなく不意に来なくなるやつさえいた。こういう人に投げかけたい。
「休むなよ休むなよ休むなよ休むなよ休むなよ休むなよ……」
体調不良を押して仕事をしていることをこれ見よがしに表す人間もよくいる。
「具合が悪いのに仕事をしている云々」
ここには省略された言葉が簡単に透けて見える。「具合が悪いのに仕事をしているんだから同情してくれ」とか「具合が悪いのに仕事をしているんだから褒め
てくれ」とか。誰が同情するものか。そんなこと考えている間にさっさと働け。具合を悪くしたのはお前の自己責任だ。
やたらと体調不良を口にする人間にはこの手が多い。きちんと仕事をしている人間には、そういう自己申告がなくても、いや自己申告がないからこそ周囲は気
遣い、心配するものである。「倒れられると困るのでちゃんと休んだ方がいいよ」といいたくなる奇特な人はごくごく少ない。
13話の制作も大詰めを迎えようとする頃、吉野さんが高熱に倒れたことがあった。そのSOSの電話によってプロデューサー豊田君が車で彼女を病院に搬送
したが原因は不明のまま。2、3日も休んだろうか。と、熱も引けたので明日から出社する、という連絡があったらしい。さすがにこういう時は周囲も口にする
のである。
「ちゃんと休んだ方がいいよ」
鬼じゃないんだから(笑)
「妄想代理人」企画の最初から立ち会い、設定制作、制作進行それに2本の脚本を担当した吉野さんが、シリーズの大詰めに立ち会えないことを悔しいと思った
だろうことは想像に難くはない。とはいえ本当に体を壊しては元も子もない。回復は早かったようなので、結果的に吉野さんは無事に「妄想代理人」を完走出来
たのは幸いであった。誰の目にも一所懸命仕事をしている人には気遣いはなされるものである。
一所懸命であることを一所懸命に自己申告するやつなど信用出来るわけがない。第一、一所懸命なのは「当たり前」のことなのである。「一所懸命」は売り物にならないことくらい分からないのだろうか。
「一生懸命やってるんスよッ!」
「だからどうした」と言いたい。
そういう最低限のこともろくに出来ないくせに評価だけ欲しいなんて連中の何と多いことか。ああ、嘆かわしい。
休みが多い人間には、「それだけ責任を投げ出すことが多い」という理由だけで「責任のある立場」が用意されることは少ないと言っていいだろう。そんな当
てにならないやつに任せられる仕事など限定されるに決まっている。つまりは「いてもいなくても大きな問題にならない」立場だけである。少なくとも豊田君が
プロデューサーで私が監督する制作現場ではそういうことになっている。一旦責任のあるポジションが与えられたとしても、そこで責務を全うしない人間に次回
はないし、一緒に仕事をする気には到底ならない。
5話「聖戦士」の馬庭の言葉を借りればこうだ。
「お前にリプレイの機会はないよ」
特に監督や演出、作画監督、美術監督、撮影監督、色彩設計といった各セクションの長にあたる人間は「現場にまずいること」が大きな仕事である。当たり前
だ。いくら具合が悪かろうが眠かろうが「どうしてもいなければならない」時が必ずある。アップが近いときなど正にその典型である。その時を予測して最低限
の自己管理はなされるものであろう。「その時」に居合わすために、余裕がまだ残されているときには十分な睡眠を心がけるものではないか。責任ある立場の者
は「最後まで居合わせる」ことがごくごく最低限の使命である。
立場としてその場に居合わせなければならない者は、一週間会社に泊まり込もうが徹夜を続けようが、ともかくいなければならない。そこをどうやってでも乗
り切るような人間だけが周囲のスタッフから「信用」という貴重な財産を手に入れられると思う。まぁ、いるだけじゃしようがないし、いた方が却って邪魔にな
るやつもいるが。そういう人間も次回という機会は手に入れられないだろう。
「妄想代理人」制作現場に限らず、アニメーションの現場では会社で寝泊まりしている人間を見かけることは多い。アップが近くなれば、簡易ベッドを広げる、
寝袋、椅子を繋げて寝る、段ボールを敷いて床に寝る、などさまざまだが、決して快適なわけではない。それでも泊まり込んで仕事をするのはスケジュールに間
に合わせるためにその持ち場を受け持った人間として当たり前のことだし、敢えていえば恥ずかしいことでもある。だってそういう事態を招いてしまったのはそ
の人の責任なんだから。
これも反転して「寝泊まりして頑張っている」ことを主張する人間が多い。寝泊まりしなければならなくなったのは己の無能に起因している、という可能性は
考えられないらしい。これも先の体調不良と同様「寝泊まりして頑張っているんだから同情して欲しい」「寝泊まりして頑張っているんだから褒めて」という態
度が丸出しである。その責任を最低限果たすためには何でもしなくてはならないのが「普通」なのである。
各セクションの長はその下にあるスタッフからの質問や他セクションからの問い合わせに応じなければならない。アップまでに後数日、などという喫緊の状況
では現場に詰めていることが最低限要求されるし、問い合わせなどのために貴重な睡眠中に起こされることなど当然である。しかし某話数にはこんなメモを貼っ
て寝ている人もいたらしい。
「起こさないで下さい」
「逆だろ、バカ(笑)」とスタッフには散々笑い者にされていた(笑)
「何かあればすぐに起こして下さい」というのが筋である。
まどろめ
さてインフルエンザからコンテの話に進もうと思っていたのだが、「たわけ」の人たちのことで道草を食った。ついでにもう少し道草をする。
私も仕事場ではよく寝た。ただ、私は仕事中に机に突っ伏して寝るとかウトウトするいった真似が出来ないので、寝るときは横になってしっかり寝る。もーグーグー。
最初のうちは立場上シリーズ制作を完走するためになるべく自宅に帰って休息を取るようにしていたのだが、段々その余裕もなくなったので会社に寝泊まりす
ることが多くなっていった。せめて通勤時間を省略して仕事に充てるためであり、会社で寝るなんて真似が決して快適なわけではない。快適ではないだけに睡眠
時間も少なくなり、却って好都合でもあるのだが、寝る以上少しでも快適にしたいのも人情である。私はあまりに快適にしてしまい、最後の頃は会社で5〜6時
間は悠々と寝られるようになってしまった。何か間違っている気もするが(笑)
私は自分の仕事スペースに簡易ベッドを広げて寝ていた。このベッドはプロデューサー豊田君が、よその班で不要になったものを確保してきてくれたもので、スタッフが共同で使っていた。
初めは単にベッドに横になり、上着をひっかぶって寝ていたのだが、どうも按配が良くない。人間には枕が必要だということを改めて思い知った。本棚にあっ
た厚さ5センチの書籍をあてがってみたところ、悪くないがやはり固い。書籍の内容が堅苦しそうな映画評論だからだろうか。寝ている間に理屈くさい考え方を
刷り込まれたらやだな、と思ったが枕は必要だ。
起きてすぐに仕事にかかるとはいえ、どうにも気持ち悪いことが多い。コンビニは何でも売っている。着替え用の下着類、洗面用のタオル、洗顔料、歯ブラ
シ、ヘアブラシ、体を簡単に拭けるウェットタオルなどなどを購入して「お泊まりセット」にしたあたりから段々快適さが向上してきた。固かった枕用書籍もタ
オルを巻いたら快適度アップ。
私の仕事場は制作たちのすぐ隣なので、寝ていると電話の呼び出し音に起こされることが多い。耳栓だ。私が寝ているからといって他の人は仕事をしているわ
けだから、照明がついている。アイマスクだ。JALのビジネスクラスから失敬してきたアイマスクだ。これに借りたタオルケットをかけて寝たら、すっかり快
適。
私個人が持ち込んでいる冷蔵庫にはアルコール類が常備されているので、寝酒には事欠かないし、起きた後の目覚めのコーヒーは近所のパン屋で売っている。
う〜ん、なんて優雅だろう。って会社で寝てるところですでに優雅じゃないのだが。 |
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妄想の十二「広げたマント」 -その2-
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妄想の十三「終わりなき最終回。」 -その2-
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